《HoodMaker:馴染と學生起業を始めたのはいいが、段々とオタサーになっていくのを僕は止められない。<第一章完>》『第二十九回オールタイム・オールジャンル會議』2

期待したものではないが、これはこれで「あり」といった様子だ。

どうやら脳でスパークしているらしく、悟さんなんて前のめりになっている。

「確かにこれも一種のサブカル!」

「ふむ。実際、そういった作家が評価される時代でもあるな」

「バンク〇ーの絵は、億で取引されるし、書店でも結構畫集が出回ってますね」

始めに口を開いたのは棚原先輩。続いて店長、悟さと話題が広がっていく。

「そこまでは行かなとしても、今でも存在する若者の表現の一つ。更に青春時代のやるせなさの表現の一種として捉えることも出來る」

「しかもイラストだけではなく、超絶痛いポエムを公共の場所で披するその神!」

「まあやってることは駄目なんだよ。社會に反した行為ではあるんだよ。でも~でもねぇ~僕たちが昔描いた黒歴史ノート的な目線で見れば、いい話のつまみだよね~」

三人がそれぞれの悪い顔をしている。

「これとか完全にベジ〇タじゃん」

検索畫面の端に映っていたラクガキを店長がタッチ。畫面いっぱいに拡大されたそれは、大人気漫畫のライバルキャラそっくりである。

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「結構うまいですよね。でっかいキャンバスに描くって結構度いるから、ちょっと尊敬します。しかも一発描きだし」

棚原先輩がべた褒めする。

「こういったのを描いてる子って普段から練習とかしてるのかな?」

言われてみると確かに気になる。

「どうなんでしょう。夜はバイク乗り回してるけれど、晝は熱心にイラスト描いてる可能ありますよね」

「あー普段はツッパっているけれど、裏では配気にしたり、新しいフォント探したりしてると考えるだけでもうね」

「それでいてとかなら、最高だな!」

みんなニヤニヤが止まらない。

「それだと教室の隅でイラスト描いてたら『お前、絵上手いなって』聲かけてくれるパターンもありますね」

「うわぁ。何それ。超萌える」

棚原先輩の妄想に店長が聲を上げる。

「場合によっては學際で一緒にポスター作ったり、イラストコンクールにったり……あ、逆に一緒に落書きして伝説殘すとかどうですか? 途中で警察に見つかって追いかけられるとか青春ですよ」

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「いや~~~それ、超ワルじゃん。でも……………と逃走劇とか最高!」

悟さんも気にいったようで、にやにやとイケメンには似合わない笑みを浮かべている。

「しかも、この場合手を引くのはツン寄りのヤンキーですからね。『何やってんだ! 行くぞっ!!(笑)』ってなじで!!!!」

「ああああダメダメ! 俺の青春にそんな子はいなかった。ヤンキー子は沢山いたけど、いなかった!」

大大大興である。

「禮夢ならこのシチュエーション、どう考える?」

「え?」

フルスロットルで盛り上がる中、急に話を振られる。

全く考えていなかったわけではないが、まだ朧げに浮かんでいるだけ。それでも気分がいいからか口が勝手にく。

「うーんそうですね。終盤に互いの似顔絵描くイベントとか、ありそうですよね」

話を聞きながら、自分なら~と考えていたことがぽろっと出てしまう。

というかイベントって。俺もギャルゲーに染まり始めてるな…。

「……………」

「……………」

「……………」

「あ、あれ?」

三人が急に黙りこくってしまう。

何かまずいことでも言ってしまったか?

「あの! そのですね! あくまで俺的にはそういったのがきゅんきゅんするかな~~みたいな。ちょっと表現的には古臭いかもしれないんですが、なんか!」

どう言い訳すればいいか分からない。

相変わらず三人とも口を塞ぎ、目線は下を向いている。

だが、しばらくするとその狀況に変化が。

「………うぅ」

「……ぐす」

「……………くっ」

え?

テーブルに水滴が、一つ、二つ……そして。

「うわあああああああああああああああああああああん!!」

大の大人が揃って號泣し出した。

* * *

「いや~涼子ちゃんいい子過ぎるわ~」

「うちの鷹野さんも負けてませんって」

「聡の純樸さには誰も勝てない」

わいわいきゃっきゃ。

いい年した男たちが、自分の妄想をぶつけあっている。

どうやら俺の案を聞いた瞬間に、三人ともシリアスシーンを瞬時に練り上げ、泣き出してしまったとのこと。

妄想だけで泣き出すとか……。

初めての景に戸ってしまったが『あー毎回これだから気にしないで』と、悟さんから言われた……………噓でしょ?

「いや~初っ端からいい涙流したな~」

「僕は泣いてないぞ」

「いやいや。一番泣いてましたから」

「確かに」

「む~~~~ならオーナー権限で撤回を」

「パワハラですか?」

「というか勤務時間外で~す」

「ぐぬぬ」

なんじゃこりゃ。

もう上下関係なんて何処かへ飛んで行ってしまっている。

ここまでくると、ただの友達同士の飲み會にしか見えない。

「それにしても~禮夢って結構才能あるんじゃない?」

悟さん、俺の事いつの間にか呼び捨てになっている。

「才能ってなんのですか」

「そりゃ~変人としての」

「え? 変人?」

思わず聞き返してしまう。

「『へんじん』って、変わった人、常識とは違った行を取る人、の『変人』ですか?」

「イエ~ス」

答える悟さんの目線は違うところに向いている。

「えっと、冗談とかじゃなくて?」

「イェ~~~ス!」

「…………」

悟さんは完全に酔っぱらった顔で軽く親指を立てている。

ああもうこれは……。

もう……っ!

その姿を見て、俺の中の大事なものが、ガラッと崩れた音が聞こえた気がした。

ゴクゴクゴクッ! ガバッ!

一気にジュースを飲み干し、俺は立ち上がる。

「ちょーーーっと待ってください!!」

「うん?」

気分が良いのか、にやけ顔のままの悟さんに向けて、俺はビシッと指さし言い放つ。

「一応ですね、正直に言うと、俺って悟さんのこと尊敬してて、なんなら憧れたりするんですよ!」

「おおお~~」

「ひゅーひゅー」

店長たちが冷やかしてくる。

「二人は黙っててください!」

上司二人に向かってきつい口調になってしまう。

だがいい。今日は無禮講! 誰もそんなこと言ってないけどもういいのだ!!!

「だって昔、記憶なくして行き場のない俺にご飯食べさせてくれたし、常識と、基本的な読み書きも全部教えてくれて、今の父さんと母さんに會うまでの暫くの間は面倒を見てくれた! その後、大手企業に社したと思ったら、直ぐに獨立、起業して大功して、今はこの店以外にもいくつも會社を持っていて、それなのに優しくて、気が利いて、カッコよくて、趣味もアニメやゲームだけに留まらず、野球、サッカー、ロードバイクも出來て、格闘技にも手を出している! おまけにギターまで弾けるなんて、パーフェクト過ぎなんですよ!」

溢れだす思いをただただ並べていく。

「あ、最近ウクレレも弾けるようなったよ~」

エアギターならぬエアウクレレを披される。

「あーもう! ここでボケはいいですから! 俺は貴方みたいな存在になりたいから、起業しようって思ったのに! なのに…それなのに……変人って!こんなの酷くないですか!?」

言ってしまった。途中からどんどん高ぶって、今でもドドドと心臓が早く鼓している。

顔が何だか熱い。まるで自分ではないみたいに言葉が出てきた。これは一なんだ。

「……うーんそっか。禮夢くん…ごめんね」

悟さんが俺の顔を見て頭を下げる。

あっ―――――。

その姿にの奧がずきりと痛む。

しまった。

瞬間、やっと気づく。

「あわわわわわ―――すみませんでした!!!!!」

悟さんより深く頭を下げる。

それはもう悟さんに俺の背中が見えるぐらいに。

「いや、こっちが悪酔いし過ぎたよ。変な事言ってごめんね。変人っていうのは別に、一般的な意味合いじゃなくて、僕たちなりの『凄い人の卵』って意味なんだよ。だからほら、顔上げて」

「でもっ」

「いいからっ!」

その言葉に俺はゆっくりと顔を上げる。

酔いが醒めてしまったのか、そこにはいつも見ている凜々しい悟さんがいた。

「言い訳みたいでかっこ悪いけれど、しだけ話を聴いてしい」

俺は大きく頷く。

「禮夢は『満たされている人間に作りは出來ない』って聞いたことない?」

「いえ……」

「まあ普通そうだよね」

悟さんがし悲しそうな顔をする。

「えっと、悟さんたちは何か作っているんですか?」

「そうだね。々と作ってるよ。それこそ冊子とかゲームとか、まあ々。あと會社もだね。それについては、また今度話すけれど、づくり界隈では結構良く聞く言葉でなんだ……似たようなやつだと『グッジョブは句』なんてのがある。これは何を意味しているかと言うと、人間は何か欠けている狀態。つまりハングリーでなければ『作る』という行を取らない、なんて思想から來ているんだ。『お腹が空いた』『食べが食べたくて仕方がない』そんな求がづくりにもあって『褒められたい』『求められたい』『構ってほしい』がそれにあたる。でもこの世の中は人間が生きるだけなら十分に発展しているから、そう簡単にハングリーにはならない。じゃあハングリーでいるためにはどうするのか。その答えにはいくつかあるけれど、僕たちは『疑問を持つこと』を一番にしている。つまり疑問を持ち続けることで、満たされない狀態を作り、自分自をチーズみたいぼこだらけにするんだ。そうすることで強い創作意を生み出す。あーしたい。こうしたい。その為に、あーする、こうする。どんどん繋げていって、時には違う角度から見るようにする。そんなことをしていると、もう普通ではいられなくなるんだよ。その行き著く先の途中でなるのが変人なんだ」

「途中……」

「そう、あくまで途中。己の道を突き進み、孤獨になって、考し、運が良ければ偉人と呼ばれるようになる。そしてその全ての人間が『作る』ことでそこにたどり著いている。『』を『思想』を『言葉』を『歴史』を。そしてまた新しい何かが生まれる。僕は禮夢がそういった特別な存在になるんじゃないかなって、そう思ったんだ」

「…………」

「…………」

「…………」

「……どう? いい話だった?」

「あー! だからそこでボケないで下さい!」

と、まあこれは序の口で、朝まで騒ぎつくし、ちゃっかり起業の話も全部話す事になりましたとさ。

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