《高校生男子による怪異探訪》14.コックリさんからのヒント
オカ研部室にて行われたコックリさんのその末路。説明のしようがない異常な終わりを迎えた訳で、衝撃が抜けたあとの室はそれは酷い恐慌狀態に陥ることとなった。
「何、なんなの、なんなんだよ!?」
特に樹本は揺が激しく、顔を真っ青にして直ぐにでも部室を飛び出していきそうなほどに慌てふためいていた。
檜山と嵩原が必死に止めていなかったらどうなってたか。あのまま帰せば階段を踏み外す虞もあったと思う。
室の誰もが、程度の違いこそあれ目の前で起きた異常現象に度肝を抜かれていた。
半ば強制的に中斷となったコックリさん。起きた出來事自はホラー映畫なんかの演出染みていてまるで夢幻のようだったけど、テーブルの上に殘された黒く塗り潰された紙と真ん中から折れ曲がった十円玉がこれは現実だと嫌でも教える。
無造作に放置されている品を視界に収めるだけでも正気度がガリガリと削られていく心地となる中、流石と言えばいいのかまず最初に勢を立て直したのは蘆屋先輩だった。
「本日はここまでだな。これ以上の詮索は危険だと判斷する。コックリさんを用いての報収集は暫く凍結という形としよう」
冷靜沈著にそう宣言をかましてくれて、おかげで俺たちも引っ張られるようにして落ち著きを取り戻せた。
信じ難い現象が起こったばかりだというのに、視線を集めた先輩はもう普段通りの憐悧な雰囲気を纏っていたんだ。けないがその姿を見てほっと安堵したのは確か。
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「凍結ですか。また同じような邪魔がると會長さんはお思いで?」
「その可能は高いのではないかな? こうも明確な脅しを掛けられては安易に飛び込む気力もなくす」
言って拉げた十円玉を摘まみ上げて提示する。先輩の肝の座り様はもう凄いとしか言えない。異常のその渦中そのものだろう品を平然と手にする姿はいっそこれから除霊でも始めるようにも見えた。
「ま、様子見は賛ですけど。ちょっと踏み込み過ぎましたかね?」
「今はなんとも言えんよ。ただ全くのノーヒントという訳でもないのがせめてもの収穫か。まずは新たに手にれた報をよくよく査するべきだろう」
コックリさんが中斷となる直前にもたらされた幾つかのヒント。『占い』、『鏡』、そして『悪魔』。
今回降臨した人間らしきものからもたらされた一連の騒の黒幕へと繫がる報。殘された手掛かりはこれだけだ。
「とりあえず一晩時間がしい。これらのヒントが何を指し示すのかを調べたいのでね」
「こっちも時間がしいので丁度良かったです。一度、頭を冷やさないと駄目でしょうから」
苦笑をえて告げた嵩原の主張には全面的に同意だった。徐々に揺も治まってきてはいたが、それでも頭をこねくり回しての考察なんてとても出來るような神狀態ではなかったから。全員がそうだったと思う。
「ならば本日はこれで撤退としよう。詳しい話は明日、晝休みにでも集まって報告といこうか。どうか皆は一晩じっくりと気力を休めてもらいたい」
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そんな締めによりこの日は解散。言われた通りに家に帰ってからは出來るだけ心の安靜に努めていたのだが、しかし薄暗い部室で起こった異常な景は衝撃と共に脳に刻まれてしまっていて中々寢付くのも難儀してしまった。
まんじりともせず夜が明けて翌日。待ち遠しいような、來てしくなかったような複雑な心地で午前を終えて、時刻は晝休みを迎えようとしていた。
「昨日のあれはなんだったんだろうね……?」
先輩との約束もあり、四時間目が終了するなりオカ研部室へと移する。その道中、樹本がぽつりと疑問を口にした。昨日と比べれば大分落ち著きも取り戻したようだが、完全には恐怖は取り除かれてないようで不安そうな表してる。
「なんだろうな? 最後のあれって結局十円玉が発したのか? 靜電気の所為?」
「紙ってるだけで発するほどのエネルギー貯まるなんて恐ろしいね。だからって他に科學的な説明だって付けられそうにないけどさ」
歪みない檜山の明後日の解答に嵩原は軽く肩を竦めてみせる。跳ね上がるだけじゃない、十円玉は強い圧力掛けられたように拉げていた。
どうすればあんな狀態になるのか、一介の高校生に過ぎない俺では推測さえも立てられそうにない。
「ま、今から會長さんに聞きに行くんだし、あまり気を逸らせることもないんじゃない? 會長さんならいろいろと理論立てて説明してくれるだろうしさ」
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「うん……、そうだよね。今から不安がってたって仕方ないよね……?」
素直に嵩原の言い分をけれるが、樹本の顔から憂いは消えない。樹本としてはこのままフェードアウトしたいのが本音だったりするんじゃないだろうか。
「昨日出されたヒント、あれは何を指し示していたのか思い付いたか?」
こちらにまで不安が伝播してきそうなので、気分を変えるためにも話題を変えた。怪奇現象も気にはなるが、やはり一番重要なのは黒幕に関する報だろう。
「ヒントって、『鏡』に『悪魔』だっけ?」
「それから『占い』もね。黒幕の正を訊ねてこんな斷片だけ返ってくるというのがもういろいろ気になる所だけど、つまりはこの斷片で辿り著けるものがそうだってことだよね? 俺もね、一晩考えてみたんだけど、なんかこう引っ掛かってるんだよねー」
「引っ掛かる? 心當たりがあるってこと?」
「そう。なんかねー、どっかで聞いたことがあるような気がするんだよ。以前に見掛けた覚えがあるというか。でも思い出せないんだよね。あとしまでこう、元上がって來ているというか」
言いながら辺りを「ここ」と手で示す。嵩原が覚えがある。それって黒幕は噂か怪談かそれ系列の何かだってことになるか? 流石に嵩原と言えど占いに見識あるとは思えないし。
オカ研部室に辿り著くまで、ずっと嵩原はうんうん唸り続けていたけど結局思い出せなかったようだ。
まぁ先輩ならば問題なく辿り著けているだろうと、いつものようにさくっと部室にったのだが。
「遅いぞ。私は待ちくたびれている」
るなり早々目の據わった先輩に出迎えられた。昨日一晩頑張って調査をしてくれていたのか目元にはうっすらと隈が。切れ長の目の人なために目力アップしていて迫力が増してる。
「一晩みっちりと総力を上げて調べに調べ上げたその結果報告をせんと今か今かと來訪を待っていたというのに肝心の君たちがこうも遅いとは私を焦らすつもりなのかね? 晝休みも限定された時間であることを忘れてはいないだろうか。果たしてこの殘り時間で如何ほど解説することが出來るのか。そもそもだ……」
「か、會長落ち著いて。遅れたことは素直に謝りますから……」
「うわぁ。もうガンギマリしてる」
高速でブツブツ文句呟く先輩ははっきり言って凄く怖い。近付いちゃ駄目な人間バリバリ出てる。白を著せたらマッドな醫者にしか見えない。
「先輩、いろいろ調べてくれたの?」
「ああ、もちろん。もたらされたヒントからの黒幕の洗い出しにコックリさんの超自然學的アプローチからの見解なども纏めてあるさ。昨日は大変有意義な験が出來た。だからこそ同じ験を共有する君たちへとこの私のに満ちる充足を余すことなく伝えたかったのに……!」
「あ、そういう」
「いえ、僕らはそんな深りする気は全くありませんので。特にその超自然學的云々はオカ研のデータベースに放り込んで満足してください」
樹本が宜もない。機嫌を損ねているのかとか思ってたけど、これただ不可思議なものと対面した興と深夜テンション引き継いでるだけか。あんな超常現象目の當たりにしても先輩の幹はなんら変化なんてないようだ。
「水臭いことを言うな! 我らは同じ未知なる験を得た同胞だろうに!」
「いえ遠慮とかは全くないです。本當に聞きたくないだけなんで」
「これちゃんとリードしていかないと無駄に時間食うな。それで會長さん、黒幕の洗い出しは功したんですか? 話を聞く限りは上手く解読も出來たようですけど」
さくっと懸念を予測した嵩原がスマートに進行を奪う。今の先輩はあまり他人の話を聞かない狀態にあるようだし、それならばこちらから導を掛けてさっさと重要箇所だけ話させる方が良さげだな。これ好き勝手に喋らせたら絶対長くなる。
「うむ? うん、そうなのだよ。コックリさんが最後の最後に殘した黒幕のヒント。あまりに斷片過ぎて照合するのに時間を掛けてしまったが、なんてことはない、これは一つの怪談を、いや品を指し示していたんだな」
「品?」
「そうだ。君たちだって関わりを持ったものだ。今期の我が上蔵高校の七不思議の一つ、『悪魔の映る鏡』がおそらくはコックリさんの指し示したかったものであると予測出來る」
真剣な面持ちで先輩はそう言い切った。七不思議、それは夏休みの直前にやったあれのことか。『悪魔の寫る鏡』……。確かに、そんなものもあったような……。
「! そうか、それか……! 確かに言われてみればヒントとも合致する! 元は『占い』の噂もあった『鏡』であって、現在は『悪魔』が映り願いを葉えてくれる……!」
「……あ、そうだ。確かにそんな怪談の検証もしたね。皆で鏡の前に立って悪魔が映るかどうか調べたっけ」
「そんなことしたっけ?」
「ほら、夏休み前、いや當日かな? 皆で夜の校舎に集まって怪談巡りしたじゃん。檜山は悪魔に新しいトレシュー出してもらうって張り切ってた」
「あー……、あー言ってたような気はするかなぁ? あんま覚えてないなぁ」
こっちも記憶を思い出しているようだがあまり印象にも殘ってないようだ。なんせ、もう四ヶ月が経とうとしてる訳だしな。
「えー、クソ、道理でどこかで聞いたことあると思う訳だ。これ直ぐに出て來ないのは悔しいなー。ちゃんと七不思議は頭にっていたはずなのに」
「その気持ちは分かるぞ、嵩原君。私も昨日瞬時に解答が出て來なかったことを口惜しくじている。オカルト研究同好會の會長の名折れだと自省している所だ。あまり自覚もなかったが、私も君も直面した超常現象になからず揺があったのだと思うよ。冷靜さを欠いていたんだろうね」
「そういうことですかね? こんな斷片的なヒントだけでどう答え探そうかなとか思ってたんですけど、いやはや、これ以上なく分かり易いヒント出されていたことに驚きですよ」
なんかオカルトオタク二人は通じ合って盛り上がってるけど、これ決して分かり易いヒントでもないと一般人である俺はじるんだが? 分かるのって同じオカルトオタクだけな気がする。
「あれ? でも待ってください。確か『悪魔の寫る鏡』はデマだったという結論になっていたような……」
「……あ。そうだ、そうだ。なんも映らなかったんじゃね? 皆で覗いて、でも誰も悪魔なんか見えなかったよな?」
樹本の発言になんとなく記憶が蘇った。そうだ、結局誰も何も見えなくて、その一個前の階段での怪談と併せて嵩原糾弾してたような。
「そうだな。あれはデマということで片付けたはずだ」
「それなのに黒幕……? おかしくないかな? 間違ってない? 別のものを指していたんじゃ……」
正解を導き出したとを張るオタク二人へと疑問が呈される。
コックリさんが正しくそれを黒幕だとして挙げたのなら、『悪魔の映る鏡』はなくとも俺と朝日を出會せるだけの何かしらの力があるということになる。単なるデマと片付けられた怪談がそれに當て嵌まるとは正直思えない。
「ふむ。それは確かに。君たちの報告では悪魔も何も見えなかったようだね」
「まぁ、元より大分曖昧な噂ではありましたし、悪魔が映る條件である夜中という區分にも引っ掛かっていたのかは疑問が殘ります。もしかしたら俺たちが何か見落としてる可能は充分にありますよ?」
「見落としか……。コックリさんが告げたヒントの要件にこれ以上合致するものも現狀は思い浮かばない。いや、占いの中に鏡と悪魔が関係するものもあるかもしれないが、しかし我が校に伝わる怪談との相似だって無視は出來ない」
ブツブツまた思考に耽る先輩。普段なら知的に見える行だって走った目をしてる今はただの不審者にしか見えない。
こちらからの引いた目にも気付くことなく、やがて先輩はパッと顔を上げて告げた。
「ここで考察をするにも限界はある。これは一度件の鏡を直に見に行くのが得策だと思うが、皆の意見はどうだろう?」
出て來たのは馬鹿正直な特攻だった。いや、真偽だって疑わしくなったから調べに行くのは堅実な判斷だとは思う。でも異常の元締めだって言われたものに自ら近付くことの拒否というか、ね。
「まぁ、それが早くて確実ですよね」
「永野と朝日にちょっかい掛けてる奴だっていうならどうにかしないとな。それが一番今ん所怪しいってんだろ? なら見に行って確かめてみようぜ!」
賛が二。まぁ、ここは順當だ。オカルトの類には積極的に関わりに行く奴と怖じというものを知らないコンビだからこの結果は目に見えていた。
チラリと殘りの一に目をやる。
「……いや、いやいや、あ、悪魔だよ? 安易に近付くのはちょっとどうかと……」
必死な抵抗を見せる樹本。実際に悪魔がいるかもしれないと聞いて腰が引けてしまうのは実に真っ當なだと言える。でも、相手が悪かった。
「実際に検分しなければ元兇かどうかは分からないが」
「いや、だから調べる前にもっと報を査して」
「なんで。だって一番怪しいのそれなんだろ? 怪しい奴から調べるもんなんじゃね?」
「せ、正論!? いやいや! ほら、他にも當て嵌まりそうな占いとかさ、あるかもしれないじゃん! 悪魔もいるのかはっきりしないんだし、他の可能から當たっていったってさ! こういうのは一つ一つ可能を潰していくのが!」
「うん。だから一番怪しい鏡から調べに行こうよという話。確率の低い奴から當たっていっても仕方ないからね」
「 」
フルボッコとはこのことか。多數決的にも早々に三人が現場に行くと言い出した時點で勝ち目はなかった。予想は出來た結果である。
話し合いにもならない協議の末、一度様子を見に行こうということで話は纏まった。
直ぐにでも調査に赴くかという流れも出來たが、「直ぐそこだから!」と先輩が駆け出そうとして盛大に壁にぶつかったことで晝休みの探索は中止、放課後に改めて出直すことになった。寢不足がとうとう足に來たらしい。晝休みだけでも寢とけと樹本が強く言い聞かせて一旦解散となった。
俺たちだけで見に行ってもいいんだが、そこはやはり見識深い先輩と一緒に調べた方が効率が良いというもの。あとは放課後の方が思いっ切り調べられるという事もある。最後にごたついて晝休みの時間も々削られてしまったからな。
果たして鏡が黒幕なのか。いや鏡が黒幕ってなんだろう? 知らず大分思考がオカルトよりになってるのを自覚しつつ、やがて放課後を迎えた。
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