《高校生男子による怪異探訪》3.新たな兆し

方近況報告も終わりいよいよ以て特に意味もない雑談に流れようかという中、不意に嵩原がそうだと思い付いたじに口を開いた。

「會長さん、何か興味深い噂は耳にしていませんか? ちょっとここらでネタの仕れをしておきたいんですよね」

唐突に何を言い出すのかと思ったよね。さも都合が良いとニコニコ笑って訊ねる嵩原に視線も集まる。先程の諍いもあって樹本の目が怖い。

「ふむ? ネタかい?」

「ええ、そろそろ今學期も終わりを迎えようとしています。冬休みも近いでしょう? その冬休みの間に検証なり調査なり実施出來る噂はないかと思って」

素直に本意を語るもそれがまた迷しいな願だった。こいつは散々とあれな目に遭っていてまだ懲りないのかと。

「いや何言ってんの嵩原。僕らなんにも聞いてないけど?」

「それは當然だよ。だって現在は予定段階なんだから。詳しいことはこれから決めるんだよ」

「「決めるんだよ」、じゃねぇ。やっぱり俺らも巻き込むつもり満々かお前。毎度毎度言ってると思うけど、どうして俺たちをお前の趣味に付き合わそうとするんだよ。やるなら一人でやれよ」

「これまでだってなんだかんだ付き合ってくれたのに、今更になって突き放すのはないと思うよ? 三人共結局は楽しんでないかい?」

「楽しんでる訳ないでしょ!? 僕何度も拒否ってるよね!?」

強い否定も厚顔且つタフハートな嵩原には大して効きもしない。ニッコリ笑って軽くスルーして終わりだ。

あ、もうこいつの中では冬休みに予定組むのは決まってんだなとニコニコの不の笑顔見て察した。

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「あれ? もう冬休みも近い?」

「そうだよ。十二月の二十五日、クリスマスが終業式だね。それから來年一月の九日までが冬休みだ」

「あ! もう一ヶ月切ってんだ! やったー! 休み休み!」

「ふふ。夏休みと比べれば短い期間だが、纏まった休みであることは間違いないね。だがそれまでには期末テストもあることを忘れてはいけないよ、檜山君。丁度來週からだね」

「うわ……。テストもあんの忘れてた」

俺たちの仁義なき爭いの傍らでなんかのほほんとした空気流れてる。檜山も先輩も噂の検証は肯定派だから余裕もあんのがな。數的に不利なのきつい。

「ふふん。文句あるならここで多數決採ろうか? 會長さんもれれば奇數になるから丁度いいし」

「それもう出來レースじゃん! 會長含めるのは卑怯だよ!」

「多數決の原則悪用は止めろよ。それで文化祭では子の希に唯々諾々と従う羽目になったのを忘れたのか?」

「あー、盛り上がっている所悪いんだが」

樹本とタッグ組んで決死の攻防繰り広げてたら先輩から仲裁がった。先輩はどっちに味方するんだ!?とガッと振り向いた先で、その當人は眉なんか寄せて困った様子を見せていた。

「噂の提供はしたい所ではあるのだが、現在々錯綜した狀況にあってね。これだ、と言えそうな話は私からは伝えられそうにないのだよ」

申し訳なさそうに先輩が斷った。まさかの先輩からのNG。というか錯綜してるってなんだ?

「? 狀況的に無理、ということですか? 何か報制限でも掛かったんです?」

「……あっ、ひょ、ひょっとして役所から抗議が……」

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はっと真っ青になって樹本が不穏なこと呟く。え、今更抗議來た? お咎めなしだって代表者は言ってたはずなんだが。

「ああ、いやいや、外部からの圧力などではないよ。現在我が校では多數の噂話が日々人の口から口へと飛びっている狀況にあってね。それがために検証のしがいのある噂の提供には時間が掛かると言いたかったのだよ」

「噂話が飛びう?」

なんだそれと言いたい説明だな。元々、噂なんてそこらを好き勝手に飛び回ってるものじゃないのか?

「どういうことなの、先輩?」

「うむ、まぁ、これもまたムーブメントであるようなのだがね。君たちが旅立つ前にはスピリチュアルブームからの占いブームが校を席巻していたと思うが、それが今度は噂話ブームへと移行したという話なのだよ」

「噂話ブーム??」

またよく分からんムーブメントが巻き起こっているらしい。

スピリチュアルなんていうオーラ的なブームからの噂話ブーム。この學校はよくよくその手の話題が好まれるようだな。

「噂話ブームって、なんですかそれ」

「文字通りだよ。様々な種類の噂を追うことに皆夢中になっているんだ。噂の種類は問わないね。怪談、都市伝説、個人のや風評など本當に雑多な噂を日夜追っては多數と共有することに躍起になっている。君たち二學年の生徒以外は、だ」

詳しく話を聞いた所で完全に理解も出來ないぞ。

次なるムーブメントが巻き起こってることは分かる。流行なんてのは移り変わりの激しいものだから新たな波が立つのも納得するし、占い、というかコックリさんで本出したこちらとしてはとっととそんなブームは廃れてしいとむしろ願うほどだ。無害なものに取って代わってもらえればそれは正に僥倖というもの。

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でも、新たに臺頭してきたのが噂話? なんだってそんなのに夢中になる。というか流行りになるものなの?

「またどうしてそんな出刃亀染みたことが流行るんですか」

「切欠はなんだっかな? 確か最初に何かの噂が広まって……、そこから生徒の注目が噂そのものに集まり出したのだったか。気付けば皆が夢中になっていたので切っ掛けというものはちょっと思い出せないよ。ただ、流れとしてはスピリチュアルブームの時と似たようものであったはずだ。生徒の関心が注がれ、各々で調べたこと、見聞きしたことを共有するに大きな流れが形されるに至った。流れるプールでも始まりは人力なり電力なりでまずは流れを生み出すだろう? そしていざ水流が決まれば乗るのは容易くとも逆らうのはかなりの労力を必要とする。校でもそのような事の推移が起こったのだと思うよ」

「つまり、戦犯はプールの中をぐるぐる回り始めた人間?」

「「流れるプールやろうぜ!」と聲を上げた人間かもしれないな」

「それは亨かな?」

「俺? 俺流れるプールだと逆らって泳ぐの好き! めっちゃバタ足しないと流される!」

なんの話をしてるのやら。先輩としては分かり易い例えを出しただけのことなんだろうけど、それが原因で思いっ切り線した。

つまりは最初に余程関心をう噂が出て來たってことか?

「俺たち以外が夢中というのは?」

「君たち二學年が留守にしている間に広まったものだが、今では一、三學年のほぼ全員がブームを追っているんだ。占いブームも落ち著きを見せ始めていたし丁度転換期にあったのかもしれないな。現在は誰もが知らない最先端且つ興味の惹かれる噂を提供した者が一目置かれるようになっているよ」

「なんのカースト生み出してるんだろうか」

理解出來ないと樹本が眉間にシワ寄せて唸る。単なる流行りの中にまで優劣を決めに行かなくてもいいだろうにな。

まぁ、競爭が生まれればより苛烈にコンテンツにのめり込むことになるからきとしては自然かな? やってることはマスコミとそう変わらんけど。

で、流行り自は俺らが南國行ってる間に広まった、か。ムーブメントってこれが流行るの?と疑問に思えるものだって突然波に乗ったりするから噂話が対象となることもままある、のかね?

漫畫やアニメ、食べにちょっとした裏技とこれまでブームになったとか言われてるものと比較しても噂なんて明確な形してないのに夢中になるものなのか。

俺には理解出來んけど、當事者には當事者で何かしら心惹かれるものがあるのかもしれないな。

そこら辺は個人の自由だ。何を追おうと何を遠ざけようと、他人に迷掛けないなら勝手にすればいい。

そういうものだと思うが、でも、なんで選りに選って噂を主に選んだりしたんだか。その點がどうにも引っ掛かった。

「今一実態の摑み難い話ですけど、一応は報が次から次に集まる狀況であると考えれば有益にも思える、かなぁ?」

「俺からすれば非常に興味深いきではあるね」

「嵩原君や私のような者にとっては歓迎出來る狀況とも思えるだろうね。だが、実としてはそこまで都合良くもないようなんだ。オカルト関係の、纏めれば怪談や伝説、都市伝説の類は數こそ多いが大概がデマと相違ない中も薄い話に終始する。また出所もはっきりとはしておらず、この狀況下にて聞こえた噂らしく次から次に人の口を経由しているためにそもそもの噂の発端まで行き著くことも困難となっている。まだ場所や的な容が話に盛り込まれていれば良いのだが……、大は起點と結果だけで完結しているものばかりで検証しようにも報不足で手が出せないのだよ」

もやもやとした気持ち抱えてることなんざ、當然だが察知もされずに話は進む。

先輩はため息まで吐いて実に殘念そうなご様子だ。早い話が使えねぇとそんな評価なんだろうけど、まさか噂流してる當人たちも話の出來を批評されてるとは思いもしないんじゃなかろうか。嵩原まで眉顰めてる。

「それだと手を出すのは躊躇われますね……」

「ああ、実に殘念だがな」

「いや、検証しがいがあるかとか、そもそも噂は真実かどうかに焦點置いて話してる人間もそうはいないんじゃ……? 真偽不明だからこそ気軽に話せるという面もあるものでしょ、噂って」

「それもそうなんだが、しかしそれにしても々質の低さは目に付くぞ。まだオカルト関係は真偽の判斷が難しいこともあるから仕方ない部分はあるとしても、同時に流れる個人に関する噂もまた出所も不確かなものばかりのようで真実に乏しい。それこそ、単なる風聞の域を出ず中には中傷かと思われるような酷い容のものさえ見掛けられるんだ」

「え……。それはもう、噂の範疇からは逸してません? 中傷って……」

「ちゅうしょう、て?」

「人の名譽を傷付けるような酷い悪口ってこと。特に拠のない、つまりは事実無な言い掛かり、あるいは妄想の類を指すね」

首傾げた檜山が、嵩原からの説明けて更に理解出來ないって表した。中傷の意味が分からなかったんじゃなくて、あれはなんでそんなことをするのか共出來なかったって顔だな。

「ええ……。そんなことが楽しいのか?」

「そう思うよね? つまりは確信もなく人の悪口を言いらしてるってことだもの。これ大丈夫なんですか? やってることはそこらの週刊誌以上に下世話だと思うんですけど……」

「問題ないかどうかで語れば當然問題はある。中には心ない噂に曬されて人間関係が拗れてしまった生徒もいるとは耳にする。こちらも噂で伝え聞くだけだがな」

「実害出てるんですか!? いや、それも噂って……」

「噂は日々、処か數時間毎に更新されていくような狀況だからな。大して気にも留められなかった噂はあっという間に立ち消えてしまう。自分のクラスであるならば流石に把握は出來るが、これが他クラス、そして學年を越えるとなれば噂の容を一々確認を取ることもままならない。現狀はそれだけ大量の噂が現れては消えて行く有様なのだよ」

淡々と話す先輩だがその目には憂いが宿っているように見えた。校の荒れていく狀況を先輩も憂慮はしているんだろうな。

「そんなことになってても皆噂し合ってるんですか……?」

「ああ。むしろ加速する傾向も見られているな。興味の惹く噂を話した者が一目置かれると言ったと思うが、その『興味』にはセンセーショナルな容も當然のように含まれる。噂の正當、不當は問わない、ただそれを耳にする當人たちが興味を持てたのなら大々的に取り上げられるのだよ。どんな下衆、常識を疑うものであってもね。まぁ、私もその噂を収集する側にいるのだから人のことはとやかく言えないが、しかし噂の本質、ここに極まれりといった合だね」

含みのある言い草は先輩にしては悪的だ。自を噂する人間と同類だと斷じて皮るも、先輩と個人攻撃かます人間の間には結構な隔たりがあるように俺は思う。まぁ、外から見れば一緒くたにはされるのかもしれないが。

「聖も指摘していたけど、噂なんかは気軽に関われるからこそ皆安易に口にするのかもしれませんよ。お堅い講釈も必要とせず中の裏取りだってする必要もない。だってこう言って退けてしまえばいいんですからね、『風の噂で聞いたんだけど』て。どこかの誰かから聞いた話だと前置きをしてしまえば、広めても自分には大した責任はないと思い込むものなんじゃないです? だから皆マイナスな容だって躊躇せずに口に乗せられるのかも」

「ふむ。自との繋がりが希薄、要は他人事だと処理するからこそ起こる思考の鈍化が原因か」

フォローなんだかこれまた非難なんだか分からない論理を嵩原は飄然と語る。そして先輩も同意を返してる?

先輩の解釈は小難しく中々理解し難いが、つまりは責任の所在の欠如が原因だってことか? 自分に責任がないとなればやることが適當になるその心理は分からなくもないけど。

「それならばこの流れは中々止めることは出來そうにないな」

本にあるのは単純な好奇心でしょうしね。人が興味を持って関わろうと思うは流れを止めることも、まして消し去ることも無理でしょうね」

「反対に言えば興味さえなくなってしまえば消すのは容易だな。一番簡単なのは新たに別のコンテンツでも立ち上げてそちらに目を向けさせる、か。言うほど易くはないだろうがね」

二人でなんだか分かり合ってる。いや、言ってる容は理解出來るんだけども、本気で校の流れを変える気でいるんだろうか。

「なんだか難しいこと言ってる」

「二人共考察深めてるだけだからそう真剣に聞く必要はないよ。絶対この機に出來るだけ変な噂集めてやろうとか思ってるはずだから、本気でブームそのものを立ち消えさせようとかは考えるはずないよ」

こそこそと樹本が鋭い所突いてきたわ。

そうだよな。この二人が質はあれでも様々な噂が飛びうこの現狀を利用しないはずがないよな。なくとも嵩原はこれから本気できそうな気配出してるし。

「流石は樹本君。いい所を突いているね」

「俺のことも良く分かってるようで嬉しいよ」

「聞こえてた!」

話に集中してるとばかり思ってた二人も即座に反応してきた。

やっぱり本気でどうこうしようとは考えてなかったようだな。倫理道徳より己のを取るのか、と一瞬思い浮かんだりもしたけど先輩自そう簡単に片付くこともないと自答していたか。

「とは言えオカルト方面に絞ってもつまりは報はるけれども裏取りにも手間取るような真偽れた狀態にあるってことですね。これは俺もネタ探しが難航するかなぁ」

「うむ。迎合するのも躊躇われる狀況ではあるのだが、しかし中には々食指がく類のものもあるのは事実。そこでどうだろう。冬休みの調査予定に私も一枚噛ませてはもらえないだろうか。実は直ぐの紹介は難しくとも気になる噂というものが幾つかあってだね……」

「へぇ。詳しく聞きましょう」

「拙い、提攜が組まれようとしている」

「何故こうも人の予定というものには些かの配慮も示そうとしないのか」

「また皆でどっか遊びに行くのか? 楽しみだなー」

嵩原と先輩のタッグにこちらも樹本と協力して全力で抗っていく。今回の流行にはここにいる誰もが否定的な態度を見せていたと思ったのになんでその點で迎合なんてしてしまうのか。これでは本當にゴシップに群がる輩とそう大して違いもないように思えてくるんだけど。

自分から関わり合いに行く気はさらさらないから一緒くたにされるのは嫌なんだけど、でも、そことは別に『噂』に注目が集まってる現狀には複雑な気持ちを抱いてしまう。

『噂』と聞けばどうしたって思い出すものがある。一月ほど前のことだからまだ記憶にも鮮明に殘っている。『古戸萩の地で語られる噂はいずれ真実になる』という話だ。

宮杜から聞いたここの土地でやかに伝わってるらしい噂。聞いた當初はまさかと、そんな非現実的な話が有り得るはずないと否定していたが、でもその後の騒にこれまで検証と稱して様々な噂話を調査してきた験が、この噂が完全なでまかせであるとも否定をさせてくれない。

事には起點となる始まりが必ずしも存在する』。いつだったか先輩が言ったことだ。現実の世界では起こり得るはずもない、異常・怪奇・心霊とか稱されるこれまでの出來事のその発端は一なんだったのか。

文化祭の影は本當に逢魔が時が実化したものなのか? 照魔鏡は先輩の噓が真実になったのか? 夏休みに迷い込んだあの世界は言い伝えが形を取ったものなのか?

振り返れば疑わしい事象がころころと転がって落ちてるのに愕然としてしまう。否定したいのに、そんなことは有り得ないと聲を大にして言いたいのに。「もしや」が常に思考の傍らにあって完全否定の邪魔をしてくる。

本當に、噂が現実のものとなるのだろうか。いや、それはないはずだ。これまで遭ってきた異常なものも、全てそれぞれの理屈やルールで以て現象となって顕れていたんだ。噂から実化を果たしたんじゃない。元々実としてあったものが噂になった、そうに違いない。

そう思い込む。だって、そうでなければ。

に重い何かが確かに殘ってしまった。

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