《高校生男子による怪異探訪》17.騒

テスト三日目。木曜日。ここ二日、朝日と考えた仲良しアピール作戦はまだまだ継続中である。

半ドンで學校が終わり、そうしたら朝日と中庭に行って晝を摂り、そしてそのあとは夕方近くまで一緒に図書室で勉強とこれなんて青春映畫?みたいなルーチンが続いている訳だ。しかも、実は下校まで一緒にしているというおまけ付き。

これもうお前ら付き合ってんじゃないのかと余所からツッコミがってもなんらおかしくない狀況ではある。なんせ俺自疑ってるからな。これ本當にイメージの払拭になってるの? 噂の撤回になってるの?って。いやその認識で間違いはないはずなんだけどなぁ。

それで、肝心の俺の悪評の払拭度合いなのであるが、これがまた正直よく分からん。効果が出ているのか不明なのである。

周囲から向けられる目は以前と変わりなく敵意が滲む冷たいもので、クラスでも誰からも聲を掛けられることなく遠巻きにされてひそひそやられている。骨に悪口聞かされたり、新たな噂の創出がなされ更に俺の評判が下がるといったことにはなってないがまぁそれだけだな。進むも下がるもしていない、現狀は停滯していると評するのが一番合ってるか。

そんな変化のじられない狀況下でも朝日と行を共にしているその影響は確実に周囲にも浸していっている、それだけははっきりと知覚出來ているのがなんとも不穏な気配を放っていた。

気になるのは時折朝日の名前が聞こえることだ。ぼそぼそと、前後の文なんかは聞こえずに微かに名前だけが拾えるじ。

元より俺に接を果たしたことで朝日にも注目は集まっていたようなんだが、ここに來て名前を聞く回數が上がってくるとどうしたって懸念材料と捉えるしかなくて。俺と連むことで朝日にまで悪い噂が立ったりしないかと気にはしていたが、まさか本當に……?

嫌な予はしていた。それでもテストは予定通りに進められ、皆も恙なくテストに集中していく。そうして今日も何事もなく學校は終わりを迎えた。

Advertisement

前日に倣えば、このあとは朝日の迎えを待ちまた中庭での晝食タイムとなる。天気は今日も晴れだ。外で食事を摂るにも何も問題はない。

で、暫くと教室で待機を続けるが朝日が來ない。ホームルームでも長引いたのかと時間を確認するがもう五分は経ってるし、テスト期間であるこの時にそう長々と生徒の帰宅を先延ばしにするかとの疑問も湧く。

連絡が來ていないかスマホを確認するも特に何もなし。何も言わずにこうも遅れるか? 朝日は禮儀正しくて時間だって厳守するのに。

「……」

嫌な予がする。れ違いになるかもしれないが、このまま座して待っている訳にもいかない。教室を飛び出して俺から朝日を迎えに行く。一年のエリアに行くのは悪目立ちが過ぎるが今は気にしている場合でもない。周囲から向けられる視線を無視して、朝日のいる上階に向かう。

果たして俺の行は正しいのか間違いなのか。迷いながら気配を殺すようにして上がった階段のその先で、直ぐに誰かのがなり立てる聲を耳が拾った。

「――だから! なんだってあんな奴と一緒にいるの!」

激しく責め立てる聲が廊下に響く。見れば廊下の一角に人集りが出來ていた。そこは朝日のクラスの前だが、まさか……。

「あんな最低な人間と一緒にいたら、あんたまで同じ人間として見られるってなんで理解しないの! 付き合う人間はちゃんと選ぶべきよ!」

聲高にぶその臺詞はグサグサと俺のに刺さる。人垣の後ろに立ち、そっと中心を覗き込めばそこにはやはり朝日がいた。

対峙しているのは俺の知らない子生徒だが、もしかして同じクラスの人間なのだろうか。

「相手は好きで同級生だって平気で食いにする最低野郎よ! あんただって噂じゃ無理矢理迫られてたって話なのに、なんで一緒にご飯食べたり勉強なんかしてるの! おかしいでしょ!」

子生徒は周りの目も気にならないのか廊下に聲が響くのも気にせずにぶ。完全に俺のことを言ってるな、これ。

Advertisement

まぁ、これが俺に対する校の総意ってものだ。好きの最低男。こうしてはっきり非難されるのも數日振りではあるが、悪く言われるのはやはり心に來るものがある。

こんな浸してる俺へのイメージをどうにかしようと行で噂が虛偽であることの証明をしているんだが、この子を見る限りはそれらの思は全くと通用してないのが分かる。

まぁ、無理もない。まだ始めて三日目、実質的な行は二日分に留まる。この短期間で、俺にべったりられた最低な人間というラベルが除使ったみたいに綺麗に剝がせるならそんな単純な話もない。

ましてその背後にもしかしたら神様なんていう大層なものも控えているとなれば。一介の人間の策略により、神の業も無効化出來るというのも変な話道理が通じないような気もする。そんな安易な存在か、神様って奴は。

朝日を巻き込んでおいて軽々しく諦めるのもどうなんだと思う気持ちはあるものの、なんとも、無な現実を突き付けられてやる気というものが分かり易く自分の中で目減りしたのを実した。

無意味な抵抗だったのだろうか。聲高に子を見て後悔の念が湧き出てくる。何に対する後悔なのか、そんなの、こんな衆人環視の中で責め立てられている朝日に対しての、だ。

俺に関わらなければこんな目に遭うこともなかっただろうに。予期もしていた朝日にとって不都合な狀況、それが目の前でまざまざと再現されていて鉛のように重たいものがに積み上がっていく。

「……私は私のしたいようにしてるだけ。何もおかしいことなんてない」

「はぁ!? 自分からあんな人間に関わりに行ってるっていうの!? やっぱりおかしいわよ! そうよね!?」

靜かに反論した朝日に畳み掛けるように子は外野にと意見を募った。周りで黙ってり行きを見ていた生徒は、予め仕込まれてでもいたように口々に子への賛同の言葉を吐く。

人垣になるくらいの人數が二人を取り囲んでいるというのに誰も朝日を庇い立てもしない。それは全員が俺を悪人だと決め付けているからか。

Advertisement

また俺が原因で朝日を苦しめているのかよ。せめて俺だけでも朝日の味方に立ちたいが、ここで庇いに行くのは朝日にとって良いことなのだろうか? 糾弾される原因である俺が庇った所で、更なる窮地を招く要因になりはしても本當に朝日の助けになるのか。迷いで足が踏み出せない。

朝日がただ一人、集団の圧力にじっと耐え続けていれば、対峙していた子が唐突にハッと何かに気付いた風に聲を上げた。

「……まさか、脅されて一緒にいるの? 自分の評判を元に戻すために、無理矢理付き合わされていたりするの?」

まるで天から啓示を得たと言わんばかりの口調に顔をする。周りの奴らもそれがさも正解といった風に納得した顔をした。ざわざわと喧騒が広がる。

「そうよね。だから一緒にいるんだ。うわ、脅しまでして言うこと聞かせようとか本當に下劣な相手なんだ。ごめん、よく事も知らないで非難して悪かったわ。春乃も被害者なんだね。大丈夫だよ。私が味方になってあげるから。ほら、本當のこと教えて。脅し付ける最低な人間なんて私が追い払ってあげるからさ」

それまでの熾烈なまでの追及が噓だったように子は優しげに微笑んで朝日に手を差しべた。周囲からは「そんな」とか「脅されてたの?」とか「サイテー」など子の言い分を信じ切った意見が呟かれている。

何を見せられているんだろうか。大した拠もなく想像で話を作られて、しかもそれがさも真実であるかのように流布される。一方的にレッテルをられ、クラスから孤立した時を嫌でも思い出す景だ。

ざわざわ意見を言い合っていた何人かが俺に気付いて振り返る。胡な表が嫌悪に歪むのを眺め、ここが引き時かと察する。子の妄想は否定しておきたいが俺が何を言ったって聞きやしないのは経験で知ってるし、ここで爭えば朝日を巻き込むことにもなる。俺が非難の全てを引きけて退散するのが最適解か。

「……ないで」

俺を見付けた何人かが聲を上げようと口を開いたその時。朝日がぼそりと小さく何かを呟いた。

「え?」

「……ふざけないで、勝手なことばかり言って。先輩のことを何も知らない癖に勝手に悪者にしないで!!」

轟くような怒聲が辺りに響く。空気を震わせて、それこそ雷鳴のように朝日は糾弾の聲を子へとぶつけた。周りで見ていた生徒は皆その聲にピシリときを止める。対面の子も同様だ。

「なっ……!?」

「先輩が脅す? 評判のために言うことを聞かせてる? 噓言わないでよ! 先輩はそんなことしない! 私は私の意思で一緒にいるの! 先輩は自分と一緒にいると私も変な噂されるんじゃないかって、むしろ気遣って遠ざけようとしてくれるような人だもの! 本當は、凄く優しい人なんだから!」

怒濤の如く朝日は捲し立てる。こちらからは表は窺えないが、対面する子の顔が引き攣っている所を見るに余程威圧的な表でも浮かべているのかもしれない。

烈火のように怒りを表す朝日に誰もが驚きに何も言えなかった。俺も、ここまではっきりと言い返すとは思わずい止められたようにかない。

「や、優しい? 二掛けるような人間が優しいって、そんなはずないじゃない。春乃は騙されてるの。永野真人は本當に品下劣な人間で……」

「それだってどうせ噂に聞いたからそう思ってるだけのことでしょ? 先輩自のことを碌に知らないで、どうして皆誰かが勝手に流した噂の方を信じるの。私には皆の方がおかしく見えるわ。事実を確かめようともしないで、ただ聞こえただけの噂を信じるなんて考えることを放棄してるのと一緒じゃない。中の伴ってない言葉でめられたって私はちっとも嬉しくない」

「なっ……!?」

カッと子の顔にが上る。朝日の拒絶の言葉に怒ったのか、それとも恥をじたのか。どちらにせよ吊り上げた眥で子は朝日をぎっと睨み付けた。

「何よ……。こっちが心配して聲を掛けてあげたのに偉そうに……。人の善意を馬鹿にするなんて最低よ!」

「最低でいいわ。私は間違ったことは言ってない。先輩のことも含めて、おかしなことを言ってるのはそっちだもの」

「おかしいのはあんたでしょうが! 永野真人が人としてどうしようもない人間だってのは確かなことでしょ! なのにそんな奴庇うなんて……」

そこまで怒りのままにんでいた子がニヤリと嫌な笑みなんか佩いた。

「ああ、そうか。あんたも同類だから? あいつに似合いの格してるからおかしくないとか言っちゃうの? そっか。春乃っては奔放なタイプ? まぁ、その顔だったら大概の人は釣られるだろうけどね」

悪意のたっぷり籠もった嫌な視線が朝日に突き刺さる。それは周りで囲んでいた人間も同じで、それまで朝日の威に呑まれて固まっていた奴らが途端子の発言に同調して非難の聲を上げ出した。

皆、子の言い分をあっさりとれて今度は朝日を四方八方から突く。

なんだそれ。どうして朝日が単なる妄想で非難されないといけない。周りで囃し立てる奴らの顔はどれも歪な笑みをり付けていて口々に子の妄言を肯定する容をぶ。

聞くに堪えない。中には朝日の名譽を著しく傷付ける発言も紛れ込んでいた。自分が何を発しているのか理解してるのか?

不快に撤退することも忘れてやいやいと無責任に騒ぐ人垣を睨み付ける、そこに見知った顔が並んでいるのに気が付いた。以前に何度か見掛けた一年の子たち。俺の記憶が正しいなら、彼らは朝日の友人だったはず。

朝日と親しくしていたはずの彼たちは、一人糾弾の的となっている朝日を目の前にし庇うでもなく擁護するでもなく、無言で人垣に紛れて事の推移を眺めている。

見捨てたと、そう思うしかない景に己の中の不満が一気に限界を迎えた。

なんでこうなる。なんで朝日は一人ぼっちになっている。朝日が非難される謂われは一切ない。俺がなるならそれはもう致し方ないとも思えるが、でも朝日は違うだろう。朝日が辛く當たられるのは理不盡以外の何者でもない。

俺が朝日を庇うことの是非について、迷いはまだ自分の中にはある。ここで飛び出しても事態を更に混させるだけで朝日のためにはならないかもしれない。朝日に押し付けられたただの推測も補完する結果になるかもしれない。

でも、だからってもう見過ごす選択は採れない。朝日が悪いと決め付けるその押し付けが何より許せなかった。

ぐっと人垣を掻き分けて中心に向かう。俺の顔を睨み付けてくる奴もいるが、知るか。睨み返しながら一人佇む朝日の隣に立った。

「……え?」

「……っ、え、せ、先輩!?」

突然の者に気付いた二人が驚きの聲を上げる。朝日は毅然とした態度をどっかにやって大きな目を更に大きく見開いたりしていた。

「大丈夫か?」

「ど、どうして先輩がここに……?」

「遅いから迎えに來たんだよ。何かあったのかと思ってな」

まぁ、その読みは大正解だった訳だが。俺の登場に目を白黒させてる朝日は置いておいて、強く人の顔を睨み付けている子へと目を向けた。

「……」

「……ああ。やっぱり二人はデキてるの? 庇いにでも來たの、最低人間さん。自分の彼のためなら一応表に出るくらいの気概はあるんだ」

「彼じゃない」

勝手に話を進める子へときっぱり告げる。俺の話を聞かなかろうが気にしない。こいつの勝手な憶測はここで今全部否定する。

「え?」

「いろいろと話を作ってくれたようだが、お前がここで思い付きのままに語った全部、見事に見當外れだから。俺は朝日を脅してないし、朝日は奔放な格なんざしていない。俺と一緒にいてくれたのは俺が孤立したことを心配してのことだし、お前が下衆の勘繰りした付き合って云々もそんな事実は一切ない。お前、ちょっと妄想激し過ぎるぞ」

「はぁっ!?」

異議申し立てついでに子への非難もつい口から零れ出た。まぁ、これくらいは許容してしい。

「妄想って何!? 事実でしょ!? あんたは好きの倫理観欠如野郎! 春乃はそんなあんたを庇うような節なし! 何が違うっていうの!」

「……俺に対する評価は、まぁ校じゃそれがもう浸しちまってるから今更どうこうとは言わないが」

ギャーギャーと無責任に言い掛かりを繰り返す子を睨み付け、強く強く聲に力を込めて言い捨ててやる。

「朝日に対する侮辱は何を拠として言ってんだ、お前? お前は朝日がそうしてる場面でも見たのか? 自分でも最低だと分かってる評価を付けようとしてるんだ、まさか完全な憶測で口に出したんじゃねぇだろうな?」

聲は荒げない。的になっても相手を煽るだけで意味がない。こいつの発言にはなんら拠がないと、想像だけで語ってるとそれを証明することだけに注力する。

撤回させたいのは朝日への侮辱だ。単なる言い掛かりを信じ込んだ周囲含め、それだけはこの場で後腐れなく徹底的に出鱈目だったと明かしてやる。

「……っ」

「なぁ、どうなんだ? お前はお前の発言が正しいと、そう客観的に示せるものはあるのかよ。憶測でも妄想でもなく、本當に朝日が『そう』だって確信が持てる証拠持ってんのか? いや、持ってるからここまで大膽に非難も出來たんだよな? お前の発言は言い掛かりにしたって酷い容だったからな」

「それは……!」

「それはなんだ? 反論はなしか? 抗弁も何もないなら完全なお前の妄想で誹謗中傷したってことになるが?」

追い詰めに掛かるが子は反論らしきものも口にしない。俺を睨み付けはするもののそれだけだ。

ま、証拠とか出せるはずもないよな。だって事実ではないんだ。適當に話をでっち上げることは出來るかもしれないが、そんなことしてもこの場で徹底追及して叩き潰すだけだ。

「……っ、あんたに、あんたに偉そうにされる筋合いはないのよ……! 品下劣の最低男……!」

「またそれか。もう俺の悪口なんて一々相手するのも面倒だから流すけど」

ぎっと目に力をれて子を睨み據える。怒りがれてしまったか、ビクッと恐怖にかを震わせた子へ最後通告のつもりで言い捨てた。

「朝日への侮辱は許さねぇぞ。朝日はお前みたいなのにギャーギャーと文句言われるような悪いことは一切してない。また妄想口にするなら、今度はお前が自分の間違いを認めるまで徹底して抗戦してやるから覚悟するんだな」

「……」

子は無言だ。顔を青冷めさせ、それでもキッと最後に一睨み殘して人垣の向こうにと逃げていった。やり過ぎたか?と一瞬思いはしたけどこの様子なら問題はなさそうだな。

一息吐いて、次はこっちだと今度は野次馬共に目を向けた。

「お前らもどうなんだ? あいつが朝日を侮辱した時、一緒になって非難をしていたけど確信持てるような報持ってんのか? お前らもただ他人の言い分を鵜呑みにしただけか」

ぐるりと周囲を見回しながら訊ねる。ざわざわと揺した囁きは聞こえるものの明確な反論などは一切挙がらない。かと言って朝日に謝罪する向きもない。

どっち著かずに慌てるだけの群衆に苛立ちが募っていった。

「お前らは朝日に酷い言葉を投げ掛けたんだぞ。それに対する謝罪もなしか? 自分は他人を非難しても、自分が非難される立場になったら無言かよ。自分の非を認めるのか、それとも自分の吐いた臺詞に責任持つのか、せめてそれくらい直ぐに決めろや!」

我慢出來ずに怒りをぶつけてしまう。何人かは痛い所を突かれたと顔を逸らしたりしているが、大多數は俺に怒鳴られたのが腹立ったのか人を貶して話をすり替えようとしていた。

悪口言い放つ奴なんか相手にしても意味がない。人垣に紛れて戸った表を浮かべてる朝日の友だちに目を向ける。彼らは今度は自分が標的となったと思ったか、俺と目が合うなりはっとを強張らせた。

恐れを抱いてる様子の友人たちだが、でもここで怒鳴り付けたってそれが何になる訳でもないことは理解している。

「……友だちだっていうなら、噂を信じる前に本人にちゃんと確認取ってやれよ。本人より噂を信じてやるな」

掛けたいのは説教なんかじゃない。俺は言葉足らずであいつらを誤解させてしまった。だからせめて朝日にはそうあってしくなかった。ちゃんと當人で事実を確認し合って、噂にわされずにきちんと意思の疎通を図ってしかった。

願いを込めて口にすれば、朝日の友だちは目を丸くして固まる。何も言い返しもせずにじっとこちらの顔を見つめるのにこっちから視線を外した。

言いたいことは言い切った。周囲から上がる非難の聲がいや増していくのにそろそろ退散するべきかと機を読む。気掛かりは朝日だが……。

隣の朝日の様子を窺えば、俯いてでも人の制服の端っこをしっかりと摑んでいる。

いつぞやの景を思い出すな。これだと、俺が注目を浚って退散ともいかない。

「朝日」

「……行きましょう」

小さな聲で答えが返った。それは目立つと諫めたいが、服の端を握る手は強くて振り払うのも難しそうだ。

朝日の友だちに最後に視線をやり、それから朝日を伴ってその場を離れた。背後から幾つも罵聲が屆くが、全部俺のことだしまぁいいか。追い掛けて毆り掛かる度もない奴らなら何を言われた所で問題にもならない。

喧騒を避けて、そのまま屋上へと退避した。

扉を開けて外に出る。冷えた空気が火照ったを冷やしていって瞬間心地良さに目を細めた。群衆に囲まれてて知らず熱を籠もらせていたらしい。靜けさが広がっていることもあってほっと息を吐く。

「……」

「……」

朝日と二人、互いに無言だ。何をどう言えばいいのか。

懸念してはいたが、やはり朝日に迷を掛けることとなってしまった。先程までの騒のその原因は結局は俺だ。俺と連むこともなかったら朝日もああも衆人環視の中で酷い言葉を投げ掛けられることもなかっただろうに。友だちともギクシャクさせてしまった。俺の所為で朝日まで友関係が拗れてしまったんだ。

謝って済む問題じゃない。もう、朝日を関わらせるべきじゃないだろう。遅いかもしれないが、でもこれから先も俺に関わらせるならまたああいう目に遭いもするはずだ。今度はもっと酷いことになるかもしれない。その可能を思えば、もう朝日は逃がしてやるべきだ。そう思えた。

「……なぁ、朝日」

「嫌ですから」

説得を、と口を開いたこちらの機先を制するように嫌にきっぱりと朝日はそう告げた。一瞬何を言われたのか分からなかった。朝日は、くしゃりと今にも泣き出しそうな顔で俺を見上げていた。

「絶対に、先輩の傍から離れませんから。先輩を一人ぼっちにはさせません」

怒ってるような、自棄になってるような、そんな雰囲気で朝日ははっきり斷言する。考えが読まれた。驚きと、それから戸いが溢れて頭が混する。

「え、いやでも」

「でもじゃないです。私は何があったって先輩の味方をするんです。そう決めていますから。だから先輩を一人にはしません。先輩からの頼みだって、こればかりは聞けませんから!」

そう言ってきゅっとを結んでこちらを睨み上げてくる。不機嫌そうな顔付きでものままいや今気にするべき點はそこじゃない。

なんでだ。どうしてそこまで俺を気に掛ける。朝日が無理をする理由は何もなくて、むしろ守られているべきはずなのに。俺と一緒に針の筵に曬される謂われは朝日にはないだろう。

「……どうしてそこまでするんだよ」

気付けば疑問が口を衝いて出てしまっていた。今更な質問に、朝日はそれでも仕方ないと言わんばかりに泣き笑いの表で言った。

「どうしてって。……告白したこと、忘れちゃいました?」

冗談染みた軽い口調で朝日は靜かに口にする。うっすらと頬を染めた顔で見上げられて心臓が大きく鳴った。

忘れていた訳ではない。頭のどこかではちゃんと朝日の気持ちも理解してはいた。

でも、でもなんで俺なんだ。朝日にしろ二岡にしろ、なんで俺みたいなのを好きになるんだ。俺なんて誰かに好かれる要素なんて一つもないだろ。どうして、好意なんて向けてくるんだ。

朝日の気持ちは知ってはいる。でも、どうしたってけ止めることは出來そうにない。朝日は覚悟を決めて真正面から伝えてくれただろうに、俺は何を返すことも出來ずにただ黙ってその顔を見返すことしか出來なかった。

    人が読んでいる<高校生男子による怪異探訪>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください