《高校生男子による怪異探訪》14.『呪う』ということ
今回ちょっと長めです。
日も暮れ出して校には人の姿もあまり見られない。外からは運部の掛け聲、校からは吹奏楽部の演奏が微かに聞こえるくらい。
晝間と違ってしんと靜まり返った校の、下駄箱前に一人ふらりと子生徒がやって來た。
その子生徒は周囲を気にするようにキョロキョロ頭をかし、そっと足音も立てずに下駄箱の前に立った。一年から三年と並ぶ下駄箱の端っこ、一年生が利用するそこにだ。ネームプレートを確かめ目的の人であることを確認すると、そっと鞄から白い封筒を一通取り出す。
かたりと戸を開けた子はその封筒を下駄箱の中に投函し――、俺はその腕を背後から摑んだ。ビクリと子は盛大にを跳ねさせる。
摑んだ腕を引き寄せその手から手紙を奪い、そして子――能井さんに聲を掛けた。
「何をしてるんだ?」
向き合えば能井さんは顔を強張らせて視線を床に落としている。顔のは蒼白。冷や汗を滲ませだんまりと口を噤んでいる。
「ここは一年の下駄箱だろ。能井さんにはなんの用もないはずだ。それに、この手紙は……」
回収した手紙に目を落とす。真っ白な封筒にはどこにも差出人の名前は書かれていない。書く必要がなかっただけか。それとも……。
下駄箱の名前を確認する。そこには朝日の名前が印字されていた。
「……朝日の下駄箱になんの用があったんだ?」
「……」
訊ねても答えてくれない。より一層と悪くなる顔にこちらの焦燥も募って我慢が出來なくなった。
「中を確認するぞ」
「! だ、駄目!」
回収した手紙を開封しようとすれば焦って止めにられる。その焦りようがもう答えを言っているように思えるが、きちんと確認するまでは決めて掛かる訳にもいかない。
手紙を奪おうとする能井さんをかわし、封筒を破って中を取り出す。折り畳まれた中の紙を引っ張り出すと同時に、中にれられていた薄いまで巻き込まれて封筒から溢れ落ちた。
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「止めて!」
かしゃりと、小さく乾いた音が能井さんのび聲のあとに続く。視線を床へと落とせばそこに黒い刃が見えた。
剃刀の刃だ。白い床の上にぽつんと一つ落ちている。
視線を床から手元へ戻す。カサカサと真っ白な手紙を広げた。もう能井さんの抵抗はない。落ちた剃刀の刃を見つめているのか、俯いたままピクリともかない。
邪魔がらないからゆっくり三つに折り畳まれた手紙を広げた。封筒と同じ真っ白で罫線だけがあるような無骨な紙には、その中央部分にたったの一文が黒い字で書かれていた。
『あなたを呪います』
それは縁切りの、呪いの手紙だった。
「……」
「……能井さん、これはなんだ?」
訊ねるが答えは返らない。俯いたまま、彼は俺の顔も見ようとしない。
「……」
「……」
なんと言っていいのか分からず、重い沈黙が二人の間に広がる。なんで、と信じられない気持ちばかりが頭の中をグルグル回った。
能井さんの荷がばらまかれた際、見えた赤い糸にまさかという思いが湧いた。あの一年が持っていた呪いの人形。それが一瞬で思い出された。
嫌な想像に追い立てられるようにして、帰った振りをして能井さんの向を窺った。寄る所があるからと先に二岡を帰らせた彼は今、こうして下駄箱に一人でやって來た。骨に周囲の視線を警戒しながら、だ。
俺の考え過ぎならそれでいい。変に疑ったことを申し訳なく思うだけで済む。あの能井さんが、呪いになんて手を出すはずがない。俺の杞憂で終わると、期待して彼を見張っていたのだ。
でも、期待は外れてしまった。能井さんは縁切りの呪いに則って手紙を投函してしまった。朝日に呪いを掛けようとしたのだ。
やっと呪いの騒も沈靜化するだろう。皆で見えた終わりに安堵したこのタイミングで。
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「……」
能井さんは一言も喋らない。話なんかしたくないと、そう言いたいのだろうか。
しかしそう言う訳にはいかない。どうして朝日を呪おうとしたのか、何故縁切りの呪いに手を出したのか。明らかにしなければならないのだ。
「……話を聞かせてしい」
糾弾なら直ぐに出來る。でもその前に能井さんの話が聞きたかった。
ピクリと肩が微かに揺れる。俺の言葉に反応してくれた。ならまだやりようがある。一方的に能井さんを責めて、終わりにさせなくて済む。そのことが殊の外こちらの心境を軽くさせた。
「……」
「場所を移しよう。能井さんもそれでいいか?」
訊けば、やっぱり俯いたままだけど、それでも彼はこくりと頷いて了承してくれた。
詳しい話を聞くため、黙り込んだままの能井さんを連れて場所を移する。
校舎を出て、強い夕日が差し込む中、人目を避けるためプール脇の休憩所までやって來た。時期が時期だから周囲には人っ子一人いない。幾つか並んでいるベンチに能井さんを座らせる。
「……どうして朝日に縁切りの呪いを?」
外だと言うのに重くじる空気の中で切り出す。
なんで朝日を呪おうとしたのか。明らかにしなければならない。
「……」
答えは返って來ない。俯いていて、垂れた髪で顔が隠れてしまっているから表は窺えない。一どんな顔をしてこの場にいるんだろうか。
「……」
答えを待つが何も言ってくれない。ここまで來てくれたのに、最悪は事の一つも話してもらえないかもしれない。
それでも、せめて呪い自は辭めさせないと。
「人形、持っているんだろ? 出してくれ」
「……っ」
手を差し出して言えば息を呑む気配がする。
膝の上に置かれた両手がギュウッと固く握り締められるのを見て、無理矢理取り上げないと駄目かとも思ったが、能井さんはそれからノロノロと鞄を探り出しあの小袋を差し出して來た。ゆっくりばされる手から小袋をけ取り、眼前まで持ってくる。
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「中、確認するけどいいよな?」
「……」
答えはやっぱり返って來ないが、微かに聞こえる呼吸音から一瞬息を詰めたのは分かった。それでも何も口にしようとしないから了解したとけ取り小袋の中を検める。
「……」
出てきたは折り紙のやっこが二つ。その二つは赤い糸で繋がっており片方にはしっかりと『朝日春乃』と可らしい字で名前が書かれていた。これで確定か。
「能井さん……」
なんと言っていいのか。どうしてと疑問ばかりが頭の中をグルグル回る。どうして、朝日に呪いなんて。
「……」
俯いたまま何も言ってくれない能井さんに、そう言えばと相手の名前を確認する。一誰と朝日の縁を切ろうとしたんだ?
もう一個のやっこを摘まみ引っ繰り返す。やっこの、真ん中に同じく可らしい字で名前が書かれている。
「……え……」
そこにあった名前に思わず言葉を失った。書かれていた名前は『檜山亨』。まさかの知り合いだった。
「……」
「能井さん……、あんた檜山のこと……」
驚きのままつい訊ねてしまう。俯いたままの彼の肩にぐっと力がった。その反応だけでそれが事実なのだと分かる。
檜山のことを想っていたというのは驚きだが、それについてどうこうなどとは思わない。ただ、どうして朝日との縁を切ろうとしたのか。
彼の目には二人は親に見えたのか? それともただ近付いてしくなかっただけか? 分からない。分からないけど、ただショックだ。
「能井さんが、こんなことをするなんて」
衝撃のままに溢した素直な想の吐に、そこでピクリと彼は反応を示した。
「……によ、それ」
ぼそりと呟く聲が聞こえる。彼の俯いたままの頭を注視すれば、ばっと勢い良く顔が上げられた。
髪がれるのも気にせずに曬された顔は、怒りに真っ赤に染まって俺を睨み上げている。
「何よそれ! 私が誰かを呪うのは有り得ないって言うの!? 私だって、私だって好きな人が自分以外の人に笑い掛けたりしたら嫉妬する! 憎くもなる! 誰かを呪いたくだってなる! それがおかしいとでも言うわけ!?」
ぶようにのを明かす。普段大人しくらかに話す彼の面影はどこにもない。
顔を真っ赤にし、目には涙を浮かべ、抑えていたを暴発させたように能井さんは話し続ける。
「だってずっと好きだった! 一年生の頃から、サッカー部で楽しくボール追い掛けてる檜山君が……! 告白しようかなって何度も考えた。でも接點なんて何もないし、それに檜山君は誰からの告白もけれてなかったから……。だから、二年になって同じクラスになって、これでチャンスが來たって、仲良くなれるって、そう、思ったのに……!」
悲しそうに目が細まり、湛えられていた涙が我慢出來ずに決壊する。幾つも幾つも涙の筋が頬に生まれ、彼はしゃくり上げながら更に続けた。
「あの子だけ違った……! 檜山君、春乃ちゃんに対してだけは態度が違うの。お禮言われて、嬉しそうな顔してた。あんな、照れた顔、私見たことなかった……! だから、だから……!」
そこまで口にして能井さんは顔を手で覆ってわっと泣き出した。嗚咽と共に言葉にならない呟きを幾つも溢す。何を言っているのか、何を言おうとしているのかは分からない。俺はただ、彼の傍でれ聞こえる聲に耳を傾けていた。
「ごめんね、永野君。いきなり泣き出したりなんかして……」
能井さんは暫く泣き続け、漸く落ち著いた頃には太も大分傾いてしまっていた。
派手に泣いたから気分もすっきりしたのか、グスグス鼻を鳴らす程度にまで落ち著いた彼はそう俺に謝罪する。普段の彼に戻ってきたらしい。
「別にいい。それだけ能井さんの中で溜まっていたんだろうし」
謝られることではないと思う。こうして能井さんを問い詰めると決めた時から泣かれることは覚悟していた。心に踏み込むんだ、拒絶されることも泣かれることも想定だ。
「そう、かな。でも、そうだね。こんな馬鹿なことをしでかすんだもんね。私、追い詰められていたのかもね」
こんな、と俺の手の中にあるやっこを見て呟く彼は憑きものが落ちたように穏やかに笑う。それが、どうにも他人事みたいに突き放しているように見えて思わず顔を顰めてしまう。
「……朝日への嫉妬から呪いを?」
確認のため訊ねる。わざわざ問う必要はないかもしれないが、それでも能井さん本人の口から聞きたい。
一瞬苦しそうに顔を歪めたが、彼は素直に「うん」と肯定を返した。
「檜山君、春乃ちゃんには照れた顔してたから……。の子相手にあんな男の子の顔することこれまでなかったもん。だから、私、春乃ちゃんに近付いてしくなくて、それで……」
だから、呪ったか。確かに俺もあいつが照れるなんて珍しいとは思った。だが、それだけでそうも発展させるのか?
「もし檜山の奴が朝日をそういう目で見ていたとしたら、俺の手助けなんてしないと思うが」
自分で言うのもなんだが、それなら俺は憎いライバルとかになるだろうよ。そんな俺をあんなに本気で心配して守ろうとまでするだろうか。
疑念を口にすれば能井さんもこくりと頷く。
「そうだよね。今思えば確かに永野君の言う通りだと思う。檜山君、本當に永野君のこと心配して助けようっていてたもんね。もし、春乃ちゃんのことが好きだったらあんな一生懸命に永野君のためにくかな……」
口ではそう言っているが、表を見れば釈然としていないのは明らかだ。どうやらまだ何か引っ掛かりが彼の中にはあるらしい。の勘とでも言えばいいのか。
「一いつ檜山がそうだって思ったんだ? やっぱり、朝日にお禮を言われた時か?」
追い詰められていたのは分かった。それでも実際に呪いを掛けるとなったら躊躇いはあったはず。実行に移すと覚悟したのはつい昨日なのだろうか?
「……始めにあれ?って思ったのは檜山君が一人だけ春乃ちゃんに見覚えがあるって言った時。どうして檜山君だけが覚えていたんだろうって気になったの。それで照れた顔した檜山君に、ああ、好きなんだなって確信しちゃった。だから、私……」
言葉は途切れたがその先に何を言おうとしたのかは分かる。『だから呪った』。つまりは、つい昨日に確信を得て今日決行したと。なんとも、思い切りのいい。
「昨日の今日で呪おうと思えるものなのか?」
隠そうと思ったのに批難する気持ちがつい口から飛び出す。朝日を被害者と認めてその安否を心配していたはずなのに。そんな簡単に翻るのかと彼の心変わりが信じられなかった。
俺の批難を正確に察したか、能井さんは自嘲を口端に浮かべた。
「思えるしやれるものだよ。だって取られたくないんだもの。ずっと想い続けていたのに、急に橫から取られるなんてそんなのけれられないよ。私、本當に檜山君のこと好きなんだから」
穏やかに朗らかに語る彼の目は、笑顔に緩んでいても冷たくこちらを拒絶していた。
「……」
何も言えずに沈黙が落ちる。
彼の好きだという気持ちは本當に真剣で心からのものなのだろう。誰かに取られると思って危機をじ、排除しなくてはと冷たく斷じられるほど強固なもの。
その気持ちを否定することは俺には出來ない。彼ほどに誰かに自分の気持ちを向けたことなどない俺が、同調したり況してや理解したように語るのはただ彼を不快にさせるだけかもしれない。
でも、好きなら何をしてもいい。そんな論調が通用しないことだけは確かなこととを張って言える。
「好きなら呪ってもいいのか?」
「……」
訊ねるが答えはない。ついと顔を逸らされたが、それが不快から來ているのは一瞬見えた顰めた表から察せられる。
これ以上彼の心に踏み込む意味はあるのかと思わないでもない。彼が呪いを実行に移したことは俺しか知らない。俺が黙っていればまた変わらない関係が続くのかもしれない。
思うが、でも、そんなのただ誤魔化しているだけに過ぎないんだろうよ。
「能井さんは自分勝手なんだな」
出來るだけ気持ちが隠らないよう平坦に告げる。彼がはっとこちらに振り向いた。怒っているのか驚いているのか。
ひょっとしたら戸っているのかもしれない。俺が能井さんに酷い言葉を掛けるなんてなかったからな。
「な……、そ、そうだね。確かに、私自分勝手だよね。呪いなんて実行して、こうして永野君に怒られて。でも、でもさ、でも仕方ないじゃない! こうでもしないと、縁を切らないと、檜山君取られちゃうかもしれないんだよ!? 黙ったままじゃ、私、檜山君をあの子に……!」
再度激を発させる。じわりとまた目に涙を浮かせるが、ここで引き下がるなんてそんなことはしない。彼にはしっかり理解してもらわなければならないんだ。
「取られると思ったから取られないように呪った? 自分のために?」
「だって、そうでもしないと……!」
「そうでもしないと? 呪いを掛けないと振り向いてもらえないとでも思ったのか? 檜山を呪わないと好きになってもらえないってそう思ったのか?」
「え……」
ずっと引っ掛かっていたことをついに口に出してやる。言えば能井さんはポカンと口を開けて固まった。思わぬ言葉を聞いたとその表が語っている。
「だってそうだろ? 縁切りの呪いは片方にだけ作用するものじゃない。呪いの対象は縁を切りたい二つのものになる。つまり、能井さんは朝日と檜山に呪いを掛けようとしたんだ」
「……!? あ……」
明確に指摘してやれば彼は驚愕に顔を歪めて言葉をなくす。
最初に言及したのは能井さんのはずなのに。一番に朝日のことを気に掛けて、縁切りの呪いの本旨を指摘したはずなのに。
それなのに彼はすっかり忘れていた訳だ。自分の気持ちが大切だったから。取られたくないっていう自分のを優先させたから。それで平気な顔で呪いを実行しようとした。檜山も同時に呪うんだってことをすっかり見ない振りをして。
「ち、ちが……っ」
「違わない。こうして名前はしっかり書かれてる。朝日と檜山、両方に呪いを掛けているだろ」
持ったままのやっこにはしっかりと二人の名前が書かれてる。檜山の名前を書く時一どんな気持ちでいたのか。なんでその時に気付かなかったのか。苦味が胃の底から沸き上がって來るようだ。
自分の方が相応しい? 自分以外を見つめるのは嫌だ? どっかで誰かが喚いていたような主張だな。そんなの、他人がどうこう言えるようなことじゃないだろうに。
「能井さんは自分のために檜山を呪ったんだよ」
「違う!!」
悲鳴のようなびが辺りに木霊する。さっきまでの不愉快そうな表はどこかに消え、今はただ信じたくないとばかりに悲愴な顔をしている。
傷付けているだろう。だが、もう止まれない。
「當たりだろ? 能井さんは一連の話を聞いて、呪いがどういうものかも理解していた。その上で自分の気持ちを満たすために実行へと踏み切った。何も間違ってないだろ」
「違う……、違うの。私は、そんな……」
「『こうしないと取られちゃう』、だったか。それが理由だろ? 実際に呪われた俺を知っててそうしたんだ。自分のことしか考えないから他人がどうなったかも忘れて呪いの実行だって出來たんだ。能井さんは近くで呪われた人間を見ていたはずなのに」
「……あ……」
言わんとしたことが分かったらしい。必死に否定しようとしていた能井さんはそれも忘れてただこちらを見上げる。
俺がショックをけたのは『能井さんは誰かを呪ったりしないと思ってた』、なんていう思い込みな理由じゃない。
彼は知っていたはずなんだ。呪われた方がどれだけ翻弄され、迷を被られ、そのために右往左往していたか。いろんな人間を巻き込んで、心配だって凄く掛けて、それでもどうにかしたいって彼は俺のを案じて手助けしてくれていたはずなのに。
そんな彼が全て無視して安易に呪いを頼ってしまった、そのことが何よりショックだったんだ。
「俺たちがどれだけこの呪いに手を焼いていたか知ってて呪ったんだろ? 檜山も怒って積極的に事態の収集に努めていたのに、それも忘れてまた呪おうとしたんだ。自分勝手でなくてなんて言えばいいんだよ、俺は」
「……あ、ああ……」
ぼたぼた涙を溢して能井さんは俺を見上げる。
差し込む夕日の所為なのか、潤む目はとてもをよく弾いてそれがまるで正気を取り戻した証にも見えた。なくとも、彼はもう呪いを肯定なんてしないだろう。
「そう、だよね。そうだ。皆、皆犯人のこと怒ってたはずなのに。なのに、どうして、私……!」
わっと泣き出した彼はしきりに謝罪の言葉を溢す。誰に向けたものなのかはっきりしないが、そこは別に明らかにしなくてもいいだろう。
能井さんが本當に優しい人なのだということはよく理解している。本來、こんな呪いなんかで誰かを害そうなんて思わない人間だということを、俺だって知ってる。
どうしてこんなことになったのか。手段があったから悪いのか? 朝日と檜山を突き合わせたから起こったのか? 安易に呪いなんざ仕掛ける人間がいたのが問題だったのか? 朝日が俺に。
いや、止めよう。起こったことをどうこう言ったって何も始まらない。不服なら改善すればいいし、問題が殘ったのなら解決に向けていた方が余程建設的だ。過去を振り返ったって何も解決しやしない。
なくとも能井さんは自分がやろうとしていたことをしっかりとけ止めた。実際に呪いも掛けずに済んでいる。ならそれで、今はそれで十分だろ。どうにか踏み止まれはしたはずだ。
嗚咽が響く以外には靜かな休憩所に、赤い夕日が強く強く差し込む。
思えば手紙をもらってからこっち、夕日に照らされる機會も多くなったものだ。帰宅部だから早い時間に帰るため、こんな沈み掛けの太なんて帰路でお目に掛かることもあまりなかった。
燃えるような赤は綺麗だと思う。手の中の赤い糸と比べてもそのの鮮やかさは雲泥だ。
赤い糸、なんて運命の糸だとか言われてちやほやされることの方が多いだろうに、今回の騒ですっかり疫病神的な印象が植え付けられてしまった。それは俺以外の人間も同様なのではないだろうかと思う。
能井さんも、こんな夕日を見てしでもそんな印象が改善したらいいな。そう、そっと願っておいた。
【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!
二年前、親から絶縁され一人暮らしをすることになった天原ハヤト。當時14歳。 最終學歴中卒でろくな職場にもありつけない中、空から降ってきた隕石が未知の世界”ダンジョン”を日本にもたらした!! もう食ってくためにはこれしかねえ! と速攻で探索者になった彼だが、金にものを言わせた企業戦士たちに勝てるはずもなくあえなく低階層でちびちびとモンスターを狩る毎日。 そんなある日、ついに生活することすら難しくなった彼は飛び降り自殺を試みる。しかし、そんな彼を助けたのは隕石についてきた美女(脳內限定)。どうも彼女の話によるとダンジョンは地球の寄生蟲だからさっさと攻略したほうが良いらしい。 彼女から【武器創造】と【スキルインストール】という二つのスキルを貰ったハヤトは地球を救う……ためではなく目の前の生活のためにダンジョンに潛ることにした。 そうしないと、飯が食べられないからね。仕方ないよね……。 『2019/11/16 日間ランキングで1位になりました!』 『2019/11/19 週間ランキングで1位になりました!!』 『2019/11/27 月間ランキングで1位になりました!!!』 この作品はノベルアップ+、カクヨムでも連載しています! 『2020/6/18 完結ッ!!』
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