《高校生男子による怪異探訪》15.ブームのっこ

一先ず話は聞いてもらえることになった。ならば早速と俺たちでじた現狀に対する違和を説明していく。

纏めればこのどんな噂であれ真偽を疑うことなく鵜呑みにしていく狀況は流石におかしい、そして全校生徒のほとんどが夢中になっているのも異常だということ。

もしかして、鏡の悪魔のように何者かの意図的な導があってこの狀況は作られているのではと、そんな疑いがあることを先輩に伝えた。

話の流れで悪魔についても開示をしておくべきかとも思ったが、先輩の俺へのヘイトの高さからそれは見送らせてもらった。本當ならば頼りにさせてもらう以上は隠し事はしない方がいいのだが、さっきの辛辣さを見るにちょっとリスクが高過ぎる。

樹本経由で知られたら詰むな、とか思いつつも申し訳ないが先輩にはもうし落ち著いてから明かすことにした。

靜かに耳を傾けていた先輩は、一通りを話を聞くなりふむと興味深げに頷きを一つ落とした。

「……なるほど。確かにそちらの疑念も理解出來なくはない。私も校に蔓延る噂の數々には々懐疑があったからな」

「蘆屋先輩も、ですか?」

まさかの同意に朝日が思わず聞き返す。俺の噂を信じ込んでいる所から察するに、先輩も現狀に染まっている側かと思い込んでいたのだが。

「何、そうは言ってもうっすらとした疑問だったがな。噂話が人の間に蔓延ることは世の常と言っても過言ではないにしろ、それにしては些か騒ぎ過ぎではとその程度の引っ掛かりがあっただけだ。こうして君たちに指摘されなければ意識の片隅に追いやって終わっていたな」

苦笑と共に先輩は正直に明かした。そういえば噂話ブームが起こっているとか説明してくれた際には、あんまり関わるもんじゃないとか忠告してくれていたっけ。

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だったら噂への傾倒も抑えられたのは自然、か? あいつらは……、噂とはまた別の俺への不信が止めになった形か。

「先輩から見ても校の騒がしさは異常に思えますか?」

「異常だと斷言するほどではない。君たちがじている違和にしても、私には々考え過ぎているようにしか思えない」

確認すれば速攻で否定を返される。あくまで理解出來る點はある、といった合か。

これはどちらが正しいんだろうな。朝日は確信に近いものを抱いているようだが、俺はまだそこまで確かな気持ちはない。

「私には永野先輩が集中して狙われているようにしか見えません。檜山先輩たちにしても、いきなり先輩を見限るだなんておかしいと思います。だって始めの噂は皆さん當たり前に否定していたんですから」

先輩の冷淡な返しに怯んだ俺を叱咤するように朝日が力強く反論した。一歩も譲らない主張に、蘆屋先輩は唸ると悩ましげに眉間にシワを寄せる。

「集中……。確かに、狀況はそう見えなくもない、か。一人の人に関する噂が複數流布されるというのも珍しいパターンであることは間違いない」

「だから、もしかしたら誰かの意図が紛れているのかもと思ったんです。蘆屋先輩にはこの狀況を招くような存在に心當たりがないか、お伺いしたくてお聲掛けしたんです。何か、思い當たるものはないでしょうか?」

「うむ……」

先輩は目を閉じ考の構えを取るが、眉間に寄せられたシワの深さから見て芳しい答えは期待出來そうにない。

まぁ、流石の先輩でも全くの手掛かりのない狀況から黒幕を當てるなんて蕓當が出來るはずもないよな。これが明確な姿とか特徴など、特定に至る報が開示されているならまだしも。

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やがて長い沈黙のあとに口を開いた先輩は、軽く首を振りながらすまないと謝罪した。

「現在の狀況を生み出せるような怪異の類に心當たりはないよ。もし本當にこの校の流れが仕組まれたものであるならば、相手は報を好きに扱えて更には人心の掌握まで容易く行えるものとなる。そこまで行けば、その暗躍するものは最早神にも近いものとなるんじゃないか?」

「か、神……ですか」

また隨分な大が出て來たな。先輩も本気で言ってる訳でもなさそうだが、それにしても神とか。

いくらなんでも神様に嫌われるような真似はしてない、はず。悪魔には喧嘩売ったけど……、いや流石にないよな?

「本當に? 何か異変など気付いた點もありませんか?」

「いや、さっきも言ったが、私はこの件に関しては多騒がしいなとじただけで異常さなどは特に気にしてもいなかったのだよ。力になれなくて申し訳ないが……」

「そう、ですか」

空振りに朝日がしゅんと肩を落としてしまう。蘆屋先輩でも有力な報はなしか。これはアプローチの方法から変えた方がいいかもしれない。

「……校の狀況は、どんなじに変わっていったか覚えていますか?」

考えながら発言する。ん?と不可解そうにこちらに視線が向いた。

「校の変化か?」

「はい。現在の狀況に至るまで些細であっても変遷というものはあったのではと。その過程を調べれば何か鍵になりそうな出來事も見えてくるのではと思うんですが」

完全なる思い付きだ。とは言え、これは以前蘆屋先輩が取った調査の手法でもある。騒っこを見通すことが出來なくても、その上澄みを払うことによって底は覗けると。

「変遷か」

「気になるのは俺たち二年が旅行に行っている間のことなんです。俺たちが學校に戻って來た頃には、もう既に校には噂話がブームとして広まっていました。そもそも、どうしてそんなブームが訪れたのか、詳しい経緯を覚えてはいませんか?」

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噂を発端とした騒ぎであるなら當然校を席巻した噂話ブームも無関係ではないだろう。

思えば樹本などは始めから熱中し過ぎる周囲には疑の目を向けていたっけ。真面目に取り合っていたら何か変わったのだろうか。今更思い直した所でどうしようもないんだが。

「修學旅行の期間……」

「……えっと、十一月の祝日開け、ですよね? その頃は確かまだ占いがブームだったかと思います」

朝日も加わって當時の記憶を穿り返してもらう。と言っても二週間も前な話じゃないんだが。

「あったな。そんなブームも」

「その頃には流石に大分盛り上がりも下火になっていて、皆して休み時間になる度にいろんな占いを試す、なんてこともなくなってましたね。代わりにジンクスを試していたような……」

「ジンクス?」

それまたなんで。ジンクスは占いというよりも験擔ぎのイメージの方が強いんだが。

「ジンクス……。そうだ。占いという結果を予測する行為よりも、確かな果が得られる方へと流れは変わっていた。幸運を祈ったり、自の願いが葉い易くなったりとそんな方向へと生徒の興味は向いていた、はず」

先輩からもより詳しく當時の様子が聞こえてきた。段々と実利の方へシフトしていったってことか?

「そこでなんでジンクスが流行る?」

「占いよりもお手軽というか……。ピンクのペンを持っているとが葉うとか、黃の髪留めを付けると運が巡ってくるとか、そういうちょっとしたことを皆で試し合ったりしたんです。効果があった、なかったって報告したりして。どれも迷信とか噂の域を出ないお遊び染みたものばかりでしたけど……」

照れ臭そうに朝日が補足をれる。なるほど。占いの延長ではあったのか。そして気軽に試せるからこそ話題もあったと。

結局ブームというのは中心となる題材を楽しむだけでなく、大勢で一つのコンテンツを盛り上げるという一を味わうこともまた楽しみの一つだったりするしな。

「……噂……」

心したように耳傾けていたら徐に先輩が小さく呟きを落とし、そしてゆっくりと口を開いた。

「噂。そう。確かそのジンクスから様々な噂へと派生したのだ。始めは本當に些細な、どうすれば果が得られるかという単なる他力本願に過ぎない手段の話し合いに過ぎなかった。それが段々とジンクスからは掛け離れて『噂』そのものが臺頭し出したのだ。元よりジンクスという々科學的な拠には乏しい話が中心ではあったが、それが徐々に怪談や都市伝説、一般で『噂』と稱される代表格なものに挿げ替えられていき、そして気付けば一大ムーブメントが巻き起こるまでになっていた。そうだ、確かそのような流れであったはず」

かっと目を見開いて先輩は當時の詳細な記憶を思い出してくれた。噂話のブームの出だしってそんなじだったのか。つまりはジンクスが元にある、いや、ジンクスから興味の対象が噂話そのものへと移行したと。

「ブームの始まり自は特段おかしな點もなさそうですか?」

「そうだな。流れとしては自然なものだろう。興味の対象が直ぐに噂話に移行したのも、占いの最中に既にある程度はジンクスも広まっていたのだから息切れするのも早かったと予想が付く」

肯定されちまった。時系列を追えば何かしらの手掛かりが得られるかと思ったのに。これは噂話ブームからの探りは空振りかな。

「流れとしては特に変な所はない。だが」

「え?」

「……確か……、確か噂が発的に広まるその前に、何度も同じ話題を耳にした記憶があるのだ。確か……、そう。幾人もが揃って口に出していた」

そう言って顔を顰めて考にる。むむむと唸りを上げて必死に己の記憶と戦っていた先輩は、やがて面を上げて告げた。

「そう。確か『願いを葉えてくれる神様』。その噂がブームとなる前に幾度も人の口に上っていたのだよ」

真顔でどこかすっきりとした面持ちで先輩は一つの噂を提示する。えらく思い出すのに労力を使われたようだからこう言うのもなんだが、それほど奇抜でもない、どこにでも転がってそうな噂だな。

先程神様云々と言ったから、まさかそれから連想したとか言わないよな?

「あっ……!」

しょっぱい気持ちになってた俺とは違い、隣の朝日は瞬時に何やら反応を示した。

「それ、私も聞いたことあります! 『どんな願いでも葉えてくれる』って言われてましたよね!」

「そうだな。あれは二年生が修學旅行に旅立って直ぐくらいだったか? どこかから突然に校で聞かれるようになったのだったか。ジンクスからの派生だったか、多數の人間が真しやかに語り合っていたな」

朝日も耳にはしていたらしい。まぁ、噂そのものは毒にも薬にもならないタイプだし、願いを云々ならそりゃジンクスともそう離れた容でもないよな。

「その噂が何か?」

「いや、何。思い返せばこの噂がブームの切欠になったのではないかと思ってな。このあとに校では噂話が多數話されるようになり、そして校も騒然とした空気に包まれるようになった、ような記憶がある」

「え」

「確証はないがな。だがブームの前に一歩早く注目を集めていたのは事実だ。多岐に渡る噂が蔓延った現狀で、こうして私の印象にも殘っているくらいだからな」

「私も同じ意見です。皆が噂話にのめり込んで行くに聞かれなくなりましたけど、でも確かにタイミングはその神様のお話の方が先だったと思います」

意外、と言えばいいのか。校の噂話ブームの火付け役、それが『願いを葉える神様』? 噂としては凡庸、そこらの寺社仏閣を巡れば一つや二つは同じような逸話は出て來そうなほどに獨自もない。そんな特徴も特異もない噂が現狀の異変の原因かもしれない?

「ふむ。噂としては特段目を引かれることもないそこらに転がっていそうな容だから、私は特に興味を持つこともなかったのだが。こうして振り返ると々気になりもするか」

「……人の意識やに働き掛けられる存在というなら、神様は條件にも當て嵌まりそうですもんね。……あれ、でも……」

先輩と一緒に考察を深めていた朝日は、ふと何かに思い至ったように言葉を呑んだ。どうした、と訝しんだのも束の間、朝日が飲み込んだその言葉の続きを俺も理解した。

「……もしその噂が関わってるなら、俺は誰かにまれてぼっちになった可能があるんだよな」

なんという衝撃の著地。つまりは「お前なんか誰からも嫌われろ」と、そう願った奴がいてこの狀況に至ったと、そんな結論も弾き出せる訳で。

いやまだ分からんよ? 何もこの噂が元兇だとは決まってない訳で。本當偶々タイミングがかち合っただけかもしれないし。無関係かもしれないし。まだなんとも言えないし。

「ま、まだそうと決まった訳じゃないですから! 先輩、早計はいけません!」

「件の神様と噂話が持て囃される現狀との繋がりも現段階では明確ではないから確かに早計ではある。しかし全くの無関係だと言い切るには狀況が怪しい。そちらの可能はないとは斷言は出來ないな」

「蘆屋先輩!」

淡々とした語りがぐさりとに突き刺さる。結局はどこかの誰かに激烈に嫌われていることには違いがない。

神様に乞われるほど嫌われたって俺は何をしたと言うのか。まだ凹まされる余地があるとは思わなんだ。

「うむ……。噂に傾倒し過ぎる現狀にそのし前に注目を浴びていた噂……。容からは異常な點などは見當たらないものの、以降の変遷を辿れば全くの疑念が生じない訳でもない。興味深いな」

凹んでる俺など気にせずに先輩はぶつぶつと自の考えにのめり込んでいる。この塩対応も誰かの願いの結果なのかね? 好奇心全振りなのは以前と変わらない気もするが。

「気にはなる、が。ここではこれ以上の議論は無理だな。よくある噂と聞き流していたから報が全くない。どこの神様かさえ判然としないからな。朝日さんもその様子では大して興味も持たなかったかな?」

「あ、はい。ありがちな噂ですから」

「うむ。違いない。これはこの場で結論を出すのは無理だな。改めて調査を行い、噂の真偽から確認を取って行く必要があるだろう。本日はここまでだな」

場の煮詰まり合を察してか、先輩のストップが掛かり今日はここまでとなった。

実際これ以上の話し合いに意味はないだろう。些か荒唐無稽にも程のある話が出て來たりして予測だって立てられない。圧倒的に考察のための報が不足している。

「本日はありがとうございました」

「お時間を取って頂きありがとうございます」

「いや、私としても現狀に対して冷靜な目が持てた。むしろ謝するのは私の方だな。こちらでもこの噂が跋扈する狀況について探りをれて行こうと思う。何か分かったら報告する」

最後に外な申し出をけられた。先輩も協力してくれるなら百人力だ。今回を限りに繋がりが斷たれることも覚悟していたのでこれは嬉しい。

「「ありがとうございます!」」

朝日と顔を見合わせたあと揃って謝を告げる。先輩は優しく笑うでも苦笑するでもなく、なんだか変な顔をした。俺への疑心は晴れてないってことかね。

まぁ、門前払いされるよりマシだ。

もうそこそこの時間だということもありさっさと撤収する。忘れていた訳ではないが今はテスト期間中であり、無意味な學校の滯在は學校側からも疑いの目を向けられることになる。早々に退散するのが吉ではあった。

「それでは、お先に失禮します」

「本日はお時間を頂きありがとうございました」

「私としても有意義な時間ではあった。気を付けて帰るように」

部室の戸締まりがあるからと先輩に見送られる形で先に退室する。鍵の管理は先輩の管轄だからこればかりは俺たちにはどうすることも出來ない。お言葉に甘えて先に帰らせてもらおう。

「……永野君」

背を向けて部室から一歩出たそこで背中に話し掛けられた。振り向けば真剣な表の先輩がこちらをじっと見つめている。嫌悪、悪意などの冷たい気配はじないが、じっと真っ直ぐに見據えられて居心地が悪い。

「先輩?」

「君に纏わる噂、それらは事実だろうか?」

固い聲で訊ねられる。改めて何を確認したいのか。先輩の真意など読めるはずがないが、俺の返す答えは一つしかない。

「違います。全部出鱈目です」

「……」

はっきり、きっぱりと否定した。こちらを見つめる黒い目を見返し揺るぎもなく明確に。

先輩はどう判斷するか。クラスの奴もあいつらも、誰も俺の話なんて聞きやしない。どれだけ否定しても噓の噂こそ信じられた。

先輩もそうだとしても今更驚きはない。ああそうか、と思うだけだ。

「……」

果たして返ってきたのは沈黙だ。信じてもらえてないな、これは。分かっていた結果に重い息が口から零れた。

「……信じてもらえないなら、もうそれでいいです。失禮しました」

「……」

結局何も返されずに部室をあとにする。誰かの願い云々と、原因の一端にれたかもしれないから何か変わったかと期待もしたがまぁそう変化なんてしないよな。

予測は出來ていたが、それでもやはりああも邪険にされれば凹むものは凹む。またため息が口から溢れ落ちた。

「先輩……」

あ。朝日がいるのを忘れていた。凄く気遣わしげな顔でこっち見てる。ただでさえ先輩に渡り付けたりと力的にいてもらっているのに、これ以上心配を掛けさせるのは人としてない。俺の尊厳なんざ評判同様地に落ちてるだろうけど、だからって開き直れるほど心臓はタフじゃないんだ。

「ああ。いや、大丈夫だ。ちょっと頭使って疲れただけだから」

咄嗟に誤魔化しを口にするが言い訳としてもこれはないなぁ。朝日にもバレバレなようでしょんぼり顔から復帰出來てない。

若干の気まずさが俺たちの間に漂う。ど、どう挽回すべきか。必死に頭を回して、話題を変えるのが一番という結論に達した。

「あ、あーそうだ。明日から期末だな。朝日は勉強出來てるか?」

「あ……、えっと、一応普段通りです。一學期と比べれば容も難しくなっていますけど、勉強のための時間も取っていますので」

優等生な答えが返ってきた。朝日、績良さそうだもんな。顔も良くて頭も良いとか俺の周りそんな人間ばっかだな。

「先輩はどうですか?」

「あー……、旅行もあったし、狀況が狀況だったから拙い……、気がするなぁ……」

訊ねられて自分の勉強合を客観視して、そして弾き出した総評にさぁとの気が引いた。

そうだ、いろいろあって勉強処ではなかったわ、俺。明日からテスト期間? マジで言ってる?

「……ヤバい……。これは赤が見える。赤が見えてしまう……」

「せ、先輩?」

「……いや、うん。俺もさっさと家帰ってテスト勉強頑張る。勉強は學生の本分だからな」

そっと目を逸らして白々しく嘯く。これはちょっと今回はやらかしてしまう恐れが大である。あれだ、人間って何日間一睡もせずにいられたっけ?

「テスト勉強……。! そうだ! 先輩!」

ぶつぶつとこれからの予定を頭の中で組み立てていた俺の隣で朝日が突如聲を上げた。

なんだと目を向ければ、そこにはご機嫌な様子の朝日がニコニコ顔で立っていて。

「私、良いこと思い付きました!」

そう元気良く言い放った。

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