《高校生男子による怪異探訪》10.崩壊

俺と二岡が付き合ってる。

また俺と子との有りもしない関係をでっち上げてのも葉もない噂が流布された訳だが、そこでなんだって二岡を登場させたのか。あまりにあんまりなキャスティングで意識がどこかに飛んで行きそうになったわ。

「どういうこと?」

低い責めるような聲を掛けられてはっと我に返る。目の前にはやはり厳しい表のままの三人がこちらを睨んで立っていた。

て、え? なんでそんな顔をする?

「は、え? ど、どういう?」

「今回の噂。二岡さんとはそんな関係にあったの?」

「はっ!?」

え、信じてる? いや、俺が誰かと付き合ってるように見えるのかよ。そもそも二岡とはここ一週間まともに顔だって合わせてないのに。

「そ、んな訳あるか! 二岡とはただの同級生以上の関係はねぇよ!」

「だったらここ最近の君の二岡さんへの態度は何? 明らかに彼のこと意識していたようだけど」

「っ、それはっ」

それは、挙不審気味ではあったかなと思わないこともないが、でもだからってイコールで噂の肯定にはならないはず。

「態度がおかしいからって、それで直ぐに実は付き合ってた、なんてことにはならねぇだろ。そんなのなんの証拠にも」

「同時に信憑高そうな目撃報も出回ってるんだよね。先月の終わり頃、祝日前の、月曜日かな? その日の夕方に君と二岡さんの二人が寄り添って校を歩いている所を見掛けた生徒がいるらしいんだよね。まるで人みたいな距離だったって話だけど?」

Advertisement

提示された証言は充分に心當たりのあるものだった。あの鏡の所からの帰り道か! 誰にも見られてないと思っていたんだが目撃者いたのかよ!

拙い。形勢がかなり悪くなってしまってるのが分かる。

「……その日って、會長と一緒に鏡を見に行って、それで皆で帰ろうとしたら君だけ校舎に戻って行ったよね?」

「なんの用事かって思ってたけど、二岡さんと會ってたんか?」

「人気のない放課後の校舎で二人っきりで逢い引きしていた訳だ。意外と、真人も隅に置けなかったかな?」

拙い、どんどんと狀況証拠が積み上げられていく。このままだと本當に俺と二岡が付き合ってることにされかねない。

「待てって! んなのその目撃報からして噓臭いじゃねぇか! 今の學校でどれだけ虛偽報流れてると思ってんだ!」

「明確な日時に時間、更には実際に真人がその時間に校舎にいることは証明されてるのに、それでも全くの狂言だって言いたいの? ちょっと苦しいね」

「ちなみに二岡さんもその日は部活を休んでることは確認取れてる。二人が會っていた事実を覆す、客観的な証拠はないってことだよ」

焦って否定するも理論武裝も完璧な二人にさっさと論破をされてしまう。二岡の方の行も把握されてるってなんなんだよ。ゾッと背筋に寒いものが走る。

Advertisement

一つのデマカセを補完するように続々と報が集まってるのが、穿った目線なんだろうけど恣意的な展開に思えてならない。

「永野は二岡さんと付き合ってたのか」

最早疑問調でもない斷定で語ってやがる。なんでそう決め付ける? 報は、確かに噂に寄ったものばかりだけど、當の本人の俺がこうも否定してんのにどうしてこっちの言い分は信じてくれないんだよ。おかしいだろ。

「違う! 噂は全くの出鱈目……っ」

「じゃあなんで二岡さんを避けてるの。君の態度はおかしいよ」

「朝日さんとのこともあるからね……。まさか、二岡さんから朝日さんに乗り換えたってことも……」

「!? てめ、嵩原っ!!」

言うに事欠いてなんてこと口にしやがる! カッとなって怒鳴り付けるも、返ってきたのは実に白けた三対の目だけだ。

「そんなことを言われても仕方がない狀況にあるんだよ、永野」

諭すように、いや、見放すように樹本が冷めた口調で言い放ってくる。なんで、昨日までは噂なんざ信じもせずに俺の味方をしていてくれたのに。

ガラリと変わった三人の態度にぐっと奧から迫り上がるものがあった。このまま何も考えずにそのまま喚き散らしたい、そう思うも、でも瀬戸際でどうにかその衝を抑え付ける。

落ち著け、こいつらが俺に不信の目を向けるその理由はなんだ? 噂、それに目撃報とあとは俺の二岡への態度を挙げていたか。噂に目撃報は俺は否定することしか出來ない。でも二岡への態度はまだ説明が出來る。そちらからどうにか疑いは晴らして行くしかないか。

Advertisement

あまり他人に明かしたい話でもないが、こうなれば仕方ない。深く息を吸って、吐き出して覚悟を決めた。

「もう一度言う。噂にあるようなことはない。朝日にも二岡にも、俺はコナなんて掛けていない」

「まだそんなこと言うの?」

「付き合ってるならちゃんと認めろよ。男らしくないぞ」

「言い訳重ねたってただ醜態曬すだけだよ?」

「聞け。お前らが気にしてた二岡への態度、あれには理由があるんだよ」

口々に責めてくる三人を黙らせて、俺が二岡を避け始めたその理由、あいつから告白されたことを明かした。

告白されたのが話にも出ていた目撃のあった日であること。二岡も悩みに悩んでいてそれで俺への當たりが強くなり、あの日に偶然見掛けて追い掛けたらそのままなし崩しにあいつの本心を明かされたこと。途中言い合いになってあいつも大分興してしまい、落ち著かせるためにも場所を移しようとフラついていたあいつに寄り添ってテニスコート脇まで移したこと。

目撃報もその時のものでないかと付け加えて、だから二岡を避けるような真似をしてしまったと素直に白狀した。俺の態度の変化は、告白されてそれでフッたことへの気まずさからのものであって決して付き合っていた事実はなく、二岡も俺が斷ったことをれてくれたと明確に口にした。

出來るだけ的にならず、事実を告げていると分かるように淡々と説明する。その甲斐あってか、二岡から告白されたと告げたその時は三人共が驚いた顔なんてしていた。

手応えは充分にある。なくとも、俺が二岡を避けた理由は誤解なく理解されただろうか。

「……そういう訳で、どんな顔で二岡と話せばいいのか分からなかったから態度もぎこちなくなってたんだよ。勘違いさせるような行を取ってたのは謝る。だが、噂にあるような実は付き合っていたとかそんな事実は本當にないんだよ」

真っ直ぐに三人の顔を見據えて言い切った。どうだ? 俺は事実しか話してない。二岡との関係についてはほぼ洗い浚い吐いたと言えた。三人の反応は。

「……何それ?」

向けられたのはんでいたような理解の眼差しではなく、軽蔑の籠もった凍てついた視線だった。

「……ねぇ、真人。俺、一回確認したよね?」

「……え?」

「『俺たちに隠してることはないか』ってさ。その時真人は隠してることはないって言ってたでしょ。噓吐いてたんだ」

何を。予想していた反応と違う。どうしてそんな話になる?

「僕たち、永野を信じて噂は事実じゃない、永野は噂にあるような最低なことしないって庇ってたのに」

「本當は隠してることあったし、俺たちに噓も吐いてたんだな。なんだよ、俺たちが信じたの無駄だったのか?」

冷たい、あまりに冷たくてその上容赦なく突き放してくる。

何を、何を言っている? 隠し事は、あった。でもそれはとても開けっ広げに出來る類のものではなくて、それに俺の悪評とも直接的な関係だってなくて。

それなのに、言わなかったから噓を吐いた? 俺を信じたのは無駄?

「……な、なんでそうなるんだよ」

「ええ? 自覚ないの? 俺たちさ、自分で言うのもなんだけど真人のために報収集や噂沈靜化のためのアイディアの捻出とか結構獻的にやってきたと思うんだよね? それも真人は噂否定してたし俺たちもまぁそうだろうなと信じていたからやれてたんだよね」

がカラカラに渇く。それでもなんとかひり出した問いに嵩原は酷薄な笑みなんて口の端に浮かべて答える。表にも聲にも、こっちへの悪意を隠そうともしない。

「俺たちは永野が事実を言ってると思ってたから協力もした。でも、現実は永野は噓吐いてた」

「僕たちが君を信じたのってなんなの? 隠し事されて、噓も吐かれて、僕たちは君を信じてたのに、君は僕たちを欺いていたんじゃないか。君を信じていたのは『無駄』だったって、他に言い様があるの?」

侮蔑の孕んだ目が俺を貫く。それは、だって。そうじゃないと否定する自分がいる一方で噓を吐いていた、隠していたという事実がじわじわ思考を浸食していく。

それは、そう。いや、でもそれには理由が……!

「だ、から、それは……」

「明かす必要はなかった、とか言わないでね? 俺はこの狀況下だからこそ、心當たりのある関係について話して、て理由も付けて訊ねていたよね? 単なる好奇心からの質問でもないのを分かっていて話さなかったんでしょ? 自分にとって都合悪いとでも思ってた?」

グサグサと嵩原の呆れの混じった聲が俺のを貫いていく。それは。でも。頭の中で言い訳がぐるぐると回り何も口に出せない。

俺が、悪い? 俺のためにいてくれていたこいつらを裏切るような真似をした、俺が悪いのか?

「元々さ、永野ってそういう所あったよね」

息が苦しくて、気付けば視線も落ちていた中、耳が新たに蔑みを含んだ聲を捉えた。

「そもそも口數自ないけどさ、重要なことも自分からはあんまり言い出さないよね。僕たちがどうした?って訊ねないと発言しようともしないの。正直、そのの姿勢はどうかと思う」

「あー、分かる。それで聞いても何も言わなかったりするよな? 「なんでもない」って言ってむっすりしてるの。なんでもあるだろって思ってるからわざわざ聞いてんのに、答えないで黙ったままってなんだよ?って、いっつも思ってたわ」

ペラペラと俺への不満を口に出して行く。そんな風に思っていたのか? 知らなかった。

「真人は主義な所あるよね。これまでも真相を知っている風なのに俺たちにはなんにも明かさなかったことが何度もあったよね。それが格好いいとか思ってるのかな? 鏡の悪魔の件もさ、本當は自己解決でもしてるんじゃないの? 旅行行く直前でも帰ってきてからも、真人からは特に焦ってる様子も怯えている気配もじられなかったんだけど?」

こいつらの本音に固まっている所に、ついでのように放たれた追及の聲に思わずと反応を示してしまった。はっと顔を上げてしまうと、こっちを見ていた三人がそら見たことかと目を吊り上げて怒りを向ける。

「その反応はやっぱり図星なんだね?」

「信じられない……。僕たちにずっと黙ってたの? 旅行中だってどうにかしないとなって気にしてたのに」

「お前だけは解決してたの知ってて、一人だけなんも気にしないで旅行楽しんでたのか? ……最低だな」

本気で、蔑んだ、溫度のじられない冷えた聲で呟かれて、息をするのも忘れた。

一度箍が外れたからか、そこからは俺への日頃の不平不満が発した。三人共余程腹に據えかねていたのか、非難の聲は留まることなく次々に吐き出されていった。

「僕、正直永野が怖いんだよね。いろんな不思議な験してきたけど、永野だけいつも平然とし過ぎてるというか。黙って現狀をれ過ぎじゃない? コックリさんの時もまるで結果を知ってるように対応してみせたでしょ? なんであんな簡単に追い返せたのかな? 永野が呼び込んだから? それとも永野はそういうものに近い人間なの? ……どっちにしても、僕は永野が怖いよ。なんだか得たいの知れないものみたい」

「俺は不満がたっぷりだね。俺はね、この世の中、科學や俺たちの知る常識では語れない、全くの未知の領域は確かにあると思って皆を噂の検証に連れ出しているの。生憎と俺には霊なんてセンスはないから起こった現象を解析する方向でのアプローチしか取れないけど、でも真人はそうじゃないっぽいじゃない。なのにいつもいつも押し黙って話してくれなくてさ。文化祭の時もそうだよ。あの時本當は何があったのか、一番真相に近い位置に立ってるはずなのにどうして口を噤むんだか。その協調のない所、本當に俺は嫌いだね」

「俺は永野のうじうじしてる所は正直合わないなって思う。いつも何か言いたそうにしてるのに、ずーっと押し黙って主張しないの意味分からんもん。言いたいことあったら素直に言えばいいじゃん。文句とか口に出さないと相手には伝わらないのに。鬼の時だってそうだ。早い段階で俺があいつ避けてるの分かってたはずなのに、なのに知らない振りしてなんにも聞きにも來なかった。もっと早くに俺にもぶつかって來てたら、そしたらあんなに俺も思い悩んだりしなかったかもしれないのに」

明かされる俺への本音はどれもこれも酷いものばかりで、とても黙って聞いていられるものじゃない。でも、この場から立ち去ることも、耳を塞ぐことだって出來ない。かない。知らなかった本音聞かされて頭の中がごちゃごちゃしている。

俺はちゃんと立っているか? 足はきちんと地面に著いているのか? 息はちゃんと出來ているのか?

分からない、分からない、分からない……。

「……これだけ言われても、なんにも言い返さないんだね」

不意に聞こえた呆れ返った聲に目の焦點が戻る。見えた三人の顔は、心底からの軽蔑に酷く冷えたを纏って見えた。

「俺たちの文句、ちゃんと聞いてた? これも都合悪いからって知らない振りするつもり?」

「お前に聞かせたいから口に出してんだぞ。無視すんなよ」

咎められてが強張る。もう三人の目には親しみなんか浮いちゃいない。皆、全員、俺への敵意を隠さずに向けていた。

何も答えられない。り合わせたようにか細い息しか吐けなくて、聲の一つも捻り出せそうにない。向けられる敵意に押し潰されたように、指の一本さえかすことが出來ない。

じっと何も言えずにいれば、靜かな空気を壊すようにチャイムの音が辺りに響いた。それが契機だったように、酷く大きなため息を吐かれる。がそのまま吐き出されたような、酷く苛つきの気配を持ったため息だった。

「もういい。言い訳も口にしないなら相手する意味もない。もう僕らは君のことなんか知らない。関わりたくもない。そんなに誰とも會話したくないならずっと一人でいれば? もう君に付き合うのは嫌だ」

樹本は言いたいことを言ってから一度こちらを睨み付け、それからふいと事俺から視線を外すとそのまま扉の方に行ってしまった。嵩原も檜山も一度睨んで樹本のあとに続く。屋上の扉を開ける軋んだ音がし、かと思えば強く叩き付けられそれ以降はなんの音もしない。僅かな反響が耳を痺れさせ、あとにはただ靜かな空間と俺だけが殘された。

「……」

何も言えない。何を言えばいいのか、どう取り繕ったら良かったのか。

真正面からこれ以上なく拒絶されて、取り縋る方法も思い浮かばなくて一人、寒風の吹き抜ける屋上で立ち竦んだ。

    人が読んでいる<高校生男子による怪異探訪>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください