《高校生男子による怪異探訪》16.聴取

檜山から真剣に頼み込まれたのもあって、二岡に手酷く拒絶されてからどうにか話の切欠でもないかと様子を窺ってたがまぁそんなタイミングなんて摑めない。

元々コミュ障、そして今回は嵩原からの指摘もあったように俺が地雷踏んだがための冷戦狀態だ。どんなタイミングにどんな顔して聲なんて掛けりゃいいのか。相手が子ともあって中々上手くいかない。

「檜山の発言とは別に、早く仲直りはした方がいいとは思うな。永野は二岡さんとは仲良くさせてもらってるでしょ? 変に拗らせるのも寂しくないかな?」

「確か一年の時から一緒のクラスなんだっけ? 一々小言いってくるとか前愚癡ってたけど、真人は言葉足らずな所あるしその辺りをフォローしてくれてるようにしか俺には見えなかったけどね。他人をああも気にしてくれる子ってのも貴重だと思うよ?」

「縁切りの時とか心配してくれてたしなぁ。盜み聞きしてたんだっけ? そんなことまでやるくらいお前が凹んでないか心配してたんだろ? いい奴だし、出來れば話も聞いてやってしいな」

野郎共は概ね二岡の味方であってこんなじにせっついてくる。別に俺だって放置したくてしてる訳じゃないのに。

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ただ、こうあからさまに避けられてるというか、目も合わせてもらえないというか。聲掛けるのも勇気が要る狀況になってしまってどうしたらいいのか分からないというか。どうしよう、これ。

時間を掛けたら掛けただけ気まずくなる。分かってる、謝罪は時間を置かずに迅速にその場で行うのがベスト。機を逃しても早ければ早いほどベター。

人間関係の拗れはあとにばしても決して良い結果は招かないと、知ってはいるんだけどもぉぉ。

いや頑張って聲を掛けもしたんだ。一回腹括って勇気も出して。

「なぁ、二岡」

「(ギロリ)」

親の敵みたいな目向けられたよね。言葉も発さねぇの。目だけで「こっち來んな」って言ってきた。

そこまで骨に嫌ってくる? ハラハラと見守る能井さんの視線を背にけてこの時はすごすごと退散せざるを得なかった。

野郎二人には「ヘタレ」って野次られるし、檜山には「あー……、ドンマイ」って珍しく空気読まれてめられた。

お前らは基本子から嫌われることもないからそんな余裕あんだろうけどな、こっちはデフォの好度はゼロからのスタートであって、一度下がったらそりゃやり直すのも大変なのであってなぁ!

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格差による個人間の認識の違いについてあーだこーだと意見申し立てても全く響かない。「お前が悪い」の一言であっさりと打ち返されて終わる。その通りだからぐうの音も出ない。

「なんであそこで煽るようなことを言ったのか」

「あれだね、真人は煽りを説得の一つと見なしてる節があるよね。もちろん渉手段の一つとして相手のを煽るのは有効な手と言える場合はあるけど、普通の會話でやったら嫌われて終わるのは當たり前の帰結じゃない」

「それで俺もいろいろ吐き出せたんだからあんま悪くは言いたかないけどさ。二岡さん相手にはもうちょっと優しく言ってやった方が良かったんじゃないか?」

こんなじに正論でチクチクされる。檜山にまで諫められるとは思いもしなかった。

分かってる。俺が悪いのは分かってるんだ。本當安易に煽るんじゃなかった。ここまで拗れるとか想像の埒外過ぎた。

結局あ、あ、と躊躇ってるになんの果も得ないままに週が終わり、そして休日が挾まって翌週へと日付はいてしまった。

拙い。今週は祝日を挾んでとうとう修學旅行が始まる。実質的に仲直りする機會は今日と明後日くらいしかなく、もし失敗すれば喧嘩したまま旅行に突するという地獄の様相となってしまう。

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どうにか、せめて謝罪だけでも出來れば良かったのだが二岡全然隙がねぇ。手を拱いている間にも刻々と時刻は過ぎていった。

マジでどうしよう。理的に頭を抱える狀況にまで追い込まれたのだがそんな俺を更に追い込むか、あるいは気分転換になってくれるか、蘆屋先輩から朝日との話し合いの場が整ったという連絡が屆いた。

そういえば週が明けたら登校も出來そうとか言ってたんだっけ。二岡とのことも悩ましいがこっちだって無視は出來ない。晝休みにアポイントを取ったというので一も二もなくわれるままに快諾の返事を送った。

晝休みになるなりオカ研部室に移する。シンと靜まった部室棟での邂逅だ。

「やあ、久しぶりだね。怪我をしてしまったようだが、他は問題などはないかな?」

「はい。特にはありません。お気遣いありがとうございます」

らかな問い掛けに朝日も頭を下げて無事を報告する。數日振りに顔を合わせた朝日は気負った様子も見られないし、先輩に対しては平常と変わらない態度を取ってる様子。

それというのもついさっき朝日と対面した時のことだ。落ち合ってオカ研部室に行くぞということで、俺たちと朝日がまず先に合流を果たした。

怪我のことを黙っていたのもあって、ちょっと言い聞かせないと駄目かと腹に決めていざ立ち會いとなったのだが、そうして顔合わせた朝日の様子がちょっとおかしくなっていた。

「あ……」

會って早々、息を呑んで朝日はそっと目線を逸らす。気まずい、顔合わせたくないという心がけて見えるような態度だった。

他の誰でもなく俺を見てそんな風になるのに「え、二岡に続いてお前も?」と正直ショックけたよね。

度重なる偶然の所為か、いい加減朝日も俺に嫌気が差したのか。

真実は分からないが、それでも俺を避けたいという意思はじたために、言いたいこともフェードアウトして結局は言葉もわさずに蘆屋先輩の前に立った。

先輩には普通なんだなとそっと中で恨み言を呟いてしまったのもそれがためだ。

「さて、こうして朝日さんに來てもらったのは他でもない、君と永野君のに最近起こっている不可思議な現象に関して聞きたいことがあるんだ」

「……はい……」

前置きもさっさと取っ払い直ぐに本題に移る。朝日も當たりを付けていたのか、特に疑問も驚きもないようで粛々と聞きれてる。流石に朝日もおかしいとか思っていたのかもな。

「君は最近の異常についてどのようにけ止めている?」

「……どのよう、とは……」

「なんでもいいんだ。おかしい、とか偶然が続くな、とか。あるいはこのような狀況に陥る心當たりなどはないだろうか? もしくは他に何かおかしいとじるような異変などは起こっていないかな?」

朝日の例の鏡への干渉を確認するのが主目的であるが、先輩はさっさと問い質すこともなく迂遠に朝日の心探ってるみたいだな。

それが真正面から聞いても答えてくれないだろうという見切りでやってるのか、あるいは他に気になることでもあるのか。

頭の良い人間の思考なんてトレースも出來ないから黙って見守るしかないんだよなぁ。それでも先輩ならば任せられると、それくらいの信頼は流石にもう俺の中にもあるので口を挾んだりもしない。

黙って事の推移を眺めていたのだが、問われた朝日はその質問が契機であったようにざっと顔が悪くなったのでびっくりした。そんなに怯えさせるような質問容だったか?

「む? 大丈夫かい? 何か気を悪くするような質問だったろうか?」

「い、いえ……。なんでもないんです。気にしないでください」

「いや、とてもじゃないがなんでもないといった顔では……」

「本當に、気になさらないでください」

先輩も食い下がるが朝日も譲らない。なんでそう頑ななんだ? 先輩はあくまでジャブ的にしか話を向けてないはずなんだが。

「ふむ。……朝日さん、どうしても答えたくないなら答えてくれなくて構わない。ただ、気になることがあるなら話してもらえないかい? 私たちが何かしら力になれるかもしれない」

朝日の過度な反応から何かを察したか、先輩はアピールの仕方を変えて真剣な面持ちで朝日に問い掛ける。朝日への聞き取りが本懐であったはずなんだが、相談へと舵を切ったらしい。

朝日も真摯な訴えに迷う素振りを見せていた。視線が周囲を彷徨い、俺を捉えて一旦停止する。

なんだ? なんで見つめられてるんだ? 不思議に思い首を傾げてみせたら、パッと逸らして俯いてしまった。そういう反応されると傷付く、などと口に出す間もなく朝日は訥々と話し出した。

「……信じて、もらえないかもしれませんが」

酷く暗い聲が靜かな部室に木霊する。朝日はの前でぎゅっと両手を握り締めていて、力もかなりっているのか指先が白く染まっている。

華奢な肩だってこまらせて必死にを小さくさせている姿は哀れをった。何をそんなに怯えているのか。答えは直ぐ朝日自からもたらされた。

「……永野先輩とは、何度か奇妙な偶然が重なって最近はよく顔を合わせていました。始めは偶然も続くんだなって、あまり深くはけ止めてはいなかったんです。同じ學校に通っているなら、そういうこともあるだろうなって。でも」

そこまで語って一度深く息を吐く。余程言い難いことなのかな。雑然とそんな想を頭に思い浮かべて、続く言葉に耳を傾けた。

「でも、あの階段、私が、落ち掛けて先輩を巻き込んでしまった、あれだけは事が違うんです。……私、あの時、本當は背中から突き落とされていて」

朝日の告白にはっと息を呑む気配がする。俺も軽く驚くと同時にやはりと納得の言葉が脳裏に過ぎった。

やはり朝日はあの時突き落とされていた。無理矢理に運命の演出をけさせられていたんだ。

「あの時だけは違ってたんです。……私は誰かに意図的に落とされたんです。なんの意図で、そうされたのかは分からないんですけど……。だ、だから、先輩が階段から落ちそうになったのも、それは私の所為なんです」

「え?」

推測が當たっていたことの納得に浸っていた最中に、決死の覚悟を纏った論理の飛んだ主張が聞こえてきて思わず聲が出た。なんでそんな帰結になる。

「なんで朝日の所為になるんだ?」

「……え、だ、だって、私は突き落とされて、それは私に対して敵意があったからで、先輩は巻き込まれてしまったんですから、それは私の所為だって……」

「いやならんだろう。朝日は被害者だろうに」

何を明後日の解釈してるのか。自分を責める朝日にきっぱりと言い切ってやればポカンと驚きの表でこちらを見つめてる。

「あー、うん。朝日さんは思い詰めちゃってたんだね。安心していいよ。朝日さんは誰かに突き落とされたんだって、もう既に俺たちは當たりを付けているから」

「!? え、な、なんでですか!?」

嵩原が軽いじで告げてやれば目を真ん丸にして驚きをわにする。

思い詰め?と一瞬考え込んでしまったが、そうか、これ朝日の側に立てば自分の事に俺を巻き込んだって考えになるのか。俺たちは朝日を狙い撃ちにしたんじゃなく、俺とのセットでの襲撃だって見解が始めからあったのでどっちが悪いといった話にもならなかった。

運命的な演出云々知らなければそりゃ単なる悪意での階段落としだって思うよなぁ。朝日が願いを口にした當人ならともかく、『敵意』って斷言してるんだ、朝日は無関係と見て間違いないだろうな。

「永野がね、多分朝日さんは突き落とされたんじゃないかって疑ってたんだ。落ち方が不自然だったって。いろいろ狀況なんかも聞いて、僕たちは朝日さんは突き落とされたって結論に達してたんだよ。まぁ、本人に確認取ってないからあくまでその可能が高い止まりだったけどね」

「……」

朝日は何も返せずに口をポカンと開けて固まってる。俺らだけで話を進めていたからな。寢耳に水にも程があるんだろう。

「先輩は皆さん、知って……?」

「おうよ! 永野が多分そうだって言ってな! だから俺らもそれ誰がやったんだって調べてたんだ! だって放っといたら永野も朝日も危なそうだし!」

「あんまり怖いこと言わないの。朝日さんは階段だけは別件だと思ってるようだけど、俺たちの見解ではここ最近の真人との急接近の數々は全て一つに繫がってると睨んでるから。だから階段落ちだけが特別に起こった訳でもないんだよね」

「え!?」

更なる真実の登場に朝日の驚愕が止まらない。よく考えたらそこから俺たちとは見解も違ってた、というか事の何もかも朝日は知らないんだよな。

朝日も関係者なんだし、というか巻き込まれた側であるんだから報は共有しておいた方がいいだろう。

朝日が黒幕説が単なる疑いで終わってほっとしたような、一筋縄ではいかない展開になってきてげんなりするようななんとも複雑な心地だわ。

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