《高校生男子による怪異探訪》5.二岡の知ること
「ごめんね。わざわざ呼び付けたりして」
時刻は放課後。さっさと生徒が散開した教室で樹本は一人の人間と対面している。その相手は二岡だ。
「……三花から、話があるようだって聞いたけど」
対峙する二岡はどこか元気がない。普段のハキハキと申す姿は鳴りを潛めており聲にも張りがない。二人っきりの教室で二岡は樹本の顔だって真っ直ぐと見ようとしていなかった。
能井の様子がおかしいという発言も頷けると樹本は中で溢す。
「うん。二岡さんに聞きたいことがあって。多分長くなると思うけど、今日って時間大丈夫? 確かテニス部は今日も活していたよね?」
「……問題ないわ。今は、部もしごたついてるから」
「え?」
気になるワードが溢れ出るがそれについて二岡は語るつもりがないらしくく口を閉ざした。何かあったのかと気にはなるが、しかし本題ではないと意識を切り換えて話を始める。
「えっと、聞きたいことっていうのはね。……二岡さん、永野を避けてるみたいってのは本當?」
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「……」
用件の切り出しであるが、それにしたって唐突過ぎたのか二岡からはこれといった反応は返って來ない。
沈黙処か表一つも変えない二岡に長期戦になるかもしれないと覚悟を決めて樹本は更に踏み込んでいった。
「正直に話すね。なんでこんなことを聞くのかというと、能井さんから相談をけたからなんだ。永野に謝りたいけど全然相手をしてもらえなくてどうしたらいいんだろうって話を持ち込まれたの。その際に能井さんから二岡さんの様子もおかしいって聞いて」
「……」
「二岡さんも永野に対しては罪悪をじているみたいだね? それなのに能井さんみたいに謝りにも行かないし、なんなら永野から距離を取ってるくらいだって聞いたよ? それはどうして? 二岡さんなら、悪いことをしたと思えば直ぐに謝りに行くと僕は思うんだけど」
「……」
やはり返事はない。ただ自分自を抱き締める形で回された手、肘の辺りを抑える右手がぎゅっと白く染まるくらいに制服を握り締める様を見て、二岡の中でも葛藤があることに樹本は付く。
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く口を引き結ぶ二岡の橫顔を眺めながら樹本は続けた。
「他にもらしくないことはしてるよね? 二岡さん、永野との噂は全くの噓なんだよね? 付き合ってないから朝日さんとも二掛けられた訳じゃない。それなのにどうしてそう否定しなかったの? 噂は噓だって、二岡さんならきっぱりと斷言しそうなものなのに」
「……っ」
二岡は息を詰まらせる。痛い所を突かれたと、そんなリアクションなのか。樹本はどんどんと核心に迫っていった。
「別に責める気はないんだ。僕だって安易に噂を信じて永野を追い詰めた側だ、誰が悪いなんて指差すつもりはさらさらない。ただ、教えてしいんだ。どうして二岡さんは何も言わなかったのか。當事者の二岡さんが噂について否定をしたのなら、永野への排斥のきだってしは緩和していたんじゃないかって思う。二岡さんがそれに気付かないはずもないよね? なんで何も言わなかったの? どうして行しなかったの?」
責める気はない、そう口にはしたが結局は二岡を問い詰めるような聞き方にはなってしまったかもしれない。樹本としても複雑ななのだ。
言ってしまえば二岡との噂が永野との決別の切欠にもなった。二岡に対する態度の変化と、センセーショナルに流れた二疑。それらを結び付けてしまい樹本たちは永野を最低と罵り袂を分かった。二岡とのいざこざが永野との関係悪化を招いた、そう定めるのは責任逃れに聞こえるかもしれないが決して過言ではないだろう。
だから樹本も引き下がれない。己の中に燻る一連の出來事に対する違和。それを拭い去り隠された何かを引き出さなければ永野とも元の関係に戻れるはずもない。そんなある種の強迫観念がのをぐるぐると渦巻いていた。
二岡へと真実を求めに來たのもその衝に突きかされた結果だ。事の始まりであり、そしてあからさまに異様な行を取ったと思われる二岡からなら何か手掛かりも得られるかと踏んでのことだった。
「……」
だが二岡は何も口にしない。余程不都合があるのか、もしくは自分の聞き方が拙かったのか。ここで何も聞き出せずに終わるのはよろしくない。そう思った樹本は、ならばと真実を知るために腹を括った。
「……もしかしたら明らかにはし難い話なのかもしれないね。僕も二岡さんにとって踏み込んでしくない所にずかずかと上がり込んでる自覚はある。その上で更に凄く個人的な部分に踏み込むのを先に謝るね。ごめんなさい」
「……?」
「僕たち、永野を問い詰めた際に二岡さんが永野に告白したことを聞き出しているんだ」
「!!」
ばっと二岡は樹本へと振り向く。驚愕に目を見開き、そしてその瞳の奧には困に紛れて警戒心もちらついて見えた。
當然の反応だよなと中で溢し、出來るだけ真摯に見えるように樹本は靜かに語る。
「なんでそんなことをしたのかと言えば、永野の二岡さんへの態度がおかしくなったからもしかしたら噂も本當なんじゃないかって誤解したのが理由なんだ。丁度噂の広がりにも重なってて……。僕らは、態度のおかしい永野に疑いの目を向けてしまったんだ」
二岡は樹本の発言に黙って耳を傾けた。その顔には困と猜疑のが乗ってはいるが、今直ぐ席を立つといったきは見られない。樹本が何を語るのか気になっているのかもしれない。
「永野は、二岡さんのことは本當にギリギリまで話そうとしなかった。僕らが聞き出せたのも噂が真実だと決め付けて永野を詰ったからに他ならない。永野は僕らへの釈明のために自分の態度がおかしいことを認めて、それで二岡さんともギクシャクした理由を明かしてくれたんだけど……」
これから先を口に出すのは樹本にとって中々決斷の要る行為である。自の汚點を他者の前に明かす。裁きを待つ罪人ではないが、気分はそれに近い。
「僕らは、それを指して隠し事をしていたと永野を詰った。永野を庇う僕らにもにするのかと責めてしまったんだよ。別に何もおかしなことじゃないのにね? 酷く個人的な話だし、噂ともそう結び付くものでもない。言い出し難いのは當然のことなのに、僕らは永野の事なんてなんら考えずに糾弾してしまった」
はぁと一つ深呼吸をしてから永野とのやり取りをに語った。口に出すことで自の行の有り得なさを再度実として得る。
何故この話を聞いて永野を責めてしまったのか。樹本は自分の判斷が本當に理解出來なかった。
「僕らは永野が隠し事をしていたとして、それで信用出來ないと突き放した。永野よりも噂の方が信じられると思って。そんな理由で僕らは一度完全に永野を見限ったんだよ。永野は何も悪いことはしてなかったのに」
聲に後悔が滲んでしまう。思い返す度にの中には苦いが一杯に満ちていく。永野は何も悪いことはしていない。紛れもない樹本の本心だった。
「だから僕は今度は間違えたくない。思い込みと噂を信じて永野を追い込んでしまったから、今度こそはきちんと自分のやったことを理解してそれで永野に向き合いたい。自分が何を間違えてそれで永野を傷付けてしまったのか、ちゃんと知って謝りたい。だから、どうか二岡さんのことも話してもらえないかな? 永野のに起こったことを僕は全部間違いなく理解したいんだ」
だからどうかと樹本は深く頭を下げる。自分の行いを明らかにしたこと、それについての後悔はじわりとを焼くが、でも下げた頭を上げる気も吐いた言葉を撤回させる気も樹本にはなかった。
気に掛かるのは二岡の行はもしかしたら本當にただ複雑な心境故での結果なのではと、その點だけだ。樹本が引っ掛かっている違和など関係なしに二岡の個人の故の振る舞いだとしたら、樹本がこうして開示を求めるのは徒に彼を追い詰めているだけなのかもしれない。それだけが気掛かりであったが。
「……だけ?」
不意に頭の向こうから掠れた聲が聞こえる。聲は小さく意味のある音は拾えない。
樹本は顔を上げて目の前の二岡を見やった。
「え?」
「……それだけなの?」
二岡は再度呟く。今度はきちんと拾えた。でも何について語っているのか理解出來ない。眉を寄せて何かを我慢しているような表を浮かべて訊ねてくる。
「それだけ、て?」
「……永野は、あいつは私が告白したって、それしか言わなかったの?」
どういうことだと樹本は眉を跳ね上げた。二岡の言い草では他に永野は何か樹本たちに明かすべきものがあったようにしか聞こえない。
別のがあったのか? どくりと樹本の心臓が大きく鼓する。
「……何か、二岡さんは永野について知ってるの?」
そう訊ね返してみた、のだが。
「……っ」
「……えっ!?」
窺い見た二岡はそこで耐えきれないと言わんばかりにぶわりと目に涙を浮かべた。唐突に決壊する二岡の涙腺。樹本は完全に不意を打たれた。
「え!? ご、ごめん!? そんな、言い出し辛いことだった!?」
わたわたと揺激しく謝る。どんなに嫌がられたって話を聞くと覚悟を決めていたとしても実際に泣き出されてはとても平然とはしていられない。拙いことをしたと焦る樹本に二岡はふるふると首を橫に振った。
「ちが……、違うの。樹本君は、何も悪くない……」
泣きながら言われても信じることは難しい。ホロリと二岡の頬をり落ちる涙を樹本は途方に暮れて眺めるしかない。
を噛み締めて嗚咽を堪えようとする二岡は、それでも言いたいことがあるのか深呼吸を繰り返して口を開ける。聲は涙に震えて時折裏返ってと聞き辛い。でも二岡は決死に聲を振り絞った。
「違うのよ……。私は、ただ……。何やってるのよ、あの馬鹿……っ」
誰かを罵る呟きとも、あるいは誰かに懺悔する囁きとも思える一言を吐いて、二岡は深く項垂れたのであった。
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