《高校生男子による怪異探訪》18.確信の糸口

朝日の気持ちに応えることも出來なかったからか、結局は朝日を説得することも上手くいかず話はそのまま流れてしまった。

流石に勉強をする気にもなれなくて直ぐに帰宅となったけども、下校は一緒だったし別れ際には「絶対に先輩の傍から離れませんから。だから勝手に決め付けないでくださいね!」と念押しまでされた。

告白の返事だってはっきり告げない男にどうしてそんなれ込むことが出來るんだろうか。あれか、駄目な男につい惹かれる、というのは朝日に対して失禮か。

ともあれ、そうやって自の噂の他にも朝日への対応でもモヤモヤとしたものを抱えてしまってまた寢不足な中、本日は金曜日、期末テストもラストを迎えようとしていた。

最終日とあって今日は四時限目までテストはある。そのあとは通常に戻り、今日から部活も解だ。

それに合わせて一度調査の報告會をしようと蘆屋先輩から打診されていた。樹本が顔を出すんじゃないかと気になったが、そこはテスト明けということで本日は休みにしたともう手を回している模様。

実に手際が良いが、つまりはそこまでして報告したい何かがあるということだろうか。これはちょっと期待出來るような、恐ろしいようなじだ。

意識は放課後に向いているけれどもテストだってなおざりには出來ない。まぁ、普段と比べれば今回はいろいろあり過ぎて結果はお察しなじだ。赤點は多分回避は出來た、はず。ああ、二學期最後の通知が今から恐ろしい。

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で、怒濤のテストの連撃も乗り越えてホームルームも無事終了。これでテストも終いとなった。

開放に騒ぐ教室でいそいそと支度を整えていく。蘆屋先輩と會う約束をしているから遅れる訳にはいかない。本日は朝日には迎えには來させずに直接オカ研部室で落ち合うことにしていた。

昨日の今日だし、もしまた絡まれることがあっても俺以外の人間との約束があると言ったらそう拘束されることもないだろうとそんな狙いもあった。

テスト期間だったのでそう持ち込んでるない。あっという間に荷を纏めてさっさと席を立つ。マイナスな印象を持たれている以上、遅刻など更なる失點を稼ぐのは厳だ。俺もまた不要に絡まれることを避けるべく教室を出て行こうと、したのだが。

「ちょっといい?」

すっと進路を妨害するように目の前に誰かが割って立つ。見ればそれは二岡だ。無表でこちらを眺めている。

ここで二岡が來るのかよ。朝日に言われたことが頭の中でぐるぐる回り、急いでいることもあってついぶっきらぼうな言葉が口から飛び出した。

「……何か用かよ」

「私が、じゃないけど。あんたに言いたいことがあるって相談をけたの」

ん? 用があるのは二岡じゃない? どういうことだと思えば、ふとその背後に見慣れない顔があるのに気付いた。見慣れないのはそいつが一年の子であったからだが、でも昨日には散々に睨み付けて睨み付けられてと見覚えはある顔だ。

ここでお前が來るのかよ。俺に用があると二岡が仲介したのは昨日朝日に絡んでいたあの子生徒であった。

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「……そいつはお前の知り合いか?」

「部活の後輩よ。テニス部の」

思わずと訊ねたのに淡々と答えられる。マジか。そんな繋がりがあるのかよ。いや、昨日やり合ったばかりだし、去り際にこちらを睨んでいった所からもまた何か言ってくるだろうなと覚悟はしていたがこんな形で関わってくるとは。

子は二岡を盾にしてぎっと俺を睨み付けている。また一戦やり合うつもりなのは確かなようだ。この後予定あるっつうのに、このタイミングで絡んで來なくてもいいだろうに。吐きそうになった息をどうにか寸でで堪えて用件を訊ねた。

「……それで? 俺に一なんの用で?」

面倒なことこの上ないがずっと睨み合っている訳にもいかない。言いたいこともぐっと堪えて冷靜に聲掛けたんだけども、相手の方が我慢する気が皆無だった。

「用件なんてそんなの決まってるでしょ。私に謝らせるためにわざわざ來てやったのよ」

偉そうな口振りで子は棘を隠しもせずに宣う。俺が年上だってことはどっかに忘れてきたのかね。いや、それよりも謝らせる、ねぇ。

「それは何についての謝罪だ? なくとも、俺はお前に謝罪しなけりゃならんことは何もしてないと思うが」

「しらばっくれる気!? 昨日、春乃と結託して私に人目のある中で恥を掻かせたじゃない! その所為で私は酷く傷付けられたの! あんたたちの所為よ!!」

がっと興して子は上級生の教室だとも気にせずにぶ。ヒステリックにぶ聲はスキャンダルに興味津々な人間からしても耳に障るのか、教室に殘っていた奴らは我関せずとそそくさ廊下に出て行った。面倒を嫌っただけか? 樹本たちも同様で、二岡も若干迷そうに眉間にシワを寄せてる。

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「結託? おかしいな、俺の記憶が確かならまず最初にお前が朝日に言い掛かりをぶつけていて、俺も朝日もそれに反論していただけのはずだが?」

「それが結託だって言ってるの! わざと私にを突かせて、それで証拠は?って大勢の前で聞いたんでしょ!? あんたたちが仕込んだから証拠なんてあるはずないし、そうやって自分たちは正しいんだって見せ付けて皆を騙すつもりだったんでしょ、この卑怯者!」

びしっと自信満々に斷言するけど、何言ってんだこいつ。仕込んだ? 騙す? いきなり絡まれた俺たちがどうやってこいつを罠に嵌めるというのか。都合良く脳で変換し過ぎだろ。

昨日のやり取りはこいつにとってまない結果であったことは分かる。だからってこうも自分に寄った形に話を作り変えるかね。

まぁ、妄想激しいし虛言だって言い張りそうな素養は見えてはいたけども、しかし昨日の今日でこれか。二岡もとんでもない後輩を持ったな。

「お前の妄想力が逞しいのは分かるがな、俺たちは別に結託なんてしてないし、お前を含めあの場にいた全員を騙す気もさらさらない。全部お前が自滅しただけの話だ」

「噓よ! そうやって私を悪者にする気でしょ! 二岡先輩こういうことなんです! こいつは私を嵌めて、それで自分の評判を上げるような姑息な男なんです! 先輩からもあんたのやってることは最低だって言ってやってください!」

無茶苦茶だな、こいつ。部活の後輩だからと二岡を抱き込んで俺を責める腹積もりか。姑息なのはどっちだよといった所だ。

呆れながら二岡を見るが、その當人は話を振られたのに困った風に子を眺めるだけだった。あれ? てっきり口車に乗せられて一緒に俺を非難するかなと思ったんだが。昨日の集団の反応からしても、ここは子の言い分を真にけそうなものなのに。

それは子も同じ想だったか、かない二岡に驚きを見せたあと焦った様子で言葉を重ねていく。

「ほ、本當なんです、信じてください! こいつは噂通りに最低な男で、私も昨日大勢の前で名譽を傷付けられて!」

「……」

必死に俺を非難するが二岡には響かない。當人は曖昧な表子に向けるだけで、味方になるでも俺と敵対するでもなくく口を閉ざしていた。

予想外だ。最悪は二岡と子の二人を相手取らなけりゃいけなくなるかもとか覚悟をしていたのに、肩かしもいい所だぞ。二岡は俺を嫌っていたんじゃないのか? ふと、朝日に指摘されたことを思い出したけど、もしかして……?

「に、二岡先輩、なんで何も言ってくれないんですか!? まさか、こいつの方を信じるんじゃ……!」

考えに耽っている間にも子の懸命な説得は続いていて、でも手応えのじられない二岡の態度に子は己の不利を悟ったのか縋るように二岡の顔を見上げてる。

そこで、ハッと何かを思い付いたような顔を子はした。

「こ、こいつは信用なりませんよ! だって先輩と二掛けるような男ですよ!? 先輩は被害者なのに、それでもこいつの味方をするんですか!?」

起死回生のつもりか、さも都合の良いことを思い出したと言わんばかりに子は噂を持ち出してきた。選りに選ってなんて話題をここで出しやがるのかこいつ。

「おい、何言って」

「図星刺されたからって今更焦ったって遅いわよ! 先輩、この男は朝日春乃と結託して先輩を弄んだんですよ! 自分たちが付き合ってるの隠してて、それなのに先輩とも付き合った外道ですよ! 悔しくないんですか!? 自分を騙して影で笑っていたんですよ!」

「お前!」

必死だから頭回っていないのかもしれんが、それにしたって二岡本人になんてこと言いやがる。

當人のことを思って真実を突き付けて目を覚まさせる、てのは優しさの一つではあると思うが、この子はただ自分の保のためだけに二岡に酷い言葉をぶつけているのが丸分かりだ。

噂は事実ではないから本當の意味で二岡が傷付くことはないかもしれない。だが、子は噂を信じて二岡の傷であると理解してこの発言をしてるんだよな? 自己本位にも程がある。なんでこいつの自己保のために二岡は噓まで吐かれて不名譽なこと言われなくちゃいけないんだ。気にらねぇ。

「いい加減にしろ。お前は自分さえ良ければ他はどうでもいいのか。朝日にしろ二岡にしろ、自分の虛言を補完する目的で噓を押し付けてんじゃねぇよ。相手がどんな気持ちになるかも想像出來ねぇのかよ」

「あんたに説教される謂われはないって言ってるでしょ! ほら、こんな風に自分に都合が悪くなると高圧的に出て來て主張を通そうとするんですよ。こんな男の言うことなんて信憑ないですよ。間違ってるのはこいつの方なんです。ね、先輩? 私の言うこと信じてくれますよね? 私の方が正しいって、信じてくれますよね?」

どの口が言ってるのか。どうしたって自分にとって都合の良い展開に持って行きたいらしいな。

引き攣る頬で無理矢理と笑顔作る子はびた聲で以て二岡に自分の主張の正しさを訴え続ける。腹の底を焼くような怒りに見舞われつつも、その姿見てなんとなく察したわ。

結局俺に謝らせたいのも自分は正しかったと昨日口にした言い分の正當を得るのが目的か。俺や朝日を下げて、そして自分は多數から支持をけて正しいことを行っていると周囲に示したい訳だ。

俺たちが結託して、なんてどこから出て來たのかも分からない因縁も、要はこいつの中にその発想があったからこそ至ったものなんだろう。

思えば、こいつは俺を『悪』として定めて朝日の味方になるとか言ってたっけ。自分を『正義』だと定義付けて良い気分にでもなっていたか?

正しさに括っているのも得られた優越を手放したくないように見える。穿ち過ぎているか? だが、ここまで妄想を真実だと思い込めるのはそれだけ他から余計なバイアスが掛かっていることの証明にならないか。

もしくは神様からの影響故か? そう考えると同しないでも、いややっぱり無理。他の奴らと比べてもいちゃもん付けられ過ぎて今更寛容な目なんか向けられねぇわ。

「……そうね」

「!」

勝手極まりない子の心トレースして怒りの炎を燃やしていると、それまで黙り込んでいた二岡が不意に同意の言葉を返した。子はパッと喜を顔に宿して聲を上げる。

「あ! や、やっぱり先輩は私の味方で」

「噓を吐いて人を貶めるのはいけないことだと私も思うわ」

「え?」

酷く冷淡に二岡は呟く。顔は子に向けられていて視線も真っ直ぐと子を捉えている。

「え、なん」

「私とこいつの噂はね、全くの出鱈目なの。こいつとは付き合ってないし、だから二でも乗り換えられた訳でもない。別に私は永野には酷い真似なんてされてないの。だから私との噂を理由にこいつを最低な人間だと決め付けるのは、それは間違っているわよ」

淡々と、驚きに固まる子へと靜かに二岡は言い聞かせる。澱みのない、ただ事実を告げているだけのらかな語りだ。それを子は唖然としてけている。

「……そんな……」

「ここまでの騒ぎになるなら早く真実を教えてあげれば良かったわね。それは私が悪かったわ、ごめんなさい。でも、あなたも私に直接確かめることもしないで噂を信じただけでいたのは確かよね? 自分は正しいと何回も繰り返していたけど、あなたの意見の大半は確証もないただの想像から來てるのは間違いないはずよ。私に対して勝手な憶測でこいつを責めるように言って來たようにね」

「っ!」

「噓の容で他人を批判するのは間違った行為よ。それは正しくなんてない。間違ってるのはあなたよ。謝るべきはあなたの方よ」

ピシャリと二岡は言い切った。何も言えずを噛むだけの子に無表で斷罪を告げる。

子にとっては青天の霹靂にも等しいだろう。絶対の味方だと思い込んで引き込んで、俺の前にとやって來たんだろうし。それが反対に自分を責める側に立つなんて思いもしなかっただろうな。

二岡から加えられる無言の圧力に、子は深く俯いて肩を震わせた。

「……っ」

かと思えば、分が悪いと即座に判斷したのか、子はいきなり背を向けてそのまま教室外へと一気に駆け抜けていってしまった。なんの迷いもない迅速過ぎるきだった。聲を掛ける暇もなく廊下を走る足音が遠く離れていく。

「……」

「……」

あとには俺と二岡が殘された。何も言えずに重い空気が漂う。

子も衝撃けただろうけど俺だって今混している。二岡が噂を信じていなかったこと。後輩ではなくこちらを信じたこと。いろいろと想定していない事態が続いて頭の中がわちゃわちゃしていた。

いや、噂に関しては二岡に関するものは事実は把握しているだろうし、本人もさっき申告したように俺が酷い目に遭わせたなんてのは噓だと理解もしているはずで。

でも本人はこれまで何も言わなかったし。俺との噂を否定することも、まして俺に文句を言いに來ることもなくて……? ああ、駄目だ。酷く混してる。頭の中がごちゃごちゃしていて上手く考えを纏めることも出來ない。

「……ごめんなさい」

ぐるぐると頭を空回りさせていたら小さな聲が聞こえた。パッと視線を向けると二岡は顔を逸らして、でも離れずにその場に留まっている。

「……え、なんでお前が謝る」

「後輩のしたことだし、それに私が事実を教えてあげなかったから。面倒なことに巻き込んでしまったそのお詫びよ」

思わずと訊ねればそんな答えが返った。無想だし顔も逸らしたままだけど、謝罪の意思は本當なのか聲は沈んでいる。

俺への敵意とか特にないのだろうか? いや、噂が出鱈目だと知ってるならそもそもそこまでのヘイトもない、はず?

「な、なぁ」

「!」

ついと聲を掛けてしまったが反応は劇的だ。パッとこちらを見やったあと、大袈裟なまでに距離を空けられる。見えた顔は変に引き攣っていて、その顔だけでも俺を拒絶してるのはまざまざと知れた。

ある程度予想はしていたけども、顕著過ぎる反応には期待があった分盛大に凹む。

「……ち、違うの……」

やっぱり嫌われてた。骨に肩を落としていただろう俺に、震えた聲で何か言ってきた。視線を上げれば、二岡は苦しそうに自分のを抱き締めている。

「……何故かは分からないの……。でも、どうしてかあんたを疎んじゃう……。あんたが悪いんじゃない、噂は出鱈目だって知ってるのに、なのにあんたが全部悪いんだって、嫌う気持ちが勝手に湧き出て來るの……」

「え……?」

「だから、ごめん。今は関われない。あんたの顔見ると、全部あんたの所為にしてあんたを嫌って終わりにさせてしまいそうなの。嫌いなはず、ないのに……。なのに勝手に酷い言葉をぶつけそうで……。だから、ごめんなさい!」

最後にぶと、二岡もまた踵を返して教室を飛び出した。俺を振り切るようにしてあっという間に廊下の向こうにと消えて行く。徐々に遠くなる足音だけが他に誰もいない教室に殘った。

嫌う。あいつは俺への嫌悪を認めた。でもそれは勝手に湧き出る? どうしてか俺を疎む? 意味の分からない話だが、でも俺を振り切る際のあいつは目に涙を浮かべていた。酷く悲しそうで、心底から嫌がってる橫顔が脳裏に深く刻まれた。

「……勝手に、嫌う……?」

思わずと小さく溢す。愕然とした呟きは誰に拾われることもなく靜かな教室に落ちて転がった。

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