《高校生男子による怪異探訪》17.Re:図書室の怪
確かな手応えを得た一つ目の怪談検証。キンと冷えた空気にも簡単には冷めないほどの熱量を持ち次の怪談へと挑みに掛かる。
若干一名の顔は寒さだけが原因ではなく青冷めていたりするのだが、いつものことと大して頓著もされずに一行は次の七不思議の前にと辿り著いた。
特別棟一階の端、図書室のその前で確認を行う。
「こちらは『呪われた本』だ。ここ図書室には呪いの言葉に溢れた本が裏に所蔵されているという。その本を手にすればれなく呪いが降り掛かる、とのことだったな」
「まぁ呪いとは名ばかりの思春期の妄想を詰め込んだ痛ノートが真実だったんですけど」
「ああ……。そんなこともあったね」
一般的な大學ノートに書き毆られた、いろんな意味で破綻していた呪いの正を思い出して樹本の神ヒットポイントが僅かに回復する。
あれは々怖さのジャンル違い、言うなればヒト怖系の話であったと述懐する。
「つまりはあれをもう一度調べれば良いんですよね?」
一応の確認だと嵩原が問いを投げれば、しかし縦に振られると思われた首を蘆屋は橫にと振った。
「いや、それが々変わった逸話がこの怪談には付け足されていてな」
「え」
「なんでも呪われた本はふと視界の端に引っ掛かるようにして現れるそうだ。誰かがそこに置いた記憶もなく、本當に忽然と見慣れぬ本が手の屆く範囲に気付けばある。まるで手に取ってもらうのを期待するように、な」
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最後の文言にぞわりと樹本は背筋を震わせた。先の肖像畫に続きどうして無機に意識が芽生えたような逸話が挿されるのか。未知なるものの証としては鉄板の表現であると頭のどこかで冷靜に下す己はいるが、だからと言って素晴らしいと稱賛出來るはずもない。
「元々は隠されていたんじゃなかったでしたっけ?」
「そのはずだ。だが今出回っている話では図書室を利用する人間にランダムで接してくるのだとか。我々の知る怪談とも違いがあるようなのだよ」
「ふーん。だとしたらあの痛ノートとは別の代という可能もありますね。本を読んだ人間の話はないので?」
「突然現れるであるからどうにも警戒して手を出した者はいないようだ。元々呪われた本の逸話は噂話ブームの折に広まっていた。見た目にも怪しいらしいから、それで誰も関わるのを避けたのではないかな」
「噂、ねぇ……」
蘆屋の推測に嵩原は意味深に黙り込む。何が引っ掛かったというのか。気になりはしたものの、そんな樹本の疑問を邪魔するように蘆屋がなのでと話を続けた。
「我々が見付けるべきは以前に発見した誰かの私小説を記したノートではなく、アトランダムに現れる如何にもな呪いの本になるだろう。無論、ノートも確認はしておきたいが」
「全くの別かどうかはまだ分かりませんもんね。まぁ、話を聞くにこれはもう別の怪談が取って代わっていると見て間違いはなさそうですけど」
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「あれ怪談が別に変わったのか?」
「形としては乗っ取りに近い、のかなぁ……」
自分で口に出して怪談の乗っ取りとはなんぞやと樹本は己の思考にツッコミをれる。そんな覇権爭い染みた怪談同士の対決などあって堪るか。
いや、そういえば乗っ取りとまでは強引でもないが、元より自校の七不思議は様々な怪談がれ替わり立ち替わりと年々によって構の変わる形態であったとも思い出す。レギュラーのれ替わりと例えたのは己であったはずだ。
今話題に上っている怪談もつまりはその変化が訪れた丁度契機の時に立ち會ってしまったのだろうか。だとしたら話はややこしくなるかもしれない。
そっとこれからの面倒と何より調査しなければならない怪談が二つに増えてしまったことを樹本は一人嘆く。そもそも何故怪談のれ替わりなど起こるのか。文句は自校の不可思議な慣習そのものに向かった。
「それじゃ、まずは痛ノートの発掘」
「それから新規の呪われた本の捜索だな。後者に関しては多分に運が絡んでくるだろうが」
方針が決められて図書室にと足を踏み込む。鍵を開けてがらりと々のがたつきのじられる戸を開けると、薄く灰の月明かりが差し込む図書室が眼前に広がる。
中は晝間の靜けささえ霞むほどの靜謐とした空気に満たされていた。扉を開けたことによりその蓄えられた無音の世界がゆるりと押し出されて背後に解けて消えていくような気さえする。
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「ノートは確か隅っこの本棚にあった、よね?」
「純文學コーナーだったはずだよ」
「ああ……」
意味深な(別に狙った訳でもないだろうが)配置に當時の力とした結末を思い出しつつ當該の本棚前に向かう。
り口より真っ直ぐ奧、窓もなくか細いとは言え月明かりさえ屆かないそこは今は真に暗い。一歩近付くことさえも躊躇してしまうほどの暗闇に呑まれているのだが、生憎と怖じ気に足を止めるような気弱な人間はこの場には樹本くらいしかいなかった。
「の屆かない暗い場所、と」
「誰かに移させられているでもなければ本の奧に隠されているはずだ」
「ほいほいと」
闇を懐中電燈の明かりで振り払いあっさりと本棚に取り付いた三人がざかざかと棚を漁る。本が退けられて、小さな本棚なためにあっという間にされたノートは発見された。前に見た時と同じような薄青の裝丁の大學ノートがに照らされてその表紙をこちらにと向けてある。
「みっけ!」
「場所が分かっていたならあっという間だねぇ」
「どれ……」
躊躇いなく蘆屋はノートを手にした。あっと聲を出す暇もない。薄い冊子をパラパラ捲り、目を通していった蘆屋はやがてふぅむと唸りを上げた。
「これと言って容に変化はなしと。変わらない誰かの妄想を綴っているだけだ」
「呪いが発しているじもなしですか」
訊ねながらノートをけ取り中を確認していく。嵩原も檜山も恐れを抱いている様子はなく、好奇心に逸る瞳で斜め読みしたあと樹本にもパスしてくる。
警戒心はあったが、三人の変わりない振る舞いにそろそろと目を落とせば、中は都市伝説をモチーフとしたあいたたたな思春期の塊のままだったので安堵とは違う吐息が口かられた。
「手にして読んで、それでもなんら異常はなし」
「やっぱりこれが今話題に上ってる『呪われた本』ではないということですかね?」
「上がる報には則さない。単に場所柄で元の怪談と混同されただけなのか。しかし……」
ノートから顔を上げて考察を深めていく二人を眺めやる。
樹本も、このノートに端を発する怪談が騒ぎの元ではないと漠然とそんな印象を抱いていた。手にしたノートはどこまでも普通のノートだ。以前に、怪談は単なるどこかの誰かの後ろめたさが隠匿されただけの虛偽であったと判明した時となんら変わりがないように思えた。
なくとも目の前に突然現れてどうこうといった不気味さはこの冊子からはじられない。々がその中自が居たたまれなくて直視も難しいくらいか。
「こっちは外れ。なら次は本命だ、けど」
「出會おうとして出會えるものではないから、難しいな。一先ずここを片付けるか。ノートも一応持ち帰ろう。萬が一これが真実怪談に変化してしまうのも厄介ではある」
「目的が不純であるとは言え都市伝説を取り扱ってますからね。噓の怪談が実在化している現狀と合わせれば灑落になりませんもんね」
そのような話し合いの結果、発掘したノートはオカ研預かりとなり蘆屋が管理するという結果で纏まる。
いずれ時期を見て元には戻すと宣言するが、そこは別に怪談そのものを立ち消えさせてしまっても構いはしないのではと樹本は考える。誰を幸福にするでもなし、ノートの持ち主も己の黒歴史が怪談という形で殘り続けるのも良しとはしないのではと思うが。
蘆屋には蘆屋で義務や考えがあるのだろう。元より怪談の存続など本と化しているならともかく、虛偽(というかの隠匿のための作り話)であるならばどうなろうとも樹本にはさして関わりのない話である。
異議も疑義も差し挾むことなく片付けに取り掛かった、のだが。
「ん?」
さくさく進む本の片付け。その手を止める切っ掛けを生み出したのは檜山の僅かに低くなった聲だった。
「ん? どうかした?」
「何かあったかね?」
「んと、それ……」
作業の手を止めて訊ねてくるのに檜山は言葉なくすっと指を傍らに指す。
緩くびた人差し指の示す先には本棚より一時避難された本が塔となって床に築かれていた。稀な本もあるため積み上がる數こそないものの、それでも床からにょきりと生えたような本の塊にはこれといっておかしな所は見當たらない。
「? あれがどうかしたの?」
「いや……。一番上の本って、あれなんかおかしくねぇ?」
「え……」
はっと視線が本に戻る。紙片が幾つも重なって分厚く閉じられた側面がに照らされて白く浮き上がる中、その一番上にと鎮座する本は不自然に黒い。本來なら白く闇の中浮き上がるはずの紙部分も黒く染まっており、裝丁もを吸収するような真っ黒な味をしていた。
まるでの全く差さない夜のその闇を染み込ませて出來たような本が、気付けば當然のようにそこにあった。
「あれ、て……」
「……あんな本ありましたっけ?」
「……あれほど特徴的ならば誰かの記憶には殘っていると思うが」
迂遠な言い草だが、つまりは誰にも見覚えがないということだ。檜山も違和に聲を上げたほどだ。もし直に手に取り移させたのであればその時に何かしら、記憶には留まるだろうと樹本も思う。
誰の覚えもなく不自然にそこに現れていた本。あまりに、怪談に倣った狀況であった。
「つまりこれが?」
「確かに手に取り難い外観ではあるな。全が黒い本など邪推してくれと言わんばかりだ」
「呪われた本? これ持つのヤバいんだっけ?」
「安易に手を出さないでよ檜山!」
慌ただしい空気が四人の間を満たす。誰も手をばそうとせずに不審な本を遠巻きに眺める。本はただそこにある。誰かがれて読んでくれることを待つように沈黙してあった。
「ど、どうしたら……」
「読むか、読まないか」
「でも危ないんじゃないっけ?」
「……私が行こう」
矢継ぎ早に言葉をわす最中、不意に蘆屋がそう呟いて一歩近寄る。危うい、と樹本の頭の中で警鐘が鳴った。目の前の本は決して今己の手の中にあるノートと同じ無害なではないと一瞬で察した。
「會長、駄目……!」
本に手をばす蘆屋の後ろから樹本はぶ。だが蘆屋の手は真っ直ぐに本にと向かい、迎えれるように本はその表紙をゆっくりと開いていった。
冗談な、あるいはこれがファンタジー映畫の一場面であるなら幻想的な景に見えたかもしれない。獨りでに勝手に開いていく本は、その黒いページからより暗い黒を靄のように溢れさせていった。夜の闇の中でも尚暗い、流するきさえ明確に浮かんで見えるその黒の向こうにちらりとびっしりと並んだ文字が見えたような、気がした。
あっと思った、次の瞬間。
バサバサッと靜かな図書室に大きな音が立った。はっと我に返ると蘆屋が何もない空間に手を翳して立ち竦んでいる。あの黒い本も、積み上げられた本の塔も近くには見當たらない。
「……え? あれ……」
「あれ、本どこ行った?」
樹本と同じく他三人も我を取り戻すと周囲を見回す。確かに今にも蘆屋がれそうな距離に本はあったはずなのにの名殘だって見付からない。積み上げられた本までどこに消えるというのか。
訳が分からずに首を傾げた樹本の視線がそのまま床に落ちた。
「……あ」
床には本が散らばっていた。丁度塔となっていた本の冊數程度。先程の大きな音と合わせて考えれば、これらが塔の殘骸なのだと思い至る。皆もその事実に気付いた。
「本が……崩れた?」
「バサバサーってそれか。誰か蹴飛ばしたんか?」
「そんなはずはない、よね? 勝手に崩れた……?」
「……呪われた本はないな」
蘆屋の呟きに三人共床を舐めるように見やる。確かに、あのさえ反させない黒い表紙はどこにもない。床に落ちているのは全て古さはじさせるがなんの変哲もない本ばかりである。
「消えた……?」
「神出鬼沒、て奴かな」
「どっかその辺飛んでって……。ないなぁ」
探すが暗い図書室のどこにも塔の殘骸以外のは転がっていなかった。整然と片付けられた室が広がっているばかり。
何故突然塔は崩れたのか。呪いの本はどこに消えてしまったのか。そもそもあれは件の本なのか、それともただの白晝夢なのか。謎ばかりがあとに殘される。
「どうしましょう、會長さん」
「……実の把握までは出來なかった。だが確かに怪異と思われる現象とは立ち會えた。今はその事実で納得するしかないだろうな」
判斷を仰ぐのに蘆屋は靜かに答えた。イレギュラーな事態が連続して起き、決してはかばかしい結果を得られたとは言えない狀況でも蘆屋は務めて冷靜に思考を回している。この怪談検証の発起人であり自分たちを引率する立場にある蘆屋が揺のどの字もなく落ち著いた振る舞いを見せるのは頼もしい限りであるのだが。
その凪いだ表のほんの端っこに、どこかい、張かあるいは焦りにも似た僅かな強張りを見付けたような気がして、樹本は己の中で不安な気持ちがそろりと頭を擡げるのを自覚せずにはいられなかった。
継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》
☆TOブックス様にて書籍版が発売されてます☆ ☆ニコニコ靜畫にて漫畫版が公開されています☆ ☆四巻12/10発売☆ 「この世界には魔法がある。しかし、魔法を使うためには何かしらの適性魔法と魔法が使えるだけの魔力が必要だ」 これを俺は、転生して數ヶ月で知った。しかし、まだ赤ん坊の俺は適性魔法を知ることは出來ない.... 「なら、知ることが出來るまで魔力を鍛えればいいじゃん」 それから毎日、魔力を黙々と鍛え続けた。そして時が経ち、適性魔法が『創造魔法』である事を知る。俺は、創造魔法と知ると「これは當たりだ」と思い、喜んだ。しかし、周りの大人は創造魔法と知ると喜ぶどころか悲しんでいた...「創造魔法は珍しいが、簡単な物も作ることの出來ない無能魔法なんだよ」これが、悲しむ理由だった。その後、実際に創造魔法を使ってみるが、本當に何も造ることは出來なかった。「これは無能魔法と言われても仕方ないか...」しかし、俺はある創造魔法の秘密を見つけた。そして、今まで鍛えてきた魔力のおかげで無能魔法が便利魔法に変わっていく.... ※小説家になろうで投稿してから修正が終わった話を載せています。
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