《HoodMaker:馴染と學生起業を始めたのはいいが、段々とオタサーになっていくのを僕は止められない。<第一章完>》彼は特別で企畫書には存在しない
南の島に相応しい日差しとの香り。既に背中は汗でぐっしょりと濡れている。
今僕が立っているのは西海岸。ランニングを習慣にするべく朝一で家から出たのだが――――。
「―――で、週末に北部に行ってメシをおごらされると」
「ええ。約束なので」
僕はまたあの人と向かい合っていた。
懐かしいメンバーと再會してから數日。
誠二が紹介してくれるお店の食事代を僕が持つことで、例の件は手打ちとなった。
あの日は本當にんなことがあって、今思い返しても頭が痛くなるほどだ。だが偶然に偶然が重なり、結果的に昔のメンバーが揃う素敵な日でもあった。
今日もそんな一日になってくれると嬉しいのだが………。
「~~~♪」
鼻歌を歌うのは雪代雨。名前以外は良く知らない。
実は彼と出會ってから數日おきに同じ時間、同じ場所で話をしている。
何故か僕がランニングをすると何処からともなく現れ、そしていつものように話が始まる。
「今日もまた暑くなりそうだね~」
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「亜熱帯ですからね。仕方ないですよ」
その言葉を肯定するように、今日も相変わらず元が大きくはだけた服を著ている。おかげで目線を下げられない。その代わりに黒く艶やかな黒髪に目が行く。風にたなびくそれはらかな日のをはらみ、まるで手招きしているかのようだ。
「それで今日は一どういった用なんですか?」
彼はいつも、挨拶をわすかのように僕に質問をぶつけてくる。
ならば先手必勝、ペースを取られる前に先にこちらから質問してしまう。
「ほう。『今日は何のようですか?』とは……隨分な言い草だね」
だがその行も先読みされていたようで、楽しそうに復唱しにんまりと笑う。
「その言い方だと、まるで『私が年を待っていた』かのようじゃないか」
「な!?」
その予想外の返しにこちらが目を丸くさせると、更に言葉を重ねてくる。
「確かに私は年が走る時間によくここに現れる。とはいえ年と會いたいが為に早起きし、準備をして、いそいそとここまで來ているとは……実に自信過剰と取られかねない言い回しじゃないかな?」
「べ、別にそんな訳じゃ」
「いやいや。お姉さんは嬉しいゾ」
そう言ってどんどんと饒舌になる。
「朝一でランニングしている途中で仲良くなった奇麗なお姉さんが、今日はいるかどうか。これは年にとっては死活問題に違いない。時々ロードワークとか言いながら、好きな子が住んでいる家の近くを走る男子がいるが、うんうん、こうやって君が日課として続けられるのは、私というご褒があればこそ。貞というのはそういうものだし、お役に立てて嬉しいよ。だが殘念なことにお姉さんはこれでも忙しい。今日もこのあとに東京へ飛ばなくてはならない」
そして悲しそうな顔を見せ。
「だから年……強く生きろ」
そう言い切る。
「変な言いがかりは止めて下さい。俺はそんな貞力を発揮するようなガキじゃありません!!」
雪代さんと出會ってまだ數日。それなのにこの人はずけずけと俺に近づいてくる。
「違うのかい?」
「違いますって」
「本當に~?」
「本當に!」
「ほんとのほんとの本當に?」
「ほんとのほんとの本當にです!」
「分かった……」
強く斷言すると、ようやく引いてくれた。
まったく、本當にこの人は……。
「……じゃあ今日も聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「って! 結局そっちが僕に用があるんじゃないですか!」
余りにも見事な手のひら返し。同級生なら問答無用でけりをお見舞いする所だ。
「あるよ~お姉さんは年に聞きたいことあるよ~。でも年が期待するのとは別の話じゃないかい?」
「もうその話はいいですから!聞きたいことがあるならちゃちゃっと聞いて下さい!」
ここまでくると開き直った方がいいのかもしれない。
僕は仁王立ちなって彼からの質問を正面からけ止める。
「ふふ~ん。それもそうだね~。……ところで今日の予定はどんなじかな?」
「夕方からバイトですけど」
「よかった。……それじゃあ一つ目の質問ね」
「待って下さい。もしかして時間……かかります?」
「大丈夫。レジュメ10枚ぐらいの資料だから」
「多くないですか!?」
一枚に十の問いだとしても、百は答えないといけないであろう。
「マンペイライだって! なんならタクシー代出すからさ!」
だがそれも気にしない様子。
「要らないです……それにその『マンペイライ』って言葉。前に調べたら、タイの言葉で『大丈夫』って意味らしいですけど、それ……軽い通事故の時でも使うやつじゃないですか!」
他にもメニューの品がなくてもマンペイライ(気にしない)、電球が切れてもマンペイライ(大丈夫)。
「前からやたら使うから調べてみましたけれど、日本じゃアウトですから! タイおおらかすぎますから!」
「あちゃ~ばれちゃったか……てへっ☆」
「『てへっ』じゃないですよ。一幾つだと思ってるんですか!」
「え? 私? 28だけど?」
「え……」
一瞬だけ時が止まる。
別にそんなつもりで聞いたつもりではなかったのだが。
「まあまあ。答えてくれたら、君の言う『一日分の幸せ』について語ろうじゃないか」
「語ろうって……。別にあれは冗談みたいなもので」
「大丈夫。だいじょ~ぶ。し中二病なじもするけれど、恥ずかしがることはないって」
ぐぬぬぬ。
「それに、そのぼんやりとしたイメージに挑むこと。日常のようで完全な非日常な考えにれようとすること。それ自が…………ね」
相変わらずこの人は行間が多い。今の返しも全然分からない。
常に遠回りで分かりづらい言い回しばかり。
それでも僕は目一杯頭を使って會話をする。
だって今の時代と逆行するようなこの人との會話は、しだけ自分が、その……頭が良くなったような気にさせてくれるから。
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