《高校生男子による怪異探訪》13.心強い味方
しんと冷えた空気が辺りを包んでいる。高さ的には五階、そして外に繫がる扉が直ぐ傍にあるからか、ここは校舎のどこよりも冷えているように思われた。
気付けば朝日と一緒に床に座り込んでいて、接地した面からぞわぞわとした寒さも這い上がってきている。
「……悪い」
ずっと寄り添ってくれていた朝日に謝る。流石にもう頬からは手は離していたが、それでもまだ近い距離にいる朝日がしだけむっと眉間にシワを寄せた。
「先輩は悪くないって私は言いました」
「そっちじゃなくて、いや、そっちもしはってはいるが、その、こんな寒い所に一緒に座らせて、それを謝ってる」
言えば「ああそっち」と言わんばかりに険しさを取っ払って朝日はふるふる首を振った。
「大丈夫です。私は溫高い方ですから。先輩こそ寒くないですか?」
「大丈夫だ」
気遣ったつもりが反対に気遣われてしまった。やはり人としての出來は朝日の方が上なのか。思い返せば社とか禮儀とか、とても年下とは思えないしっかりした面を何度も朝日からは見せられたからなぁ。
だからといって後輩相手にちょっと弱った姿見せ過ぎたけども。さっきまではいろいろと限界を迎えていたから、ついついその優しさに甘えてしまった。
でも冷靜に考えれば年上男が年下に甘えるのって絵面キツくね? 頭も心もスッキリした今だからこそ、さっきまでの己の振る舞いが恥ずかしくてそして気まずい。
朝日の顔も真っ直ぐに見るのしんどい。でも邪険な扱いなんてしたくもないし。
ジレンマだ。というか近い。服はれ合ってるくらいの距離にいる。仕方ない面もあったんだが、些かこの距離でと対面するのは俺には荷が重い。
「……その、朝日」
「はい?」
凄く切り出し難いけども、勇気出してそっと朝日に訴えに掛かる。チラッチラ引っ付いてる互いの制服の端っこ辺りに何度も視線を向けるも朝日は首を傾げるだけ。くっ、やはり言葉にしなければ伝わらないのか。
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深呼吸をし、腹括って聲に出した。
「その……な。められたで言うのも失禮かもしれないが……、ちょっと距離が近いというか……」
「そんな気に、……え……?」
何か紡ごうとしていた言葉が途中で途切れる。瞬きを繰り返した大きな瞳がじっと俺の顔を見つめ、そして次の瞬間ぼあっと火を噴きそうな勢いで整った顔が真っ赤に染まった。
「すすすすすすみません!」
ぶな否やぱっと俺から離れる。ここ屋上の扉前の狹い空間だから大膽なきにはちょっとだけヒヤッとした。まぁ、階段の方には行かなかったんだから問題ないけど。
「いや、朝日を非難する意図はないし、距離が近くなったのは俺の所為だろうから謝る必要は」
「あああの、ちが、違うんです、その流れで。わわ私も気付いたらきょ距離がぁぁ。はっ、待って。さっきまで私先輩のほっぺた抑えて近距離から見つめ……、ふわぁぁぁ」
あ、駄目だ。処理限界越えてる。自分で頬を押さえ付けて意味の分からない奇聲上げてるわ。気持ちは分かる。俺もさっきまでのこと思い返すと床転がりたくて仕方なくなるから。
暫く朝日が再起するのを待った。頭から湯気が出るんじゃないかってくらい真っ赤だった顔も、時間を掛ければ徐々に元のに落ち著いていく。
そろそろ話を戻していいかな? 自分から朝日を追い込んだことは棚に上げて話の軌道修正を試みた。
「落ち著いたか?」
「はい……、いきなりほっぺたをってしまってすみませんでした……」
「そこは互いに気まずくなるかられないでおこう。朝日は俺を心配して教室に來てくれたんだよな? 確かあいつらとの話を聞いたとか」
教室での短いやり取りを思い出す。俺が孤立したことは面白おかしく流布されていたようだし、朝日の耳にっても不思議はない。
「はい。三時間目の休み時間に話を聞いて。直ぐにでも先輩の元に行きたかったんですけど、時間もないので晝休みにお會いしようかと。……でも、聞いたその時に駆け付けていれば良かったと思っています」
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聲が沈み視線も床に落ちた。その酷く後悔を滲ませる態度に、俺は申し訳ないけど嬉しさをじてしまう。そこまで俺を想ってくれることが今はただ純粋に有り難い。
「いや、こうして気に掛けてくれるだけで充分だ。今の俺には、多分校には味方なんて一人もいないだろうからな」
「……先輩……」
自嘲を含めそう軽く言ってやれば、朝日は沈痛な面持ちでこちらをじっと見つめた。ああ、しまった。ちょっと言葉選びを失敗したか。ただ朝日の心遣いが嬉しかったって言いたかっただけなのに。
「……噂にあったことは本當なんですか?」
どうしたら謝の気持ちが伝わるか。頭の中で言葉をこねくり回していると、朝日の方から重く問いが投げられる。
朝日の言う噂というのは三人との決別のことだろう。
「本當だ。樹本たちからははっきりと関係を斷つと言われた。もう関わり合いたくないって」
「どうして、そんな……! 噂が原因なんですか!?」
「……」
原因か。クラスの奴らは噂を鵜呑みして俺をバッシングした。じゃあ、あいつらは? 噂は関係がある。でも、本的な理由は……。
「先輩?」
答えに間が空いたから訝しがられてしまった。不安そうにこちらを見つめる目を見返して、俺も覚悟を決める。
「……なぁ、朝日。お前はさ、俺は悪くないって言ってくれたけど、でもやっぱり俺にも原因はあるんだよ」
朝日の労りを無視するのは心苦しい。でも言わない訳にもいかない。今度こそ誠実な対応には同じく誠意を見せなければならない。
「先輩、それは」
「事実なんだ。噂とは関係なく俺に原因があったからあいつらには嫌われた。間違いないんだ」
瞬時に否定しようとする朝日を遮って出來るだけ平靜に告げた。本當なんだと信じてもらえるように。
「……何が、あったんですか?」
朝日はちゃんと意図を汲み取り、どこか愕然となりながら訊ねてくる。酷い話をしてるよな。朝日だって知らない相手じゃないのに。
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「……朝日はさ、どうして俺が悪くないって思ってくれてるんだ?」
「え?」
敢えて質問には答えずに別の話をぶつけた。急な話題転換に著いて行けずにキョトンとした顔をする。そんな顔だってくるしさが先に立つんだから形は得だな。
「學校の奴らは皆俺の悪評をそのまま信じてる。でも朝日は違うだろ? なんでだ?」
「……信じる訳ありません。噂にあるような非道で不誠実なこと、先輩はしません」
いやにはっきりと斷言する。どうしてそこまで俺を信じることが出來るのか。まぁ、噂の一つは朝日自當事者だから事実無だと理解は出來るだろうけど、その他は信じるだけの確証なんて持てないだろうに。
「なん」
「私は」
更に真意を問おうとした所で朝日が強く言い放った。こちらを見據える瞳は、強い意思を示すようにひたりと俺に合わさっている。
「私は先輩が優しくて、誰かのためにを張ることはあっても徒に人を傷付けるようなことをしないって知ってますから。だから噂にわされたりしません。先輩を信じてるんです」
視線を一切逸らせることなく朝日は堂々と言い切った。周囲の聲になんか小揺るぎもしない厚い信頼が向けられているのをじる。
何故かは分からない。でも、朝日は俺みたいなのを本當に心から信じてくれているようだった。
「……そうか」
ふっと勝手に口から軽く笑い聲がれた。のに散々殘り続けたえもそれでどこかに消えたようだ。
なんだか、もう充分だった。が一杯だ。たった一人でも自分を信じてくれる奴がいる。それだけでもう充分に救われた心地だ。
だからここからは俺一人で頑張ろう。これ以上、朝日を俺の事に巻き込む訳にはいかない。充分だ。寄り添ってもらわなくても、もう一人で立って行ける。
「……ありがとうな、朝日」
優しい後輩を俺と同じ窮地に立たせることだけは避けなければ。突き放すことになっても、朝日だけは安穏とした世界に留まらせる。
そう強い決意で以て朝日を遠ざけようとしたのだが。
「それで、一何があったんですか?」
俺が言葉を発するその前に朝日がずいとを乗り出して迫ってきた。何やら圧が強い。
「ん?」
「詳しい話を聞かせてください。本當に先輩に原因があるのか、私も一緒に考えたいんです」
「え、いやいや」
何を言い出すのか。一緒に、てそんな俺にがっつり巻き込ませるような真似出來るはずがないだろ。何も知らなければ無関係を貫けるんだ。朝日を蚊帳の外に留めておくためにも詳しい事なんざ話せる訳がない。
「それは駄目」
「知りたいんです。私は先輩は悪くないって知ってます。だから本當に先輩に原因があって皆さんが離れてしまったのか、それを確認したいんです」
「いやでも」
「何か誤解があるのかもしれません。私は直接的な関わりだってないので、第三者として間にれるかもしれません」
「いやいや! 朝日にそんな真似させる訳には!」
「私、先輩の力になりたいんです。もう先輩を一人にしたくない。傍にずっと著いていたいんです。お願いです。私も一緒に考えさせてください。先輩の隣であなたを支えていたいんです」
なんだそれなんだこれ。なんだかもう、熱的な告白けてる気分だ。
現狀は決してそんな悠長な想抱ける狀況ではないと理解はしているけども、でも目の前には祈りを捧げるようなポーズで迫るがいる訳で。
朝日の圧が本當強い。絶対に話聞いてやると強い覚悟がから滲み出ている。
不退転の覚悟とはこういうものを言うのか。一見すると儚い一途なのお願い事ってじなのに、放たれるオーラは武蔵坊弁慶も真っ青な仁王立ちな気配がしてなんとも。
戸いが思考を焼く。なんでこうも押せ押せなんだ?
嫌なんだよ。朝日まで敵意の目を向けられたり、酷い目に合わされたりするのは。俺はもう一人でも大丈夫だってそんな覚悟は決まったけど、そこに朝日が加わるのだけは我慢ならない。
だから遠ざけたい。安心出來る場所で周囲から守られた狀況の中で朝日には待っていてもらいたいのに。
「お願いです、先輩」
下から見上げる形で朝日は潤んだ目を向けて懇願してくる。その様の絵になることと言ったら。形は狡い。ずっこい。あまりの顔面の威力に無意識に下がろうとした頭が壁に當たる。
キラキラと、目とか顔面とか全の雰囲気をキラキラと輝かせながら近付いてくる朝日に、俺は直前の決意もなんだったのか、けなくも白旗を揚げることとなってしまった。
あんな真摯に「あなたの力になりたい」と訴えてくるを突き放せるか。否を唱えられる奴がいるなら出て來てもらいたい。まず無理だから。所詮男はと付くには弱い生きなんだと悲しい真理をこの時學んだ。
一先ず要求された通りに一連のことを朝日に明かす。樹本たちとの確執から決別するまでだ。
そうなれば當然二岡とのことも話すことになる。鏡の悪魔の一件は、どうしよう。解決していると明かすことには迷いはない。でもそれに二岡が関わっていることは話すかどうか。
二岡も被害者側であり事の真相は二岡が話すのなら止めはしないが、俺が了承も得ずに勝手に話すのはどうか。いや、朝日は被害者だ。真実を知る権利はある。いつまた危ない目に遭うかもしれないと怯えていた姿だって見たんだ。教えてやって安心させた方がいいのは間違いない……。
暫く考えて、ゆっくりと朝日に語って聞かせた。
「……」
「……つまり、二岡から告白されたことと鏡の一件が解決したことを黙っていたのが三人の不信に火を著けた原因なんだと思う」
鏡の件以外は洗い浚いに吐き出した。意図して隠していたこと、それを理由に三人が不満を発させたこと。
朝日にも隠し事をしていてすまなかったと頭を下げる。朝日の信頼を裏切ったんだ、謝罪で済むとは思えないが、何も言わない訳にもいかない。
この上で更に要求なんてするなら尚更。
「鏡の一件は、悪魔に関わっていたもう一人の當事者とも話を著けてはいる。でも、真相をこの場で語るのはどうか勘弁してしい。勝手を言ってすまない」
「……え?」
虛を衝かれた聲が朝日から上がる。當然の疑問だ。俺は真摯に対応しなくちゃならない。
「その當事者も悪魔に魅られた側なんだ。詳しくは當人の名譽にも関わることだから勝手に俺が話すのは避けるが、でも俺たちに対して悪意があった訳じゃないのは確かだ。真実は、その當人から話してもらいたいと思ってる」
あの件の真相は二岡にとっては多數に知られたくない話には違いない。當事者で迷を被った朝日にはあいつなら真実も明かすとは思うが、それはあくまで俺の予想に過ぎなくて勝手に話すのは憚られた。
不誠実だな。そう思うけど、だからって代わりに二岡を差し出すような選択はどうしても採れなかった。
「朝日は完全な被害者なのに、事実も教えられなくて本當に申し訳ない。でも、どうかあいつから話し出すのを待っていてしい」
頼むと深く頭を下げる。朝日に願い出るようなことではないかもしれない。俺がやってることは結局は自己満足だ。二岡にも朝日にも良い顔をしているだけなんだろうな。
こんな優不斷な面があるからこそ、あいつらには不満を持たれて嫌われたんだろう。分かっていて、それでもこんな決斷しか下せない。こんな俺に寄り添ってくれた朝日にはただ申し訳なさしか浮かばない。
「……先輩」
今朝日はどんな顔をしているのか。顔を上げるのが怖い。
だが、こうなるのを選んだのも俺だ。逃げる訳にもいかないと恐る恐る頭を上げた先では。
「……あの、ごめんなさい。私、二岡先輩からお話聞いてます」
困ったように眉を下げて、そう申し訳なさそうに呟く朝日がいた。
「……え?」
「あれは、修學旅行の前日だったかと思います。二岡先輩から連絡が來まして。そしたら鏡の一件について自分が元兇だったと話されて……」
困った調子のまま話された容曰く、朝日は二岡から自分こそ迷を掛けたその原因だと打ち明けられていたのだとか。
「だから、その、私全部知ってます。解決していたのも、先輩と二岡先輩との間に何があったのかも。あの、その、私こそ、何も言わずにすみませんでした」
言い難そうに全部吐いたあとにペコリと頭を下げられる。つまり、俺の逡巡は全くの無意味だったと。いや、二岡は真面目な奴だから何も明かさずに旅行に行く選択をするとは思えないと、そう判斷出來なかったのが敗因か。
どっと肩から力が抜ける。張していた分落差が。
「ご、ごめんなさい……」
「……いや、いいんだ。俺が隠し事を押し通そうとしたことには変わりない。不実な真似して悪かった」
そうだ。結果的にはもなくなったけど、それは二岡が誠意を示したからに過ぎない。結局は俺がやろうとしたことは朝日に隠し事するだけのこと。朝日に謝らせるのは筋違いだ。
「不実……とは違うと思いますけどね」
「え?」
ぽそりと朝日が小さく何かを言ったようだが上手く聞き取れなかった。聞き返すもニコリと微笑まれて躱される。気分を害したじはないし、悪いことは言われてないようだが……?
「悪魔の件は分かりました。そんなことよりも、先輩は二岡先輩から告白をけたとのことですが」
そんなこと? そんな軽く一蹴されるような話だったろうか。疑問に思うがツッコむ隙間もなく朝日がぐいぐいと強く迫ってくる。
「噂では二岡先輩とお付き合いをしているというものもありました。それは事実ですか?」
「え、いや、違う、けど」
「お付き合いをするという話は出なかったんですか?」
「ない。ないって。そもそも付き合う云々というのが出なかった。俺も、あいつを友だち以上には見られなかったから」
すっごいぐいぐい來る。そんな気になる、それは気になるか。でも本當に何もないし。朝日もその辺りは本人から聞き取ったのではないんだろうか。
「じゃあ、噂は全くの出鱈目、なんですね?」
「ああ、そうだよ。俺には付き合ってる相手なんて一人もいない」
堂々と言うのは悲しいものがあるが、変に誤解などされるよりかはマシだと今回の騒で深く思うようになった。
これで朝日は満足してくれただろうか。
「……そうですか……」
朝日はただ神妙な様子で頷く。喜ぶでも安堵するでもなく靜かに頷くだけってなんなんだろう。予想と違う反応に心臓がドキドキする。単にそんな場合でもないから反応を抑えているんだろうか?
「それで、二岡先輩への態度の変化から隠し事が暴かれて皆さんの不信を煽ったんですよね?」
「あ、ああ。話に聞く限りはそうだ」
何事もなかったように進めるのに俺も気を取り直した。本題は何があって樹本たちが俺を見限ったのか、そっちが重要だからな。俺の人遍歴とかそんなものは今は二の次だ。
俺が隠し事をしていたこと、そこから俺は主義だ、口數がないと非難が出て來たと一連の流れを話す。まぁ、確かにその通りではあるよな。
それから前々から抱えていた俺への不満が発して決別したと事の顛末を締め括った。
あまり話していて気持ちの良いものでもない。それは聞いてる方だって同じなはず。朝日も眉間にシワを寄せて複雑そうな表なんて浮かべている。
「……悪いな、喧嘩の容なんてそう聞きたくもない」
「おかしいです」
え? あれ、疑問が出るような話、だったろうか。それとも不信? 朝日にまで噓を吐いていると思われたの、か?
「え、いや、噓は吐いてない」
「あ、先輩が話したことを疑ってるんじゃないんです。ただ、檜山先輩の主張がおかしいなって」
思わずと弁明すれば朝日は慌てて言い直す。ああ、俺が疑われた訳ではないのか。ほっとをで下ろすが、檜山の主張がおかしいってなんだ?
「どこが……? あいつは、俺がはっきりとを言わない所が元から気にらなかったと言ってたんだぞ? それはまぁその通りだし、何も間違ったことは言ってない」
「いえ、そこがやっぱりおかしいんですよ」
? 朝日が何を言いたいのか分からない。檜山の指摘は実に正しい。俺はあまり自己主張も、強く前に出ることもしない。そこが檜山とは相容れなくて、だから嫌いだと……。
「だって檜山先輩、私に「あいつはあんまり喋んないけど、その分しっかり話聞いてくれるからそこん所大好きだ」、て先輩の好きな所を話していかれたことがあるんですよ?」
「え??」
え? いきなりなんの話? 誰の惚気話だそれ?
「なんだそれ? 何があったらそんな話題になる?」
「えっと、詳しく話すと、私一度檜山先輩から、その、告白をされまして」
「知ってる。本人から報告された」
「え!?」
やっぱり驚くよな。普通告ったどうこうって人には報告しないよな。あの唐突に事後報告された瞬間がまざまざと頭の中に蘇ってきてなんとも言えない気持ちになる。
いや今は遠い目をしている場合じゃない。
「話の流れからすると、告白された時に言われたのか?」
「……特に反応ないんですか?」
「え」
「なんでもないです。はい、告白の場面で檜山先輩は散々に先輩の好きな所を挙げていかれました。間違いないです」
そこまで鈍な気もないから朝日の不満も理解はする待て。あいつ告白をなんか間違えてないか? なんで朝日の好きな所じゃなくて俺の好きな所を言ってくんだよ。なんの報告してんだよ。
「それは……、誰に対する告白……?」
「えっと、流れはそうおかしくはなかったと思います。告白はけましたけど私が斷って、そうしたら檜山先輩が「知ってる」と。そこから先輩の話になって」
ああ。まぁ、共通の話題ではあるのか。でもだからってなんで俺への暴に繫がる。マジで流れが意味分からん。
「檜山先輩は言ってました。相手が先輩だったら仕方ないって。檜山先輩も先輩のことが大好きで自慢出來る友だちだから、だから自分が負けるのは納得だって、そう笑って言ってたんです。だから檜山先輩が先輩を嫌うはずないんです。無口な所だって自分とは違って思慮深い証拠だって、まるで自分のことのように自慢げに話していましたから」
疑いまでは行かなくとも飲み込めないじで聞いていれば、なんだそれ?
自慢ってなんだよ。自分が負けるのは納得? 思慮深い……。そんな風に思ってるはずないだろ。だって、あいつはその意見を言わない所が嫌だって、はっきり俺に向かって言ったのに。
「……それは……。何かの間違いじゃ」
「違います。私の目の前で檜山先輩は先輩への大好きだって気持ちを散々に明かして行きました。私にはとても先輩を嫌っていたようには思えません。だから」
混する俺の手をぎゅっと握り締め、朝日はキリッとした表で斷言した。
「だからきっと、皆さんが先輩を嫌ったのには別の理由があるんじゃないでしょうか。それこそ、私たちが巻き込まれた『悪魔』と似たような存在が関係しているのかもしれません」
どこか確信を抱いているような明瞭な聲で、朝日はそう突拍子もないことを口にする。
ただ圧倒される俺の耳に、晝休み終了のチャイムが屆いた。
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