《高校生男子による怪異探訪》8.不穏な足音
嵩原の不吉な予言は當たってしくないのが本音だが、しかし可能としては充分に高い。
今後も全くに覚えのない酷い噂など流布したらどうしよう、俺はもちろんのこと樹本に檜山も真剣に頭を悩ませて対策など考えてくれたのだが良い案は浮かばず、結局晝休みも終わるからと仕方なく教室に戻ることとなった。
帰る道中も俺の顔と名前を知ってる生徒からは白けた目を向けられ、そして教室では変わらずの敵意が全に向けて放たれる。
居心地は最悪ながら男子が冷靜になったのか凸して來なかっただけマシかな。まぁ、激しく糾弾されるか靜かに蔑まれるかの違いでしかないけど。
午後の授業、放課後と、まるで針の筵な無言の圧迫に曬され続けた一日をどうにか終えて、そして明くる日。
一日経ったのだからしは沈靜化してたらいいなと、そんな自分でも都合良過ぎる願抱きながら登校したその昇降口で、沈靜処か更なる悪化を迎えたらしい現狀を朝も早くからで理解した。
見られてる。それ処か傍通るだけでひそひそされる。登校時間ともあって一年から三年と雑多に生徒が混じり合う下駄箱前で、昨日も験したあの敵意バシバシの視線を俺は全に浴びることとなった。
とんでもない歓迎だよ。マジで先っぽ尖ってないかと思えるほどの鋭い視線を四方八方からじる。どれもが敵意に溢れていて、これだけで自分の悪評がもう校全域に浸してしまっている事実を悟った。
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噓だぁとマジかよという現実逃避を繰り返しながら人目集まる廊下を行き、そして教室へと辿り著けばここでも変わらない敵意の集中攻撃をける。昨日よりも視線の圧は上がってる気がする。
人が室するなり骨にひそひそやり出すクラスの奴らを後目に自席に座る。流石にまだ機やら持ちやらに手を出す域には達してないようだと、なんの変哲もない機周りを確認してほっと安堵していたら慌てた様子の樹本がパタパタ教室にってきて俺の所までそのまま駆け寄ってきた。
「な、永野、今ちょっといい?」
朝の挨拶もなくいきなりお伺い立てに來たことから余程急ぎの件なのだと察する。一も二もなく頷けば周囲を窺いながら顔を寄せてきたのでそっと耳を傾けた。
「また、新しい君の噂が流れてるようなんだ。容は『一年の朝日春乃に強引に迫って無理矢理人関係に収まろうとしてる』っていうの」
小さく囁かれた報告は昨日の噂の更に上行くとんでもない代だった。
「はっ!?」
「しっ! 変に騒ぎ立てると周囲を刺激しちゃう。今度はより明確な被害者像が描かれてる分、君へのヘイトが昨日の比じゃないくらい高まってるの。下手すれば暴力行為に走る人間も出て來そうなほど校ピリピリしてる。教室來るまでにも予兆じたりしなかった?」
思わずと驚愕の聲上げたら瞬時に樹本に諫められた。下駄箱前からけてた視線はこれが原因かよ! 昨日の今日でなんでより悪化した虛偽話が広まるんだよ! マジで俺を恨む誰かの謀だったりするんか!?
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「いや、めっちゃ睨まれ続けた。一年も三年も皆同じじだったんだけど、これひょっとして全學年に広まってる?」
「殘念ながら……。僕も學校に來てから異変には気付いてね、まだ軽くしか報収集は出來てないけど二年だけでなく他の學年でも噂が浸してるのは確認してる」
最悪だ。一年子に懸想して無理矢理に迫る二年男子生徒とかもう字面があかん。事実無なのに。事実無なのに!
「なんだってそんな噂が流れる!」
「それは僕も聞きたいよ! でも、嵩原は昨日の子漁りしてるって噂に紐付けて朝日さんとのことも持ち出す輩がいるんじゃないかって言ってたし……。まさかの的中しちゃったじ?」
「……嵩原が黒幕とか言わんよな?」
「推測で碌でもない予想立てるのは噂に騒いでる人間とそう大差ないから止めといた方がいいよ?」
現実逃避から思わずすこんと出たぼやきに対してまさかの返事が。目をやれば嵩原がやれやれとお得意のポーズして立っていた。
「いたのか」
「おはよう二人共。朝から會染みた真似してるなんて怪しさ発だよ?」
「その文句は大概の生徒に突き刺さると僕思うな」
軽くジャブやり合ってからケチ付けていた嵩原もえて話し合いを続ける。
「それで? 君のことだから狀況把握はばっちりと見てもいいのかな?」
「狀況? 真人に新たな最低な武勇伝が出來ちゃったこと? それとも可憐な一年生に下劣な真似した上級生として方々のブラックリストに登録されちゃったこと?」
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「丁寧な解説痛みるな」
敢えて惚けて俺の窮狀説明するとかなんの嫌がらせだ。俺の神を削るのがそんなに楽しいのか?
というか武勇伝じゃないし! 全くに覚えのない悪評だから!
「嵩原的にはどう見てる? どうしてこんな噂流れたんだと思う?」
「昨日も言ったと思うけど、真人のの子とお近付きになりたいっていう虛偽報に合わせる形で朝日さんを取り上げたんじゃないかな? 真人と朝日さんの関係を揶揄する噂は元々校には流れていた訳だし、それをちょっと実は無理矢理だった、なんて方向に歪ませるとなんと昨日の噂と合わせてより最低な男が誕生する訳で」
「その最低な男にさせられてる當人いるんだから、もうちょっと気ぃ遣えよお前」
俺の顔どんどん悪くなってってるのも視界にってないのかこの男は。
「そうなると、この噂ばらまいた人間の狙いは永野を窮地に追い込むこと? 怨恨からの犯行なのかな?」
「その可能は高そうだけど、容は校の有名人も含めたスキャンダラスなものになってるからね。決め付けるのは早計だと思うよ。噂の伝播速度を考慮にれると功名心に逸った人間が注目集めるために広めた疑いは拭えない」
つまりは現在、俺は個人の恨み抱えた怨恨野郎か、あるいはこれを機に一躍有名になってやると勢い込んでる虛言野郎に狙われてるってことかよ。迷極まりないんですけど。
「んー。まだ怨恨なら犯人の炙り出しは出來そうかなって思えたんだけど、一目置かれたいって人間だと機からは繋がりも探れそうにないね」
「もしかしたらハイブリッドなパターンもあるからまだ分からないよ。まぁ、どちらにせよ思は見事果たされたんだから今後も新たな噂を作られないとも限らないよね。真人、何か他に関係でネタになりそうなものってある?」
「ネタとか言うな。もう一度言う。ネタとかそれっぽい発言を俺に向けて言うな」
々敏になってるようで脊髄反で文句が口から飛び出る。というかいきなりなんてことを聞いてくるのか。ぶわっと背中に冷や汗が浮いたわ。
ひそひそ顔寄せ合って話し合ってる、その樹本と嵩原の隙間の向こうに同じように塊になってる子のグループが見える。そのグループには能井さんと、そして二岡の奴がいた。
関係、と言えばなんだか爛れたような響きであるが、二岡とのあれこれもこれに含めて考えるべきなんだろうか?
いや、事自はもう一応の決著は付いている。別に他人にとやかく言われるような問題がある話……、ではないよな?
ちらっと、ちょっとだけ覗くあいつの橫顔を眺めて考える。二岡はこの噂をどんな気分で聞いてるんだろうか。子目當てに嵩原たちに近付いたとか、朝日に無理矢理迫ってるとか幻滅するには充分な容だよな。
そもそも周りの奴ら同様に信じているのか? あいつは嵩原と同じで冷靜な奴だから、ただの噂を簡単に真実だと思い込むこともないと思ったのだが。
俺自、二岡を避けてる所もあってあいつがどんな目で俺を見ているのかも確認出來ていない。周りと同じで蔑んだ目をしてるのか、あるいは敵意滲ませて睨んできているのか。二岡にまで最低野郎のレッテルられるのは、ちょっとしんどいかもしれない。
「おーっす! 皆で何話してんだ?」
「わっ! あ、檜山か。おはよう」
モヤモヤと晴れないを持て余していれば、そんな俺とは正反対の快活な聲が場を明るくさせる。本日も元気一杯な檜山の降臨だ。
まだホームルームまで時間あるのに今日は早いな。
「おはよう。亨、今日は早いね。日直だった?」
「うんにゃ。ただ永野心配だったから早めに出て來た。昨日の教室の空気ヤバかったし、他クラスの奴も何するか分かんなかったから。大丈夫か? 永野、イジメられてないか?」
「檜山……!」
お前、いっつも遅刻ギリギリの癖に俺のためにこんな早くに學校來てくれるとか聖人かよ。周りはあれだし、嵩原からはチクチク弄られてたりで傷付いた心にその優しさが本當沁みる。現在の俺の味方は樹本と檜山しかいないんじゃないか疑。
「イジメ……。噂流されるのもイジメみたいなものかな?」
「なんとも。怨恨なら明確な敵対行為だろうし、功名心しさなら名譽毀損かな? 尤も、噂鵜呑みにした人間がイジメ行為を始めないとも限らないけど。亨の懸念は正しいと言えるね」
また俺にとってしんどい未來を予測する。いや、最悪を想定してシミュレートしてるのであって俺への悪意のみで口にしてる訳ではないと理解はしているが。
しかし俺追い込まれ過ぎじゃね? なんで修學旅行から一週間足らずでこんな崖っぷちまで追いやられているんだよ本當。
「……なんか、また教室の空気変わってね? 皆の顔が凄く怖くなってんだけど」
「ああ。それはだね……」
訝しげに教室を見回す檜山を円陣に組み込み、一通りの現狀を説明。朝日の名前も出て來たことに檜山はぎゅっと眉間に深いシワを作って嫌悪を表す。
「なんだその適當なの。朝日まで巻き込んで何噓並べてんだ」
「真人の好きを肯定させるには良い対象だったんじゃないかな? 実際に二人が校で接している姿は大多數に見られていた訳だしね」
「だからって永野が無理矢理ってなんだよ。これ朝日のことも悪く言ってるだろ。本當の二人の関係も無視して何言ってんだ」
檜山の奴は予想以上に嫌悪を見せている。指摘通り、朝日までも上級生に言い寄られてるって醜聞広まってるからな。昨日のこいつらに近付いた理由云々と比べても、朝日の方は評判に傷が付く恐れがあった。
「……これ、朝日さんにも注意警戒促した方がいいかな? 今後も永野が槍玉に挙げられるとして、その相手か比較対象にされる可能は充分考えられるよね。朝日さんに直接的な悪評が被せられたりするとは思えないけど……。いや、彼も有名人の一人だし、勝手な噂の対象になる可能は高いか」
暫く厳めしい表で何事か考え込んでいた樹本が、そう朝日に降り掛かる懸念を告げてきた。俺も檜山の発言で思い至ったんだが、確かに朝日の辺周りも気になる。
「うん。有り得ない話ではないよね。真人との噂がどう彼に影響しているか、確認は取るべきかも」
「本人訊ねに行くか?」
「いや、あまり目立った行を取ると噂を煽る結果になるかも。なくとも僕らが行くのは駄目だね。昨日の噂と合わせて永野への邪推が激しくなる恐れがあるから」
「じゃあどうする? 誰か連絡取れる奴は……」
「それこそ真人は知らないの?」
「お前のように誰もが気軽に子相手に連絡先換を願い出られると思ったら大間違いだからな」
「なんで俺今叱責されたの?」
誰もがお手上げだ。嵩原までも未だに連絡先知らないのは意外と言えたけど、こいつは簡単にナンパはしても子相手に無理強いは絶対しないのでそれでかね?
「どうしよう?」
「他に知ってそうな奴かぁ」
「……ああ。二岡さんたちはどうだろう? 何度か顔も合わせてるし、仲良くしていたようだから連絡先も知ってるかもね」
「あ! そうだね。確かに可能はありそう」
ここでまさかの名前が出て來た。この流れでそうなる? いや、順當かなとは俺も思うけど。
「そうとなったら早速……」
「接するにも慎重に行こう。出來れば二岡さんと能井さんだけの時に話は持ち掛けたいね。僕らのきが別の噂発するのはなるべく避けたい」
「そうだね。目立ったら意味がない。……で? 真人はどうする?」
「え!?」
思わずと聲が裏返った。三人共キョトンとした顔でこっち見てる。拙い。めっちゃ不意を打たれた。
「ど、どうするって、何が?」
「……一緒に二岡さんたちに頼みに行くかって話。ついでにあの二人には噂は誤解だって弁解する? まだ信じてくれる芽はありそうだからさ」
キョトン顔からポーカーフェイスへと移行した嵩原がそう提案してくる。真っ直ぐ向けられる目に張で悸も速まるが、どうにかここは誤魔化さないと。
「い、いや、噂を信じ込んでるなら俺が一緒に行くのは要らない警戒心を煽るかもしれない。弁解だけならまだしも、朝日との連絡を取るってのが本題なら今はそっち優先させた方がいいんじゃないか?」
「……そう? まぁ、誤解解くまでは大変かなとは思うけど」
「そうだろ? 最悪は朝日への伝手だってなくなるかもしれない。だからここは俺は引っ込んでいた方がいいと思うんだよ。なんなら、まずはお前らの口から噂は誤解だって言ってもらえると助かる。本人以外から否定の聲が上がれば、そのあとの弁解も聞き屆けられ易くなるんじゃないか?」
ない頭捻ってどうにかそれっぽい理由付けて同行を拒否した。説得力はある、よな? まだ二岡とどんな顔して會えばいいか覚悟が決まらないんだよ。ヘタレだな、俺。
「……」
「う、ん。まぁ、それもそう、かな?」
「永野も噂は間違いだーって言いに行った方がいいと思うけどなー」
無難な解答、だと思ったんだがなんだか三人の反応は今一だ。そんなに苦しい言い訳だったろうか? なんとも気まずい空気が俺らの間に漂う。
結局は自分の意見を押し通し、三人だけで二岡たちとは接してもらった。その姿を見送って、気分も落ち著いた所でそういえば先輩なら連絡先知ってるじゃんと思い出したのは後の祭りだった。
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