《高校生男子による怪異探訪》1.剃刀レター
『縁切り』始まります。
四月も折り返しとなり、満開の桜も散って青葉が見え出すこのぐらいの季節は一年を通じ非常に過ごしやすい時期となっている。
天候こそ不安定さを垣間見る時もあるが気溫は一定で度も高くなく、新緑を運ぶ爽やかな風が吹き抜けるこの時ほど日向での晝寢に向いている季節もあるまい。
俺の數ない趣味の一つは晝寢だ。誰も來ない靜かな場所でのんびり寢て過ごす時間は正に至福。
そう言った理由で今の時期が一番好きだったりする。
去年の今頃は校のベスト晝寢スポット探索にを出し晝寢そのものに挑んでいる暇もなかったのだが、今年からはもうデータは上がっているので後は実踐するのみ。
年間で限られた時間しか楽しめないこの緑風の時期を寢倒してやると、ちょっと前の俺はわくわくしながらタイミングを窺っていた。
それが現在、自他共に認める地味メンである俺は何故か針の筵にされている。
「ほら……、あれが……」
「ええ、噓……、なんで……」
移中の俺の耳にそこここから上がる囁き聲が屆く。
ヒソヒソ聲を潛め囁く容はだいたい似通っている。ほらあれがあの噂の人よ、と。
園のパンダ狀態で四方から視線を投げ掛けられるこの異様な狀況を産み出した原因は、わざわざ語るまでもないだろうがあの告白劇であった。
今から數日前に起こった中庭での突発告白。告白にしてもあまりにも突然過ぎて、驚きに固まっている間に相手の一年は正気に戻ったかどこぞへ逃走。まるで通り魔のような所業であったが、それでも告白劇に違いはなく。
相手がえらいであったがために俺も半信半疑で本音であるか疑いがある中、その場にいた出歯亀という名の傍観者たちの手腕によりあっという間にこの事態が噂として散布され、俺は一気に果報者として校に名を馳せることと相った。
あの朝日といった一年子はやはり校でも有名だったらしくその有名人の意中の人として名が売れてしまったのだ。全く嬉しくない。
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告白劇の翌日には俺の顔と名前はパパラッチ共の所為で校に流布されそこかしこから數多の視線が飛んでくる事態に。
早くない? もうちょっとインターバル的なものがあるのが普通なのではと言ったところで意味はない。もう賽は投げられてしまった。數日後の今では俺はすっかり時の人の一員にり果てていた。
この騒ぎというものも本來注目するにしても話題に上げるのは同學年、この場合はより注目度の高い朝日が所屬する一年生間で騒ぎにはなるはずだ。
それがどうしてかこうしてか二年、果ては三年にまで噂が波及し、今では學校全で俺と朝日の向に注目している狀態なのだがなんだってそうなったのだろう。三年とか本當に関係ないだろうが。
「あの朝日って一年生はどうやら學時から目立ってはいたみたいだね。同學年は當然、二年、三年にも目を付けていた人間はいたみたいでその一部が積極的に噂を広めているとか。本人としては噂の真偽を確認しているだけみたいだけど」
そう言ったのは樹本だ。あの告白劇からこっち騒がしくなる一方の俺の辺を心配していろいろと報収集をしてくれている。
そんな樹本曰くこの全學年通してのお祭り騒ぎはやはり朝日が原因らしく、まあ諦めろと肩ポンされてしまった。あれ? 俺の味方は?
続けて報収集してくれているので見捨てられた訳ではないのだろうけど。
「あの子は中學の頃から大分モテていたみたいだね。高校ともなれば出校なんてバラけるものだけど、それでもここは大きい學校だから一定數は同じ學校の生徒がってくるものだ。そう言った元々のファンは三年にだっている。つまりはそう言うことだね。これまで誰かと付き合ったなんて話もなかったみたいなのになんで真人なんか……」
樹本の話にさらに注釈を付けたのは嵩原。嵩原も獨自の報ルートを使い々と話を聞き出しているようだ。
嵩原の場合は俺のためとかではなく當人の関心を満たすためにやっていることなので有り難さはあまりない。と言うか最後何言ったこの野郎。
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「俺も々聞いたぞ。部活の先輩にも狙ってた人がいるみたいでさ。なんか新學期始まってからテンション高いなーって思ってたらあの一年にいいとこ見せたかったんだって。だから告白したって聞いて相手は誰だ!ってあっちこっち聞いて回ってるみたいだ。あ、俺からは何も言ってないから安心してくれよ!」
最後には檜山。こいつはスポーツ大好きなので実は幾つかの運部を掛け持ちして日々汗を掻きまくっている。
そんな奴の『部活の先輩』が何人いるのかはあまり考えたくはない。
事前にそういった輩の報を得ることが出來たのは良かったと思うべきか、錯覚であれ平穏なままでいたかったと言うべきか。
檜山の気遣いは嬉しいがもう俺の報は出回ってしまっているので先輩方が突貫してくるのも時間の問題と思われる。今すぐふて寢したい。
そんなこんなで騒の只中に投げ込まれてしまいにっちもさっちも行かなくなってしまった今日この頃。
周囲が煩わし過ぎてストレスが溜まる。ここ最近は天気も良く初夏に向けて気溫も上がって來ているので晝寢が実に気持ちいいものになっているというのに、常に監視の目があるために校では気を抜くことが出來ない狀況にある。
々去年のに探索した晝寢スポットがたくさんあるのにそのの一つも活用出來ないとは。高二の春は一度しかないんだぞ……!
気楽になれるのは自分の教室くらいなものだ。クラスの奴は最初こそからかって來たが最近は現在の異様な盛り上がりを見て気を遣ってそっちの話をしないでくれるようになった。
今は靜かに見守るというスタンスを取ってくれているので有り難い。これで教室でも針の筵になっていたら登校拒否になっていた所だった。
移教室から自分の教室にやっと戻ってこれて機にくず折れるように突っ伏す。
今日もまた無遠慮な視線視線視線の嵐だった。何か被害妄想で実數よりも多くの視線をじるような気さえしてきた。酷くなれば神科コースか? 冗談でもなくなって來ているのが恐ろしい。
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「さすがのアンタもこの狀況には參っているみたいね。ま、自業自得だけど」
機に突っ伏し力と神力の回復に努めていると頭上からそんな臺詞が降ってきた。
この聞き慣れた勝ち気そうな聲はと顔を上げればクラスメイトの中でも良く見知っている顔がそこにあった。
二岡 梓。同じクラスの奴で出席番號は前後。実は一年の時も同クラスでその時も出席番號は前後だったので腐れ縁になりつつある。
格は勝ち気で何事もはっきりさせたがる、分かりやすく言えば姉気質の奴だ。
何かと言うと人のことをだらしないだとかしっかりしなさいだとか小馬鹿にしてくるので苦手な人間ベスト5にる人なのだが、なくともあまりにプライベートな話には不用意に足を踏みれないくらいの分別は持っているので今回の騒をネタに絡んで來るのは珍しい。余程言いたいことでもあるのか。
「自業自得ってなんだ。俺は一度も目立ちたいなんてんだことはないぞ」
「そうじゃないわよ。いえ、そっちも関わってはいるんだけど本が違うのよこの唐変木」
唐変木とか人に向かって言われるところを初めて見たぞ。言われているのは俺だけど。
あまりな罵倒に固まっていれば不機嫌そうな二岡の背後からひょこりともう一人が顔を覗かせる。
「梓ちゃん、永野君も今大変なんだからあんまりきついことを言うのは……」
そう俺を庇ってくれるのはこちらもクラスメイトである能井 三花だ。二岡とは中學から一緒で本人たち曰く親友なんだとか。
人だがきつい顔立ちの二岡とは違い、能井さんはどちらかと言えばらしい顔立ちにほんわかとした空気を纏っていて所謂癒し系と言ったところか。
タイプが大分違うがそれが逆に馬が合ったようでよく二人で行しているのを見掛ける。
何かと俺に絡んでくる二岡をいつも沈靜化させてくれるのが能井さんだ。
これまで散々小言を言われ何回かは拳を握られることもあったが無傷で済んでいるのは全て能井さんのおかげだったりする。
やはりいくら人でもきつい格の奴は勘弁だな。
「でも三花。結局はこいつがはっきりさせないから……」
「今の狀況じゃ無理だって。永野くんにもどうしようもないんだよ」
助かったとをで下ろしている間にも二人の話は続いていたようでよく分からない會話をしている。
元々、二岡は俺に何か不満がありその不満をぶつけようと絡んで來ていたようなのだが、その抱えた不満というものが俺にはさっぱり検討も付かないのでどう対処すればいいのか分からない。
時に子は自分の心の中だけで話を完結させることがあるが、あれは相対する者としては理不盡以外の何者でもないので言いたいことがあるならはっきり言ってしい。誰も彼もが心を察してくれると思ったら大間違いだ。
「今回の騒ぎははっきり言って永野くんは被害者だよ。話を聞くと永野くんは悪いこと何もしてないもん。それなのに當たるのは酷いと思うよ?」
「むう……」
會話の行く末を見守っていればどうやら能井さんに軍配は上がったようだ。かっかしていた二岡も落ち著いたようでこれで事を聞くことが出來る。
マジ能井さん神。
「それで? 今回は一何が気にらなくて俺に絡んで來たんだ、お前は」
尋ねればまたかっと目を怒らせる二岡だが橫にいる能井さんを見てはっと我に返る。不本意そうに顔をしかめるも奴も思うところはあるのか素直に話し出した。
「今回の騒に関してよ。最初はアンタもとんでもないことに巻き込まれたなって同する気持ちは高かったのよ。私も、アンタは告白をされただけで何も悪いことはしていないのにって思ってはいたわ。でも告白から何日も経ったって言うのにアンタは返事もしてないみたいで、それじゃ相手の子が可そうだしだから騒ぎも治まらないのよって注意するつもりだったの。実際に返事はまだしてないんでしょ?」
言われそんなことでと一瞬不快が沸き立つ。が、端から見ればそのように捉えられるのかと疑問が生じると共にその場合の俺への子の風當たりってどうなっているのだろうかと思い至って冷や汗が出た。
子の連攜、それも殊事に関しては男子がいくら徒黨を組もうと絶対に勝てない突破力を生み出すものだ。敵に回すのはまず過ぎる。
顔を強張らせ冷や汗を浮かべる俺に二岡はそれ見たことかとを尖らせる。
「やっぱりね。いい? の子にとって告白っていうのはとっても勇気のいる行為なのよ。自分は好意を持っているけど相手も同じ気持ちでいるかどうかは分からない。それでも必死になって思いを伝えているの。真剣だからちゃんと返事をしてもらいたいのに、告白された側が告白を蔑ろにしたらショックをけるでしょう? だからきちんと返事はしなくちゃいけないの。アンタだって別にクズではないんだから返事くらいはするつもりあるわよね? それとも、まさかとは思うけどなかったことにするつもり?」
じろりと睨み付けてくる。その目は真剣そのもので肯定するつもりなら噛み付いてやると言わんばかり。
言いたいことは分かるのだが俺にだって言い分というものがある。
「別に流すとは言ってないだろう。俺だって白黒著けたいとは思っている。だが、現狀ではそれも難しいんだよ」
「何よそれ。言い訳?」
俺の抗弁に鼻白んだ顔をするが、助けはやはり能井さんの方からもたらされた。
「永野くんの言いたいこと分かるよ。告白の返事をするには相手の子に會わないといけないからね。こんな騒ぎが起こってる中その中心の二人が揃うってなったらそれはもう周囲が放っとかないんじゃないかな。それこそ二人を取り囲んで直接何かをするかもしれないし」
俺の懸念に能井さんは気付いてくれたようだ。
そう、返事をするなら別に今すぐ一年の教室に突貫してやったっていい。ただ、そんなことをすれば嫌でも注目を集めるしもし朝日のファンにでも見付かったりしたら。嫉妬に狂う男子高校生の群れとか絶対に相手したくないぞ俺は。
そう言った危険があるために、沈靜化には有効だと思うのだが未だに返事は保留のままなのだ。
朝日フリークの過激派の胎が見られる限り、付き合うにしろ付き合わないにしろ俺の安全は危険域のままなのだろう。なんだよアイドルか何かかよ。いや、そこらのアイドルよか可いけども。
「その通りだ。そう言った理由で俺の方からはけない。當然それは向こうも一緒だろう。こんな狀況で告白の返事もクソもないだろう?」
言えば二岡は押し黙る。腑に落ちないこともないのだろう。それだけ周囲の癡気騒ぎには思うところがあるということだ。
まあ、細かいことを言えば周囲にバレず返事をすることは可能だ。嵩原辺りのコネを使い人伝に手紙でも渡してもらえればいいし、校では監視の目があるのなら放課後校外で會えば周囲を刺激せず済む。分かっていて放置しているのはそれが俺の保に繋がるからだ。
よくよく冷靜に考えてみてしい、俺と向こうの好度の違い的に付き合うにしろ付き合わないにしろ俺悪者にされないか?
付き合ったらお前みたいな奴が釣り合う訳ないと言われそうだし、フったらフったでお前みたいな奴が何上から言ってんだ的なことを言われそう。
被害妄想だろうか。妄想で終わればいいが終わらない可能がある以上俺は全力で保に走らせてもらう。誰だって自分のが一番可いものだ。俺だって例外じゃない。
裏の事は明かさずに表の言い訳を口にしてどうにか二岡を納得させた。
自己申告したように二岡も俺には同的だったからか思いの外あっさりと納得してくれたようだ。
よし、これでまた味方とまでは言えないが中立を保ってくれる人間が増えた。こうやって地道だが地盤を整えていけばいつの日かは安穏とした生活に戻れることだろう。それがいつかは遠過ぎて全く目処も立たないが。
「だから現狀はお手上げだ。今起こっている騒ぎがせめて一學年規模にまで落ち著かなければあの一年と接するのも難しいっていう話になってる。どうせそんな長々と続きはしないだろうし、今は大人しくしていた方がいい」
事件のあった中庭で同席していた他三人は早々に巻き込んで、基相談はしている。
その結果頭脳派であり報通である二人に揃って大人しく待てと言われたのでそうすることにしたのだ。下手に刺激すれば今後の學校生活に差し障るという警告をけたのだが、改めてそんな非常事態に巻き込まれている己のが哀れで仕方ない。
「それがいいね。私も返事をしていないって聞いた時はそれはどうなんだろうって思ったけど、永野くんのの安全を考えたら正しいと思うよ。相手の子だってこんな騒ぎになってるって分かってたら早く返事を求めることはないと思うよ」
「……まあ、言い分は分かるけど。アンタのことだから裏がありそうな気がするのよね」
分かりのいい能井さんと違い二岡は疑わしげに人の顔を見てくる。
こういう勘のいいところも二岡が苦手な理由だな。
逸らしそうになる視線を必死に耐えて二岡の目を真正面から睨む。
「はあ。まあいいでしょ。白黒著ける気があるってことはもう返事は決まってんでしょ? どうするの?」
追及を諦めたらしい二岡が何やら弾を放り込んできた。どうするのとはどういったことでしょうか?
「分からない振りしたって意味ないわよ。返事はって振ってるんだから答えなんて決まっているじゃない。學校全で騒がれるほどのからの告白は、一どうお返事するつもりなのかしら?」
惚けようとしてもニヤリと笑った二岡がより細かい質問をして追い詰めてくる。
なんて場所でなんて質問をしてくるんだこいつは。せめて他に人がいない場所だったら……、いや、容が容なんで結局は答えないな。
ともかく聞いている容がアレなら問われた場所もまずい。どこで誰が聞き耳を立てているか分からない狀況で告白の返事を言うのは……。なんか視線をじる。
教室のそこかしこで息を潛めている気配をじるんだが気の所為ではないだろう。気を遣って積極的に絡んでくることはなくても興味があるのは間違いない、か。お気遣いの人、助けて下さい。
「え、え、もう返事は決まってるの? ど、どうするの永野くん?」
駄目だ、いつも助け船を出してくれる能井さんはすっかり脳に染まってしまっている。
えらい興した様子でを乗り出して聞いてくる姿からは周囲の張り詰めた空気を察知している様子は見られない。
誰か助けて、こんな衆人環視の中でバナなんて出來るか!
「永野、今日の放課後なんだけど、ってどうしたの?」
救いの神顕る! ちょっと席を外していた樹本と檜山のご帰還だ、なんでこんな面倒な時にいない薄者と心の中で罵った俺を許してしい。ナイスタイミングで戻って來てくれた、二人供。
「いや、なんでもない。それより何か話があるんだろ? 悪いな二岡に能井さん。そう言うことで話はここまでだ。こっちでも々あるんでな」
「え? 別にすぐ済む話……」
「打ち合わせとか! あるから! そう言う訳でその話はまた後で!」
強引に話をぶった斬ってどうにか危機は出出來た。男二人が意味分からんって顔をしているが事は後で話す今は話を合わせろとゴリ押しして黙らせる。
子二人はなんとも殘念そうな表を浮かべるがそんなものにほだされたりはしない。こんなところでバナなんて恥ずかしいわの危険をじるわ碌なことにならないのが目に見えてるからな。
あの中庭の変からこっち俺の周囲はこんなじで騒々しくて堪らない。一いつこの騒がしさから解放されるのやら。
先を思えば溜め息ばかりが口から溢れ落ちていった。
「ああ、そう言うことがあったんだね。それであの慌てようか」
一日が終わり現在は放課後、疎らに生徒がいる教室で樹本と二人のんびり話をしていた。
話の容は二岡・能井ペアに追及されていた時のことだ。ざっと事を説明すれば樹本は瞬時に理解し納得してくれた。
「諸々の理由で返事が出來ないっていうのに、その答えだけが先行して広まるような事態は避けないといけないもんね。今のこの騒ぎの中じゃ確実じゃない報だとしても核心に近い話が出回ったりしたらより油を注ぐだけだしね」
そう俺の焦りの理由を語る樹本は実際鋭くはあるのだが、今回は俺が積極的に相談や報の共有を行っているのでそのために事をよく理解しているのだ。
如何に周囲の人間を刺激せずに騒を落ち著かせるか、その間の理想的な立ち回りはなんだ云々といった合にだ。
告白への返事を保留するべきと答えたのも樹本だ。
今は下手に突っつくような真似はせずなるべく大人しくしておいた方が俺の利益になると実に理論的に説明してくれた。そのために俺は必死になって子二人の追及をかわしたのだ。
「あの二人が広めるとは思わないけどさ、どこで誰が聞いてるのか分からないのが現狀なんだし警戒はしておいた方が絶対いいよ。永野としては窮屈な思いをしちゃうかもしれないけど」
「いや、俺も樹本と同意見だ。これ以上火種を提供したくはないからな、賢く黙っていようと思う。元々、俺は多弁って訳じゃないから黙っていることに窮屈さはじないな」
「そっか。良かった」
心配してくれたのか樹本はほっと肩の力を抜く。
今回のことではこいつらに大分迷を掛けている。騒ぎが騒ぎなので俺を一人にさせたらまずいとなるべく一緒にいようとしてくれるし、下校もこうやって一緒に帰ろうとしてくれる。
樹本と檜山は俺のボディガード役を率先してけてくれるのだが、檜山は運部を掛け持ちしているから下校時間が合わないことが多く専ら樹本に皺寄せがいっている。今日だって檜山はどうしても部活の方が抜けられないので樹本が一人で付き添ってくれていた。
樹本も部活にはっているらしいのにここ數日は帰宅部の俺に合わせ早々に學校を後にしている。
これ以上サボらせるのも申し訳ないと思い何度か斷ったりしたのだが、樹本は問題ないと答えるばかりで俺の付き添いを止めようとしない。
気を遣っているのかと思ったが、樹本の態度がどこか嬉しそうだったのでひょっとしたらのいいサボりの理由として利用されているのではと疑っている。
一奴はどんな部活にっているんだ? 思い返せばこれまで樹本から部活の話は聞いたことがないな。今度聞いてみようと思う。
そんな訳でここ數日は樹本と時々檜山という面子で一緒に下校していた。學校では連む仲だが校外でも一緒にいることはそんな多くはないので意外と新鮮だったりする。
不可思議な噂の解明での付き合いはあるものの、言えばそれぐらいでしか學校外で一緒にいることはない。
一見淡白に見えるだろうが學校ではほぼこのメンバーで行しているので外でまで一緒にいる必要はないだろうという無言の了解が俺たちの間にはあるのだ。男子は子のように、仲がいいからと言って四六時中一緒にいたいとは思わないものだし。
ちなみに嵩原は最初から仲間はずれだ。奴はどちらかと言えば嫉妬を抱く側に近く俺のボディガードの仕事も「男と一緒に帰るなんてパス」とか言って早々に辭退したのだ。なので奴はこの場にもいない。お禮は樹本と檜山に後程たっぷりする予定だ。
樹本と他もない話をしながら昇降口へ向かう。通り過ぎる奴らがじろじろと不躾な視線を投げてくるがそんなものは無視して先を行く。
煩わしいがいい加減慣れてくるというもの。視線だけで直接行に移すことがないのならスルーすれば事足りるので逆に楽だとここ數日で學んだ。
一時は暴力の気配を滲ませる輩の姿がちらついたこともあったが、しばらくしたら姿も見掛けなくなったのは裏で何かがあったのだろうか。樹本が護衛を申し出たタイミングでの変化だったんだが、まさか、ねえ。
々疑問は盡きないがまあ、悪いことはないだろう多分きっと。
微妙に時間を外したがために人も疎らな昇降口で靴を履き替えようと下駄箱を開けた、ら。俺の靴の上に白いものが乗っかっていた。手に取ってみればそれは無骨な白い封筒だった。
「何それ?」
矯めつすがめつ眺めていれば樹本が聞いてきた。俺に聞かれても手紙以外の答えは出てこない。頭に怪しいが付くが。
「ちょっと見せて……。あれ、名前が書かれてないんだね。これじゃ誰からの手紙か分からないね」
そう、っていた手紙は表も裏も真っ白、本當の意味で白い手紙だ。直接投函されたと思えば不思議でもないんだがこのタイミングで差出人不明の手紙とかフラグとしか思えない。
「嫌な予ビンビン」
「ひょっとしたらラブレターかもしれないよ? ほら、永野今モテ期が來てるのかも」
「どれだけの自信で言ってる?」
「……てへっ」
あざとく笑われた……。言葉にせず否定かこの野郎……。
穿った意味はないんだろうけどモテ期なんて來ないだろと遠回しに言われたようにじたぞちくしょう……。
若干傷付きながらも手の中の手紙に目を落とす。読まないと駄目かな。このままゴミ箱にダイレクトシュートしたいんだけど。
「さすがに読まずに捨てるのは駄目だと思うけど」
樹本に諌められた。と言うか俺は何も言ってないのに思考を読まれたのだろうか。
思わずその顔を見詰めればにこりと笑われた。え、その笑顔はどういう意味の笑顔だ。その通り? それとも何か誤魔化したのか?
「とりあえず開けてみない? 悪戯だって分かったら無視しちゃっていいんだし」
困する俺をスルーしてそんな提案をしてくる。まあ、悪戯かどうかは分かってないんだから開けないことには判斷のしようがない。ここは腹を決めるしかないか。
仕方なしに封を開け中を見る。封筒の中にはこれまた真っ白な紙が折り畳まれてっておりパッと見て変な様子はない。
何が書かれているのやらと紙を引き出すと間に何かが挾まっていたようでり落ちてしまった。かしゃんと乾いた音を立てて床に落ちたそれに目が行く。
「あ、永野、何か落ちた……、え」
樹本も同じように目で追ったようで、落ちた何かを見て言葉を止めた。俺も視界にったそれを見て思考が止まる。
白い床に転がるそれは、黒い刀をに反させる所謂剃刀というものに見えた。
何故、と疑問に頭を占められながら手にした手紙に目が吸い寄せられる。
二つ折りにされた真っ白な紙を開きその中へと目を走らせた。余白の多いおよそ手紙としての裁を保っていないその紙には中央に極短くたった一文が記されていた。
『呪われろ』
完全に思考が停止した頭で、これが所謂剃刀レターかと思い至ったのはそれからしばらくしてのことだった。
長くなりますがどうかお付き合い頂けたら幸いです。
《追記》八月二十九日 修正。告白して朝日が逃走を図ったことを追加しました。
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