《高校生男子による怪異探訪》12.公開非難
午前の授業が終わり晝休みを迎えた。永野と今度こそ腹を割って語り合う。そう決意も固く二人は早速と校舎に繰り出したのだが、しかし永野を見付けることは出來なかった。
學校にいるのは間違いない、途中まで授業にも出ていたのに、それなのにどこを探しても見付からない。屋上、校舎裏、永野が行きそうな場所は見て回ったがどこにもその姿はなかった。
結局は晝休み一杯を使っても果は出ず、敢えなく目論見は失敗してしまった。
一どこに隠れたというのか。下駄箱を覗き靴が殘っているのも確認したので校舎には絶対にいるはずなのだ。それでも見付からない。
こうなれば教室で直接捕まえてやると、そう作戦を練り直すしかなかった。
永野は午後の授業にはふらりと戻ってきた。最悪はこのまま一日姿を眩ますこともあるかもと樹本などは構えていたこともあって姿を見られてほっとした。
こうなればあとは直接対峙するのみ。決行時刻は放課後。短い休みでは簡単に粘り逃げされる可能もあると睨んでの采配だった。
「……準備はいい? 檜山」
「OKだ。いつでも飛び付けるぞ」
ホームルーム前の雑然とした待ち時間。清掃も終わった人間から教室にと戻ってくる中、樹本と檜山はひそひそと囁き合う。
絶対に永野を逃がさない。い、というよりは振り切った二人のやる気は靜かに熱を溜めて燃え上がる。
ホームルームが終了次第永野はさっさと教室を出て行ってしまう。まずはその背に追い付き無理矢理にでも引っ張って落ち著いて話しの出來る場所まで連行する。檜山の腕力頼りの作戦を考案していた。
「――連絡は以上だ。それじゃ解散」
擔任の號令に従いガタガタとクラスメートは椅子を鳴らして立ち上がる。その中には永野もいた。鞄を手にさっさと教室を出て行くその背を追おうと、したのだが。
「樹本」
檜山と共にダッシュを決めようとした所で呼び止められる。樹本を呼んだのは擔任だった。
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「なんですか?」
「ちょっと聞きたいことがあってな」
急いでいると聲に態度に表すも擔任は気付いた様子も見せずこいこいと手招く。永野のあとを追いたいが無視する訳にもいかない。仕方ないと檜山に目配せするが、「ああ、檜山も來い」と先手を打たれてしまった。
渋々と擔任の元にとやって來た二人に擔任は厳しい表で切り出す。
「お前たち、永野とはどうなんだ?」
要領を欠いた問いである。でも言いたいことはなんとなく分かる。樹本と檜山は互いに目配せし合い、樹本が代表して答えた。
「どう、とは?」
「しらばっくれても意味ないぞ。ちょっと前まで凄く不仲になってただろ。最近は檜山がよく後追いしてたから仲直りしたのかと思っていたけど、まだ冷戦狀態は継続しているみたいだな」
名を出されて檜山は分かり易く肩を揺らす。それを橫目で見ながら樹本はどう答えるかと思案した。
「……話が出來ていないのはそうですが」
「喧嘩は継続中か。さっさと仲直りしろよ? 最近の永野の不真面目な態度はお前たちだって知ってるだろ。あれ、喧嘩が原因か?」
胡な目で以て訊ねられる。當たらずとも遠からずな指摘に思わずとぐっとでいた。
當然その反応を見逃すこともない。
「やっぱりそうなのか? あれだ、友だちなら非行に走るのは止めてやれよ? 最近の永野はあまりに堂々とサボり過ぎてる。このままだと指導もりそうだし改善されなけりゃ最悪は留年だって見えてくる」
「えっ!? りゅ……!」
びそうになった檜山の口を慌てて押さえる。まだ教室にはクラスメートの姿もあった。留年などと聞かせるのは非常に拙い。
「そこまで狀況は悪いんですか……?」
「今直ぐに決まるって訳でもないが、それでもこの頻度でサボるとなれば単純に出席日數が足りなくなる。績も余程テストで高得點を出さなけりゃ基準には屆かないかもしれない」
「そんな……」
現実を突き付けられてけない聲が自然とれた。永野の振る舞いはいずれ良くない結果を招くだろうと予想も立ててはいたが、こうして最悪な形で結実した様を見せ付けられるとその衝撃は計り知れない。
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「今日呼び止めたのもこれを教えるためだ。お前らは仲良かったからな。原因にしろそうじゃないにしろ、永野を放っておけないっていうなら説得してくれ。こっちから呼び出してもあいつ話を聞きやしない」
「……永野は先生からの呼び出しも無視してるんですか?」
「一応來るには來るが反応が今一でな。先生も困ってる。あいつは何も言わないからな」
自分たちと同じ、と一瞬共をに抱いたものの瞬時にその異変、狀況の拙さに不安に取って代わる。注意する教師相手にもなんら言い訳の一つも口にしない態度は褒められたものではないし、それに教師相手にも頑なな態度を貫く永野に果たして自分たちの聲は屆くのだろうかと不安がいや増した。
「頼んだぞ。俺だって留年なんてさせたくない。せめて授業にはちゃんと出るように言ってやってくれ」
最後にそう念押しして擔任は二人を解放した。漸く解放された、そんな晴れ晴れとした気持ちなど今の二人には欠片だってない。
「……樹本、どうしよう」
ふらふらとした足取りで教室を出るなり檜山が心底困った様子で訊ねてくる。
樹本だってどうしたらいいのかは分からない。仲違い、態度の変化、強固な姿勢、そして留年。幾つもの気掛かりなワードが頭の中をぐるぐると回って思考も纏まらない。良い案だって浮かばない。
「……やるしか、ないよ。永野に直接どうしたのか聞く。それで何を考えているのか確認する」
「……話してくれっかな?」
「……話してくれるって、信じよう」
不安そうに訊ねてくる檜山には、そう願を込めた返事をするしかなかった。
早急に永野と話を。焦る気持ちのままに廊下を行くが、擔任に捕まっていたために當然永野の姿は見當たらない。永野は部活にも所屬していないので真っ直ぐと帰路に向かったのならばもう學校の敷地からも出てしまっている可能は高い。
それならば自宅まで追うまでだと特に檜山がやる気を滾らせていたのだが、昇降口前までやって來るとちょっとした騒ぎが起きているのに目を瞬く。時間的に多數の生徒が集まるのは當然のことながら、何故か彼らは靴を履き替えて外に出て行こうともせず手前の通路部分に屯していた。
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人垣というより人壁となった集団の向こうからは、酷くヒステリックな甲高いびが轟く。
「いい加減、皆に迷掛けるの止めたらどうなの!?」
広く取られている昇降口前にてキンキンとしたのびが木霊する。明らかに糾弾のそれだ。樹本は檜山と顔を見合わせ、それから慌てて生徒たちの向こうにと目をやれば僅かな隙間から永野らしき背中が見えた。
永野は一人佇んでいる。その永野の前に子の集団が見え、どうにも先程のびはこの子らから放たれたものであるらしい。まるで見世のようだと想を抱く間もなく異様な狀況であると理解して慌てて人垣の向こうにと飛び込んだ。
「いつまでも子供みたいに拗ねてんじゃないわよ! あんたがずっと拗ねて不機嫌な空気出してるから皆息苦しい思いしてんだけど! どれだけ周りの人間があんたに気を遣ってるか分かんないの!? いい加減人の好意に甘えるのは止めたらどう!?」
「……」
飛び込んだその先では永野の行く手を塞ぐようにして子が四人ほど仁王立ちしている。リボンのからして二年生であるらしい。
一人が先頭に立ち激しく永野を非難しており、その後ろに控える他三人も目を吊り上げて永野を睨んでいる。糾弾している子の仲間であるようだ。
この四人、どれも樹本には覚えがない。他クラス、それも授業などでかち合うこともない離れたクラスの生徒であるようだが何故永野を聲高に非難しているのか。疑問が頭を過ぎるが、思考を回す暇もなく我慢の効かない檜山が早速と言い返してしまった。
「止めろよ! 何永野をイジメてんだ!」
「!?」
永野と子たちの間にと飛び込んだ檜山に対面していた子たちは驚きに目を見開く。これは厄介なことになりそうだとトラブルが大きくなることを予見した樹本は、それでも自分も永野を庇うべくあとに続いた。
「何か、永野が全て悪いみたいな言葉が聞こえたけど、あなたたちは何を言ってるの?」
「え、檜山君に樹本君!?」
「え、噓、なんで!?」
冷靜に問いを投げるが相手は余程二人の登場に面食らったのか慌てるばかりでまともに答えようともしない。そんな姿に苛立ちを抱きながらも、樹本は努めて冷靜にまた言葉を重ねる。
「質問に答えてしい。さっきあなたは永野にこれ以上迷を掛けるなとか言っていたね? それはどういう意味かな? 永野が誰にどんな迷を掛けたって言うの?」
自然と問う聲は低く厳しいものになった。樹本に、そして檜山にとって先程の子の言い分はあまりに永野への配慮を欠いた暴言としか思えない。
確かに永野の全てを拒否する態度にクラスメートたちが気まずい思いをしていたという事実はあるが、それだって永野を排斥したという自分たちの行いが先にあっての話だ。永野には謝罪を行うことはあっても、悪し様に詰って責任を負わせるなど論外である。あまりにも酷い話に樹本は鋭く子を睨み付けた。
「え、えっと」
「もしかして単なる言い掛かり吹っ掛けてたりしないよね?」
「ち、違う! 言い掛かりなんかじゃないわよ!」
はっきりしない子にチクリと刺してやれば慌てて言い繕う。樹本から糾弾されるとは思いもしなかったのか、永野相手には高圧的に出ていた子の勢いが目に見えて萎む。
それでも自分の発言を撤回する気はないようで、チラチラと上目で樹本と檜山に視線をやりながら子は弁明した。
「め、迷は掛けているじゃない。こいつがいつまでも些細なこと引き摺って、まるで自分は被害者みたいな振る舞いしてて。その所為で周りの人間は皆気を遣って息詰まらせているんだから」
「みたい、じゃなくて永野は事実無の噂を信じられて皆に酷い扱いされた正しく被害者であるけど? あなたの発言はまるで的外れだよ?」
「っ!」
樹本の容赦ない訂正に子は顔を強張らせる。自分の意見を真正面から叩き潰されたのが余程気にらなかったのか、びるような目を向けていたのに一瞬樹本に鋭い視線を投げてきた。
その瞬間の表だけで樹本はこの子の格を察する。自にとって都合の良いように事が運ばなければ満足しないタイプ。自己満足のためならば用に外面も取り繕える人間だろう。話の主導権を持たせてしまえば碌な結果にはならないとかに警戒を強めた。
「その上に些細なことだって? 永野がどれだけ酷い目に遭ったのかもあなたは正しく理解していないようだね。曖昧な認識で人を非難するのは止めておいた方がいい。自分で自分の首を絞める結果にしかならないよ」
忠告に紛らわせ非難と警告を込めて子にピシャリと言い放つ。中々に手厳しい言いをしたのは子に対する悪印象もさることながら、樹本としてはこれでどうにか退いてもらいたかったのだ。
永野に因縁を付けた、その點を明確に裁きたい気持ちはあるにはあるが、それ以上に要らぬ騒ぎを続けたくはない。結局奇異の目を向けられるのは永野だ。今以上に腫れにるような目など向けさせたくもなかった。
樹本のそんな思は、しかし目の前の子には通じなかった。
「で、でも酷い態度を取っていたのは事実でしょ? 話し掛けたのに無視されたり、冷たく突き放されたって人の話は聞くし。檜山君もそうでしょ? 何度もそいつに素気なくされていたよね?」
「あぁ?」
早々に樹本を切り捨てて矛先を檜山に変えて子は言い募るが、しかし返ってきたのは予想だにしない酷く苛ついた生返事であった。
「……え?」
「なんで俺に振るんだ。そっちのために俺が証言するとでも思ってんのか? 俺は永野の味方だ。永野苛めるお前たちの味方には絶対ならねぇぞ」
「はぁ!?」
完全な否定に子の聲も裏返る。余程永野への不躾な態度が気にりもしたのか、子たちにと向けられる檜山の目は普段の彼からは想像も出來ないくらいに鋭い。なんら発言はしていない子の取り巻きたちが流れ弾を食らって顔を引き攣らせるほどだ。
檜山までも全面的に永野を庇いに行ったことの波紋が靜かに広がる。ざわざわと周囲からは驚愕の囁きがれ聞こえてきた。
「なんで!? だって檜山君は何度もそいつに拒否られて……!?」
「それは仕方ねぇもん。俺は永野に酷いことした。永野が許せなく思うのは當然だ。でもだからって永野が酷いとか悪いとかは思わねぇよ」
「充分悪いことでしょ!? だって檜山君はそいつが全然態度改めないから嫌になって距離を置いたんじゃ……!」
「いやぁ? あのまんまじゃ話聞いてもらえないって樹本に言われたから突撃は中止しただけだ。永野のこと嫌になっても嫌いになってもねぇよ。勝手に俺の気持ち決めんな」
「……!?」
驚愕の表を子は浮かべる。まるで想像だにしなかった話を聞かされたと言わんばかりに目を剝く姿に、樹本はこんな大膽な糾弾會に乗り出したその理由を理解した。
子は噂を鵜呑みにしたのだ。檜山は永野を見限って傍を離れた。そんな事実とは全く異なる噂を妄信し永野に正面切って文句を言いに來た訳だ。子の言い分は『誰か』が迷していると、自分に依らない理由を上げていたのもそれがためか。
確かに狀況は勘違いしてしまっても仕方なかったかもしれない。碌に確証も取らずにいたのは淺慮以外の何者でもないが、ここ最近の校の混振りを思えば下手を打ったこと自には些かの同の余地もあると言えるかもしれない。
だが、と。それにしては永野への敵意が熾烈だと樹本は目を眇めた。
端から永野を悪と決め付けて偏見に染まり切った罵聲を浴びせるのもやり過ぎなら、樹本がそれを否定した際にもよもやと自の思い違いを疑う素振りもなかった。
目の前の子は明確な敵意を抱き永野を糾弾しようと目論んでいる。そう判斷を下すより他にない。しかも、かなりの執念だ。それはただ噂を信じただけのあさはかな義憤に駆られた人間という別からは逸しているように思えた。
もしや、と樹本の中に疑いが生まれる。一度収まった永野の悪評が再度広まり出したこのタイミングで仕掛けてきたのは偶然か。校でも先週までのイジメに近い集団による一人への糾弾に自省の流れが生まれていた最中、こうも永野への強烈な悪意を見せ付ける人間がいるとするならばそいつは元からかなりの敵意を抱いていたのではないか。
それこそ、始めに永野の不幸を願った、決して許すつもりはない、全ての元兇にして最も腹立たしい勝手なあの子とか。
蘆屋から名前と學年、クラスの報は得ているが、生憎とその顔までは把握はしていない。だが目の前の子は條件には當て嵌まる。樹本の中で疑いがどんどん確信に変わっていった。
樹本、檜山の目がより厳しく鋭いものに変じていく一方で、檜山の明かした真実の一旦は子の立場にも確かな影響を與え出していた。
ざわざわと周囲を取り囲む生徒たちから様々な意見が飛び出てくる。永野の印象、流れた噂との相違、事実に対する憶測と想などなど。
ハヤツリの影響はなくなり噂を妄信することはなくなっても、一度信じてしまった噂に対する懐疑は良くも悪くも殘り続けていたようだ。本人である永野が沈黙と拒否を選択したために、真実は誰の口から明かされることもなかったのだから當然と言えば當然である。
しかし、それが今永野に最も近い存在と思われている樹本と檜山の口から語られた。確かな事実としてけ止められ、事のり行きを見守っていたなくない生徒たちの意識を変えていく。
そしてそれは子の取り巻きたちも同様であった。
「ね、ねぇ。二人はああ言ってるよ……?」
「ちょっと……。話が違うんじゃないの……?」
こそこそとやり取りがされる。戸いを浮かべる者もいれば不信を隠そうともしない者もいる。
代表として散々に永野を責めていた子の言い分が破綻した。そんな子の馬に乗っていた自覚が多なりともあるのなら、不安に駆られて文句の一言や二言が出てもおかしくはない。
め染みた揺が対面する子の間に生まれるのを樹本は冷靜に観察した。聲高に主張を続けていたのは一人だっためその一人が主犯、他は単なる數合わせではないかと當たりは付けていた。
徒黨を組めば対外へ分かり易く力の誇示を行うことは出來るものの、しかし得てしてその數が失われれば途端に勢いはなくなる。この子たちはその典型ではないかと踏んでいたのだ。
味方をなくしてすごすごと引き下がるのであれば上等。恨が殘ろうとも樹本たちの口から零れ出た真実は今後の永野への無拠の謗りを防止してくれるはず。
子そのものへの追及はそれこそ裏に行うべきことなので、樹本側としては充分な果を得られた、そう思えたのだが。
「うるさい! 私は間違ってなんかないわよ! 悪いのは永野真人よ! あいつは非難されて然るべき人間なの!」
しかし、詰め寄られた子は心の苛立ちを顔と聲に表してぶ。最早取り繕う余裕もないようだ。
ガッと威嚇するように言い返した子に取り巻きも思わずたじろぐ。
「え、で、でも樹本君たちは」
「あんなの噓よ! だって一度、皆であいつのこと見限ったのよ!? それはあいつには見限られても仕方ない、人としてどうしようもない理由があったっていう何よりの証拠じゃない! 何も悪くないなんてそれ自が噓っぱちよ!」
鋭いびが昇降口前の空間に轟いた。
それまで小さくわされていた野次馬の囁きもふつりと途切れる。
しんと水を打ったような靜寂が満ちる中、一人興する子は周囲の変化に冷靜になることもなく主張を続けた。
「なんの理由もなく嫌われるはずがないじゃない! 嫌われる人間は、それ相応の駄目な部分があるから爪弾きにされるんでしょ!? あいつにはその理由があった! だから樹本君たちからも嫌われた! 違うっていうの!?」
靜寂の中に子のびが木霊する。誰も何も言い返せない。樹本も檜山も。
突かれたくない點を突かれた。樹本は中で歯がみする。出來ればれてしくはなかった。
永野を見限った、それは間違いなく樹本たちの意思により行われ事実として知れ渡っている。ならば永野には樹本たちからも見限られるだけの理由があったのだと、そう理解することは何もおかしなことではない。
実際には永野に落ち度などなく、全ては祟り神なんていう埒外の存在の干渉の末の結果であったが、しかしこんな常軌を逸した話を大衆の目線集まる中で明かせるはずもない。
どこの誰が神様の力によって一人の人間を嫌うようになったと聞かされて納得するのか。だから樹本も檜山もこの場で真実は話せない。子の意見には別の理屈を持ってして対抗しなければならない。
その理屈とは何か。咄嗟に考え付くものではない。檜山は小難しい理論など唱えられるはずもなく、だとすれば樹本がその役を擔うべきであるが彼も良案は浮かんでいなかった。
追い詰めたと思った矢先での熾烈な反撃だ。虛を衝かれ、また樹本たちにとっては致命の一撃にも等しいれてしくなかった汚點。揺し脳は空転を続けて上手く考えも纏まらない。
靜寂が広がる。答えに間を置けばそれだけ永野への懐疑が生まれてしまう。
分かっていて、だからこそ樹本の焦りはより上り詰めていく。じわりと、暑くもないのに米神に汗が滲んだ。
誤魔化せないほどの空白の時が過ぎ、怒りのままに言葉を発した子の上がった息も整え出した頃、ニッと勝ち誇った笑みをその口端に浮かべた子がまた何事か口に出そうとした、その時だ。
「それは確かに、誤解を與えてしまったよね」
そう、耳に馴染む聲が飄々と割り込んだ。
誤字報告ありがとうございます。
絶対に見落としがあるはずなので助かります。
しかし、作者の拘り等もあるので頂きましたご報告全てを反映させる訳ではないことはどうかご容赦ください(すみません)。
ただ大ポカも普通にやらかすので何かあればご報告頂ければ本當に有り難いです。
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