《高校生男子による怪異探訪》12.コックリさんの祟り
様々な狀況証拠から推測を重ね、結論としては今回の異常な遭遇並びに危機的狀況は『コックリさんによる祟り』ということで決著した。
多數の偶然は人の手では絶対に引き起こせないこと、また狙いは俺なのか朝日なのかは判然としないが、階段から突き落とそうとしたのは悪意に塗れているということで悪戯ではなく『祟り』となった。
忘れてたけど俺たち正規の方法でコックリさん終わらせてなかったんだよな。嵩原はそれが原因じゃないかと見ている。
なんで朝日が巻き込まれたかと言えば、直前で運命の出會い云々と訊ねていたからじゃないかという考察だ。蘆屋先輩も當て嵌まるんじゃないかと言われていたが多分違ったんだろうと。
俺との関わりを考えれば先輩よりも朝日の方がまだ直接的なんじゃないか?なんて、真面目に目の前で言い合いされたりしてなんとも言えない気持ちにさせられたりもした。
とりあえずコックリさんの祟りだと結論付け、さてそれでどうしようと次に話は進む訳で。
狙いがなんなのかは今一よく分からないが、なくとも俺と朝日をぶつけることを目的としていることは確かで、そしてその目的は階段から落とすというより過激で危険な方策へとシフトしていってることからも放置は出來ない、むしろ迅速に解決すべきだとそんな風に纏められた。
で、ならばどうやって祟りを回避すればいいのか。
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お祓い? そんな伝手もないし金もない俺たちは最終手段だとこの人を頼ることにした。
「ほう。それで私の所に來たと」
放課後の話し合いからそのままオカ研部室へとお邪魔している。
俺たちの訪問に虛を衝かれたような顔をして出迎えてくれた先輩は、事を話し終えた今、憐悧にる瞳を細めて俺たちを眺めていた。
「……ふむ。コックリさんによる祟りか。樹本君、私は以前に君へと講義を行ったと思うが」
「あ、はい。コックリさんは心霊とは関係ないって話ですよね? それは嵩原も知ってて、それに皆にも話しています」
「うむ。理解した上で超常の存在の関與を疑うか……。興味深くはあるね」
研究者モードにっているらしい先輩は観察するような目を俺たち――俺に向けている。祟られた(と思われる)當人だからこんな目向けられるのも致し方ない。
「俄には信じ難い話ではある」
「會長さんでもそんな認識なんだ?」
「それはな。コックリさん、発端とされたのはテーブルターニングというテーブルを用いた降霊であるのだが、それに対する研究というのは多數の學者の手により行われており、様々な実証実験並びに研究結果も発表されているのだよ。霊的な余地を否定する実験結果も多數提示されていてだね、それらによってこのテーブルターニングに端を発する降霊法は眉唾である、というのが現在の主流となってるんだ。私もそちら側の見解を保持する人間ではある」
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嵩原・樹本が語った科學派の立ち位置を先輩は取るらしい。
意外、と言ったら先輩に失禮か。先輩はオカルトに熱心な研究意を向けてはいても、妄信はしていないからな。
「狐が來たんじゃないのか?」
「コックリさんと言えば低級霊、霊が呼ばれるなどと言われるが、元々の舊來のコックリさんはあくまで呼び出す側の親しい人間や関係のある人間の魂を降霊するとされている。狐が來るなどと言われ出したのは當て字が施されてからだな。これもまたコックリさんは実行者の思い込みの影響をけることを証明するサンプルではある」
「あー、完全に否定派なんですね。それなら永野に起こったことはやっぱりただの偶然……?」
ハキハキ否定していく先輩に樹本が一縷のみを得られてそう呟くも、しかし先輩はそれに対して「否」と首を振った。
「そうとも限らない。コックリさんの絡繰りが実証実験の類によって証明が果たされたように、今回の事例も実際に起こった出來事をに観察し真実を考察していくべきだろう。安易な否定は致命的な事態の悪化を招く虞もある」
慎重な姿勢だ。自らの立ち位置での意見に終始することもなく、俺たちの験を細かに考察していくべきだと主張する。
そんな先輩だからこそ頼り甲斐もあるというもの。暴走されると困るけど、その知見はやっぱり非常に參考になるんだよな。
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「観察ですか」
「もう一度起こったことを順序立てて説明してもらえるかい? 出來れば細かに正確に。何者かの意図によって引き起こされたものであるなら、そこには狙いとされる意思の片鱗が確かに見られるはずなんだ。それを探り出すのがまずは第一だと提示させてもらうよ」
意思の片鱗か。朝日との遭遇、それを強制させることで一何をなそうとしてるのか。相手の目的の取っ掛かりを見付けろってことか。
こっちは手詰まりで新たな意見だって出て來ていない。それなら先輩の提案に乗るべきだろう。促されるままに、コックリさんから始まる一連の出來事を思い出せるだけ詳しく語った。
「なるほど……」
階段からの落下まで一通り語り終えれば先輩は一言呟いて考にる。何かヒントでもいいので出てくれれば助かるんだが。
「改めて聞いてもやっぱり狙いはよく分からないよね。前半とかただ居合わせてるだけだし」
「日にち、時刻、場所も全てバラバラ。見比べれば階段でのことが浮いてるくらいだ。祟り、て訳でもなさそうかな?」
「危ねぇの階段だけだもんな。あとは全部ただ仲良くしてるだけだし」
野郎共からはこんな意見が。仲良くしてるだけ、て評価にはちょっとモヤつく気持ちもあるが、だけど概ねは同意ではある。
階段でのこととコックリさん時のイレギュラーで恐れをなしたりもしたが、それ以外では大人しいというか害らしい害はけてはないんだよな。
嵩原の言う通り階段でのことが現狀では浮いて見える。階段だけがイレギュラーだったのか? 一連の偶然の重なりは本當に単なる偶然であって、祟りでもなくあの時だけがおかしかったのか。
「うむ。確かに祟りであればもっと凄慘な目には遭っていて然るべしかもしれないな。危機的狀況も最後の階段以外には見られない。一連の出來事がコックリさん時に現れたものの祟りだとするなら、あまりにスローなスタートだと言える」
「そう、ですよね。じゃあやっぱり祟りとは違うのかも……」
「だとしたら偶然? 朝日さんが階段から落ちたことも偶々なのかな?」
「どうなんだろ? でも朝日は突き落とされたっぽいんだろ? しかも誰もそれやれそうになかったって」
「……そのはずだ。祟りじゃなかったとしたら、なんでそんな危険な目に……」
一瞬だけ見えたあれ。疑いの拠のほとんどがそれなのだが、俺の見間違いだったのか?
「……祟りかどうかの考察とはまた別角度からの意見なのだが、それを語ってもいいだろうか?」
こんがらがっていく頭に先輩の問い掛けがさっと水を差す。隨分と控え目な主張をするな。常の先輩なら斷りをれることもなく、朗々と新たな見解を口にしそうなものなのに。
消極的姿勢を見せるのは本人も自信があまりないことの証明なんだろうか。とは言え、手詰まりだって見えてきた現狀、新しい切り口ともなるなら歓迎するより他にない。
「會長が躊躇うなんて珍しいですね。何か気になったことがあるなら教えてしいです。ね、永野?」
「ああ。遠慮なくどうぞ。俺たちは先輩を宛てにさせてもらってるですから」
「そう言ってもらえるとこちらも話し易いよ。いや、これは個人的な意見、印象なのだがね、永野君と朝日さんはまるで漫畫や映畫などの運命の出會いをなぞっているようだなと思ってね」
「「ん?」」
どんな意見が飛び出すのかと思えば、なんとも関係のなさそうな単語が出て來たような。
漫畫や映畫の出會いの演出? 何に驚いたかって、先輩の口から『』なんて単語が飛び出してきたことが驚きだ。嵩原も訝しんだ顔してる。
「運命の出會い……?」
「あれ、會長って系見たりするんですか?」
「それは私に対して失禮ではないかね? 今はオカルトにこそ傾倒しているものの、私も小學生くらいの頃には人並みに漫畫の類だって読んでいたものだよ。今だって映畫を視聴することもある」
「會長、そんな真っ當な嗜好してたんですか!?」
「落ち著け樹本。流石にそれは暴言だぞ」
先輩だってなんだ。年相応にキラキラしたに興味だって持つ、はず。
「君が私のことを普段どう見てるのかよく分かったよ」
「先輩、その運命の出會いって何?」
「うん? ああ、漫畫やを主眼とした話などによく見られる、男を運命的に結び付ける演出というのがあるのだよ。古き良きラブコメなどでは出會い頭に男をぶつけ合わせて印象に殘る初対面としたり、はたまた同じを取ろうとして手をれ合わせて意識させたりと、そんなキュンな話運びが漫畫などでは王道とされてるんだ」
「へぇー、あー、子が壁ドンだって騒いでたのももしかしてそうなのか?」
「ああ、壁ドンも一時流行ったものだからね。強引に迫られたいというも一定數はいるから人気らしいね」
「マジか。俺喧嘩吹っ掛けさせちまったかって思ってた」
「その発想はなかったなぁ。というか會長の口からキュンとか……」
「樹本、いい加減にしとかないと先輩もそろそろ怒るぞ」
「……そうか。なんとなく見えてきたぞ」
完全に雑談に流れていた最中、一人嵩原が確信の籠もった聲を上げる。見れば幾分すっきりした面持ちで斜めに天井なんて見上げてた。天啓をけたかのような首の角度だ。
「え、何どうした?」
「運命的な出會い。一連の偶然はつまりはその演出だったんじゃない? 真人と朝日さんの仲を漫畫や映畫のように盛り上げてくっつける、それが狙いだったんじゃないかな?」
「え?」
言うに事欠いて何言ってんだこいつ。何故んでもいない強制ラブストーリーなんぞに登場させられなきゃいかんのだ。
「曲がり角での出會い、落としを拾った偶然、購買でのやり取り、それから日常での些細なれ合い。そして強引な壁ドンからの危機的狀況での急接近。的な関係を深めるのにぴったりの出來事ばかりが続いてるじゃない」
「いや、じゃないって言われても……」
「漫畫とか読まんし」
「嵩原は漫畫読んでんのか?」
「の子とれ合ってたらこれくらいは自然と理解してるものだよ。三人じゃ話にならない。會長さんなら分かってくれますよね?」
なんか勝手に見限られた。絶対嵩原の方が數派だ。なんで俺たちの方が駄目みたいに言われないといけないんだ。
急にロックオンされた先輩は特に揺もなく鷹揚に頷きを返す。
「言いたいことは分かる。的な演出、それ自が狙いだったと。だとすれば特に害意もないように思えるが」
「いえ、些か手段が強引になってきているのが気になります。最初こそ本當にただ引き合わせただけのような出會いばかりですよね? でも階段や壁ドンは作為が見え隠れしています」
どういうこと?と疑問抱いてる男三人なんて置いて、更に熱弁が振るわれる。
「壁ドンの際には亨が力加減を誤ったようにも見えますが、手がったとして大の男を吹き飛ばすほどの力が込められるものですか? あの場面で真人が朝日さんに迫る、言わば壁ドンをさせるために何か関與されたとしか思えない。階段なんて顕著ですよね? 的演出を立させるために朝日さんを突き落としたと考えられます」
斷言される容は正に驚愕のものだ。言われれば確かに些か強引な向きはあったか。
待て、だとしたら俺との仲を深めるために朝日はそんな危険な目に遭わされたってのか? どんな脳の輩ならそんな馬鹿なことやらかすってのか。
「二人にちょっかいを掛けている何者かは、徐々に徐々にその関與をあからさまに、そしてより強引な方法へと変えてきている可能があるんです。これ、ただ二人をくっつけたいだけだって放置してもいいものですかね?」
「……」
問われた先輩の表が険しく歪む。嵩原の推測が當たっているのならとてもじゃないが放置なんて出來ない。
朝日は階段から落ち掛けた。もし次も勝手な演出とやらが引き起こされたとして、そこではどれほど強引なこじつけが行われるか。俺だって無事で済む保障はない。
「……嵩原君の懸念は分かった。だとすれば早急に対策は打っておいた方がいいだろうね。室に二人して閉じ込められることもあるかもしれない」
「何ですかその飛躍」
「何かしらのトラブルで一室に閉じ込められて一夜を明かすというのもよく見掛ける展開なのだよ。恐怖と張による悸をの悸と勘違いする、まぁ所謂吊り橋効果というものだな。的展開において危機的狀況が採用されるのもそれが理由の一端ではある」
二人きりで一晩過ごすとか何も起こす気はないけども俺の世間が死ぬ。これは本気でさっさと監督気取りの野郎をとっちめないといかん。
「狙いは分かったとして、しかし二人をくっつけようとする何者とは一誰だろうか?」
「今の所の最大の容疑者はコックリさんですけどね」
「君たちが最後に呼び寄せたモノかい? 話に聞くととてもではないがを司るとは思えないが」
「だとしたら狐? あの時言ってた運命の出會いってつまりはの意味だったんだな! やっと分かったわ!」
「今!? 今なの檜山!?」
大きく躍進、なのかはまだ斷定は出來ないが、それでも大分と考察が進んだのは間違いない。
俺と朝日の間で起こった一連の不可思議な偶然。それが的に距離をめさせることが目的のちょっかいであったとして、ではどこの誰がやらかしてるのか。
「コックリさんでないなら、それこそ誰かの占い、が原因とか?」
「校で流行ってはいるね」
「え、誰かの占いだかジンクスが異常引き起こしてるって見解?」
「占いってインチキじゃねぇの?」
意見は換されていくがこれぞ正解といったものは出て來ない。當たり前だ、偶然の演出を何度も起こせて、更には意のままに都合良く流れを決められるなんて、そんな人間離れしたことをやれる存在に直ぐ當たりなんて付けられるはずもない。
また手詰まりとなって次第に空気も重くなっていく中、そんな暗い雰囲気を嫌うように先輩が一つ咳払いなどかました。
「うむ。このままでは埒が明かない。ここは一つ賭けに出てみるか」
力強く宣言などする。頼もしい限りだが、その堂々とした態度が返って嫌な予を抱かせた。
先輩が口にする賭けとはなんなのか。答えは直ぐに目の前に示された。
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