《高校生男子による怪異探訪》15.鏡の悪魔

今更述べることでもないでしょうが、作中のあれやこれやは基本フィクションです。薄目で読むくらいにけ取って頂けたら幸いです。

そして今回長いです。

放課後、まずはオカ研部室に集まって先輩と合流する。晝休み振りに見た先輩は短時間でも睡眠を取れたからか非常に爽やかな面相になっていた。

人間徹夜はしちゃ駄目なんだなと思いつつさっさと件の鏡に向かう。鏡は部室棟東側の階段、その踴り場にある。

「うむ……。こうして見ると単なる姿見なんだがな」

薄暗い踴り場にて大きな鏡に姿を映した先輩が獨り言のように呟く。周囲は傍にある窓から差す外があって前に來た時と比べればまだ明るい。鏡に映る俺たちも踴り場の風景も全部問題なく見えていた。

「この鏡は元々舊校舎に置いてあったものなんですよね? その時から謂れなどなかったんでしょうか?」

「我が同好會には特に資料等は殘されてないな。この鏡が七不思議りすることもままあったようだし、ならば怪談以上の話はなかったのではないかな?」

「昔は占いが試せる鏡、だったんですよね? 謂れってそれくらいってことでしょうか?」

鏡を覗きながらふーむと知的三人衆で議論を重ねる。夜中に見ることで悪魔が映り、その悪魔はどんな願いでも葉えてくれるという怪談がこれにはある。

その更に前には片思い相手の気持ちが図れるなんて噂が流れていたようだが、現在ではすっかり悪魔に取って変わられてしまっていた。

今の所この鏡に纏わる噂は上記の二つのみ。そしてコックリさんからのヒントは『悪魔』が関與しているという。

「そのようだ。占いが出來ると広まり出した以前も以降も、これと言って奇怪な事件が起こることもなくこの場に変わらず在り続けたようだ。強いて言えばある時を境にこの鏡に纏わる話ががらりと変わったくらいだな。容易い占いから悪魔が願いを葉えてくれるという噂に」

「結構な変遷だと思いますけど」

占いからコックリさんの臺頭が確認された我が校を鑑みてもそう言える?」

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「……いやそれにしたってジャンル変わり過ぎでは」

凄い渋い顔して樹本は呟いた。占いとオカルトは距離が近いもんだからな。仕方ない。

「うむ、実際に劇的な変わり様ではあるだろう。我が部に殘る調査資料にも急な変化を訝しむ所が殘されている。唐突に悪魔の噂に切り替わった當時の狀況が読み取れるというものだ」

「え? あれ、そういえば変化した原因などは判明……」

「していないのだよ。同一箇所の噂が変化することは當時からもまま有りはしたようだが、大抵は別の怪奇現象や新たな因縁が生じたことを切欠に変化は起こっている。それがこの鏡に際しては切欠だと思われる出來事は何一つと見付からず、気付けば真しやかに悪魔の噂が広まっていたのだ。鏡自になったのではと當時の部員が疑っている記述もあるよ」

「それは、まぁ、疑いたくなる気持ちも分かりますね。でも同一品なんですよね?」

「ああ。そこはきちんと確認も取れたらしい。だからこそ不審さもより増すというものだがな」

「ええ……。それ、怪し過ぎません? いや的に何がどうとは言えませんけど……」

ゾッと背筋震わせて樹本は鏡から二歩ほど距離を取る。不気味な話聞かされてより恐ろしさが増したようだ。

「この話自は不可思議極まりないだろうな。しかしおかしな點などこれぐらいなのもまた事実だ。どこかの誰かが試してみたと真偽不明な噂が出回ることはあるが、この鏡によって重大な異変が生じたという記録はない。噂の誕生、それ自には確かに不審な點も多々あるものの、まぁ、言ってしまえばそれだけなのだよ」

恐れを抱く樹本とは違って先輩の泰然とした態度は全く揺るぎもしない。実害はないとそういうことか? でも今回の最有力容疑者なんだが……。

「それだとコックリさんの答えも読み違えたことになりませんかね?」

「いや、本當に悪魔は宿っているのかもしれない。噂が変質したその理由も今回の調査で判明とまでは言わないが取っ掛かりくらいは得られるかもしれない。ふふ、未知が解明される瞬間というのは何度経験してもが滾るな……!」

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「結局は私ですか……?」

樹本がまた暗黒面に落ちそうな気配漂わせたのにそっと視線外す。

まぁ、うん、もらったヒントから見ても一番怪しいのはこの鏡なんだし、きっと調べるだけの価値はあるはずだ。多分。

「なんで悪魔なんだろうな? 願い葉えてくれるってなら神様でも良さそうだよなぁ。初詣みたいなじで」

これまで先輩たちのやり取りを黙って見ていた檜山が不意にそんな疑問を放ってきた。首傾げながらの素樸な問いだ。

これに嵩原が小さく笑みを浮かべながら答えた。

「そうだねぇ。まぁ、神様への願い事も、本來は決意表明を示すのであって単純に葉えてくださいと願うものでもないらしいんだけどね」

「え、そうなの?」

「それ何かで聞いた覚えある。神様には力を貸してもらえるように頼む方が願いは葉え易いとか言うね。それともし願いが葉ったならちゃんとお禮も言いに行った方がいいとか」

「へー」

「そういえば文化祭の功願ってどこぞに神頼みしに行ったって話があったけど、ちゃんとお禮には行ったのかな? 「ご利益あった!」、て喜んでる聲は聞こえたりもしたけど、そこで終わったら片手落ちもいい所なんだけどね」

「あー……。そんな話もあったね。運部も近場の神社に必勝祈願しに行くとか耳にしたけど、サッカー部もそうなの? ちゃんとお禮してる?」

「知らねー。神社行ってる暇あんなら走り込みするからなー」

「亨はジンクス自そう信じてもいないよね」

話がどんどん脇に逸れていく。なんで悪魔が出て來たのかって話題だったはずなのになぁ。

「古來から人に寄り添って願掛けの類に耳を傾けていたのは神と悪魔くらいだからだろうか。神は導くべき人のため、悪魔は墮落の道へと進ませるためとその目的は正反対だが」

「だらくって?」

「楽な道を歩ませてどうしようもない人間へと貶めるということだ。悪魔は兎角人間を駄目にすることに注力するとされる。悪魔との契約など正に人を破滅に導く最たるものだろう。厳格に契約を遵守するとも言われているが、元の條件からして破綻していることが多い。悪魔とは口約束だってしないのが賢明だな」

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「そんな怖いもんなのか? 悪魔って」

「まぁ、一般的な認識では? 宗教によってその有り様は様々に変化はするものの、大概は頭に『悪』が付くに相応しい邪悪な存在だと定義されてるからね。人をわし人を墮落させ破滅へと導く。善なる存在と描かれる神とか英雄なんかの対比ではあるんだろうけど、大はその格は殘忍で狡猾、人の苦しむ姿を眺めて愉しむ悪辣さを持っていると描寫されることが多いね」

「な、なんか怖いね」

「悪神とも悪霊とも稱される存在だからな。尤も、そんな悪魔への対抗策も全くない訳ではない。神の祝福を得た水や機、神の威を示すシンボルなどは悪魔を退けるだけの力を持つとされている」

「聖水とか十字架ですか。有名ですよね」

「あとはあれ、民間レベルですけど真名を知ることでも悪魔を支配することが出來るとか言いますよね」

「まなってなんだ?」

「真の名前と書いて真名だよ。名前ってね、そのものの有り様を示す源的な徴なんだとか。本當の名前を用いれば対象を支配することも可能だとする信仰が昔からあるんだよ。それは悪魔にも通用するとされていてね、だからエクソシストなどは悪魔祓いを行う際にはまず悪魔から名前を聞き出すんだって。真名さえ把握出來れば悪魔を退散させることも簡単に行えるって理屈だね」

「へー。悪魔の弱點は名前なのか」

「それなら、今回のことも簡単に解決出來そうだけど」

「いや、現実はそう甘くはないだろう。本場の悪魔払いでも名を聞き出すには主神の威を頼りに粘り強く渉を続けるという。我らは宗教的にもそんな後ろ盾などないのだから、名前の聞き出しは自力で行わなければいけない。かなり難しいだろうな」

「うぐ……。結局はそんなオチなのか」

を見出したと樹本は一瞬目を輝かせたりしたけど直ぐに否定されてがっくりきてる。

まぁ、それを採用すると悪魔とどうにかコンタクト取らなきゃいけなくなるから、それはそれで難題とはなるだろうけど。

「ま、何よりもまずは本當にこの鏡が原因、悪魔が実在するのか、その確認が先だろうけど」

「……うむ。もし本當にこの鏡が一連の運命の出會いを演出した原因であったとした場合、その機は何者かの願いを葉えるためという帰結に至る。永野君と朝日さんを的に結び付けるのが狙いであったとなるが……、またなんでそんな願いを……?」

鏡を真っ直ぐに見つめたまま先輩はブツブツ考察にり出す。れ聞こえる容に他三人の目が俺へと集まった。

「……よもや、真人」

「え、もしかしてそういうこと?」

「永野、こんな回りくどいことやらずに本人に告った方が絶対早いって」

「は?」

何かいきなり糾弾が始まった。檜山に至ってはなんの話だ。なんで黒幕か調べようから俺が告る話になってる?

「何言ってんだお前ら」

「いやだって、永野たちに起こったことって誰かが願ったことなんでしょ? 度重なる的ハプニングを誰が願うのかって考えたら……」

「それはハプニングに巻き込まれてる當人のどっちかという結論になるよね。だって付き合うための切欠がしいから、こんなイベントを何度も起こしてる訳だし」

「永野もちゃんと朝日のこと好きだったのか?」

「は??」

なんでこいつらいきなり脳なんかになった??

いや、待て。ちゃんと話は飲み込めてる。つまり怪しいのは俺と朝日のどちらかであってそしてその犯人は俺だろうとこいつらは言ってる訳だ。

うん。こんなに酷い冤罪の立もそうないよな。

「いや違うから。そんな願い頭に思い浮かべたこともないから」

「本當? 相手は朝日さんだよ? 真人もまんざらじゃないじ出してなかった?」

「出してるか。俺は周囲と朝日の目にビクビクしてたぞ」

「別に悪魔に願わなくたって永野ならいけるんじゃねぇの? 朝日だってきっと喜ぶぞ?」

「決め付けんなって檜山。お前のスタンスそれでいいのか? 俺冷や汗止まらないんだが」

「永野じゃないってことになると、じゃあ朝日さんが願ったってことになるけど」

「それは」

それは、どうなんだろうか。こんな胡散臭いものに朝日が関わるとは正直思えない。でも七不思議の時は積極的に占いには挑んでいたしなぁ。あの時は能井さんまで我先にと挑み掛かってたよな確か。

ん? あれ? なんか他にもこの怪談の検証の際にはあったような気がするが……。あー、駄目だ、なんだったか思い出せない。嵩原みたいにこの辺まで來てるんだけど出て來ない。ああ、この出そうで出ないじ気持ち悪い。

まぁ、何か切欠あれば思い出せると信じよう。そもそも四ヶ月も前のことだし。今は誰が悪魔に願ったか、そっちを気にするべきだ。俺に心當たりがないとなれば殘るは朝日だけになる。こいつらの理屈が正しいなら悪魔に願ったのは朝日ということに……。

「朝日さんにも確認は取った方がいいか」

「そうだね。一緒に七不思議を回った仲だ、もしかしたらという可能はあるだろうね」

「だなぁ。もし朝日が願って階段から落ち掛けたとかなってたら本人も凹んでそうだよなぁ。あいつ、永野を巻き込んだってかなりすまなそうにしてたし」

俺の決死の訴えが通じたのか、あるいは元からそう疑って掛かっていた訳でもなかったのか、気付けば俺放置で朝日への事聴取なんて段取り組んでる。こいつらなんか雑過ぎない? 人のこと黒幕の更に黒幕扱いしといてこの始末は酷い。

「會長、何か分かりましたか?」

「いや、これといって手掛かりは何も。やはり悪魔の存在を確認するには時間が早過ぎるのだろうね。前回の時のように夜中に鏡を覗くことが出來れば、あるいは」

「部室棟への潛は難しいですけどね。部活の一環という建前があるなら別でしょうけど、流石に今回は許可も下りようがないでしょうし。とりあえず今日は撤退しますか? どうやら重要參考人も浮き上がったみたいですし」

「參考人?」

「悪魔に願ったのは永野か朝日じゃないかって。で、永野は違うからそれだと朝日かなーって」

「ああ、なるほど。確かにその二人ならば機としても充分か。本當に願いを告げていたのなら、それが突破口にもなるかもしれないね」

先輩も俺らのどっちかが犯人説に納得してしまった。怪しいのは分かる。だって理屈が通ってるし。頭ごなしに「お前がやったろ!」と決め付けられるよりかはましか。

一応、日沒間近までは様子を窺ったりもしたのだが結局は空振り。悪魔との遭遇も存在確認も何も出來ないまま今日は調査打ち切りとなった。

もしかしてこの鏡が原因ではなかったりするのだろうか? 先輩が名を挙げた時はこれ以上はない正解だと思ったんだが。

「あ。そうだ永野君。君に渡したいがある」

暗くなった踴り場からの撤退時、唐突にそう切り出してきた先輩は一つのキーホルダーのようなを差し出した。手渡しされたは、暗い中でもうっすらと僅かなを反してある。

「なんですかこれ?」

「水晶さ。知ってるかな? 水晶には退魔の力が宿っていると言われている。悪魔によって翻弄されている君にはピッタリのお守りだろう」

「はぁ……」

つまり魔除けグッズ。昨日悪魔の鏡に思い至ったあと、用意してくれたらしい。

雑誌裏の通販のパワーストーン並みの胡散臭さをじるが、大こういう時は先輩は本気で気を遣っていると理解してるので有り難くけ取っておいた。徹夜して寢不足でふらふらな中で用意したとあっては無礙にも出來ないという事はある。

一先ず本日は解散。明日以降にまずは朝日に話を聞いてみようと決めて帰路に著いた。

で、翌日。朝日とのコンタクトは先輩に任せていたのだが、何やら連絡が付かないそうで。気になって教室まで見に行ったら昨日今日と休んでいるとのこと。

すわ何かあったのかと気をんだが、実は一昨日の階段落ちで足を捻挫していたらしい。怪我ないかってあんだけ確認取ったのに黙ってたんか! 怪我の程度は軽いそうで今日と明日と休めば來週には出て來られそうだと友人からは言われたそうな。

容態は気になるが休んでいるなら接のしようがない。事を聞くのはまた來週に持ち越しとなった。それならば本日もう一度また鏡見に行くかと、四人で話し合っている所にひょこりと能井さんがやって來た。

「あの……、今ちょっといいかな?」

不安そうに訊ねられるのに顔を見合わせる。明らかに何事か相談したい空気をプンプン匂わされればまた問題事かと構えもする。

「どうしたの? 子の間で変な占い流行った?」

以前、先輩への無遠慮な突撃が問題となった件を出して樹本がそう先手を打った。能井さんとは親しい方だが気軽に相談を打ち明けられる仲でもない。だからこその予測だったのだが、能井さんはふるふると首を振って否定してみせる。

「ううん、占いは関係ないの。その、梓ちゃんのことで相談があって」

「二岡?」

意外な名前が出て來た。能井さんから二岡の相談をけるとは珍しい。二岡と能井さんならば、こう言っては失禮だろうけどしっかりしているのは二岡の方だし。

子の間でならちょっとした相談事だって言い合ったりもするだろうけど、俺たち男子に頼るというのもなんだか変なじがする。一どんな相談なんだろうか。

「二岡さんがどうかした?」

「その、ね。なんだか梓ちゃん最近おかしいの。どこか気もそぞろというか、焦ってるじがして」

「焦ってる?」

ここ最近の二岡の様子を脳裏に思い浮かべてみる。

俺と朝日の噂が広まってからこっち、二岡は何か言いたげに見つめてくることはあっても直接と絡んでくることはなかった。俺も蔑んだ目をぶつけられるのも嫌なので、極力二岡とは関わろうともしなかったから今のあいつがどんな狀況にあるのかとかはよく分かってない。知らない間に問題でも抱えたか?

「険しい表することが増えたし、お話しててもこっちの話を聞いてないような時があるの。焦ってる、ううん、何かに追い詰められてるように切羽詰まったじがするんだ。私、心配で……」

しょんぼりと項垂れてしまう。今一要領は摑めないが、しかし二岡とは一番仲が良い能井さんがこうも悄げて主張するんだ、様子がおかしいのは確かなのではと思う。

「二岡さんには確かめてないのかな?」

「それとなく、悩みがあるなら相談乗るよ?って聞いてみた。でも梓ちゃん、なんでもない、大丈夫としか言わなくて……」

はぐらかされてしまっているらしい。こういう時の「なんでもない」、「大丈夫」ほど信用がないのはもう経験で知ってる。二ヶ月前は本當に大変だったからな。

「うーん、能井さんが聞いてその対応なら僕らにもどうにも出來そうにないなぁ。親しくはしてるけど、でも悩みを打ち明けてもらえる関係までは……」

「聞くだけ聞いてみようぜ! おーい、二岡さん!」

「どぅえぇっ!?」

樹本の慎重論なんて即座にドブに捨てた檜山が速で事を進める。とにかく行が先に來るような檜山でもこの躊躇いのなさは驚きが過ぎる。度肝抜かれてる間に二岡が呼ばれて來ちゃった。

「……何? どうかした檜山君?」

「なんか悩んでるらしいな! どうした!」

「直球にもほどがある!」

ワンテンポだって置かない檜山の特攻振りに樹本が嘆きの聲を上げた。こうまで直的に「悩んでるだろ」と訊ねられて素直に答える人間も珍しいと思う。

「……突然何?」

案の定警戒たっぷりの目でこっち見てきた。後先考えなさ過ぎるだろ檜山この野郎。

「えええっと、本當に突然ごめん。ただね、ここの所二岡さんが悩んでるようだって耳にしたから気になってね」

「え……」

どうにか誤魔化せないかと樹本は微妙に歪曲な言い方で以て答える。二岡は一瞬虛を衝かれたような顔をするも瞬時に當たりが付いたようで傍らにいた能井さんに視線を止めた。そりゃこの場に親友がいたらそこが発信源だって思うわな。

対する能井さんは若干の気まずさはじているようだが、でも余程二岡のことが気になるのか目を逸らすことはしない。

「梓ちゃん、この所様子おかしいから。何か酷く気に病んでるようで、私放っておけなかったの。だから皆に相談したんだ。梓ちゃんは困ってることがあるのかもしれないって……」

「三花……」

真剣に、真摯に心配だと告げる能井さんに二岡は困ったようにただ名前を呼ぶ。まぁ、ここで素直に認められるなら最初から頑なに否定したりはしないわな。

「困ってることがあるなら相談乗るよ? 一人で考えてもどうしようもないことも、二人で考えたら良い案が出たりするかもしれないよ? もし一人で抱えてるのが辛かったら、私一緒にいるから。梓ちゃんのこと一人ぼっちになんてしないから」

「……」

ここぞとばかりに能井さんは二岡へと強く踏み込む。折角の機會だから言いたいだけ言い切るつもりなのかもしれないな。こうやって面と向かって相手にぶつかっていける分、能井さんは強いなぁと他人事みたいにやり取りを見守った。

「……ごめん、三花」

果たして二岡の答えは拒否だった。

「なんでもないのよ。本當になんでもない。誰かに相談しないといけないようなことじゃないの」

「梓ちゃん……」

「でも、気に掛けてくれてありがとう。私のことを想ってくれてる、その気持ちだけで充分よ」

「……うん……」

く微笑まれて能井さんも引き下がった。言葉こそ優しいが、そこに隠されているのはい拒絶だ。見えない仕切りが二岡とそれ以外の間に打ち立てられたのが嫌でも分かった。

二岡がこうも能井さんを拒絶するのも珍しい。これまでのあいつは能井さんやクラスの子の味方として常に堂々と発言なりなんなりしてきた。

こんな誰も、親友のはずの能井さんさえ拒絶する姿なんて初めて見たといっても過言じゃないだろう。だからこそ、俺にも事の重要とやらが察せるもので。

「……お前がこんな頑ななのも珍しいな」

「……は?」

「お前はなんだかんだ能井さんを始め、悪意のない人間には甘い方だろ。それなのにそんな強な姿勢貫くってどうした。そんなに言い出したくないことなのか?」

わざと煽るように言ってみる。俺に対してはツンな態度取るのがこいつのデフォだ。ちょっと攻撃えてみればポロッと本音が出るかもしれない。

例え失敗しても、俺が煽った分れたその部分に能井さんがり込めれば上々。要はしでも心の隙間が出來ればいいんだ。

前にもこんなじで二岡怒らせてあとは能井さんに任せたこともあった。だから今回もそれと同じで事は運ぶと、そう思ったんだが。

「……っ」

怒りか、あるいは侮蔑でも向けて罵ってくるかと思った二岡は、予想外にも苦しげに表を歪めて言葉を詰まらせた。

「……あんたには……」

「……は?」

「あんたにだけは、言えないわよ」

溢されたのは吐き捨てるような突き放す臺詞。二岡はそれだけを口にするとふいと顔を背けて自席に戻っていった。何がそんなに気にらなかったのか、殘された俺たちは遠ざかる背中を見ていることしか出來なかった。

「……っ、梓ちゃん!」

誰より先に復活したのは能井さんだ。慌てて二岡の元へと向かう。俺たち男はそのあとに続くことも出來なかった。

「……どう、したんだろ?」

「真人が地雷を踏んだってことかな?」

呆然とする頭に嵩原のからかい混じりの臺詞が突き刺さる。確かに煽る意図はあったけど、でもあそこまでの反応がくるとは想像出來ないだろ。

俺の発言はそれだけ二岡の神経を逆でたか? 何が悪かった? 思い返しても、そう大した長さでもない臺詞に心當たりなんて思い浮かばない。

「永野」

グルグルと考え込んでる所に名前呼ばれて反で顔を上げた。俺を呼んだのは檜山で、凄く真剣な表なんてしてこっちをじっと見つめている。

「多分さ、あれ、二岡さん俺と同じだ」

「……え?」

突然の宣言に意味が分からずにただ間の抜けた聲が出た。檜山はそんな俺に頓著せず続ける。

「『鬼』ん時の俺と同じ。言いたいんだけど、でも言い出せなくなってるんだと思う。だから見捨てないでやってくれよ。勝手なお願いだけど、ちゃんと話聞いてやってしい」

語る檜山は真剣だ。いっそ無表にまでなって俺に頼み込んでくる。

どうして俺を頼るのか意味が分からない。樹本に嵩原の方が余程話を聞き出すのは上手いだろうに。

でも、檜山は檜山で何かを察したんだろうなとそれだけは分かった。

「……善処は、する」

檜山の気持ちは分かった。でもだからと快諾なんて出來そうにはない。二岡のあの強い拒絶。それを思えば、檜山の頼みはかなりの無理のあるものとしか思えなかった。

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