《高校生男子による怪異探訪》1.雨に祟られる街

第二章、『凍雨』始まります。

過去話です。男四人の連む切欠となった出來事です。

新年度が始まり俺も高校へと進學した。進學先の學校は地元にも馴染み深い県立高校。名を上蔵高等學校と言う。

歴史と敷地面積に関しては県でも一、二を爭うほどのものであるが、偏差値的にはそこまで高くはない。れ人數が數百を超えるので、そのため平均も下がるといった事だな。學力はそこそこの俺でもどうにかり込み出來たので何よりと言った所。

季節は春。新學生として高校の門を潛り、そうして俺の高校生活はスタートした。學式も執り行われ、ピカピカの新生たちが張した面持ちで春の穏やかな気の中新たな一歩を踏み出す。

そんなじで今年もきっと様変わりしない新學期が始まる、はずであったのだが。

季節は春だ。暖かい日差しにそこかしこで新芽が芽吹き、桜なんかも盛大に咲き散らかしている時分のはずなのに、我が地元、古戸萩市はまるで春とは縁遠い様相を醸し出している。空は暗く風は冷たく、そして冷水のような雨が切れ間なく降り続ける。

そう、先月の終わり頃からこっち、我が街は隨分と長い雨に祟られているのであった。

寒い冬からどんどんと気溫が上がり、そうしてもうそろそろ春が來るかなと、お天気キャスターなんかが畫面の向こうで笑顔で告げたその頃からどうにも天候不順が続いた。

始めはパラパラとした俄雨が斷続的に降る程度だった。それが次第に時間、勢いも増していき気付けば連日連夜雨が降り続けるようになった。空には重い曇天が広がり日差しを遮るもんだから気溫も上がらない。まるで冬のような寒さが暦上春を迎えている我が街を襲い続けていた。

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どういうことなのか。何が起こっているのか。地元のテレビ局は挙ってこの長雨を異常気象だと斷じて連日取り上げてはあーでもないこーでもないと討論を続けている。

この長雨は全國で起こっている訳ではなく、なんでだか我が街だけで引き起こされているようだから更に討論は紛糾した。こんな局地的過ぎる異常気象も珍しい、前例にないことだ、なんてどこぞの學者だかなんだかが困したように語る姿も見た。

折角の新年度、新學期だというのに、どうにもケチの付けられた始まりで憂鬱な気分である。

空には曇天が広がり冷たい雨が降っていようとも、それでも年度が明けたのならば學校は通常通りに開始される。

世間に文字通り重い雲が垂れ込めていようとも、それが生活を直接破綻させるものでもないのなら日常というものは早々壊れたりはしない。

何が言いたいかと言えば俺たち新生並びに在校生は普段のままに登校していると言うことだ。異常気象だと言っても出歩けないほどの豪雨でもないのだから當然と言えば當然だ。

これが極寒あるいは酷暑、はたまた豪雪、豪雷の類であったのなら自宅待機も認められていたのかもしれないが、たかが雨ではねぇ。冬のような寒さとは言えど、それでも十℃は越えるくらいはあるのだ、一枚上に羽織った程度で充分防寒は達出來る。

つまりは登下校にはなんら支障はないと言える訳だ。傘が手放せないと言うだけで。

學式から數日。本日の雨模様はしとしとと言った所。騒々しく出勤して行った母親のあとに家を出て空を見上げる。暗いながらも、薄ら雲の向こうの明るさがけて見える灰の天井を眺めて學校へと向かう。

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道中では疎らな通行人と取り取りの傘が暗い景で目立っている。異常な長雨ということで、最近はこの鬱な空気を振り払いたいとせめて傘だけでも明るいを選ぶ人間が増えているのだと言う。

実際、こうやって外を歩いていれば小學生の集団や中高生、まだ二十代だと思われる社會人なんかにその傾向は強く出ているように思える。皆黃や赤にピンク、白の強い空など、傘のばかりが変に明るく灰の景の中で浮いているようだ。

そこかしこに水溜まりがある通りを行く。切れ間のない雨とは言え、降っている範囲が一市なためにまだ排水機能がパンクするほどではない。道路脇に付いている排水にはスルスルと水が飲み込まれている。

幸い街にある川はいずれもきちんと増水対策が施されている。元々降水量も然程多くはなく、短時間で一気に降られたならともかく、これまでの時間単位での降水量ならば暫くは氾濫等を心配はしなくていいと市の方から発表もされた。

どうにか小康狀態の維持は出來ているようだ。それでも、徐々に募る不安は全く無視出來るものではない。

今はまだ皆冷靜に長雨に対応は出來ている。でも、このまま変わらず降り続ければどうなるか。溜まった水は流さないといずれ決壊してしまうもんだ。時間との勝負。そんな分の悪い賭けがその立してしまいそうで、そっとため息を吐いた。

暗い登校路を進み學校へと辿り著けば流石に人も多いし賑やかしい。

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學を果たして間もない學校は普段よりも騒がしくじられる。皆教室だ廊下だで顔を突き合わせてはコミュニケーションを取るのに躍起になっているのだ。

それは新たなコミュニティの形を行うにはこの時期が一番大切で、そして築けなければぼっち生活が始まるともなればそれは必死にもなることだろう。

俺も本當なら想良く振る舞って仲のいい奴を一人二人と作っていかなくちゃならないんだけど、どうにもそんな気にもならない。

まぁ、元々コミュ障で、中學時代もそんな広い友関係なんざ作って來られなかった人間なんだから、そんな高校デビューをした訳でもないのに大々的に友達作りなんて出來るはずもないんだよなぁ言ってて悲しくなってきた。

やる気が出ないというのは雨も関係している。長雨に対する不安もあるが、何よりもこの四月上旬から五月へと続く時期は晝寢に最適な季節なんだ。

日差しはらかくを溫めてくれるし風もあまり気を孕んでいなくて気持ちがいい。どっかそこらの木にでも避難し、ふうと力を抜いて眠ることの気持ち良さと言ったら。

一年に一度しか楽しむことの出來ない至福の時間がよく分からない異常気象で臺無しにされるのだ。そりゃちょっとやさぐれもするというもの。

中學では校に様々な晝寢スポットを発見し暇があれば晝寢に勤しんでいたというのに、高校ではそれも難しいのかと重い雨を降らす空を睨み付ける。勿論、睨んだ程度で晴れ間なんて出るはずもないが。

「ねえ、知ってる? この雨ってさ……」

「俺の聞いた話だと……」

「テレビでもさ、偉い先生っていうのが……」

ちょっと耳を傾ければ教室からもこの雨に関する話がれ聞こえて來る。

今皆が共有する大きなトピックスなんてこの天気以外にはないからな。つい數日前に初めましてをした人間同士であーでもないこーでもないと言葉をわしているのだが、皮にもこれ以上ない共通の話題なためか順調に仲を深めていっている生徒が散見される。

會話に困った時には天気の話をするものだと聞いたことがあるが、現狀はその天気の話が最大の話題を持っているというのだからなんとも皮だ。

雨について語り合う聲はきっと學校中、いや、この街中から聞こえてくることだろう。そう言えるほどに皆不審に長く続く雨を気にしている。

當然のことなのだが、そうやって噂する姿が俺にはちょっとだけ煩わしくじられてしまう。それもあって他人のっていけないと言うのは果たして言い訳になるのか。

ともあれ、さわさわ、ひそひそと落ち著きなく語る周囲の聲に、こちらも釣られて落ち著きをなくしながらもこうして一日は過ぎていった。

雨音を聞きながら授業が終わり、そして放課後。晝寢も出來ないために抱えたストレスを俺はいつもこの時に出來るだけ晴らせるよう頑張っている。

やることは実直と俺の趣味を兼ね備えたもの、そう、校晝寢スポットの探索だ。

天気は悪く気溫も冬に近いような低さであるから、さすがにこんな狀況で晝寢なんざしようとは思わない。

だが、天気が回復した暁には俺は《趣味:晝寢》を再開させるつもりは満々なんだ。その時のために今のから校査定を行うのは決して無駄なことではないだろう。

いずれ再開出來るだろう晝寢に思いを馳せるだけでも溜まったストレスゲージがコココッと下がる。俺の神衛生上にもこの放課後の探索は絶対に必要だと言い切れた。

そんな訳で本日も校探索の開始だ。無駄に広い敷地なためにどこにどんな建があるかを把握するだけでもそれなりに時間が掛かる。これは言い換えればそれだけ晝寢に適したスポットが校には存在するとも指摘出來るのだ。いいぞ、テンション上がってきた。

本日はこの本校舎を全的に見ていこう。二年三年の階を一年が歩くのは悪目立ちしそうだからまずは一年の階を重點的に調べるか。

我が學校は一年に三階を割り當てているので階段を下りる際にちらっと他の階の様子は探れる。本格的に探索をしたいなら時間を見計らう必要があるだろうな。

放課後、まだ人でごった返す中を歩いて行く。廊下にはそこらで生徒が二、三人で集まりだらだら會話に興じて居る姿がよく見られた。雨の中を帰るのが億劫にじて留まる奴もいれば、運著を著て筋トレに勵んでいる姿もある。

雨が続いているからな。運部なんかは外での活に思いっ切り制限課せられて仕方なく校舎で細々と活しているんだろう。不満溜まってそうだなぁ。俺には関係ないけど。

「また雨……」

「いくらなんでも降り過ぎなんじゃ……」

を歩けば嫌でも天気についての話が耳に飛び込んでくる。朝も晝も放課後でさえも生徒の口に上るのはこの天気に関してばかりだ。

鬱々と止まない雨を見上げ溜め息を吐くその気持ちは分からなくもないが、だがそればかりを話題としていて飽きたりなどしないものなのか。もっと建設的な話をすればいいのに。屋上にはどうやって忍び込めばいいのかとか。

まぁ、こちらが気にしたとして何にもならない。俺は俺で晝寢に向いた場所を見出すまでよ。

本校舎は教室數が多いから空き教室の類が狙い目だ。古い造りの校舎は鍵にガタが來ているも中にはあると思われる。そういう半ば放置されているものは教師からの注意も及んでいないことがよくあるので裏に利用するのに向いているのだ。中學でもそんな場所ばかり見付けてはちょっとした休憩所として利用していたので実績がある。

「――ねぇ、知ってる? この雨ってね、誰かが降らせてるんだって」

三階の探索中、ふと目をやった窓の向こう側、向かいの校舎の庇に意識が向いた。庇というのも結構な死角ポイントではあるんだよな。教師の意表を突けるというか。その癖日差しの當たり方は悪くないから、晝寢スポットの候補に組み込んでもいいのではないか?

そんなじに窓の向こうをじっと見つめていれば、背後からまたこの雨に関する噂話が聞こえてきた。

學生とは兎角噂話が好きなものだ。誰の口にも上る現在最大の話題を持つということもあり、長雨に関する信憑のない噂は後を絶たずに人の口に上り続けている。やれこれは化學製品の影響だ、やれ龍神様が怒っているだ。

ジャンルを問わないでまかせが橫行するのはそれだけ多くの人間の関心を浚っているからと言えるのだが、それにしたって見境のない噂話など辟易するばかりだ。

「あー、なんか聞いたことあるな。なんだっけ、雨雲の下の男だっけ?」

「そうそう。分厚い雨雲の中心、最も激しく雨が降るそこに男が一人立ってるんだって。氷みたいに冷たい雨が降る中、傘も差していないのに男は濡れることもなく況して寒がる素振りも見せないでぼうっと立っているんだとか。その男が雨を降らせる元兇だって話」

「何それ、怪談? 雨を降らせるってそいつ人間なの? 雨ならぬ雨男ってこと? 雨降らせるのって河かなんかだっけ?」

「え? じゃあこの長雨は河の呪いかなんかなの? なんで河に呪われなくちゃいけないのよ」

「いや男だって言ってんじゃん。誰も妖怪の所為とか言ってないって」

ぐだぐだな會話だなと思いつつ意識の大半は庇に向いている。庇は出り口の上という、上下からの視線の遮斷には滅法強いながらも真橫からは防のぼの字もないのがネックだな。

そもそもこちらの窓から簡単に発見が出來た時點で隠れた晝寢スポットとは言えないか。殘念だがこれは見送りだなぁ。

そう評価を下しその場を移する。結果としては殘念なものだったが、しかしこの著眼點は悪くはないのではなかろうか。

これまで晝寢スポットには完全な屋か屋外しか候補を見出して來なかった。だがさっきの庇を発見したことにより半屋外もありじゃね?という新たな評価基準が俺の中で生まれた。

ちょっとした建の影やベランダ、そんな外の空気も同時に吸える、けど外部からの視線も遮れるといった場所も晝寢には向いているのではないだろうか。この新たな発見、味してみる価値はあるだろうな。

新たな方針に俄然やる気を漲らせて探索を続行する。こうなれば探索範囲は更に広がることになるだろう。

明日からまた頑張ろうと校舎の外に目を向けて、そこでふと暗い空と打ち付ける雨に先程の噂話が脳に蘇った。男だか河だか知らないが、そいつは果たして雨を降らせて何をむのか。恨み、いや呪いだったか、それなら街を混させることが狙いだったりするのだろうか。

なんか噂話を真実として捉えているけども、長雨の原因は未だ判明していないからな。オカルトな理由付けでも飛び付く人間はきっと一定數いるんだろう。人間というのは、心霊だとか妖怪だとかそう言った存在そのものを恐怖するのではなく、結局は理解出來ないものを恐怖するものだからな。

ともあれ何が原因であろうとも一介の高校生じゃ出來ることなんざ高が知れる。

なんの能力も持たない人間はただ空を仰いで祈るばかりよ。その変な宗教団が臺頭して雨を変に信仰したりしないだろうな。ちょっと嫌な予がしてきたぞ。

雨が降り続ける限り、きっと騒は引き起こされるんだろうよ。曇天の空を眺め、はぁと一つ溜め息を溢した。

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