《高校生男子による怪異探訪》1.樹本の頼み

三章『河』始まります。お付き合い頂ければ幸いです。

五月の連休もあっという間に終わりを迎え、また通常通りの學校生活が始まった。

連休なんて言っても終わればあっという間だ。財布の中がピンチに陥った影響もあり、今年は贅沢もせず慎ましく過ごしていたのもまた時間の加速に貢獻したんだろうな。まぁ、毎年大どこにも出掛けたりしないけど。

四日振りの學校はそう変わることもなく、いや、し落ち著いた様子を見せているかな。

連休明けの気怠さがそこかしこに見られるのは勿論なのだが、やはりこちらを注視する人間がほぼいなくなったのが大きい。あれほど人を振り回し、勝手な憶測なんかもばらまいてくれていたというのに、祭りが終わればこんなものか。

思う所が何もない訳ではないが、それでも辺が靜かになるのであればそれに越したことはない。やっと平穏な學生生活が戻って來た。

いつも通りの授業をけ、そして晝休み。いつもの面子で漸く復帰を果たした中庭へと赴く。二週間以上振り? 屋上も悪くないけど、やっぱりここが落ち著く。

それであーだこーだと喋りながら食事を続けていたのだが、何やらいきなり樹本に謝られてしまった。

「本當ごめん。巻き込むのは悪いけど、でもどうか力を貸してしいんだ」

この通りと頭を下げる樹本。こいつがこうも必死に頼み込んでくるなんて珍しい。

見た目の嫋やかな印象とは違い、こうと決めたら突き進む頑固さが樹本にはある。他人に簡単に頼らず己の力のみで事に當たることの多いこいつが、今回は一どうしたのか。

「部活関係って言った? それに會長? それ系の頼み事なの?」

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嵩原がちょっと困した風に訊ねる。そう言えばそんなことも言ってたっけ。

俺、樹本がどんな部活にってるのか知らないんだけど、そんな嵩原が躊躇するような部活なのか? 音楽関係?

「はい。そうなんです」

「あー……、それじゃ俺パス。ごめんだけど一抜け」

神妙な樹本の返しに速攻で嵩原は戦力外を申し出る。あんまりにも無慈悲じゃない?

「待て、嵩原。せめて話を聞いてやってからにしろよ」

流石にそれはと思って口を挾む。いくら男のために労力は割かないを信條にしている嵩原とは言え、こうまで困った様子を見せている樹本の頼みを無礙にするのもどうかと。一応俺たちは連む仲なのだし。

「いやいや、話を聞いたら抜け出し難くなるだけでしょ。あの會長さんの頼みって結構灑落にならないし」

「會長?」

口振りからすれば嵩原の忌避する項目は、どうにも部活そのものではなく所屬している人間であるらしい?

と言うか會長ってなんだ。部活なら部長じゃないのか?

「そう。あの會長さんは趣味は合うんだけど、俺と比べればちょーっと過激というかディープというかさぁ。そういう所が申し訳ないけどし著いていけないんだよね。だから俺はパスしたい」

「あれ、永野ってあの先輩と會ったことあったっけ?」

調子よく語っていた嵩原の、その発言途中で檜山が唐突に聞いてくる。

あの先輩ってどの先輩だ。話の流れからして會長と言われたその人ではあるのだろうが、そんなの當然面識などない。俺は樹本の所屬する部活の名前すら知らないからな。

一瞬沈黙が落ちる。俺が答えようがないのは仕方ないとしてもなんで皆して黙るのか。

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チラリと視線を転じれば、檜山はキョトン顔。嵩原はそう言えばという思案顔。樹本は覚悟を決めたようなどこか切羽詰まった苦渋顔だった。

あの、何そのリアクション。俺だけ完全に除け者になってるような気がするんだけど。仲間外れ? まさかの仲間外れなのか?

「ごめん、永野」

苦み走った表樹本が俺だけに頭を下げるけど、なんで俺単なのか。その謝罪は何に対する謝罪なのか。分からない。分からないけど俺ちょっと今泣きそう。

さっぱり意味の分からないやり取りが続き、そうして連休明け一発目の晝休みはぐだぐだな空気の中終わった。結局詳しい話は何一つ聞くことなかった訳だが、樹本の頼み事ってなんだったんだよ。

午後の授業も無事消化し終えて放課後。帰宅部の俺は早々に下校したい所なのだけど、本日はそう言う訳にもいかない。

樹本の頼み事、その詳細を改めて聞かされることとなったからな。檜山、嵩原も殘ってる。

嵩原に関してはホームルーム終了次第、直ぐ教室を出ようとしたのを檜山とタッグ組んで阻止してやった次第だ。こうなればお前も道連れだ。

現狀、樹本には盛大な借りがあるために俺には頼み事を斷るという選択はない。檜山はいい奴なのでそもそも困ってる樹本を放置なんてしない。嵩原は晝休みに宣言したように、とっとと無関係決め込むつもりなのだろうけど逃がしはしない、逃がしはしないぞ。

「嫌な予がするからやなのに……」

「大丈夫、だと思うよ。なくとももう警察署への侵なんてのは要請されないはず」

げんなりする嵩原に樹本は自信なさそうに言い訳するけど、その引き合いに出された容ってなんなの。アウト過ぎるだろ。

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「……どんな人なんだよ、その會長って……」

「んー、趣味全振り? 嵩原が更に酷くなったじか?」

呟く俺に檜山が答えてくれたけどよく分からん。嵩原が更に酷くってどういうことだ。嵩原をどう酷くしたら公的機関に喧嘩売るような真似するんだよ。

「あ! でも優しいぞ! ちゃんと分かるように説明してくれるから!」

にぱっと笑ってそうフォローしてくるけどそれフォローになってる? 俺の中の印象は騙くらかして非合法な行いに加擔させる嵩原になってるんだが。優しさなんてどこにも見當たらない。

「えっと、それでね。頼み事って言うのは僕の部活関係なんだけど」

気を取り直した樹本が詳細を語り出す。

樹本はとある部活、実際は學校側から部活認定はされていないので、同好會という扱いをされているそれに所屬をしている。元々無理矢理會を迫られた関係上、そこまで熱心に通い詰める必要もなく週に二回ほど顔を見せるだけで件の會長さんとやらは満足していたらしい。暴君か何かか?

しかしながら、その最低限の活もここ最近はすっかりと低迷していた。そう、俺関係でのいざこざだ。

俺のボディーガード役を一番に引きけていたのは樹本であり、放課後ともなれば警護の一環だとほぼ毎日一緒に下校していたからな。當然、同好會も欠席せざるを得ない。事が解決するのに掛かった時間は二週間ほど。つまりは、樹本はその間全く同好會の方へは顔を出さなかったことになる。

特に約束もなく更に言えば無理矢理會させられた同好會だ、樹本には律儀に通う意義も責任も全くないのだけども、結果、會長さんは非常に不機嫌になってしまったのだとか。

俺の問題が片付いて漸く顔を出した先週終わり、部室に足を踏みれるなり樹本は怒った會長さんに課題を出されてしまったそうだ。それがまた難易度の高い代で、樹本はどうしても一人でやり遂げられるとは思えず、なのでこうして早々に助力を求めたと。つまりはそう言うことであったらしい。

「ご迷お掛けしてすみませんでした」

一通り話を聞いた俺がまず真っ先に行ったのは陳謝だ。言わば俺の面倒事により樹本が割を食ったという結果だ。護衛されていた時から気にはなっていたのだが、俺自余裕がなかったのと樹本自が平気そうに振る舞っていたので大丈夫かなと軽く考えてしまっていた。そんなの大丈夫な訳がないじゃねぇか。深く反省である。

「いや、謝らなくていいから! 僕の部活事と永野の周辺事とは比べる必要もないくらい重要度違うから! 気にしないでいいからね! 早く頭上げて!」

深々と下げた頭の向こうから樹本の焦った聲が聞こえる。比較すればそんな結論も出て來るかもしれないけど、しかし迷を掛ける、掛けないはまた別な話ではあるだろうよ。元より斷るつもりなんてなかったけどこれ完全に俺は協力しないといけないな。

「真人からのシワ寄せか。それなら真人が頑張ればいい話で俺は協力しないでもいいよね」

「本當に無慈悲だな、お前」

容赦ない嵩原の提案はまるで死蹴りの様相だ。俺を追い詰めて楽しいのだろうか?

「まぁ、嵩原の言う通りでもあるので俺は全面的に協力したいと思う。迷云々もそうだが純粋に借りを返したい思もあるから気にするなよ」

「俺も俺も! 任せろ樹本!」

とにかく協力の表明はしっかり行っておこう。詳しい話を聞かされる前に結論を下すなんて危険なことだが、しかし今回は早々に腹を括る。檜山も同道してくれるので頼もしい限り、本當に頼もしくなるか?

俺たち二人が確約をすると、樹本は申し訳なさそうにしながらも喜びに溢れた笑顔を浮かべた。正に輝くような笑み。

地獄で仏を迎えたような様子なんだけどそんなに難しい課題なの? 前言撤回が早過ぎるがちょっと早まったかもしれん。

「あ、ありがとう、二人共……!」

して涙ぐんでまで喜ぶ樹本。その樹本の隣であーあ、なんてニタニタ笑いながら嵩原は骨に煽ってくる。

「いーのかなー、そんな安請け合いしちゃって。あの會長さんの課題だよ? ちょっと軽率なんじゃないのー?」

だから俺は會長さんの人となりは知らんて。ニヨニヨいやらしい笑顔なんか浮かべて宣う嵩原を軽く睨み付ける。

俺はもう不退転で挑むしかないのだ。どれだけ煽られようともやっぱ止めたなんて選択肢はもう取れない。なので人の不安を煽るような真似はしないで頂きたい。

俺の無言の訴えに嵩原はひょいと肩を竦めやれやれと首振った。

「別にからかってるだけじゃないけど。そもそもなんの同好會なのかも知らないのによく引きけるよね」

言われ、そう言えばとはっとなる。樹本は同好會としか告げてない。課題と言うからにはその活に則した容となるはず。あまりに専門的だったりすると手伝うにしても戦力にはなり得んぞ。

樹本、お前どんな會に所屬しているんだ?」

我が學校は抱える生徒數の多さから多種多様な部活が承認されている。マイナーな競技や趣味の延長としか思えないコアな部活が名簿に載る中、同好會止まりであるってのも珍しい話に思えるな。ちょっと気になってきた。

「……」

訊ねた、のに無視? 樹本は口を固く閉じて黙の構えだ。なんでそこで黙るのか。

チラリと他二人に視線をやる。嵩原からは薄らとした笑みが、檜山からは首傾げが返ってきた。待て檜山、お前はお前でなんでここで首を傾げる。話を聞いていないのか。

ともあれ、他二人は明かす気がないようだな。このまま樹本に詰め寄る方が手間はないか。と言うかどうしてそこまでして隠そうとするのか。そんなにアレな同好會なのか?

「なぁ、樹本よ。隠し立てしたって意味はない」

「あ! そうか永野知らなかったっけ! 樹本はな、『オカルト研究同好會』にってんだぜ!」

問い詰めよう、といた途端に答えが橫からぶん投げられた。遅れるにしたってワンテンポ処じゃない遅延が発生してるんだけど、わざとかこいつ。絶妙に追及する気持ちが削がれるなぁ。

しかしながら、『オカルト研究同好會』か……。

「……」

「何?」

「いえ、なんでも」

あの樹本がねぇという気持ちが目線に表れてもいたのか、ギロリと睨まれてしまったので慌てて取り繕う。そりゃ樹本も頻繁には通いたくない訳だな。

「はあ。まぁ、そうなんだよ。僕が所屬してるのはオカルトを全般的に研究する同好會。會長はオカルト博士とかオタクとか言われてる人なんだよね。で、そんな人に課題を出されちゃったの。容は勿論そっち方向」

観念した風に報を開示していく樹本。

なるほど、助力を求めたのも無理もないことか。一人でオカルト話を調査するとか樹本には土臺無理だろう。納得である。

「僕もね、まだ的な話は聞かされてないんだよね。このあと會長に詳細な説明をけることになっててさ、出來れば皆で聞いてしいんだけど」

そして更なる報開示。え、オカルト研究同好會に乗り込む必要があるのか? 現実にそんな同好會が存在することも軽い驚きなのに、その上でその本山に足を踏みれるとは。これは中々勇気がいるな。

「……えっと、永野は來るの止めとく?」

驚きが顔に出てたか樹本に躊躇いがちに聞かれてしまった。本音ではあんまり関わりたくないなって気持ちが強いが、しかし俺も男だ。一度宣言したのならそれを押し通すまで。

「いや、一緒に行く。もう一度説明させるのも二度手間だろ」

「う、うん……。でも、無理する必要は……」

なんだろう? 樹本の奴、隨分と過保護なことを言う。まだ前回の騒を引き摺ってるのか? いや、そんなじでもないか。

「行かない方がいいのか?」

「そういう訳じゃないけど……」

はっきりしない。明瞭に相手を説き伏せることを得意とするこいつにしては歯切れが悪い。本當は著いて來てしくないんだろうか。

思えば俺は樹本がどんな部活に所屬しているのかも聞かされていなかった訳で、それはつまりは元々同好會のことも俺に明かす気はなかったと言えるのでは。嵩原も檜山も知っていた訳だし、俺やっぱハブられてる?

「……」

「聖、言い方気を付けないと真人が誤解するよ?」

「え? あ! ち、違う! 違うからね! 別に永野を仲間外れにする気はなくて!」

思わず黙り込んだらまさかの嵩原からのフォローが飛んだ。樹本も慌てて否定してくる。その慌てようがどこか怪しく映るのは俺の猜疑心のなせる業か。

「あー……。そう言えば永野にはなんだっけ? 俺言ったのまずかった?」

「檜山ぁ!」

まさかの檜山からの死球。でも檜山は仲間外れとか嫌うタイプだから、平然とした様子からしてそう言った意図がないと反対に確信が持てた。だとしたらなんで俺だけにされたんだ?

「あーもう、なんかぐだぐだになっちゃってるよ。聖、時間は大丈夫? 會長さん待たせてない?」

「あっ!? まずい、これ以上不履行すると課題の難易度更に上げられちゃうんだよ! ごめん二人共! 急いで!」

嵩原から言われて樹本が慌てて立ち上がる。あ、俺も同行する流れ? いいのかね、著いていっても。

ここで訊ね返しても時間が掛かるだけだな。了承して席を立ち教室を出る。と、嵩原もなんでだか一緒に來た。

「え、お前も來るの?」

「気になるから行くことにするよ。本來、オカルトって俺の管轄だし」

なんの対抗意識芽生えさせているのか知らんがえらい心変わりだな。でも、確かに俺たちの中で一番通してるのは嵩原だ。同行してもらえば樹本も助かるだろ。

ぞろぞろ連れ立って部室棟を目指す。件のオカルト研究同好會はちゃんと部室棟の一角に居住を得ているようだが、正式に部活扱いされてないっていうのにいいのかね? まぁ、帰宅部である俺が気にすることではないのかもしれないけど。

「……いの? ……につれ……いって」

「……かたない、……くご……める……」

先頭を行く樹本と嵩原が何やらごにょごにょ話し合ってる。聲が小さくて斷片的にしか聞こえてこないが、雰囲気はちょっと不穏?

同好會の話が出てからこっち、どうにも三人の様子がおかしいんだよな。そんなにアレな會なのだろうか。それとも會長さんとやらが? 気になるしだんだん行く気が失せてくるなぁ。

「……なぁ、檜山はその會長さんとも面識あるんだよな? どんなじで知り合ったんだ? やっぱり樹本繋がりで?」

「ん? そうだぞ。樹本が部活に無理矢理れられたって言うんで様子見で一緒に行ったのが初めてだったかな? 最初はなんかいろいろと訳分かんないこと言われまくって結構大変だった、確か」

不安払拭のために檜山から報を得ようとするも、更なる不安材料を與えられただけだ。イメージする所のオカルトに傾倒したオタクそのものなじなのだろうか。

「何度か樹本の手伝いするに仲良くなったけどさ。確か前はツチノコ?探すの手伝えって話だったっけ? 山ん中ってさ、片っ端から蛇捕まえて回ったんだよ。結局ツチノコは見つかんなかったけど、いろんな珍しい蛇見れたって褒められた。飯も奢ってくれたんだぜ!」

またベタなUMAが出て來たけど語る檜山は実に楽しそう。檜山からしてみれば會長さんの印象はそんなに悪くないということか。本能で人の好き好きを判斷する所があるし、そんな檜山が特に警戒した様子もないんならそう悪い人間でもない、のか?

「あ、所でさ、今回の課題って一何出されたの? 流石に概要くらいは教えられてるよね?」

會長さんへの印象がしばかり上方修正された所で、嵩原のそんな臺詞が耳にった。オカルト研究同好會の會長の出す課題か。當然方向は一つだろうけど、それは一なんなのか。

「ああ、うん、まぁ。一応ね」

歯切れの悪い返答。口にしたくないみたいだが、どうせこのあと話を聞くことになるんだ。遅いか早いかの違いでしかなく、樹本も早々に観念して口を開いた。

「その、ね。『河』……、だって。『河』が実在するのか、その調査をしろって言われた」

ぼしょぼしょ言い辛そうに呟く樹本の口から飛び出た斜め上な名稱に、俺たちは揃って暫し言葉を失った。

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