《高校生男子による怪異探訪》16.願いを葉える神様
翌日火曜からテスト期間にった。二學期の総まとめとなる、學生にとっては進級も掛かってくる大一番だ。當然、それなりの意気込みも背負うことになる。
噓だ。そこまで気負い込んでテストけてる奴は、前期で赤點を量産したガチで進級が危うい人間だけだろう。俺は違う。まだ大丈夫。大丈夫、なはずだ。多分最低ラインは越えられると思う。もう七十點以上は目指さないことにしたから。覚える範囲を限定したからどうにかはなる、はず。
テスト當日となった本日も校の空気に然程の変化はない。廊下を歩けば視線は刺さるし、教室も居心地悪くてぼっち継続中。
中學時代を思い出すぼっち加減だ。高校って隨分と自分の周りは騒がしくなったが、それも一時見ていた夢に過ぎないのではと思えるほどに今俺の周りは靜かである。ひそひそ口叩かれてる沈んだ騒がしさはあるけども。
本來はこんな高校生活を想定していたんだよなと、懐かしさとは違うが慨深い思いでそっと教室を窺った。
現在は朝のホームルームで擔任待ちのターンである。昨日の同じ頃は、自分の置かれた狀況が全く理解出來ずに神も大分病んでいたものだったが、まぁ人は変わるもので。今は冷靜な視點で周囲の人間を観察する余裕さえあった。
昨日は俺がとうとう孤立したということで、侮蔑の他にも嘲笑うような視線や実際笑い聲だって聞こえていたが今はそれも鳴りを潛めている。時折曰く言い難い尖った目が一瞬向けられてそれからひそひそされるくらい。噂されているというよりも悪口言われてるじだな。
これはあれか。朝日が突撃をかましてくれたその余波か。漸く三人からも見限られた俺にどうしてか被害者筆頭だったはずの朝日が絡みに來たことでいろいろ想定が崩されたのか?
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だって悪意たっぷりの悪口だって聞こえて來ないし骨に笑われることもない。俺からすれば現狀は隨分と落ち著いたようにも見えた。新たな噂だって昨日今日と耳にることもない。
思えば俺の噂は立て続けに流布されたもんな。三日。三日連続だぞ。集中狙いされてるって指摘もあったし、噂も俺へのヘイト稼ぎに全くの無関係ってことはないよな。皆噂を信じて俺を敵視しているんだから、むしろ最も疑わしいものなはずだ。
新たに噂が立てられないのも朝日のおかげだったりするだろうか。だとすればそれはそれで別の懸念が生まれる。朝日にとばっちりが行ったりしないだろうか。周囲の落ち著きはまた次の噂散布の充填期間に思えなくもないのが頭痛いな。
これから燃料投下するようなことをやらかすってんだから尚更本當に悩ましいわ。果たしてどう転ぶのか。テストに集中したい所だが、周囲の反応もよくよく気にしてないと駄目だよな、これ。
気も重くなる。それでもテストは待ってくれない。擔任が慌ただしく教室へとやって來て、そして期末テストは始められた。
本日行われるテストの教科は三つだ。全て終われば今日は終了、午前で放課となる。
席も出席番號順に直され、恙なく進行されて気付けば三時間目。高らかなチャイムが頭上から屆き、同時に監督の教師の號令が教室に響く。特にこれといったトラブルもなく無事に初日は終了だ。
テスト用紙が回収されて、それから掃除、ホームルームと続けばもう帰宅時間だ。テスト期間は學校が早上がりになるのが唯一の嬉しい點だわな。針の筵な狀況からもとっととお暇出來るのは正直喜ばしい。ま、このままさっさと帰宅とはならんのだけど。
自分の支度を整えつつも騒がしい周囲の様子を探る。皆テスト一日目終了の解放に明るい表なんか浮かべている。午前で學校も終わるという変則的な時間割は確かに特別もあってテンションが上がるのは分かる。これから勉強に勤しむ者、自由時間が増えたからと予定組む者と実に楽しげだ。
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皆學校じゃあ何かに取り憑かれたように噂噂とそればかりに熱中しているが、學校以外の時間でも馬鹿の一つ覚えよろしく噂話に興じていたりするんだろうか。ふと気になって家でもバイト先でもひそひそやり合ってる姿なんて思い浮かべてついつい眉間にシワが寄る。簡単に想像出來たのも複雑だし、流石に世間的に悪目立ちするよなぁ。
まぁ、學校の外で厳しい目を向けられることは特にはないんだけど。噂話に興じてるのはあくまで學校のみ、とか? だとしたらなんでだろ。噂なんざ無責任にどんどん広まっていくものだろうに。
「ねぇ」
なんとなく矛盾しているようなとか考えていると凄く近くから聲がした。まるで俺に話し掛けているようだがそんなはずはない。現在、校で俺に聲を掛ける人間は朝日か教師しかいないからな。言ってて悲しくなってきた。
「ねぇ。話し掛けているんだけど、無視?」
また聲がした。しかも怒ってる。答えてやってねぇのかよ。この狀況下だと失點はイコールで碌でもない噂に変換されるぞとチラリと視線をやった、ら。そこにはこっちを睥睨する二岡が仁王立ちをして立っていた。
……あ。話し掛けてる相手、俺な訳?
「無反応? 耳も聞こえないのかしら?」
まさかの事態に驚き固まってたら続けて嫌味が上から降ってくる。二岡とはこの程度の貶し合いは日常會話でやってたので今更何を思うことはない。ないけど、々怯んでしまったのは俺が弱ってる証拠か。
「……なんか用か」
自分でもどうよと思うくらいくって低い聲が出た。突然話し掛けられた驚きと警戒が突出した結果だ。別に二岡に思う所はないんだけど、俺のこれまでの扱いを思い出せば警戒して然るべしだろうて。
チラッと周囲にも目をやる。教室にはそれなりの人數がまだ殘っていた。その中には能井さんを含む二岡と仲の良いグループだっている。こちらを窺っている様子は見られるし、グループを代表しての接の可能もあった。
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「……」
二岡から返事は來ない。今度はそっちが無視か? 見下ろす顔を見上げるも、能面のような無表で見てくるだけでどんな抱えているのかも分からん。
暫く両者共押し黙ったまま靜かに見合う。そっちから寄ってきた癖になんで何も言わない? 訝しんだ表を向けると、漸くと二岡がそっと口を開いた。
「……あんた……、春乃ちゃんとは……」
何事か言い掛けた所でざわりと教室に殘っていた一部がざわめく。お?と思い廊下側へと目を向ければ、そこには想像通りの人が出り口から中を覗き込んでいた。
「先輩!」
屈託のない笑顔を浮かべて俺を呼ぶ。そこにいるのは朝日だ。約束通りに來たようだな。
「……」
朝日の姿を認めるなり、二岡はすっと何も言わずに傍を離れた。朝日の名前を出していたし用件ってのは朝日についてか? もしかして早速と俺に関わったことのその影響が出始めているのだろうか。
自分のグループに戻るその背中を見送り俺も朝日の元に向かう。警戒するにしたって朝日とり合わせながらの方がいい。周囲から向けられる好奇に満ちた視線を無視して戸口に立った。
「お待たせしてすみません!」
「いや。それじゃ行くか」
「はい!」
元気良く返事をする朝日を連れて、生徒が行きう廊下をゆっくりと歩いて行った。
堂々と校舎を朝日を連れ立って歩き、そして辿り著いたのは中庭。真冬十二月の屋外とか晝間でも寒さは厳しいものがあるけどもそれも致し方なし。
中庭に置いてあるベンチの中でも特に日當たりの良い場所を陣取って晝食にる。もちろん、朝日と二人でだ。
俺と一緒にいる影響云々と気にしておいて、何を火に油を注ぐ真似なんてしてるのかと訝しむ聲がどこぞから聞こえてきそうだな。
でもこれ一応作戦。しかも朝日発案なのである。俺と朝日の仲良し度合いを見せびらかして噂は全くの噓っぱちなんだよと、そう周囲に知らしめるのが狙いだ。
事の起こりは昨日の帰り道でのこと。朝日が突然「良いこと思い付いた!」とんで、それで口に出した作戦がこうである。
『一緒にテスト勉強しましょう!』
出だしはこんなんだった。俺勵まされたの?と、直前の會話もあって悲しい気遣いかなと解釈したのだが続く説明で意味を理解した。
『蘆屋先輩もそうでしたけど、校では先輩は無理矢理私に言い寄ったという認識が浸しています。そこで私の方から喜んで近付いたらどうでしょうか!』
つまりは認識の払拭。口で言っても理解しない輩には実証をぶつけると、そんな力業での俺の噂撤回作戦なのである。
俺の場合は人ならざりし者の介も疑われているから効果の程があるのかは分からない。だが、それならそれで真実を叩き付けることで周囲の曇った目も晴らすことが出來るのではないかという狙いもあった。洗脳の類も認識を覆していくことで矛盾を生じさせてそこから解くとかいうしな。
噂の一つは出鱈目だった、そう示すことで生徒の思い込みにも亀裂をれることが出來る、かもしれない。
で、撤回のための行が朝日とイチャ……、仲良くすることだ。
噂では俺と朝日の仲は殺伐としてるみたいな話になっているが、そこで実際には仲良くしている姿を見せ付けたらどうなるだろう。噂は噓、なくとも朝日との関係については全くの出鱈目だったと対外に示すことに繫がる。
なので手始めに一緒に勉強すること、學校に殘るならお晝も一緒に食べましょう!と、そんな流れが決まった。そして只今実行中である。
一応そこまで朝日に付き合わせるのは悪いと斷りはしたのだが、「ん?」とニコォとした笑顔で首傾げられて遠慮の聲は窄みになってしまった。朝日からの圧が強い。洗い浚い心含めて吐かされてからこっち、本當に朝日が逞し過ぎて俺の立つ瀬がない。
「先輩のお弁當、味しそうですね……」
「そうか? 別に手は込んでないけどな。食べたければ抓んでいいぞ」
「え。え、でも……。い、いただきます……」
それぞれの弁當広げてのんびりと晝食タイム。こうも気の休まる晝飯というのも久しぶりな気がする。校舎からは幾つか視線も飛んでて落ち著く狀況とはほど遠いものの、聲の類は遮斷されてて朝日の遠慮がちな話し聲しかしないから靜かだ。
話している容は他もないものばかり。今日のテストの出來、他の勉強狀況、冬休みの予定に食べの話。
まぁ、世間話の一つだ。もちろん、この時間を単なる流の一場面で終わらせる気は頭ないが。
「えっと、私の方でも『願いを葉える神様』の噂については調べてみました」
世間話の合間にこっそりと朝日が切り出してくる。現在最有力の怪しい事象。朝日と蘆屋先輩の証言に出て來たこの騒が巻き起こる直前に流行っていたらしい噂について。その調査に朝日も乗り出してくれていた。
「テスト期間なのに悪いな。俺も調べられたら良かったんだが……」
「気にしないでください! 報収集は私に任せて、先輩はの回りを警戒していてください」
謝れば朝日はそう頼もしく返してくれる。俺は現在、評判最悪で聞き込みなんか出來る狀況にない。真実を知るためにも報は集めておきたいのだけども俺が話し掛けに行ったって邪険にこそされ収穫なんざ期待出來るはずもない。
むしろ下手にいて周りを煽るようなことがあれば危険だと朝日に宥められる始末だ。凄い人として駄目な野郎になってる満々である。致し方ないと理解はしているのだが。
「それで、大して聞き込みは出來ていないんですけど、どうやらこの神様はどこかの神社の祭神であるらしいんです」
「神社の」
「はい。なんでもその神社で願掛けを行うと本當に願いが葉うらしくて、事実かどうかは分かりませんが、実際に葉えられた人もいたらしいんです。そんな人もいた、といった合で詳細は何も分からないんですけどね」
「それはまた、曖昧だな」
まぁ、本當にご利益あるなら今頃大人數で押し掛けることになってただろうしはっきりしないのは仕方ないか。でも神社か。前にも似たような話を聞いた覚えあるなと思うけど、よくある話だし混同してるだけか?
「今の所分かってるのはこれくらいで……。全然報を集められなくてごめんなさい」
「謝らなくていいって。昨日の今日でむしろ新しいのが出て來たのが驚きだ。調べてもらえるのは助かるけど、でも俺を優先することはないからな? 朝日はまず自分のことを優先させて」
「そんな訳にもいきません。今以上に先輩がお辛い立場に追い詰められる前に解決しないと……。今だって、本當に大丈夫なんですか? 私には言い難いこともあるかと思いますけど、本當に困った時には言ってくださいね?」
本心で充分と言ったつもりなんだけど反対に朝日に心配を掛けてさせてしまった。散々に弱った姿を見せ付けたその結果だろうな。心底から気に掛けてもらえるのは擽ったくもありそして申し訳ない。
「大丈夫だ。まぁ、クラスの奴らからは無視をされてるけど、代わりにちょっかいを掛けてくる奴もいない。イジメらしいイジメも起きてない。本當だ」
「そう、ですか? ……いえ、無視も充分イジメではあると思いますよ?」
「今更話し掛けられないのなんてそよ風程度には無害でしかないんだけどな。……あ、いや。今日は関わってきた奴がいたな」
あ、と思い出す。そうだ、二岡の奴がいた。まぁ、用件は俺ではなく朝日だったっぽいけど話し掛けられたのは事実。
何を聞きたかったのかは結局分からなかったが、朝日の名前を出して來たんだ、警戒の意味も込めて話しておこう。
「え? 大丈夫でしたか?」
「危害は加えられてないから安心してくれ。二岡が急に聲掛けてきてな、どうやら朝日とのことで聞きたいことがあったみたいだ。でも的なことを話す前に離れていったから結局用件がなんだったのかは分からない」
「二岡先輩が……」
神妙な顔で朝日は黙り込んだ。……あ、普通に二岡の名前出したけど、朝日的にはいろんな意味で複雑なを向ける相手だったかもしれない。その辺り全くの配慮をせずに名前を出したのはデリカシーに欠けていたかもしれない。
「ああ、いや、ほら、朝日の名前を出したから、もしかしたら朝日に関する噂が流れるかもしれないと注意を……」
「……二岡先輩も、周りの人たちと同じように辛く當たっているんですか?」
ん? フォロー(になるかは不明)を必死に語っていたんだが無視された? いや、なんだその質問。
「え?」
「二岡先輩は先輩に告白をされたんですよね? それなのに周りの人たちと同じ態度を取られているんですか?」
思わずと聞き返したけど朝日に何を言わせているのか。朝日もなんで急にそんなことを聞いてくる?
「ええ。いや、まぁ、そこは、俺はフッた側だし、良くは思われてないのは仕方ない」
「想いが葉わなかったからって直ぐに恨みに変わることはそうはないです。私に全てを明かしてくれた時も、二岡先輩は申し訳なさそうにはしていても先輩を恨んでいる様子はありませんでした。本當に二岡先輩は先輩を嫌っている様子がありましたか?」
真正面から愚直なまでに訊ねられる。なんとも答え難い問いだ。でも、そう改めて訊ねられて思い返してみると……。
「……嫌っている、のかは分からない。俺もどう対応したらいいのか分からなくて、互いに疎遠になったから。でも、あいつの口から俺を貶す言葉を聞いてないのは、確かだ」
そう。俺に直接的な侮蔑は向けられたことがない、と思う。代わりに噂が広まった時も俺がクラスで孤立した時も何も言いはしなかった。遠巻きにして俺をただ見ているだけの……。
嫌われても仕方ないことをした。そう思って二岡の態度だって納得していたんだが……。
「おかしい、と思います。いくら酷い噂が流れて、皆がそれを鵜呑みにしたって、先輩のことを想う気持ちはそう簡単に変わったりしないと思います。二岡先輩が辛く當たるのはおかしいですよ」
のを読んだように朝日が俺の思い込みに斬り込んでくる。
そうなのだろうか? 俺はあいつの気持ちをけれなかった。だから嫌われた。そうじゃないのか? 噂だって、俺に幻滅するには充分な……。
「一度、二岡先輩とは話し合われた方がいいんじゃないでしょうか? 私のことを訊ねて來られたとしても、會話を持とうとしたのなら耳を傾けてくれる可能はあると思いますよ?」
「お、おう。そうだな……」
えらく気を回してくれるのに肯定以外の返事なんかしようがない。というか本當に朝日に何を言わせているのか俺。俺の問題だろうに朝日ばっかりに負擔を強いるとかけない通り越して非難ものだぞ。
もっとしっかりしないとと己をい立たせる。もう俺は一人ではない。寄り添ってくれる人間もいるんだから、せめて一人で立ち向かえるくらいにはならないと。
「……あ。もうそろそろいい時間ですし、図書室に向かいましょうか? 皆、お晝ご飯も済ませた頃じゃないでしょうか」
そうれた気合が朝日の容赦ない宣告に早速と萎れそう。
これまでの真剣な様子などどこかに置いた朝日がご機嫌に支度を整え出した。そう、俺への周囲の認知改善計畫はこれからが本番だ。衆人環視の下、仲良くお勉強というのが本來の作戦の要なんだ。
今でも迷いはある。こうも俺と目立ってしまって朝日は本當に無事で済むのか。そもそもこの作戦は効果があるのか? 朝日は仲良くと単に確執などないと示す腹積もりであるようだけど、これ今度は「実は隠れて付き合ってたのは朝日と!」とかいう噂に発展しないかと、そんな諸々の心配事は頭にもにも確かな痼りとなって存在を主張していた。
「先輩! それじゃ行きましょうか! 早く周りの誤解を解いてしまいましょうね!」
気掛かりならある。だが、こうも真っ直ぐと俺のためにと力を貸してくれる朝日を見ると、言いたい言葉も元で止まってしまうもので。
「……そうだな。頑張ろうか」
そうやって追従する言葉を吐くことしか出來ない。別に、一緒に過ごすのが嫌な訳ではないから、尚更拒否することも難しい訳で。
意志薄弱、この場合はそれで合ってるんだろうか? そんな己がけなくて、気付かれないようにそっと心の中で息を吐いた。
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