《高校生男子による怪異探訪》14.真実の一歩目
「とにかく、私は噂も含めて異変が起こってるんじゃないかと考えています。先輩はどうですか? また放課後話し合いましょう」
そう強く押し切られ、朝日と共に現狀巻き起こっている異変?への対処を話し合うこととなった。
異変……、更新の速い噂に校の生徒のほぼ全てが夢中になってる様は確かに異常と言えばそうだが……。朝日とは違って確信なんか抱けてないこちらは、煮え切らない態度で渋々と頷かざるを得なかった。
何せ「それならこれから休み時間になる度に説得のためにお邪魔します」なんて言われてしまったんだ。ちょっと時間出來たら顔見に來られるって俺は園児か赤ん坊か? いい加減年下相手に過保護にされることから卒業したいんだよ。
授業が始まる前にと朝日を送って慌てて戻り、また針の筵狀態の教室に腰を據える。晝休み開始早々まではただをこまらせることでしか延命なんて出來ないと思い込んでいたのに、気まずい思いをしていることに違いはないが周囲への見方は現在かなり変化していた。
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朝日は俺が嫌われたのには別の何かの介があるんじゃないかと言っていた。それが本當だとしたら、皆はその何かの影響をけているだけで本音は違うということになる、のか? クラスメートも、二岡も能井さんも、あいつらも?
教師がって來て通常通りに進行がされる中、チラリと斜め前の樹本の後ろ頭を眺める。俺を嫌いだと言ったそれが本音ではない可能。今更ながら、そんな都合の良い考えがじわじわとのを浸食していった。
気もそぞろに午後の授業をけて放課後。ホームルームも終了して三々五々とクラスの奴らは散って行く。
中にはこちらへと視線をやってひそひそ囁き合ってる奴もいるが、その話題の中心には一誰がいるのか。朝日は登場してないだろうな? 俺と邂逅したその影響はやはり気にしておいた方がいいんだろうなぁ。
あ。だったら放課後に會うというのも目立たない形で行うべきでは? 拙ったぞ、そこら辺をさっぱりと考えてなかった。これ以上朝日にまで悪意の目なんか向けさせる訳にはいかない。
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席から立ち上がって一先ず教室から出ておく。落ち合うのは人目のない所が、いやでも連絡先知らないわ。この後に及んでまだ連絡先聞いてないとか何やってる自分。現代人が何抜かすといった合だなぁ。折角のツール使いせてない。
「先輩!」
どうしよう、と廊下の真ん中で立ち止まってたら鈴を転がしたような可らしい聲が。あああ。より拙い狀況招いてどうする俺。
顔を向ければニッコリ微笑んだ朝日がパタパタと小走りで駆け寄って來る。どう見たって俺を対象としてますよね。
「お待たせしました!」
傍まで來てぴょこんと頭を下げてから更にニコォ。ご機嫌だこの子。曇り一つない笑みで俺を見上げている。
その背後で廊下にいた奴、教室に殘っていた奴がわざわざ顔を覗かせて「はぁ?」と言わんばかりの表してるのが見えてる。見えてます。これは拙い。
「それでこ」
「待った。とにかく場所を移しよう。ここだと目立ち過ぎる」
早速と本題にろうとする朝日を遮って場所の移を提案。こんな注目集めた中で相談もクソもない。
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突き刺さる視線を浴びながらそそくさとその場を去って、そして馬鹿の一つ覚えでまたもや屋上前。一階下が普段利用のされない階だから人目を避けるのに非常に都合が良いのが悪い。
「えっとな、朝日」
「はい?」
きゅるんとした目がこちらを見上げてくる。朝日には危機といったものが全くないのが一目で分かった。
「朝日、俺は現在誰もに後ろ指を指される下衆野郎だと校では浸しているんだ。そんな俺と真っ向から絡みに行くのは朝日にとってもよろしくないことで」
「それは周りの人たちが間違ってるので私が遠慮することではないと思ってます」
ニッコリ。可憐な笑顔でピシャリと撥ね除けられた。
つ、強い。朝日ってこんなにも鋼のような意思を宿していたっけ?
「いや変に目立てば朝日にまで碌でもない噂が……」
「別に噂を流されたって私は気にしません。先輩と一緒にいるだけで流されるならどんどん流してしまえって思います。あまりにおかしな噂流れたら全然事実と違うって一緒に笑いましょうね」
強い! この子めっちゃ強い! 最後えらくシニカルに笑ってたどっちかというと顔なのに!
これは俺が何言っても聞きれはしないかな? 朝日にまで辛い思いはしてしくないから止めてるんだが、むしろ迎え撃とうとしてるのが実に男気溢れている。男の俺よりも逞しくないか、朝日よ。
「先輩。それで晝休みの話の続きなんですが」
思わず圧倒されていたらさっさと話を切り替えられた。俺の苦言は聞きれる気がないとそういうことか。
「え、あ、ああ」
「何か異変が起きている、という予測は立てましたけど、でも的に何が、そして解決策はあるのかという実のある話はさっぱりです。というよりも、私たちの手には余るのではないかというのが正直な想です」
「ああ……」
それはまぁそうだ。予想が正しいのなら人の意識を特定の方向に向けることが出來、しかもそれを大多數に施せるような催眠師も真っ青な所業を行える何かが裏にいることになる。
そんな奇怪を通り越した超然とした何かを追えるほど俺たちには知識も伝手もない。出來る人間がいるとしたら、それは……。
「なので私の方で勝手ながら蘆屋先輩に助けを求めてみました。相談、そして協力を願い出るという形で」
「えっ」
ふわっと浮かんだ名前を口にされて思わずきょどる。未來形でなく過去形というのが朝日の仕事の速さを語ってる。
もう話著けたの? 速いなおい。
「テスト前期間なので部活は休みの中、特別に部室でお話を聞いてくれることになったんです。約束の時間まであとしです。早く行きましょう」
「え、ちょ、まっ」
ぐいと手を引かれて結局は押しに負けてドナドナされた。朝日が一から十まで全て段取り組んでくれてる。ひょっとして、俺流されてるだけ……? このままだと完全なおんぶに抱っこにならないか?
己の不甲斐なさに焦りが募っていく間も朝日は全く歩みを止めることがなく、そうして気付けば見慣れたオカ研部室前まで來ていた。丁度一週間前にもこの扉を潛ったんだが、なんだか隨分と時間が立ったように思える。
「蘆屋先輩、朝日です。失禮します」
ノックをして朝日は戸いもなく部室へと踏み込んだ。俺もそのあとに続く。
「やぁ。來てくれたね、朝日さん。それに……」
朗らかに笑って朝日を出迎えた先輩は、続く俺には険しい表で挨拶さえ掛けてくれない。態度で分かる。先輩も噂を信じているんだ。
「ふむ。噂では朝日さんは彼に隨分と酷く迫られたとあったが」
じろりとした冷たい目が向けられる。これまで一度だって取られたことのない手厳しい反応だ。警戒に嫌悪、心底からの不信を向けられてもう心が折れそうだ。
先輩はなんだかんだ親で寛容な態度を貫いていたからより辛い。朝日とのやり取りだって間近で見ていたはずなのに噂を信じるのかという失もあった。
「事実無です。先輩はいつだって優しく相手をしてくれています。蘆屋先輩も私と先輩が話している所は何度か直接目にもされていたかと思いますが」
「うむ。私の前ではなくとも険悪な雰囲気になったことはないな。だが、裏ではどうだったのだ? 誰の視線もない所では豹変する人間は一定數はいるというし……」
「先輩はそんな人じゃありません! 失禮ですよ!」
じっと疑いの目が向けられる。朝日が聲を荒立てるが、意に介した様子もない。
目を逸らさずに俺を睨み付ける様はまんま危険人への対応といった所。そこまでの警戒を俺に向けるのか。だんだん悲しくなってきた。
「しかし、二岡さんと二を掛けていたという疑もある。仮に優しくしていたとして、それが下心有りきの話である可能は捨て切れない……」
「いい加減にしてください! 先輩に対してあまりに酷いことを口にしてると自覚はないんですか!」
あ、拙い。朝日が本気で怒りをわにしている。いや俺も酷い扱いをされていて心はズタボロだけども、ここで蘆屋先輩と袂を分かっては當初の予定が破綻してしまう。それでは意味がない。
「落ち著け。ここで言い合いしても何も始まらない。蘆屋先輩だって影響をけているから俺への疑いを深めてるのかもしれないだろ」
「っ、でも、先輩!」
「代わりに怒ってくれてありがとう。有り難く思ってる。でも折角朝日が繋いでくれた機會なんだ、早々に潰すのは惜しいよ。一先ず、相談はしてみないか? 先輩がその手では一番頼りになるのは事実なんだからさ」
「……! ……はい。すみません。我慢が出來ませんでした」
シュンと自省する朝日の背を軽く叩いて謝を示し、それからこちらのやり取りをじっと見つめる先輩に向き合った。嫌悪の滲む目を見返してゆっくりと口を開く。
「朝日からも話があったかと思いますが、この噂が蔓延る現狀について俺たちはとある疑念を抱いています。今回はその疑念は正しいのかどうか、その考察のために先輩に力を貸してもらおうと時間を取ってもらった次第です。テスト前の忙しい時に呼び付けてしまって申し訳ない限りですが、どうか先輩の知識と経験をお借りすることは出來ないでしょうか? 非常に重要な問題なんです、お願いします」
深く頭を下げてお願いする。散々な扱いをされたが、それでもこちらから願い出たことは確かだ。誠実な態度で以て協力を願うのが筋というものだ。
「……」
先輩からのいらえはない。出來るだけ真摯さが伝わるようにと必死に言葉を紡いだんだが、やはり好の低い俺では承諾もされないか。
どうしようと、焦りが沸いてきた所で直ぐ橫に並ぶ気配があった。
「お願いします。『鏡の悪魔』のような異常な存在が関わっているのかもしれないんです。だとしたら、蘆屋先輩以外に頼れる人もいないんです。お願いします。私たちの力になってください」
朝日も深々と頭を下げる。
どうだろうか。蘆屋先輩の警戒を解いて、話を聞いてもらえるようになるだろうか。本當に、先輩に斷られたらもうお手上げなのでどうか頷いてもらいたいのだが。
果たして、暫くの間があった後に、ゆっくりとにしてはハスキーな聲が部室に響いた。
「……當初の約束は相談に乗ってもらいたいということだったからな。せめて、それくらいは応えよう」
渋々といった風に吐き出された答えは、それでも俺らの要求に沿うものだった。
ハッと二人して顔を見合わせる。それから互いに、ほっと安堵の息を吐いた。
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