《高校生男子による怪異探訪》9.第三の七不思議

今回も長め。

「次は何? もうさっさと回ろう」

すっかり拗ねた樹本が折り返しも前に完全な巻きにってる。今の所連続で心霊のしの字もない話が続いているしな。真面目に取り合うだけ損だと思っても致し方ない。

「次は直ぐそこだよ。二つ隣の第二備品保管庫。ここが七不思議の一つなんだよね」

先頭に立った嵩原は歩き出して早々に足を止めた。場所は図書室から二つ隣、プレートには確かに『第二備品保管庫』とあった。

「保管庫? またあんまり聞いたことない場所ね」

「ね。七不思議って言うから音楽室とか育館とかそう言うの想像したよね」

「トイレや科學室も定番ですよね」

定番という評価には苦い思いしか抱けない。一発目が正にそれだった訳だし。

ともかく移に時間を取られないのは有難いな。このままさっくりと終わらせたい。

「それで? この保管庫にはどんな怪談があるんだ?」

「はいはい。保管庫……、あった。『第二の不思議、駆け込む人間。特別棟一階の第二備品保管庫は室すると姿の見えない何者かが駆け込んでくる。足音が聞こえた際には瞬時に外へ出ないと見えない誰かに捕まってしまう』……。へ、へぇ。これは、結構話が詳細なんだね」

聲が震えてんぞ。怪談らしい脅し付けるような話を読んで、樹本の奴普通に怖がってる。二度ほど肩かしを食らったから平然としていたが、本來ならこんな風にガクブルするのが樹本だしな。

「駆け込んでくる……。中にるとってこと? 中から誰かがやってくる?」

「中に誰か住み著いてんの?」

「それは生きててもそうじゃなくても怖いね!」

檜山の恐ろしい想像はともかく、つまりは扉を開けたら何かしらが起こるってことか。目の前の保管庫の扉は図書室などの引き戸と違い、ノブで以て開閉するタイプだ。覗き窓もなくここから部を確認することは出來ない。

「ちなみに嵩原はここも験済みか?」

気になったので聞いてみる。こうなったら嵩原は使い捨てにする勢いで利用してやる。

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「一応、ね。でも詳細は話さないよ。験型の怪談でネタバレとかそんな興醒めやらないから」

「怪談はアトラクションじゃないぞ」

要らない配慮を見せるが、特に言及などしないのならそう危険なこともないんだろう。流石に何かあれば注意くらいは口にするはず。

「えっと、それじゃあ検証にりたいと思うんだけど」

「皆で一斉に中にる?」

「それやると出口で詰まりそうね」

二岡の指摘に全員扉を見つめる。標準サイズだろう扉は一度に通るには二人が限界だ。それもを橫にしてどうにかギリギリ躱せるかといった手合い。

「全員で一度に、は無理だね」

「怪談の容からして、足音が聞こえたなら直ぐに部屋を出ないといけないんですよね? それを考えると人が多過ぎると出るのにももたつくかも……」

「ああ。確かに」

朝日の言い分に樹本も同意する。逃げようと一目散に出口目指している最中に譲り合い神を求めるのは酷だろうしな。

「そうなると人數を限定させなくちゃいけなくなるね。まぁ、一人は聖でいいとして」

「なんで僕!?」

嵩原の提案に目を剝いて驚くが、樹本はこの中では正規のオカ研部員なのだから參加は當然だと思う。

「オカ研部員がなんか反抗してる」

「うぐ……。そ、そうだけど、でも逃げるってなったら僕自信ない」

「自分の足の遅さを前面に出してまで渉するってそんなにやるの嫌?」

容赦ない指摘するのな、嵩原の奴。樹本もぐうと唸りながらも反論はしない。そこまでして外れたいのか。軽く涙目だし。

「あー……、なら俺が行くか?」

確かに樹本は運方面は得意じゃない。多分ないとは思うけど、それでも捕まるのが怖いと言うなら無理矢理行かせるのもな。俺も足は速いってことはないけど、でも樹本よりも機敏にはける自信がある。

「どうせ全員一度は験しないといけないんだ。それならまずは様子見で俺が行ってもいいぞ。実際に足音がするかどうかが分かるだけでも気構えは違ってくるだろ」

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「な、永野……! いいの? 実験臺扱いになるけど……」

樹本はこのあとも唯一のオカ研部員として前面に立つ必要があるからな。こんな折り返しも前で潰れたら面倒だ」

「それ言ったら君だって仮だけど部員なんだけど」

「俺は認めてねぇよ」

「それじゃ、真人と聖の二人は決定。もうあと一人誰かやらない? それだと二回で済むんだけどな」

「え!? ちょっと!?」

軽い言い合いしてたら嵩原に組み分けされた。樹本回避出來てねぇ。

「俺やりたい!」

「あ、悪いけど亨は駄目。の子だけで検証には行かせられないからもう一つのグループに強制的に組み分ける。出來ればあと一人はの子がいいな」

はい!と立候補した檜山に樹本も一瞬目を輝かせるが、直ぐに嵩原に卻下されて絶顔。檜山もちぇーなんて言ってあっさり引き下がったからどうしようもない。檜山がいたら最悪力盡くで引っ張ってもらえるかと俺も期待しただけにし殘念。

「嵩原君はやらないの?」

「俺はもう験済みだからね。三と四で別れるよりも三・三の方がやり易いでしょ?」

「それもそうなのかしら? ……それなら、私が先に行く」

「あ、あの。私、行ってもいいですか?」

二岡を遮って朝日が名乗り出た。自ら立候補するとは意外。

「え? 春乃ちゃん大丈夫? まだ詳細は分からないから、本當に追い掛けられるかもしれないわよ?」

「は、はい。覚悟は出來てます!」

怖いことを言われながらも朝日は引かない。若干怯えた様子を見せつつもぐっと両手を握り締めて不退転の覚悟だ。そんな決死の顔までして參加しなくちゃいけないことでもないんだけどな。

「そっか。それじゃ、第一陣は真人、聖、朝日さんのトリオね。で、第二陣は亨、二岡さん、能井さんのトリオと。皆もこれでいいね?」

問われるのにぱらぱらと答えを返す。樹本だけが嫌そうな顔をするが、ここで駄々をねても仕方ないと腹を括ったみたいだ。悲愴な顔で扉前に立った。

「はい、それじゃ『第二の不思議、駆け込む人間』の検証を始めるよ。殘留組は保管庫前からし離れて。部屋から飛び出すかもしれないからぶつからないように注意ね」

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手際良く采配する嵩原を後目に俺たちは俺を真ん中に三人で待機。二人が斜め後ろに付くじだが、これだと一緒に潛れないと思うんだけど?

「俺を盾にするつもりか?」

「任せた永野」

朝日はともかくせめて樹本は前に出てしい。誰の部活の検証だと思ってる。

仕方ないので先頭に立ってドアノブへ手を掛ける。室すると誰かが駆け込んでくると言うなら、扉を開ける所から警戒はしておいた方がいいだろう。そっと握りゆっくりと回す。鍵はぐだぐだ組み分けをしている間に二岡が開けてある。

カチャンと音がして扉がくっと押し出されるような覚が右手に伝わった。歪んでんのか? そのまま手前に引っ張ってゆっくりと開ける。

僅かに空いた隙間から室の様子が窺えた。當然のように真っ暗だが、奧には窓があるようでそこから月明かりなんだか街燈なんだかの明かりが真っ直ぐと床に落ちているのが見える。埃っぽく、妙に生暖かい空気がこちらへと流れてきた。

そろそろと開けていた扉が人一人分ほど開く。今の所変化はない。

「……異常は特になし」

「……足音、はしないね」

靜かなままなので思い切って更に扉を開けた。キィと微かな軋む音を立てて九十度以上に押しやられる。それでも変化はない。足音も、何かの影が見えることもなかった。

懐中電燈で室を照らす。保管庫と言うように部には幾つかの棚と備品らしきが雑然と置いてあった。幾つもの段ボールが棚に並び、丸められた紙や本、中には花瓶や壺の類まである。とりあえず仕舞っておいたがあるな。

広さはちょっとした部室程度。正面に大きく曇りガラスの窓が取り付けてあるだけで、他に特徴はない。天井に排気口か、ダクトの網があるけどそれだけだ。特におかしいとじるものは何もなかった。……オカ研の部室よりもこっちの方が広いのか……。

「へ、変なことは、何も起こってない、よね?」

衝撃の事実になんとも言えない気持ちになっていると、樹本が怯えながらも話し掛けてきた。事実なんら変わったことは起きてないので頷く。

「ああ。足音なんて聞こえない」

「そりゃ一歩もってないからだよ。あくまで『室した』人間に迫ってくるんだ、三人共ちゃんと中にらないと怪談は立しないよー?」

嵩原の奴が背後から煽ってくる。確かに隔たり部分にさえ足は乗ってないけども。扉を開けただけで駆け込んでくる訳ではないのな。

「仕方ない。行くか」

ズルは出來ないみたいなので腹を括る。樹本も朝日も俺の後ろでこまっているので俺が行くしかない。恐る恐る一歩室に踏みった。

足音はしない。保管庫はしんと靜まったままだ。そのままもう一歩踏み込む。完全に保管庫に立ちった。耳を澄ませて周囲を窺うも、やはりなんの音もしない。

なんだ、やっぱデマかと後ろを振り返ると樹本と朝日がり口から顔だけ出してこっち見てた。お前ら……。これ完全に俺罠踏まされ要員じゃねぇか。

「おい、続けよ」

「ご、ごめん。やっぱり怖くて」

「ごめんなさい、先輩」

文句言えばビクビクしながら二人も保管庫にってきた。ゆっくりと足をかして靜かに固い床に足を下ろす。二人がってくるのに合わせて俺も奧へと移する。やがて二人が保管庫に完全に踏み込んだ。

「……何も、起きない?」

「足音なんてしませんね」

靜まり返った室で二人は不思議そうにキョロキョロと周囲を見回す。変化は全くなし。誰かがくような気配も音も何もない。

「なんだ、怪談なんて単なる噂だったみたいだね。真相が分かったなら早く外へ……」

樹本がほっとで下ろして、退室しようと振り返ったその目と鼻の先でカチャンと扉が閉まる。俺の視界にはっていたが、扉はゆっくりと獨りでに閉まって行き、その隙間から嫌らしく笑う嵩原の顔が見えていた。扉が歪んでいるはあったし、恐らくは不備で勝手に閉まったのではないだろうかと思う。

開けた當人としてそんな予測も立てられるがそれは俺だけの話。報がない他二人は扉が獨りでに閉まったと一気に恐慌狀態に陥ってしまった。

「ナンデ!? 扉!?」

「せせせ先輩! 扉が勝手に!?」

粟を食う樹本に、朝日は驚くと同時に両手で俺の腕にしがみつく。ちょ、何時ぞやの再現と冷靜な部分が告げるがこれには俺も取りす。説明をする機會を逃して慌てた樹本が扉を勢い良く開けた。

途端。

ガシャン! ガタガタガタガタ!

派手な金屬音のあと何か小刻みに打ち鳴らす音が室に木霊する。それはまるで何かが激しく足踏みをしているようにも聞こえた。

「ギャーッ!!」

「キャーッ!!」

保管庫全に轟く異音に二人が揃ってび聲を上げた。樹本は兎の如く部屋から飛び出し、慌ててそのあとを朝日が続く。俺の腕を抱えたままえらい勢いで出り口に駆け込むが、火事場の馬鹿力なのかなんなのか、俺完全に上半持ってかれたんだけど。

ばっと廊下に飛び出し急いで樹本が扉を閉める。バンッ!と暗い廊下に盛大に響くが、今やそんな些細なことは気にもならないか、扉にしがみついたままハァハァ荒い息を必死に整えていた。

「な、何? どうしたの?」

「なんか凄い音聞こえてきたよ? 大丈夫だった?」

待機していた子二人が慌てて俺たちに話し掛けてくる。樹本も朝日も答える余裕はなさそうだ。仕方なしに事の次第を語った。

「一度扉が閉まって、そのあと開けた際に足音っぽい異音が保管庫で鳴った。それに驚いて慌てて飛び出したんだよ」

「え!?」

「……足音がしたの?」

驚く能井さんと違い二岡は真面目な顔で真偽を確認してくる。こういう場面には冷靜な奴が一人でもいると助かるな。

「足音らしきものだ。誰かがいたのかは確認してない」

「……らしきもの、ねぇ。私たちの方にも微かに音は聞こえていたのよ。金屬音っぽい質な音だった訳だけど、そっちが足音だって認識したのも同じ?」

「足音の方はもっと鈍い。始めにガシャンって高い音がして、そのあとガタガタって打ち付けるような音がしたんだ。足音だと思ったのはそっちだな」

二岡を相手に事実のり合わせを行っていく。聞こえたのは果たして足音なのか。怪談で話されていた見えない誰かが俺たちに迫っていたのか。

「……それだけだとなんとも言えないわね。やっぱり実際に験しないと確かなことは分からないわ」

二岡の下した結論はこうだった。全く怖がろうともせず検証を優先させるとは、二岡は理屈屋な所がある。

「あ、梓ちゃん本気? だって、樹本君も春乃ちゃんもこんなに怖がってるのに?」

恐れ知らずな発言をかます二岡に能井さんも腰が引けている。樹本は漸く息も整い泣きそうな顔で扉から離れており、朝日に至っては俺の腕を抱き締めたままピクリともかない。満創痍の二人を見ればそれは怖じ気付きもするだろう。

しかし二岡は怯まない。

「私としては足音には思えないのよね。始めに聞こえた金屬音も気になるし、直に確認したい所ね」

じっと閉じた扉を睨み付けて呟く二岡に能井さんも押し黙る。あの中にりに行くのかと、顔を悪くさせてただその橫顔を見つめていた。

「次は亨と二岡さんと能井さんだね」

そんな靜かな空気で変わらず淡々と嵩原は仕切る。名前を呼ばれてビクリと能井さんのが震えた。

「三花は駄目なら止めとく? 私と檜山君だけで行くけど?」

能井さんの反応に流石に見過ごせないと二岡はそんな提案を口にする。二人だけでか。直ぐにどうこうなんてないだろうし、二岡だけなら咄嗟の時檜山が抱えて逃げるのも可能だろう。

そう思って黙ったままの檜山へと目を向けたら、あいつは何故か俺の方をじっと見つめていた。奴には珍しい真顔で、じっと黙ってこちらを見ている。楽しい時も悲しい時も檜山の奴は分かり易く表を浮かべるが、今のこいつの顔は全く何を思い浮かべているのだか理解出來ない。真顔だ。

なんでこんな顔するんだ? 俺が見ていることにも気付いていないような。一何をそんな凝視して、と奴の目線を追って気付いた。檜山は俺じゃなく朝日を見ている。ぎゅっとしがみついたまま、一向に俺から離れない朝日をが開きそうなほどに見つめていた。

檜山の視線を理解して、そう言えば能井さんから檜山が朝日を憎からず思っているなんてことを言われたのを思い出した。その時はそれだと俺を助けるはずがないと斬って捨てたけど、本當は好意を持ってた? それで今こうしてくっついているのを見て気にしている? なんで今更。あの罠に嵌めた時もくっついていたけど、その時は普通だったはず。

「無理そうなら二人だけでもいいか。亨、亨もそれでいいかな?」

「……ん? ん、何が?」

グルグル考え込んでいたら嵩原に呼ばれてあっさりと檜山の目線は外れた。執著のしの字もない隨分あっさりな振る舞いだが、俺の懸念は杞憂だったか? 思い違いをしていただけか。最悪能井さん含めての四角関係になるかもしれないから、切に俺の勘違いであってしい。

「検証だよ。亨と二岡さんの二人で挑んでもらうことになるかもしれないって話」

「んん? 三人じゃなかったか?」

「三花はちょっと無理そうなのよ。怖がってるのに強行させるのはちょっと」

そこできょろきょろ視線をかした檜山は怯えを見せる能井さんになるほどと一つ頷いた。

「おう、怖がる奴を無理矢理行かせるのはよくないな。大丈夫! 俺なら絶対駆けっこ勝てる!」

「鬼遊びしてるんじゃないんだけどね」

「それだと私は置いてけぼり食らってるわよね」

元気良く答える檜山は変わりないように思えるし、嵩原も二岡も違和などはじてはいないようだ。やっぱり俺の勘違い? ただぼうっとしていただけか?

「僕怖かったのに無理矢理行かされたんだけど……」

どうにももやもやしたものがにあって、樹本がぼそりと溢す抗議の聲にも特に反応は出來なかった。

で、今度は二岡・檜山ペアが行くのだが。

「……特に変化はないわね」

普通に扉を開けて普通に中にった二岡は周囲を見回して呟く。金屬音も足音も何もしない。檜山は檜山できょろきょろ忙しなくあちこち見ている。

今回はきちんとした検証を行うため、こちらから扉を押さえて中の様子が見えるようにしている。扉は手を離すとゆっくりと勝手に閉まって行くので、やはり歪みか何かがあるっぽい。樹本は心霊現象でもなんでもなかったことに唖然としていた。

室した人間を云々と言う割にはただ踏みっただけでは特に何も起こらない。荷は置いてある訳だし、ここって使われているわよね?」

「使われてるね。まぁ、この學校は他にも空いてる部屋はあるし、ここもそう頻繁には利用されてないみたいだけど」

當たり前のように答えるけど、校の各部屋の使用頻度とかどうやって嵩原は調べてくるんだろう。怪談ともそんな関係ないだろうに。

「永野の時も変化はなかったわね。ただ室しただけだと足音は聞こえない……。から扉を開けた時? 扉が勝手に閉まって、そのあと凄い勢いで扉がから開いて……」

ぶつぶつ呟いていた二岡はすっと室に視線を這わせる。後頭部しか見えないが、じっくりと視線をかしているのは分かる。床、壁、天井へと顔を向けたあと、二岡はこちらに振り返って言った。

「私たちも一回締め切ってみる。室したっていう判定が扉の開閉に関わっているかもしれない」

思い切った提案に反応を見せたのは先に行った二人と能井さんだった。

「え? 自分からそんな怖いことするの?」

「お、音凄かったですよ? 止めた方が……」

「梓ちゃん待って。本當に大丈夫なの?」

反対と表明する三名だが、何かスイッチがった風の二岡は説得に頓著などしなかった。

「音は私も聞こえたけど足音かどうかまでは分からなかったわ。気になるからこの耳で検証したいの」

「つ、強いね、二岡さん……」

「言われてみると、最初の音で驚いてしまったので確かによく確認はしてません……」

「梓ちゃんはこうと決めちゃうとぶれないから……」

「そんな訳だから一緒に閉じ籠もってくれる?」

「おー、足音聞きたい!」

ちゃっちゃと檜山にも了承を得て室の真ん中に待機する二岡。扉から手を離せばゆっくり閉じていくその向こうで、檜山と一緒に仁王立ちする二岡を三名が尊敬の眼差しで見送る。

「二岡先輩、格好いいです……」

「凄いよね。思い返せば室の時も落ち著いてた」

「梓ちゃんって私と違って大人だし、大変な時こそ冷靜に振る舞えるんだよね。凄く頼りになるの」

「二岡さんなら実際に足音聞いても落ち著いて対応しそうだね。僕の時なんか慌ててて、背中押されるままに飛び出しちゃったし」

「こ、怖かったから、仕方ないですよ」

二岡の強心臓への尊敬が募っているようだが、檜山の楽天振りはここでは取り上げられないのか。「足音聞きたい!」なんて嬉々として恐怖験をしに行く姿もある意味稱賛ものだと俺は思う。

そしてちょっと間が空き、やがてばっと勢い良く扉が開いた。それと共にまたあの金屬音と打ち震えるような音が中から聞こえる。

「「「ヒャアー!」」」

三重奏の甲高い悲鳴がこっち側から上がるものの、室組は余裕といった風で部屋の奧へと視線を向けていた。

「すげぇ! ホントだ! めっちゃ鳴った!」

「やっぱりそう言うことね……」

歓喜の聲を上げる檜山とは対照的に二岡はドアノブを握ったまま呆れたと言わんばかりに息を吐く。二岡の態度は超常現象に遭遇したとはとても思えないほど冷淡だ。むしろなんらかの確信抱いてる。

「タネが分かったか?」

こちらに振り向いた所でそう聲を掛ける。俺の顔を見返すなりふんと鼻を鳴らすが、なんだ態度悪いな。

「何? あんたも足音は噓だと思っていた訳?」

「今の所二連続でパチモンだったし、多分何かを誤解してるんだろうとは當たりを付けていた」

「ああ、まぁそう言う予測も立てられるわよね。……足音の正はあれよ」

保管庫に振り向いた二岡が天井を指差す。指している方向を追えば、それは天井のダクトの網を示していた。

「多分留めが弛んでいるかしてるんでしょ。扉を勢い良く開けることで空気のきが排気口と繋がっているあの部分に負擔を掛ける。それが網を激しく揺らして、その揺れで以て足音のような振音が続けて鳴る。冷靜に観察すればそれだけのことだったわ」

不機嫌そうに原理を解説する。窓が閉め切られてるから起こる現象だと、確認ついでに調べた所こちらも歪んでいるのかさっぱり開けられなかったとのこと。つまりはこの部屋は限りなく閉に近い狀態にあったらしい。

「そんな閉狀態にあるなら勢い良く扉なんて開けるとそれはダクトに空気も殺到するわ。観察したら扉を開けると同時に目に見えてガタガタ揺れるんだもの。怪談なんて語る前にとっとと施工業者を呼んだ方がいいわね」

「すげかったぞ! 天井もなんか揺れてた! 空気の力ってすげー!」

つまんないと今にも言い出しそうな二岡と違い檜山はいたくしている。確かに理科の実験等でありそうな現象ではあるけども。

「……で、真相を知っているだろう嵩原的にはこれが正解でいいのか?」

黙って推移を窺っていた男に尋ねる。廊下で待機していた三名は怒濤の解説にポカン顔しているけども、そう時間も経たずに理解はするだろう。

「ふふふ。流石だね。この絡繰りはちょっと分かり難いかなってどこで真実を明かすかって考えていたんだけど、二岡さんからすればあっさり看破出來るほどだったね。結構把握し難いタネだったと思うんだけど」

「金屬音という時點である程度出所は制限されるわ。で、鳴るのも扉を勢い良く開けた時ってなったらそれは空調関係を疑うわよ。條件に合うのは天井のダクトくらいなものだし、なら答えに行き著くのも難しくないわ」

嵩原の挑発的な言にも反応せずに二岡は冷靜に答えた。行き著くかね? 俺そこまで理論的な思考は全くしてなかったけど。

「ふふ、でもやっぱり凄いよ。おかげで結構時間も巻けたんじゃないかな? 多分二十分切ってるよ」

「そう? なら良かったわ。さっさと嫌がらせなのか茶番なのか分からないこんなツアーは終わらせたい所だし」

ツンツンと不機嫌な言いが止まろうともしないな。これもまた怪談とはほど遠い理現象だっただけに機嫌を損ねるのも分からなくはないが。

「え……っと、つまり、足音は、ダクトが震えていただけ?」

「そうなるね。怖かった、聖?」

呆然と真実を口にする樹本に嵩原が意地悪く問い返すと樹本が靜かに切れた。無言でバシバシ毆りに行くけど嵩原は全く意にも介さない。グーじゃなくパーだしな。そう時間も経たずペチペチに変わっているのだからお察しだ。

「……凄い……。梓ちゃん格好いい……」

「凜々しいです。二岡先輩……」

こっちはこっちで二岡を尊敬の眼差しで見てる。良かったな、嵩原。お前にヘイトは向かいそうにないが、その分好度は二岡が稼いだようだぞ。全く締まりのない終わり方にはぁとため息が口を衝いて出た。

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