《高校生男子による怪異探訪》7.絵の正
「え? 何言って」
「さ、さっき、畫鋲外した時は正面向いてた。でも、今はわ、私たちのこと見下ろしてるよ……! 目、いてる……!」
涙聲で訴える能井さんにばっと絵畫を振り返る。高い位置にある絵畫はどうしたって見上げるしかない。下から照らしたライトのその先で、確かに、絵の中の初代はこちらを見下ろしているように見えた。
「え……!?」
「ひ……!?」
息を呑む聲や悲鳴が上がる。皆にも同じように見えたようだ。これはなんだ? 本當に絵がいているのか? 目がるってだけの話じゃなかったのか?
「樹本。もう一回冊子を調べてくれないか? ここの怪談は目がるってものだけか?」
「えっ……!? う、うん、ちょっと待って。えっと、えっと……」
もたつく指でパラパラとページを捲る。その間檜山の奴が左右に走って目が追い掛けてくるのか試していた。「本當に追ってくるぞ!」と、楽しげに報告する奴にちょっとばかし冷靜さを取り戻せた。
「あ、あった。えっと、目、る……。……関係あるかは分からないけど、『文字通り目をらせて生徒を見守ってくれる』っていうのがくのを示唆してる、かなぁ……?」
半泣きになりながらも調べたことを教えてくれた。それだけだと確証なんて持てないな。
「……俺も確かめるか」
檜山に倣って前後左右にいてみる。顔を注視しながら遠ざかったり近付いたりを繰り返すが、やはり目はこちらを追っているように思えるな。見開いた目の中で、點のような黒目が位置を変えているように見える。
Advertisement
「……まさかこっちが本命……?」
「は、早く外に出よ!? ここにいるのやだ!」
「……」
呆然と絵を見上げる二岡に能井さんが必死に言い募っている。樹本は無言だが、多分一番外に出たいって思っているのは奴だろう。今の所ガチの超常現象としか思えないしな。
そこで朝日の奴がいないことに気付いた。あれ、先に廊下に出たか?
「先輩」
思い至った所で當の本人から聲を掛けられる。いつの間にか背後にいたのな。ビクッと小さく揺れた肩を無視して振り返った。
「朝日か。いつの間に後ろにいたんだよ」
「あ、いきなり聲を掛けてしまってすみません。私も目がくのを確認していて……」
咎めたつもりはないが申し訳なさそうに謝られてしまった。俺かっこ悪。
それはともかく、率先して確認しにくなんて々意外だ。朝日もあまり怖いものとか得意ではなさそうなのに。
「気にしなくていいけど、一人で確認したのか? こういうの平気なタイプか?」
「いえ、怖い映畫や番組なんかは一人では見られません。絶対無理です。ただ、ちょっと気になってて」
ふと考え込むように視線を落とした朝日は、次にはこちらを真っ直ぐに見據えて言った。
「私、確かめたいことがあるんです。先輩、『八方睨み』ってご存知ですか?」
朝日から一通り講義をけて戻ってくると、子二人と男二人は開け放った扉前にて待機していて、檜山はシャトルランよろしく絵の前を左右に行ったり來たりしていた。何これ。
Advertisement
「檜山、お前どんだけ目で追われたいんだ」
「だって面白ぇ!」
「永野! もう外出よ! もう検証は終わり!」
「春乃ちゃんもこっちおいで!」
ワーワー樹本・能井ペアが廊下からんでくる。二岡と嵩原は靜観か。二岡は若干顔を強張らせているが、嵩原の奴は隨分と自然でこちらを眺めている。
そこでふと頭を過ぎる予というものがあったが、今はそちらを気にしている暇もない。打ち合わせ通りにまだ片付けられていなかった椅子を使って絵畫を回収する。
「「ちょっ!」」
驚く外野を放置して朝日の所に持って行く。懐中電燈でよくよく絵の表面を調べてみた。そうしたらやはり、はこの絵にあった。
「先輩」
「朝日の言った通りだったな」
「え、何が?」
シャトルランを止めた檜山が寄って來た。他の奴らも出り口から不審そうにこちらを見ている。
「目がく理由が分かったぞ。だから戻ってこい」
聲を掛ければええーなんて非難の聲が上がるが無視だ無視。真相は理現象なんだから怖がる必要はない。
こちらが梃子でもかないと察したか、渋々と室の中へ戻ってきた。扉は開けっぱなしでいつでも逃げ出す気が満々だ。そこまで警戒せんでもいい。
「理由が分かったって何? その絵は怖いものじゃないの?」
傍まで來た樹本が幾分か冷靜な口調で訊ねてくる。俺が堂々と抱えたままでいるのを見て頭が回り出したか。
Advertisement
「違う。目がいたように見えたのも理現象だ。詳しいことは朝日が教えてくれる」
告げれば全員の視線が朝日に集まる。俺の隣で待機していた朝日は、視線が自分に向けられたのを確認してすっと息を吸い込んだ。
「皆さんは『モナリザ効果』というものをご存知でしょうか? どの角度から絵を眺めても、描かれた人と目が合うといった現象なんですが」
唐突な質問に皆首を傾げる。が、嵩原だけはほう、と何故か心の聲を上げた。
「名畫に起きた現象だからこそ、そう定義付けされたものだね。それがこの絵にも引き起こされたって言いたいのかな?」
「いいえ。そもそもがその効果自が本にはなかったという研究も発表されました。真正面を捉えているからこそ、広範の角度で見つめられていると錯覚を起こす、なんて考察もあります。私が言いたいのは、絵畫の世界では描かれた人やものと鑑賞者の目を合わせる技法は昔から存在していたということです」
技法?と疑問を飛ばす人間がいる中、樹本がはっと顔を上げる。
「そうか、『八方睨み』……! あの天井畫も確か視線が合うとか言われてたね」
合點がいったとぶ。朝日もその通りだと肯定を返した。
「はい。樹本先輩のおっしゃる通りです。つまりは目が追い掛けてくるというのも技法により実現は出來るんです」
「でも、あれはあくまで下から見上げる形式を取っているからある意味鑑賞の視點は固定されてる。この絵はそんなことないでしょ? 檜山のように高速で様々な角度から見たりしたら流石に……」
「別に『八方睨み』だけが目線をかす技法ではないですよ。これは実際に見て頂いた方がいいでしょうね。先輩、お願いします」
頼まれたので絵を全員に向ける。ひっと小さく悲鳴も上がったが、一応は全員ちゃんと視界に納めている。
「極普通の肖像畫に見えると思いますけど、でもよく見るとし違うんです。例えばライトを下から照らすと顕著に違いが出るかと思います」
朝日の臺詞に合わせて懐中電燈で下から照らす。角度を確かめて、ちょうど駒津が登場時にやっていたような下段からのライトアップを肖像畫にかます。
「……? 普通に照らしているだけでしょ? これが何……」
「……あ! 目に影が出來てる!」
ええ!?と驚きの聲が木霊した。そう、下から明かりを向けられた絵畫は、その問題の目の部分に影が掛かるのだ。目玉の下部分に下瞼の影が。
「……あ! これよく見たら目が窪んでるのか!」
恐怖を振り切った樹本が至近距離で絵畫を査して正解を告げる。その通り。実はこの絵、目の部分に々細工がされていた。
「ああ。なるほど。違和を持たれない程度に目の周りを盛り上げて、目玉の部分は反対にちょっと凹ませてるのね」
「目玉と瞼に高低差を付けて、斜めから見た際にはその高低差の分黒目が目の外縁に近付くと。白目の部分を見えなくさせることで黒目がいていると錯覚させる手法なんだ、これ」
二岡と樹本によりあっさりと仕組みまでが明かされていった。こうなると頭の良い奴らの獨壇場になるな。よくもまぁ、限られた報だけで理論的な理解が及ぶものだ。
「??? つまりなんだ?」
「つまりは目がいて見えたのは錯覚。黒目は一切いてなくて、ただ僕らの脳が誤認していただけってこと」
著いて行けていない檜山への答えも簡素なものだ。樹本の奴、あんなに逃げ腰だったのが最前列でがっぷり肖像畫に食い付いてる。
「ああー……。分かればなんだってこんな簡単な仕組みが見抜けなかったのか。完全に踴らされた」
「……本當に、ギミックなの? あんなにはっきりいたように見えたのに」
信じられないと口を手で押さえる能井さんのために角度を変えてみる。左右と前後、それぞれの方向で懐中電燈を近距離から當てたので影のきがよく分かると思う。
「こうすると影で盛り上がりがあるのがはっきり分かるわね」
「……本當だ。でも、なんで気付かなかったんだろ。何度もライトは當たってたし、近くでも見たのに」
「多分いろいろと先観があったからなんだろうね。畫鋲に意識がいってて影なんか気にしてなかったし、近くで見た時もなんとなく不気味な印象で間近で見ようとはしなかった。無意識のに観察力を鈍らせていたんだと思う」
ついでに言えば絵そのものにも偽裝がされている。全的に影が強く描かれていて、元々目にも薄く影が乗せられていた。目の周りも細かにシワや涙袋の影がしっかり描き込まれていて、だからこそ変する実際の影にもあまり違和を抱かなかった。目力が強いなとじた要因だな。
「この絵って、つまりは最初からそのギミックありきで描かれたってことだよね?」
「そうなります。こんな風に厚みを変えることによって目線の変化を実現させる作品は幾つも発表されています。表面の高低に差があるから面材も被されていないんでしょうね。なので、多分の先生や一部の生徒は知ってるんじゃないでしょうか? 知らなかったら普通は保護するものですし」
一部の生徒と聞いてピンとくるものがあった。それは樹本も同じか、親の敵のように絵を眺めていたのが一瞬真顔になる。
ふと、顔を上げた樹本と目が合った。
「……そう言えばさ、永野。檜山に回収させるってなった時、骨に妨害した人間がいたよね? あれよく考えると僕たちが近くで鑑賞することを邪魔しようとしてたんじゃないかな?」
「奇遇だな、樹本。俺もただ一人だけ、まるで実験結果を確認するかのような冷めた目をしていた人間に心當たりがある。多分同じ人間だぞ」
チクチクと険に囁き合って、せいので該當人へと向き直る。視界に捉えた嵩原は、何がそんなに面白いのか、くつくつと口元押さえてだけで笑っていた。
「「何笑ってんだ嵩原!」」
俺と樹本のびがハモる。もうスニーキングとか気にしてらんね。嵩原の態度で確信した。これ嵌められたわ。ものの見事に。
「、いや、ごめん。しっかりと絵の効果が炸裂してて見事だなーって。決して馬鹿にはしてないんだ、うん。目のギミックはおまけ程度で、スルーしたなら俺も放置しようと思ってたんだよ?」
「信じられるか! 君最初っからこの絵のギミック把握してたってことだよね!? やっぱり企んでたんじゃないか!?」
「嵩原サイテー。子が恐怖してるの見て楽しむとかサイテー」
「ちょっ」
むかっ腹立ってるので最初から容赦はしない。フェミニスト自稱してる癖に子への配慮を欠いた嵩原へ天誅を下す。
「いやいや。だってこれ七不思議ツアーだからね。一応、怪談の主は験してもらわないと。パニックになるようだったらちゃんと解説するつもりだったし」
「本當に全部始めから了承してたってことね、嵩原君」
「……怖かったよ、嵩原君」
必死に言い訳かますが、本気で怖がった能井さんは恨めしそうに嵩原を睨む。二岡も視線が冷たい。當たり前だな。冗談としては々楽しみ過ぎだ、この野郎。
「俺の株が大暴落だな。本當に、気付かないなら畫鋲だけで終わらそうと思ってたんだけどな」
「七不思議は『目がる』ということのみであって、目線の変化は組み込まれていなかったんですか? そっちの方が怖いような……」
「過去には目線の方が七不思議りしてることもあったみたいだよ。それが今期は畫鋲なんだよね。ひょっとしたらこのギミックを怖がった誰かが、畫鋲刺して緩衝材代わりにしたのかもしれないんだよね」
嵩原の指摘に目がくのと目がるのを比べてみて、確かに畫鋲の方が怖くないなという結論が自の中で生まれる。畫鋲、戻しといた方がいいのかね?
「ああ、もう、散々だ。結局目がる肖像畫でいいの? 目がく肖像畫が正しいの?!」
「畫鋲の方が正解だよ。目がく方は畫鋲に気付いた人間へのおまけだね」
「心底要らないおまけだな!?」
プリプリ怒る樹本だが一先ず検証は終了だ。どちらにせよ完全嫌がらせの怪談であったのだが、七不思議ツアーの一発目がこんなんでいいのか? 蘆屋先輩的にこれを學校への発表としてしまっていいのだろうか。
とりあえず絵は元の位置に戻す。畫鋲は外したままにした。切実そうな理由がけて見えるが、それでも損壊に當たるのだから俺たちまで倣う訳にはいかない。
使用した椅子も元の場所に戻し室をあとにする。ガラガラ扉を開けて廊下に出て、さて次はと気を取り直した。
「一つの怪談にどれだけ時間を食ったんだ。後半は全く必要ない件だったよ?」
「目標の二十分はオーバーしちゃったね。これは巻きでいかないと回り切れないよ? 大丈夫?」
「嵩原黙って。君にだけは大丈夫とか言われたくない」
そんなやり取りをやりつつも先頭を行くのは嵩原だ。効率重視で行くならやはり嵩原の先導はないと難しい。流石にもう、余計な茶々れとかはしないはず。
「あの絵、初代學校長の頃に描かれたなら技法として価値がありそうですね」
「あ、違うみたいだよ? あれは近年に錯視畫が注目されるようになった時にブームに乗って描いたなんだって。『初代學校長には生徒の學校生活をに見守っていてもらいたいですから(笑)』って、學校新聞に制作者と一緒に載っていたよ」
「來歴自が冗談なの……」
がっくりと肩を落とす樹本だが、しかし七不思議ツアーは始まったばかりだ。俺も信じたくないけどこれまだ一つ目なんだよな。時間もそうだが、労力的にもこれ最後まで回り切れるだろうか。ちょっと、いや大分不安になってきた。
- 連載中97 章
【書籍化決定】ネットの『推し』とリアルの『推し』が隣に引っ越してきた~夢のような生活が始まると思っていたけど、何か思ってたのと違う~
【書籍化が決定しました】 都內在住の大學3年生、天童蒼馬(てんどうそうま)には2人の『推し』がいた。 一人は大手VTuber事務所バーチャリアル所屬のVTuber【アンリエッタ】。 もう一人は大人気アイドル聲優の【八住ひより】。 過保護な親に無理やり契約させられた高級マンションに住む蒼馬は、自分の住んでいる階に他に誰も住んでいない事を寂しく感じていた。 そんなある日、2人の女性が立て続けに蒼馬の住む階に入居してくる。 なんとそれは、蒼馬の『推し』であるアンリエッタと八住ひよりだった。 夢のような生活が始まる、と胸を躍らせた蒼馬に『推し』たちの【殘念な現実】が突きつけられる。 幼馴染で大學のマドンナ【水瀬真冬】も巻き込み、お節介焼きで生活スキル高めの蒼馬のハーレム生活が幕を開ける。
8 197 - 連載中124 章
ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years
昭和38年の春、高校1年生の少女が林 の中で、突然神隠しに遭った。現場には、 血塗れとなった男の死體が殘され、偶然 その場に、少女と幼馴染だった少年が居 合わせる。そして男は死に際に、少年へ ひとつの願いを言い殘すのだった。 20年後必ず、同じ日、同じ時刻にここ へ戻ってくること。そんな約束によって、 36歳となった彼は現場を訪れ、驚きの 現実に直面する。なんと消え去った時の まま、少女が彼の前に姿を見せた。20 年という月日を無視して、彼女はまさに あの頃のままだ。そしてさらに、そんな 驚愕の現実は、彼本人にも容赦ないまま 降りかかるのだ。終戦前、昭和20年へ と時をさかのぼり、そこから平成29年 という長きに亙り、運命の糸は見事なま でに絡み合う。 そうしてついには100年後の世界へと、 運命の結末は託されるのだ。 172年間にわたって、時に翻弄され続 けた男と女の物語。
8 97 - 連載中29 章
夢のまた夢が現実化してチート妖怪になりました。
見捨てられ撃ち殺されてしまった私、 なにがどうだか転生することに! しかも憧れの人とも一緒に!? どうなる!? あるふぁきゅん。の過去が不満な方が出ると思います
8 148 - 連載中51 章
チートスキルはやっぱり反則っぽい!?
転生先の親の愛情感じずに育った主人公は家出をする。 家出してからは自由気ままに生きる。 呪いをかけられたエルフの美女を助け、貴族の権力にへりくだったりしない主人公は好きに生きる。 ご都合主義のチート野郎は今日も好きに生きる。
8 172 - 連載中10 章
見える
愛貓を亡くして、生き甲斐をなくした由月。ひょんなことから、霊が見える玲衣と知り合う。愛貓に逢いたくて、玲衣に見えるようになるようにお願いする由月だか、、玲衣には秘密が、、
8 198 - 連載中16 章
強奪の勇者~奪って奪って最強です~
「周りからステータスを奪っちゃえばいいのに」 少女がそんなことを抜かす。 俺はそれを実行し、勇者になった。 「強奪の勇者とは俺のことよ!!」
8 62