《高校生男子による怪異探訪》6.標的

翌日、変わらず校も教室も靜かな騒々しさに包まれている。ブームが一夜にして去ったという都合のいい展開はなく、むしろより浸食は進んでしまったようだ。クラスメートのほぼ全員が嬉々として噂を語るようになってしまっていた。

休み時間になれば皆図ったようにグループを作り直ぐに顔寄せ合ってひそひそとやり出す。聞こえる話し聲はどれも伝聞形式の噂について。男子も子も、これが最先端の遊戯であるように笑みなんか浮かべて実に楽しそうに話し合っている。

何十人が飽きも途切れもせずに口をかしているというのに、遠いサイレンの音も問題なく耳に屆く。さわさわさわさわと、漣か葉れの音かといった小さな音の集合に似た囁き聲が、そのまま學校全を浸食していくようで正直気味が悪い。

「皆染まっちゃったな」

「これは見事だね」

教室で流行に乗り遅れているのは俺たち四人くらいなものだ。他の奴ら同様、四人で集まって沈んだ喧騒の充満する教室を眺めた。

「飲み込まれるのは本當に一瞬だね。皆の楽しそうなこと」

「楽しい、というかそれ以外に見えてないじだけどな」

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男子も子も団子かよといった風に上屈めて顔寄せ合う姿は他にはなんの興味も向けてないように見える。一応俺たちも周囲に合わせて噂し合ってる風を裝ってはいるんだけど、そんな偽裝も必要なさそう?

不気味だ。何故こうも皆が皆判を捺したように噂に夢中になる。嵩原が染したとか例え出したりしたけど、まんざら外れでもないんじゃないかと思えてきた。

同じ空間にいたらいずれ俺たちもこのブームに飲み込まれやしないだろうか。

「言っても嵩原だって積極的に混ざりには行ってるよね?」

「それはね。ネタ集めには今の狀況は都合がいいし」

「いろんな所に顔突っ込んでるよな」

「正に水を得た魚だよね」

俺たち四人の中では一番ブームに浸かっているだろう嵩原はまだ正常のようだ。と言っても嵩原は元々噂話を利用していたような奴だし、あまり変化の類はじられないのかもしれない。

オカルトに関する噂の収集を目的としているだけだから、それ以外の個人の噂を集め出したりしたら要注意かもな。尤も、嵩原がそこまでの浸食をけているなら俺たちだってどうなってるかは分からないが。

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噂し合う人間を眺めやり、それをネタにこっちもひそひそやり合うという不な行為で以て休み時間を潰す。

周囲が聲を潛めているために俺らまで靜かにしてないといけない空気をじてしまう。こうも周りが一となった空気纏っていると、それからはぐれてしまうのもいけないような気がしてしまうのが団のしんどい部分だな。

その上、この狀況下で変に悪目立ちするのは死活問題にもなりかねないとなれば、それは否が応でも息を潛めていかねばならなくなる。

冷靜に、頭では冷靜にそんな判斷だって下してはいるんだが、それで不満の全てが抑えられるはずもない。なんだって他人気にして窮屈な思いをしなければいえないのか。

早い所元の堂々と話の出來る環境に戻りたい。そうため息吐きながら授業と休み時間を繰り返し、そして四時間目も無事終えた晝休み。飯食ってんだか噂話してんだか分からない円陣がそこらで組まれた時から流れが変わってきた。

見られてる。なんか知らんがすっごい視線をじる。弁當広げてエネルギー補給だと箸進めてる間もじっと刺すような視線を教室のあちらこちらからじた。

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どの視線も好意的とは程遠い冷たく固い針のような鋭さを孕んでいる。それが四方八方、ひそひそ噂話してるクラスメートからチクチクチクチク発されているのだ。

何これ? 気の所為じゃないよな? ちらっと目だけで周辺を探れば、正に親の敵を見るような顔したクラスメートがいることいること。

どいつもこいつもこっちを睨み付けているんだけどこれ俺に向けられてるよな? 他三人は訝しむ様子はあっても切迫といったものは纏っていない。

俺だけまるで吊し上げ食らってるような圧力が生じてるんだけど、マジでなんでこんな敵意向けられてるんだ?

見える顔はどれも非難やら侮蔑やら浮かべた非常に厳しいものばかり。

そんな顔を向けられる心當たりは特にない。つい一時間前までは噂話の影に隠れて存在自そう意識もされてなかっただろうに、なんだってこんな急激に皆の態度が変わったのか。

そこまで考えてはっと思い付くものがあった。でも答えを出す前にクラス男子が徒黨を組んで眼前にまでやって來てしまった。

「ちょっといいか、永野」

傍まで寄って來て俺を呼ぶ。やっぱり俺がターゲットかよ。不穏な空気纏っているのに樹本たちも何事だと目を剝いているのが視界の端に映った。ピリッとした空気が周囲に広がる。

「……なんだよ。そんな大人數でどんな用だ」

見れば十人という団さんでの聲掛けだ。どいつも般若もかくやといった恐ろしい形相で俺のことを睨んでいる。

単なるクラスメートに向ける顔じゃないだろう。本當に何がどうしたっていうんだ。

「今、お前にはとある嫌疑が掛けられている。我ら男子にとっては裏切りに等しい重大な罪狀だ」

すっと一歩前に出て來るなり大仰によく分からないことを言ってきた。警察か検察かといった言い回しを披したのは池。文化祭の何やるか會議で熱弁振るった姿を思い出させる振る舞いにちょっとだけ肩から力が抜ける。

「罪狀ってなんだよ。俺は何も悪いことはしてない」

「お前に掛けられた嫌疑! それは『嵩原たちを利用して可の子たちと出會う機會を不正に得ている』疑だぁ!!」

「……は?」

最早絶な宣言に脳が理解を止めて止まる。

今なんつったこいつ。嵩原たち利用して、それでの子どうこう……、は?

「何言って」

「『嵩原たちを利用して可の子たちと出會う機會を不正に得ている』疑! つまりお前は二學年処か我が學校でもトップを占めるモテ男たちと狙って親を深め、そいつらが持ってるコネクションをのままに用して多數のレベル高い子とお近付きになってる疑が持たれているんだよ! 何一人だけ味しい思いしてる貴様ぁ!」

「何言ってんだお前頭大丈夫か」

何その疑。俺が子とお近付きになりたいがために嵩原たちに近付いたって?

んな訳あるか。こいつらから子紹介されたのなんて一度も、あ、蘆屋先輩がいたか。でも先輩とは付き合う以前のモルモット的出會いでしかなかったけど。

「え、待って。なんでそんな疑出てるの? 永野はそんな下衆な人間じゃないよ」

とんでも宣言に俺と同じく固まってた樹本たちも遅れて再起してきた。流石に池の発言を鵜呑みにはしてないようで、慌てて否定してくれるのにこっちも冷靜さが戻ってくる。

「そうだぞ。永野が嵩原たちに誰か紹介してくれとか言ってる所なんて見たことねぇぞ」

「本人は結構デスコミュニケーションを貫いてるから、俺たちを利用しようとする処かそういったことからは自ら避けに行ってるのが今の所の実だね。真人はヘタレな所があるから」

「おい嵩原」

次々に本人たちから否定の聲が上がるも嵩原だけなんか違う。いやその通りだけども。

なんでこいつらに群がる子と仲良くしなけりゃいかんのか。イケメン目的の子が俺のようなフツメンを相手にするかって話だクソ顔面格差社會めが。

「當人たちからは否定の聲が上がってるが?」

「そもそもなんでそんな疑がいきなり浮上してるの。永野が派手に遊んでる姿でも目撃された?」

「真人が派手にとか……、くくっ」

「嵩原何笑ってやがるてめぇ」

「派手な遊びってなんだ? 數十人でケイドロでもしたのか?」

「それは派手の意味が違う」

「噂だ!!」

雑談に流れていた話の向きが別男子によるびで以て軌道修正された。佐伯の奴がやっぱり般若みたいに目を吊り上げて俺を睨み付けているが、お前もか文化祭死コンビ。

つい胡な目をしてしまうが、だがこいつなんて言った?

「噂?」

「そうだ! そのような噂が現在校では囁かれている! 的には『二年永野真人は校でも有名な形三人衆に寄生し、その人気・コネのお零れを一けている』というものだ! 同級生を利用するとは非道なり、永野!」

「はあぁ?」

何言ってんだ本當こいつら。

噂だぁ? そんなも葉もない噂が校に流れてるって? いや、正に寢耳に水なんだけど。なんだってそんな噂がいきなり……。

あ、いや。これあれか。俺承認求満たしたい野郎のお眼鏡に適ったとかそういうことか!? 容としては下衆極まりない最低野郎が校の有名人を巻き込んでるとか大衆の興味惹きそうなじだし、どこぞの野郎の踏み臺にとうとう選ばれたってオチかこれ!? もしくは俺にやっかみ向けてた誰かの仕業の可能もあるかもしれないが、どちらにせよこれは最悪だ!

「いや待て、そんな事実は一片たりともない」

「お前狡いぞ! 俺たちが普段どれだけ嵩原たちを利用したいなーと願いながらも人道に悖ることだからと我慢してると思ってんだ!? お前だけご利益に肖ろうなんて卑怯千萬!」

「いやだから、俺がこいつらを利用した事実なんて全くの無

「そうだそうだ! 結局文化祭でも忙し過ぎてナンパ処じゃなかったから俺たち全く恩恵なんて得られてねぇんだぞ! お前だけ狡い! 卑怯者! お前自モブ中のモブの癖に嵩原たちの中に紛れ込んでるのがそもそもおかしいんだよ! どうせキャーキャー言われてるこいつらの側に立って、自分も人気者になったとか悅ってたりしてんだろ! はい殘念! どうせどこまで行ってもモブはモブ、非モテは非モテなんですー! ヴオォー!」

「違うっつてんだろ! っていうか泣いてんじゃねぇよ池! 自分の言葉に傷付いてんじゃねぇ! 面倒臭ぇな!」

もうカオスだ。俺を貶し、文句ぶつけて、それと共に涙流す野郎共はさっぱりと俺の話を聞く気がないらしい。

元より、噂話に嵌まってる輩がその真偽については大して気にもしてないことは分かっていたんだが、それにしたって暴走し過ぎだろこいつら。どんだけ俺羨んでんだ。事実無なのに!

教室中から向けられていた敵意の視線はこの噂が原因か。男子勢が敵視する理由は池と佐伯の獨白で大は理解出來た。

子は、嵩原たち使っての子との出會いを畫策してるってのが引っ掛かったのか? だからそれ噓なんだけど!? 思いっ切り否定したのに向けられる視線の溫度は変わりなくてちょっと泣きそう。

今の噂信じ切った子からすれば、俺は目の保養に集る小バエ程度の存在に格下げされていてもおかしくない。あの能井さんまでも軽蔑しきった目を向けてるのに地味に傷付いた。

くそ、変な噂ばらまかれたりしないよう辺に気を付けようとか思っていた矢先にこれだ。でも正直これは躱しようなくない? 嵩原たちと縁切ってれば良かったのか? どう考えたって事前に対処出來るようなもんじゃないだろこのとばっちり。

「我らにも平等な機會を!」、「今一度全男子參加の大規模流イベントを!」などととうとう己の剝き出しの訴えなんざ口にし出した。

現在尚向けられたままの視線の、何割かは俺ではなくこいつらへの蔑みになってんじゃないだろうか。まさか同類と思われていたりするか? それはび回りたいほど嫌だ。

「ちょっ、落ち著いて、落ち著いて! 違うから、噂にあるようなことはないから!」

「永野はそんなことしてないっての! お前ら噂鵜呑みにし過ぎだって! 俺ら違うって言ってんじゃん!」

「いやはや、これはもう暴に近いかな。げに恐ろしきはモテない男の嫉妬だね。己のが強過ぎて周りの聲も耳にってないらしい。正直、今の狀況だとやり合うだけ無駄に思えるね」

ワーワーギャーギャーと騒がしい諍いは教室外にだって余裕で響いてることだろう。これ以上の騒ぎは俺にとっても歓迎出來ない。

結局、男子子両方からの圧力に屈して俺は樹本たちを道連れに教室から一時避難をする羽目になった。

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