《高校生男子による怪異探訪》3.邂逅
徐々に不安が高まっていく中、それでもまだ他人事だと片付けられるだけの余裕が我が校の生徒にはあったのだが、そんな中で我がクラスにてちょっとした出來事が起こった。
それはいつも通りの放課後、ホームルームも終わりさぁ帰ろうとクラスメートがガタガタ椅子を鳴らして騒がしく教室を出て行こうとしていた時のこと。
「やぁ。このクラスに樹本聖っているかな?」
ひょっこり聞こえて來たのは聞き覚えのない聲に子の黃い悲鳴。
なんだと顔を上げれば、教室の出り口に高長の人影が。見たことのない大層なイケメン野郎が爽やかな笑顔を浮かべてそこに立っていた。
「え!? 噓、嵩原君!?」
「なんでうちのクラスに!?」
ざわわする子の囁きを聞いて、あれが嵩原かと胡な目をすっと向けてしまった。
嵩原秋芳。同じ一年であり學年処か全學年通して有名な男。
誰もが羨む高長のすらりとしたスタイルに、顔はそこらの男アイドルが同じ畫面に収まるのを嫌いそうなほどに整ったイケメン。さらりとした薄茶の髪は生まれ付きのものであるらしいが、それを軽く掻き上げてからかまされる流し目に、落ちないはいないとか噂される生粋のモテ野郎である。
學してまだ一月も経ってないのに、既に告白された回數は二桁に上るとか巫山戯た噂話が聞こえてくる野郎だ。そんな希代のリア充がなんでか我がクラスにやって來た。いや、要件は告げていたな。そっと名を出された男子生徒に目をやる。
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樹本聖は同じクラスの生徒だ。名前は聖と書いてたからと読む。ちょっと芳ばしい匂いがするが、當人がまたそんな名前が似合うのような年なために違和は特にない。
非常に整った顔面に、優しく気遣いの絶やさない格から萬人からけがいい。特に年上勢が可い可いとチヤホヤしている、なんて話も耳にする。樹本も嵩原と並び學年では有名人に當たるだろう。
そんな形のモテ男二人の突然の邂逅にクラスは騒然としている。皆揃ってどんな関係なんだろうと興味津々に窺っているのが分かる。
出歯亀染みた振る舞いは端から見ていてあまり気持ちのいいものではないな。教室を出ようとしていた男子が、取って返してドア付近に留まっていたりするのだ。そうまでして二人の會話を聞きたいのかと呆れが顔を覗かせる。
俺も関係はないのだし早々に教室を出ていつもの日課をこなさなければならないのだが、生憎と今日は日直を言い渡されており日誌を書いて提出しなければならない。
あとは今日一日の想を書く程度なのだが、報告としての面もあるから適當に済ませることは出來ないな。もうちょっと容を味したいので時間がしい。
本當盜み聞きとか悪趣味だからさっさと教室を出るべきなんだけどなぁー。でも日誌書かないといけないからなー。仕方ない、致し方ないのだ。
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「君が樹本君かな?」
「えっと……、僕に何か?」
そうしている間に子の案で嵩原が樹本と対面したようだ。ほぅと溜め息が教室のあちこちから聞こえた気がする。
學年を騒がせる形と形が揃い踏みしているからな。子なんてうっとり見っている姿が視界にちらちら映り込んでいる。結局男は顔か、けっ。
二人は初対面らしく初々しく、だけどスムーズに自己紹介をして流れるように會話を始めた。縺れのないやり取りは樹本の迅速な対応もさることながら、それよりも嵩原の奴が実にそつなく會話の導を行っているから実現しているのだと傍で聞いていて分かった。
要所要所での合いの手は欠かさず、また會話が途切れそうになるとさり気なく自ら話題を振って気まずい時間が出來ることを避けている。嵩原と會話すれば落ちる、なんて特殊能力みたいに語られているのも聞いたことがあるが、あながち噓でもないのかもしれない。
奴のモテの訣はその話にあると見た。外見そしてこの相手を楽しませるという話で以て、外と中の両方から子を満足させられるならそら告白回數も二桁行くだろうよ。
俺が逆立ちしたって嵩原のようにモテることはないと大変よく分かった。クソが。
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クラス中から視線を向けられているだろう二人は、その視線を無視して和やかに世間話に興じている。注目されるのには慣れていますってか、けっ。
普通に良好な関係を築いた男子同士といった風だが、しかしあの嵩原が世間話をするためだけに他クラスに特攻をかましたとは思えない。噂だとあいつ男子とはさっぱり仲良くしないとか聞くし。
本題はなんなんだろうな。こちらのそんな疑問の聲が聞こえた訳ではないだろうが、談笑が続いていた最中、嵩原の奴は唐突に訪問理由を切り出してきた。
「所で話は変わるんだけどさ、樹本君、今不思議な病気が流行ってるって知ってる? この長雨に関係しているって奴なんだけど」
嵩原の口から出たこの街の住人最大の関心事項に教室が一瞬しんとなる。
直ぐにまた喧騒は復活したが、まさかあの嵩原から奇病の話が出るなんてと揺している様子がそこらで見られた。
胡散臭い噂話と貴公子然とした嵩原との繋がりがよく見えないからだろうか。俺としてはなんだってそんな話を樹本にぶつけるのかの方が気になる。
いきなり反応に困る話を振られた樹本はどんな顔してるんだろ。気になって消しゴム落とした序でに二人の方をちらりと見てみたのだが、樹本の浮かべていた表はなんというか『無』だった。
一目見た瞬間にあっこれやべぇって警鐘が頭の隅で鳴らされる。
「……へぇ。そんなのあるの? 僕知らなかったな」
さっと機に向き直ったその背後で、普段通りの樹本の聲がそう答えを返す。俺がじた危機など気の所為だったかのような平常な返答にほっとをで下ろした。
そうだよな。だって別に樹本が怒るような話題でもないだろうし。
「あれ? そう? 今生徒間で持ち切りな噂話だと思ったんだけどな。雨に打たれた人間が意識を失って倒れ、まるで冬の屋外にいたような低溫が続く。それ以外に癥狀は見られないけれど、意識が戻らないことで衰弱が止められずにいるって。本當に聞いたことない?」
嵩原の明るい聲が樹本に掛けられる。
なんだろう、何か気になるぞ。まだ噂の域を出ないはずなのにやけに病癥が的だ。まるで実際に倒れた人間を間近にしたような言い回しが気になる。
それに訊ね方も意味深だ。嵩原の奴の聲音は世間話を振ったようなトーンじゃない。本當に知らないのかと圧を掛けるように答えを求めているのがじられた。
嵩原の奴は樹本が病気を知っていると確信があるのか? それを訊ねる理由はなんだ。あの病気は単なる噂話じゃなかったのか?
「知らないよ。そんな不謹慎な噂話なんて一々気にしないからね。新たに流行する病気が発見されたりなんかしたら、それこそニュースで取り上げられるような重大事項になるじゃないの? 僕々な局のニュース見てるけど、病気が流行っているなんて報道見たことないんだけど」
対する樹本は実に淡々と論理的に答えを返す。樹本の指摘も尤もらしくあり、言われてみれば確かに、病気が流行すれば注意喚起なりの報せは絶対ニュースで流されるものだろう。
それがないということは奇病の存在はでまかせだと斷じることが出來る、のか?
この返しには、視界にる人間の幾人かがそうだよねと言わんばかりに肩から力を抜く様子が窺えた。
新種の、それもよく原因の分からない病気が流行るなど歓迎したいことじゃないからな。
不安にじていた人間からしてみれば、樹本の指摘は縋りたいほど真っ當なものに聞こえたことだろう。
「へぇ、そうなの。君はそう考えるんだね」
一部がほっと安堵する中、嵩原の意味深な呟きは尚止まろうとしない。なんだそのお見通しですよといった聲は。
今、俺の中での好度の推移は圧倒的樹本優勢だぞ。発言容も樹本の方が好ましく思えるが、何より嵩原のその人を食ったような態度が非常に腹立たしく気にらない。自分が主導権を握っているのだと、マウント取ってるつもりかお前。
「でも君のお姉さんはその病気に倒れたそうじゃない」
ブーブー心で文句を呟いていると、次の瞬間とんでもない弾が放り込まれた。教室が騒然とする。狹い視野の中でも、盜み聞いていたことを忘れて二人を凝視する奴らが何人もいた。
俺も、俺も二人の方に振り返りたいのだが、流石に百八十度の向きを変えるのはハードルが高い。必死に日誌を書いている振りを続けているが、もうこんなの書いている暇があるなら二人の話に集中したいぞ。
顔を向けられないから、必死に耳をそばだてて聞こえる聲に意識を向けた。
「……何言って」
「そうとある噂で耳にしたんだよ。違うのかな?」
戸いか、あるいは怒りか。固い聲の樹本に嵩原は飄々とそう答える。
樹本の反応はどう見るべきか。やっぱ聲だけって無理あるわ。表を確かめたい。
やきもきするその矢先、ふぅと盛大な溜め息が聞こえて來たんだけど、そこに込められた冷めた気配に聞いてるこっちのがぎしりと固まった。
「何その拠のない噂。どこで聞いたのか知らないけど全くの出鱈目だよ。なんでそんな噂を信じるかな、君も」
トゲトゲとしたがけて見えるような、侮蔑の込められた聲で樹本が答えている。
あの誰にでも溫和に丁寧に対応する樹本が、嫌悪を隠そうともしてないなんて。
これ直ぐに分かったぞ。嵩原の奴、見事に樹本の地雷踏み抜きやがった。
「ああ、そうなんだ。実際は違うって?」
「そう言ってるじゃない。人の話ちゃんと聞いてる?」
背後から冷えた空気が流れて來て、もうね。完全に拒絶示しているだろう樹本になんで嵩原は変わりなく聲掛けられるの? お前男の空気は読まないとか誓いでも立てているのか?
「なぁんだ、てっきり関係者かと思ったんだけどな。噂は本當なのか確認取れるかなって思ったのに空振りだったか。殘念」
心底殘念だと言わんばかりの聲音だけど、この狀態でそんな態度取れるって嵩原の奴実は馬鹿なんじゃないのか? お前のその態度はただ相手を不愉快にさせるだけだぞ。
「話ってこれだけ? もういい?」
「うん、これだけ。付き合わせちゃってごめんね、樹本君」
「全くだよ。君に付き合って時間を無駄に消費した。本當下らない話だね」
ひ、ひえぇー。容赦ない辛辣な言いに聞いてるこっちがダメージ負うわ。
これ完全樹本の奴嵩原を敵認定しただろ。何がそこまで樹本の逆鱗を刺激したのかは分からないが、変に出歯亀して教室に殘ったのを後悔した。明日から樹本にどんな顔を向けたらいいんだ。
「手厳しいねぇ。ま、時間をもらったのは事実だしね。そこは謝っとくよ。それじゃ、またね」
嵩原自は樹本の辛辣な返しにも臆することなく、爽やかに告げて教室を出て行った。あいつの心臓が生えてるの?
殘された俺たちクラスメートはと言えば、何も言えない周囲の人間など気にも止めず、さっさと帰り支度をした樹本が教室を出て行くまで、阿呆みたいに固まり続ける羽目になった。
樹本が教室を出てその背が視界から消えて、漸く教室に音が戻ってきた。はぁーと重たい溜め息がそこかしこで上がりそれと共にさっきのあれ何、なんなのと困した聲があちらこちらで上がる。
そんなクラスメートの反応を確認して、俺もはぁと詰めた息を吐き出した。好奇心の赴くままに行しとんでもない修羅場に遭遇してしまったな。
こりゃあ、新たな噂話として拡散されるかもなぁと周囲の騒ぎようからほぼ確信を得る。
なんだって嵩原の奴はこんな教室であんな質問をしたのやら。絶対辺騒がしくなるだろうし、巻き込まれた樹本が可哀相だと思わないこともない。
でも、そう思えども俺に何が出來るって訳でもないのがな。樹本とは同じクラスという接點くらいしかない。ぼっち貫いてる俺がくのも反対に悪目立ちするだろう。
他人事で申し訳ないが、樹本には是非とも悪辣な噂などには負けないよう、頑張ってくれと影から応援することしか出來ない。
まぁ、せめて日誌には書かないでおこう。結局一行も進んでいない日誌に目を落とし、さっさと行を埋めるべくペンを持ち直した。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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