《高校生男子による怪異探訪》7.合流と相談
衝撃的な著地を決めた聞き取りは二岡を勵ますことで収拾は付けた。
余程自責の念に駆られているらしい二岡は男二人への説明も自分が行うとかなりの気負いを見せていた。せめてもの罪滅ぼしのつもりなのだろう。
その申し出についてはやんわりと斷り、また永野と話し合える関係に戻れるよう努力すると樹本はどうにか二岡を宥めるのに功した。自責のあまりに暴走もしそうに思えたから牽制の意味も込めての宣言だったが、どれだけ二岡に通じたかは分からない。
ガス抜きを兼ねて男二人に真相を話させた方が良かったかもとあとで思い返したりもしたが、でも正直に言えば今更そんなめ事など明かした所で大して影響もないと思える。
檜山は抱いてた怒りはどこかに飛ばしてしまっているだろうし、嵩原はもう勝手に調べ上げている可能もある。真実を知るべしと最初に忠告を飛ばしたのは嵩原だ。今頃は自分も到達するに至った異常なのきだってその真相含めて把握していたって驚きはない。
どうせなら忠告に留めずに正面切って異常なんだと突き付けてくれても良かったのにと思えどもう今更だ。樹本も漸く真実に向き合う覚悟は持てた。ならばあとは進むだけだ。
そのためにもと、ここ數日野放しにしていた中學からの親友を樹本は呼び止めた。
「なんだよ、樹本。俺忙しいんだけど」
いつもの休み時間、教室にいない永野を瞬時に追い掛けようとした檜山をどうにか捕まえる。檜山からは文句が返された。
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「そのことなんだけど、ちょっと僕から提案があるんだ。し時間をもらえない?」
むすりとこちらを睨む檜山にもじずに樹本は至極真面目に言い切る。全くと目を逸らすこともなく見つめる樹本に檜山は眉を跳ね上げた。
「……永野のことか?」
ぼそりと聲量を落として訊ねてくる。流石の察しの良さに、そして珍しくも配慮を見せてきた檜山に樹本は軽く目を瞠った。
二人の周囲にはなんだなんだとチラチラ視線を送ってくるクラスメートたちがいる。
「うん。大切な話。あまり人に聞かれたくないんだ」
「……なら、しゃーねぇか」
手短な返答にも理解を示し檜山は大人しく樹本の話に乗った。周囲からの絡み付くような視線を振り切り、樹本は檜山を連れて人気のない場所にそっとを移す。
場所は特別校舎との渡り廊下。壁際にを寄せて漸くと話し合いにれた。
「それで? なんか永野とのことで提案があるって?」
檜山からさっさと切り出してくれたが問う聲はい。樹本に警戒を見せているようだ。無理矢理に連れ出したのは事実だからと探るような目を見返して樹本は頷きを返す。
「うん。まぁ時間もないから早速本題にるけど、永野追い掛けるの止めない?」
「あ?」
生返事が溢される。ただでさえ不機嫌そうな様子が明確な怒気を纏って樹本を睨み付けてくる。
「……お前も嵩原みたいに放っとけとか言うのかよ」
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そのまま怒りに任せて喚き出すかと思えば、檜山はポツリといやに小さな呟きを落とすに留まった。吐き出された聲は怒りには程遠く、どこかもの悲しげなを宿していて視線も床に落としてしまっている。
説明不足なのは樹本も自覚している。苦笑いを浮かべて、それからゆっくりと自の考えを語った。
「違うよ。僕だって永野とは早く仲直りしたいって思ってる」
「じゃあ、なんで」
「そのためには僕らは知らなくちゃいけないことがあるんじゃないかって言いたいの」
檜山は樹本の発言にきょとりと目を瞬かせた。予想にしない話運びであったらしい。
「知らなくちゃいけない……?」
「そう。あのね、僕昨日二岡さんから話を聞いてね……」
檜山にも二岡から聞き出した諸々について掻い摘まんで報告していく。永野とのいざこざやそれに付隨する鏡の悪魔の件、そして二岡がじた強制されたようなの変化。樹本が抱いた違和についてもきちんと檜山に明かしていった。
始め驚きに表を固めていた檜山は話が進むに連れて段々と神妙な雰囲気を纏い出す。永野を嫌うように仕向けられたと話す頃には難しげな表で黙り込んだ。その反応だけでも檜山にも心當たりはあるのだと樹本は察しが付いた。
やがて全てを伝え終えた時、檜山は悩ましげに眉間にシワを寄せ深く深く思考の海へと潛り込んでいた。腕を組み必死に頭の中で報の整理を行っている。
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「……つまりね、僕らは何かの思に乗って永野を突き放したのかもしれないんだ。別にその何かに全ての責任を押し付ける気はないよ、ただ真実を明らかにしないで永野と向き合うのは難しいんじゃないかと思う。謝る僕らが自分の過ちを理解してないのっておかしいでしょ?」
「……うーん」
最後に纏めて己の考えを口に出すと檜山は眉間に深いシワを刻んで唸り聲を上げ出した。ハの字に垂れ下がる眉から中々の葛藤がのであるのが見て取れた。
「僕の話、信じられないかな?」
「うーん、いや、信じる信じないだったらそりゃ信じるよ。俺だって心當たりあるし」
「え」
「ほら、永野にさ、お前なんか嫌いだーって最後に捨て臺詞みたいに吐いたのあったじゃん。永野のこういうとこやだって。あれがさー、俺全然嫌いでもなんでもなかったんだよなー」
「え?」
なんら含みもなく檜山は理解し難い本音をぶちまけてきた。何言ってると今度は樹本が困させられる。
何について語っているのかは樹本も察している。永野と袂を分かつ決定的な一言となったあの容赦ない臺詞。今でも夢で見ることのある一方的に叩き付けた永野への嫌悪の表れだ。
あの時に突き上げられるようにして吐いた言葉は樹本も若干の自覚ある永野への気持ちには違いない。
ああも悪し様に語ったほどの激はもうのには殘っていないが、それでもあれもまた自の本音の一つだったのではとそんな葛藤だって確かに樹本にはあったのに、目の前のこの親友はなんて言った?
「確か、檜山は永野のはっきりしない所が嫌だとか言ってたような」
「おう。まぁ気になってたっちゃ気にはなってたな。永野はあんま自分のこと話さないし言いたいことあってもこう飲み込んでる?じだったし。しんどくないのかなーって、俺は言いたいことはなんでも言う方だから不思議には思ってた。でも嫌いとか合わないとかは思ったことない」
ふるふる首を振りかつての己の発言を檜山は否定する。あまりにもはっきりと違うと宣言する檜山に樹本は唖然となった。
「…え、いやいや。それだと、じゃあ」
「うん。俺別に永野の嫌いなとこなんてないし不満だってない。なんであん時俺永野のこと嫌いだって言ったんだろ。おかしいよなぁ」
「……それ、それはそう、いやおかしいよ!?」
思わず樹本は聲を荒げた。人目を避けるために影に陣取ったことも忘れてしまう。幸い近くに人はいなかったために注目されることはなかったが。
「なん……、へ、変だとか思わなかったの……?」
「いや思った思った。俺ただ悪口ぶつけただけだなーって、そんなに永野ににされてたこと頭に來たのかよって思ってた。別に怒ることでもないのにな。嵩原だって一々誰に告られたとか言わんし」
のほほんと他人事のように己の所業を振り返る檜山に樹本は言葉をなくす。そこは異常さを自覚し、なんなら自らのの推移に不気味さだってじるべき所なのでは。
ぐるぐると頭の中でそんな指摘を巡らせる樹本だが、でも衝撃が強過ぎて口から言葉として吐き出せない。
「だから樹本の言いたいことは分かるんだよ。誰かに永野を嫌えーって作されてたんなら、それは確かにそうだろうなって思う」
なんてことないような口調で檜山は樹本からしても信じ難い説を肯定した。表は真剣で冗談を言ってるでも思考を投げている訳でもないらしい。檜山は己の経験に基づき、これが正解なのではと弾き出したようだ。
「樹本が一度永野から手を引けってのはこれが理由なのか?」
「え、うん。手を引くというか、僕らの異常な行のその原因を特定してからじゃないとまた同じこと繰り返す可能もあるんじゃないかと思って。それに永野もきちんと理由を明らかにしてから謝罪されないと納得もいかないんじゃ」
「あー、それもそうだよな。永野嫌いって言ったことは今更引っ込められないし、だったらなんでそんなこと言ったのかも話せないと本當に反省してるか伝わらないかー。俺だってよく分からないけどなんか一瞬嫌いになった、とか言われても納得はしない気がする」
うんうんと何度も頷く。予想外の檜山の納得の速さに続き、新たな証言の登場に樹本は度肝を抜かされっ放しである。
樹本は檜山の説得に際し、自の主張を聞きれてもらうために言葉も盡くそうとそんな気負いだって抱いていたのだ。なのにこのトントン拍子。暫し思考が停止してしまうのも無理のない話であった。
「ん、了解。確かにこのまま追いかけ回しててもなぁ。永野全然話聞いてくれる様子ないし、それにいざってなって怒らせてたんじゃ意味ないよな」
「……あ。えっと、一先ず僕と一緒に調べてくれるじ?」
「本當のこと知るんだろ? 俺一人じゃ調査とか無理。頭使う奴は樹本と嵩原に任せてんだ、頼んだぞ!」
ニッと笑顔を樹本に向ける。これにて檜山の説得は完了だ。當初の目的が達出來て樹本もほっと安堵の息を吐いた。
「うん。任せてよ。まぁ今分かってることなんてさっき話した容で終始してるけど」
「永野を嫌うように仕向けられたって奴な。でもんなことやれる奴なんていんの? 他人の作ってえげつなくね?」
「それは……、まぁ」
いざ問われれば答えに困る。樹本としても事の次第など全く想像だって出來ていない。々が人外の可能がある、そんな予期程度か。
「まだまだ僕たちは自分のに起こった子細を把握なんてしていない。だからこれから先週までの僕らに一何があったのか、それを客観的に考察して行きたいんだよね」
「客観的ぃ? 誰かに聞くってことか? 自分の行思い出すとかじゃなくて?」
「うん。僕ね、先週の行を思い出してみたんだけど、記憶にあるのって皆でいろんな噂話囁き合ってるくらいだったんだよね。他はテストけてるとかそんな凄く狹い範囲のことしか覚えてないんだよ」
「あー……」
疑問を呈した檜山も間の抜けた聲を出して同意を示す。檜山も樹本と行を共にしていたのだ、覚えている容など似たり寄ったりなはずだ。
「だから當時のことを外から見ていた人にどうにか話を聞きたい。僕らの振る舞いにおかしな點はなかったか、他におかしな出來事はなかったかを確認したいんだよ」
「あー、なるほど? そうだよな、俺ら碌でもないことしか覚えてないから誰かに聞いた方が早いのか」
うーんと唸り聲を上げる檜山に、樹本はそれだけではないと中で溢す。早い話が樹本は當時の自分たちを信じていない。何者かにを作され、警戒を抱いていたはずの噂話にものめり込んだ自分たちは凡そ正気であったとは思えない。
そんな自分たちの記憶を探った所で確かな真実など見付けられるはずもないとそう見なしているのだ。
「でもそれで真相って分かるのか?」
「今はなんとも言えない。ただとにかく報がしいんだよ。僕らは何も知らなさ過ぎる。を弄ったかもしれない存在に心當たりがないなら、どうしてそんなことが行われたかも理解してない。なんで永野が標的にされたのかもね」
疑問ばかりが口から飛び出して止まらない。二岡の話を聞いて焦燥を抱き、そして今檜山からも確信を持てる報を得られたというのに大した進展もしていない。
樹本は眉間にシワを寄せて考える。今は出し惜しみをしている暇も躊躇をしている暇もない。當たれる筋には端から話を聞いていくしかないとも思った。恐らくは人外のものが関與しているだろうこの事態。頼りになるのは……。
「……事態を冷靜に見ていただろう人には心當たりがある。だから會……」
「そういや朝日は正気だったのかな?」
「ん?」
ぽんと放られた疑問に檜山の顔を見上げる。口に出そうとしていた人とは違う名前が出た。
「朝日さん?」
「いやさ、學校の奴らって皆永野のこと悪く言ってたよな? 多分俺らと同じで嫌うように仕向けられてたんじゃね? でも、確か朝日は永野のこと嫌わないで傍にいたよな? 永野を嫌わなかった朝日は正常だったのかなぁって」
「……!!」
言われて樹本は大きく瞠目した。朝日だけは永野を否定せず寄り添っていたことはちゃんと記憶にもある。二人の仲を邪推する噂だって聞いた覚えがあるので間違いない。
だとしたら、朝日は校中が永野への悪意を抱いていた狀況、つまりは檜山の言う通りに何者かの影響をけていた狀態で唯一正気であった希有な存在だと言えた。
客観的に事態を眺めていただろう人。そして永野の傍にもいた。朝日はこれ以上なく今の樹本たちにとって都合の良い報の取得先であった。
「そうだ……! そうだよ! 朝日さんだ! 朝日さんならいろいろと知ってるかもしれない!」
「お?」
「唯一永野に反を抱かなかった人間で、それに永野と行を共にしていた! 朝日さんなら當時の様子も永野のことも聞けるはず!」
「お! やっぱりそうだよな!」
パッと互いに顔を明るくさせる。調査に大きく貢獻し得るだろう報提供者の存在が明らかになったのだ。明を見出した気分で喜ぶが、しかし檜山があっと何かに気付いた様子で顔を曇らせる。
「……でも俺らと話してくれるかな? 永野と一緒にいたのって俺らがハブいたからなんじゃね? 怒ってないかな?」
「あ……、い、いやでもここで躊躇したって仕方ない。一回會いに行く。それで拒否されたらその時はその時だ」
「んー……。まぁ、そうするしかないか。永野と仲直りしたいんだって正直に話すか」
次の目的も見付けられ、俄然やる気漲る二人の頭上で休み時間終了のチャイムが鳴り響く。一抹の不安はあれども、事態が進展する予に二人は逸る心を抑えて教室へと戻った。
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