《高校生男子による怪異探訪》1.夏休み直前の日々
第四章『七不思議』始まります。
尚、今章は區切りよく話を載せていくため、通常以上に文量がバラバラです。大長めとなっていますが、お付き合い頂けたら幸いです。
ゴールデンウィークが終わり、五月の晴れ間が通り過ぎれば直ぐに梅雨が訪れる。
今年の梅雨は例年通りくらいか。五月の終わり頃から天候が崩れ、そして六月の初旬には梅雨りが宣言された。
じめじめ、しとしととした雨が続き、そして七月の半ばに差し掛かった頃に天候は回復。數日晴れが続いて、それから梅雨明けが宣言された。テレビの天気予報では大凡例年通りくらいの梅雨の期間だと言っていたな。
梅雨も明け季節は夏。気溫が三十℃を超えるのもそう珍しくない日々が続いて、學生にとっちゃ中々厳しい時期である。
教室では皆下敷きやら団扇やら持ち込みバタバタ扇ぎ、窓なんかは全開で生溫い風でもってくるのを心待ちにする。
服裝だって當然れる。男子なんかシャツのボタンはだらしなく外しているし、子も男子の目があるからそこまで開放的にはならずとも、袖を肩まで捲っているのは散見された。
全的にの面積が増える時期なのだ。教室にはデオドラントスプレーや汗ふきシート等の匂いが混ざり合って、なんとも言えない臭気が漂う。
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育なんかあった日には、もう下に著てるシャツが汗でべしょべしょになるような気が続くが、しかしこんな苦行の日々からもあとしで解放される。現在七月の下旬に差し掛かろうかと言う頃。そう、もう直ぐ夏休みだ。
「夏休みかー。今年はどうしようかな。姉さんも帰ってくるしどこか旅行に行くかな?」
「あ、桜子さん帰ってくんの? 大學って夏休み高校と被んだっけか?」
「だいたい八月の頭から九月一杯? 學校や専攻によって違うらしいけど、聖のお姉さんって文系? だったらだいたい二ヶ月は夏休みなんじゃないかな」
「え!? そうなの!? 俺らの倍じゃん!」
「僕たちもなんだかんだ四十日ほどは休みになるから、倍ってほどじゃないと思うよ? まぁ、登校日とかあるからちょっと下回るけど」
わいわいと夏休みに思いを馳せる野郎共を後ろから眺める。あとしすれば學生待の夏休みが來るということで、校もどこかわさわさと浮き足立ったじがある。皆來たる長期休みを心待ちにしているんだろう。
「檜山は部活とかどうなの? 大會に出るとかは?」
「なーんもなし! サッカーは予選敗退! 実に惜しかった!」
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「あと一戦で本戦に行けたんだっけ? 今年は強豪と當たっちゃったってマネやってる子が殘念がってたよ。去年も惜しい所までいったんだよね?」
「去年もあと一戦だったぞ! 四月は碌に練習出來なかったから、五月六月ってみっちり練習してた! あと一點取り返せれば行けたんだけど、屆かなかったんだよなー」
檜山の聲がしょんぼりしてる。いろんな部活掛け持ちしていると聞いたが、比率としてはサッカーに傾いているらしい。前に「サッカーは思いっ切り走れるから好き!」とか言ってたな。運が足りないと思う日は夜に町を走ってるとか言うし、筋金りの運好きだ。
気落ちする檜山に樹本も同的だ。
「ドンマイ。でもあとしで代表になれるってうちのサッカー部は強いよね。新規部員もそこそこいなかった?」
「皆子にいいとこ見せたい!ってんでサッカー部にってきたみたいだぞ。一年なんか四月の初め頃はフンスフンス鼻鳴らして頑張ってたのに、それから直ぐにガックリして、んで終わり頃にはまたやる気出してた。見返す!とかびながらグラウンド走ってたぞ」
あれ、檜山の語るサッカー部事はなんだかどこかで聞いた覚えがあるようなないような。いや、俺の気の所為だな。俺はなんにも察してないし聞いてもいない。気の所為気の所為。
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「まぁ、それならそれで夏休みも自由時間が増える訳だしそんな悪いこともないんじゃないかな? 俺たちとも遊べる時間が増えるよ、亨」
「あ! そうだな! 今年こそ山と海両方行こうぜ!」
嵩原まで檜山をめ出した。檜山には甘い所があるとは言え珍しい。遊べると言われて、檜山の奴早速と要を口にしたな。
去年の夏休みはまだそこまで流を深めてもなくて、一緒に遊びに出掛けるとか考えられもしなかった。俺もバイトで忙しかったし。
その代わりと言う訳ではないが、何度か嵩原の噂検証に巻き込まれて市を闊歩していたのだから本當に訳の分からない夏を過ごしていたと思う。今考えても當時は不思議な集まりだった。
「待った。ねぇ、嵩原。君の言う遊びに行くって、それレジャー的な意味なんだよね? 探索的な意味合いじゃないよね?」
何かを察したらしい樹本が目を眇めて嵩原を問い質す。レジャー? 探索的? なんだってその二つを並べる、……ああ。
「……探索だって広義では遊びの範疇にるよ」
「る訳ないでしょ!? やっぱりまた僕らを個人の趣味に連れ回そうとしてたね!? 去年みたいに!」
ついと視線を外して言い訳かます嵩原に樹本が食って掛かった。
なるほど。嵩原の言う遊びってつまりは噂の検証か。大方、去年のように心霊スポットツアー的なものをまた今年も開催しようと畫策し、その取っ掛かりとして檜山の奴から言質を取ろうとしたと。そんな姑息なことを考えていたようだ。あいつもいの一番に毎回檜山の奴をまずは味方に引き込もうとするから、流石に今回は樹本も察知したということか。
「いい加減にしてよ! 去年みたいなホラーに塗れた夏なんて僕嫌だからね!」
「なんだかんだ言って楽しくなかった? こっちって栄えている部分と自然のままな環境がいいバランスで殘ってるから探索のしがいがあるんだよね。まだ市の寺社仏閣も回り切れてないし、今年は山方面に行って取り殘された神社巡りでもしたいなって計畫立てていたんだけど」
「そ、そんな怖いこと僕絶対やんないから! 反対だから! と言うか勝手に計畫立てないでよ!」
オカルト嫌いな樹本は必死の抵抗を見せる。そう言うのって夏が本番なイメージあるからな。ただでさえ苦手としているのに、わざわざ全盛期にのこのこ関わりに行くなんて冗談じゃないんだろう。もう既に今年は何度か怖い思いをしているから尚更、なのだろう。
一度こうと決めたら頑固な所のある樹本だ。キッと嵩原を睨む姿は不の意思で以て己の決意を貫きそうにも見える。
しかし忘れてはいけないのが、相対する嵩原という男は己の趣味のためならば手段を選びもしない徹底した利己主義者という點か。
「えー、折角皆で楽しめるようにって謂われからお詣りルートまで調べ上げたっていうのに。きっと一夏の思い出になってくれるよ。そう思わない、亨?」
「お? おう、楽しそうだな!」
不満そうな表を一瞬でいやらしい笑顔に変えた嵩原は檜山へとバトンを渡す。突如話を振られた檜山はそれはもう、太のような明るい笑顔で肯定を返した。ぺかーって効果音が頭の後ろに付いてそう。
これ前にも見た構図だな。嵩原が話を持ってきてそれに樹本が否を唱え、そして檜山の奴が乗り気になって流されて話が決まる。
なんら変わりないいつもの強制噂検証イベントの導だ。今回は樹本もどうにか嵩原の狙いを察知して檜山からの言質を回避させようとしたのだが、こういった舌戦では嵩原の方が軍配が上がるらしい。妨害しきれず、結局は檜山がやる気になってしまったのでもう流れは変えようがないな。
樹本の奴はどんな顔してるんだろ。チラッと窺ってみれば絶と諦観に塗れた唖然顔してた。檜山との対比があまりに酷い。
「ほらほら、亨は凄く楽しみにしてるよ? いいの? 聖の我が儘で夏休みの遊びの計畫がおじゃんになるよ? 亨希の山だってのに、無礙に否定しちゃう?」
「うぐ……」
追撃として放たれる嵩原の煽り。煽りといい他人を容赦なく巻き込む果斷な所といい、嵩原は暴力に依らずにして他人を意のままにるに通し過ぎているな。理的な樹本では、舌戦がやのつく稼業な嵩原とは相的にもあまりよろしくないんだろう。
「そ、そうは言ってもね! ほら、僕たちには予定ってものがあるし! そんな勝手にいろいろ決められても!」
「僕たち?」
嵩原が笑顔で聞き返す。複數形を用いたがそりゃ誰だって聞きたいんだろうな。
「それ聖以外の誰のこと?」
「それは、勿論、檜山だって予定はあるでしょ!? 確か毎年お婆さんの所へ帰省するって!」
「あ、うん、そう。でも三日くらい泊まりに行くだけだし直ぐ戻ってくるぞ。そしたら山行こう山!」
苦の策はあっさりと躱されてしまった。この反応を見るに檜山はもう完全に嵩原の甘言に乗ってしまったようだ。檜山からしてみれば普通のレジャーも心霊スポット探索も大した違いがないのかもしれない。いやそんな暇を空かした大學生でもあるまいに。
「亨はこう言ってるけど?」
「う……、な、永野だって勝手に予定決められたら嫌じゃん! 去年もそんな乗り気じゃなかったし! 永野も神社巡りとか嫌だよね!?」
遂に矛先がこちらを向いたか。ばっと振り返って樹本は期待に滲む目を寄越す。こうなれば俺くらいは同意を得ておきたいんだろうな。そうなれば二対二だ。ワンチャン希を殘せる。
心の底から嫌がってる樹本のことを思えば味方するのも吝かではない。本來ならばな。だが、今の俺には樹本を気遣ってやれるような心の余裕はなかった。
「……」
「……ん? 永野?」
無言で返すこちらに必死だった樹本の表も変わる。訝しそうに首を傾げ名前を呼んでくるが、それにも答えない。嵩原と檜山も不思議そうな目を向けてきた。
「あれ? どうかしたの、真人?」
「腹壊したか?」
「いや……」
聲を掛けてくる二人に手短に返す。別に調は悪くない。ただ、今の俺はもの凄くテンションが低い。
「なんかテンション低いねぇ。さっきから全く會話にもってこないし、元々多弁な方でもないだろうけど今日はいつもに増して靜かだ。何? 機嫌悪い?」
くくっと笑いつつ嵩原が煽るように訊ねてくる。お前のその言い方が腹立つが、今はそんなこと、正直どうでもいい。
「……」
「えっと、永野、どうかした?」
「やっぱ腹壊したか? 今の時期って取っといたおにぎりとか夕方にはもう食べられないよな」
檜山の発言が斜め上過ぎる。俺が腹痛だと決め掛かるのもどうよと思うが、なんで晝に食べなかったおにぎりを夕に食って腹壊したって思うんだ。まだ日は沈んでもいないぞ。そもそも俺否定したよな?
「いや、腹は壊してないぞ。調も崩しちゃいない」
「だったらどうしたの? そう言えばずっと後ろにいたね。教室出る時からそんなだったよね?」
不可解そうに樹本が眉間にシワを寄せる。心配そうにも、不機嫌そうにも見える表だ。いや、恐らくは心配している。今の俺の心境が勝手に樹本が苛立っているとご認識してるんだろう。俺は現在、樹本に不信を抱いていた。
「……なぁ。樹本」
から低い聲が勝手に出る。呼ばれた樹本の肩がピクリと跳ねた。構えた証拠だ。
俺の聲は他よりも々低いらしく、ちょっと潛めて話そうものなら別に凄んでもいないのに恫喝されたとけ取られることがある。こいつらにもこれまで、別になんとも思ってないのに何度か「怒ってる?」と訊ねられたこともあった。
今回も樹本は俺が怒っているのかと構えたのだろうが、怒りまでは行かずともやるせない気持ちにはなっているので訂正はしない。じっと奴の顔を見つめる。
「……な、何、かな?」
「……なぁ、樹本。今更言い出しても仕方ないってのは分かってはいるんだ」
を込ませる樹本の肩をそっと摑む。引き攣る頬を間近で眺めつつ、俺は腹から訴えの言葉を吐き出した。
「分かってはいるけどさ、でも、でもなんでまた、俺はオカ研に行かなきゃいけないんだよ……!」
心から慟哭する。可能であれば摑んだ樹本の肩をガクガク揺すりたい。前後に激しくシェイクしたい。でもそんなことは出來ない。樹本も被害を被っている側だって知ってるからな。奴を責めても前言は覆らない。
俺のが滲みそうな本気の非難に、樹本だけでなく嵩原、檜山までそっと目を逸らしやがった。
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