《高校生男子による怪異探訪》21.古戸萩の地

「は……?」

樹本は間の抜けた聲を思わずとらしてしまう。先程までの沈んだ気配もどこぞへと放り投げ、代わりに何を宣うのかと宮杜を凝視した。

「……そのような理由ですか」

驚いたのは樹本、そして檜山だけであるらしい。詰め寄った當人の蘆屋は何故か瞬時に理解を示す。納得を示すように視線を下げる蘆屋を樹本は信じられない気持ちで眺めた。

「え? か、會長?」

「……すまないな。私もある程度は予測を立てていたのだよ。七不思議も街中に現れた怪異も、全ては噂となって人の口に上っていたものだ。もしやという、確信からは程遠い思い付き程度であったが」

自分に向けられる眼差しに蘆屋は弁明するように語る。つまりは全く構えなく衝撃の話を聞かされたのは樹本と檜山だけということか。

「い、いや、なんですか、噂が現実になり易いとか。そんな特聞いたことがありませんよ。こんな荒唐無稽な話を信じるんですか?」

のあまりに否定が口を衝いて出る。だってどうしたって信じ難い話だ。話の流れからしてその現実になるというのはつまり、どのような非現実的な容であれ実を伴う『真実』になるということなのだろう。

どんな理屈があればそのような結果に繫がるというのか。樹本には理解が出來なかった。

「荒唐無稽に聞こえたとしても、これが真実ですから」

対する宮杜の返答は淀みない。大の大人が二人、真顔で無言の肯定などしてくるのがより疑わしさを強めているのだが自覚はないのか。

「嵩原は知ってたのか」

「こんな話もあるんですよ、程度の紹介だったけどね。俺も信じてはいなかったけど、でも現狀を考えると信憑もある気はしてくるよね。七不思議も多くの人間に噂されたから実化したと解釈すると一応筋は通る」

嵩原は肯定派であるらしい。事前に聞かされていただけでなく現在の街に起きている異変とを絡めて考えて、ある種合理的な判斷で以て信じるだけの拠を見出している。

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樹本も変質した怪談や多數上る目撃までされた怪異の話を聞くと傾きそうになる己を自覚した。元から常識には添わない異常ではあるのだ。その源に非常識な理屈が付隨した所でおかしな話でもないような気がしてきたのを慌てて振り払う。

「可能の一つとしてそちらのお話も信じる意義があると思います。しかし、一般的にはとても事実であると認めるのには戸いをじ得ない話でもあるのは確かです。何故、ここ古戸萩にはそのような不可思議な力があるのか。ご説明はして頂けるのでしょうか?」

葛藤する樹本を橫目に蘆屋は冷靜に突飛な話の証明を求める。噂が現実のものとなるその理屈の拠。土地柄であると宮杜は口にしたが、ではその土地にどのような逸話があればそんな力が宿るというのか。

チラリと宮杜が橫目で八柳に視線を送る。これまで黙って事の推移を眺めていた八柳が靜かに一つ頷くと、それではと宮杜は口火を切った。

「この土地に不思議な力が宿るのは、それは神の祝福が授けられているからなんです」

どこかの宗教勧の文句のような出だしで話は始められた。

なんでも、ここ古戸萩はそれは昔に本の神が降臨した土地であるとのこと。まだ木々が土地の大半を占めて人の住める場所も凄く狹かった頃、唐突に顕現なされた神はこの土地とそこに住む人間に『祝福』を授けてくれたとのこと。

「祝福を授けてくださったのは古戸萩の守護神。皆さんもご存知の商店街にて奉られている神様です。穂木乃神社の祭神ですね」

ああ、と理解の聲が上がる。地元の人間には馴染み深い氏神だ。

「この土地を守ってくれる神様とは聞きましたけど……」

「それが虛偽でも出鱈目でもなく真実だったというお話ですね。神様のもたらした祝福はこの地に生きる者が健やかに安寧と生きることを願ったものであったそうです。実際、ここ古戸萩は災害などとは縁遠い土地ではあります。天候や自然災害などで甚大な被害が出ることは稀です」

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「そうなの?」

「た、確かに顕著な被害が出た、て話はあんまり聞かない」

だからこそ去年の春の長雨などは、その異常もさることながら滅多にない天候不順に街全で慌ただしく対応が練られたりしたのだ。

今思えば長々と影響が殘り続けたのも不慣れな災害対応が原因の一つではあったのかもしれない。

「神の祝福が宿る土地。事実未知なる存在に守られているかのように瑞々しい自然の産と平穏な日々に恵まれたここは、やがて『言祝ぎの降された土地』として栄えていったのです。『古戸萩』という地名も『言祝ぎ』が訛りいつしかそう呼ばれるようになったとか」

「へぇー」

歴史的逸話に檜山が心の聲など出す。『古戸萩』が『言祝ぎ』に掛けられて名付けられたものだと樹本も始めて聞いた。己の地元で信仰される氏神の詳細な伝承など、これまで大して気にも留めていなかった。

「お話を聞くに守護神はただこの地の平穏を願っておられるようですが、それがどうして噂が現実のものになるなどという作用が生じたのでしょうか?」

「ご尤もな疑問でしょう。元より、神の影響の強い土地なので神霊や心霊といった存在との距離も他の土地と比べれば近いとされていますが、それだけでは説明が付きませんからね。恐らくは神様も意図的にそのような理を敷いた訳ではないと思うのですが」

蘆屋の質問に宮杜は神妙な顔で答える。

「神様が與えてくださった祝福は『言祝ぎ』なのです。それは神の力を込めた祝福の言。言葉による、音による土地そのものの半永久的な繁栄を願う神の息吹です。祝福そのものにはの要素などはなくとも、神の力による影響はこの土地にと現れてしまう」

「……その影響が噂の実化?」

「より正確に表すならば言葉に宿る力が強いのですよ、ここでは。どれだけ真理からは程遠い戯れ言であれ、語り続ければ真正を宿し現実にと反映される。故の、噂が現実のものとなり易い土地柄という特なのです」

さらりと実にとんでもない話を聞かされた。言葉の力が強い。そのために虛言であってもいずれ現実にと影響を及ぼしていく。それは一歩間違えれば現実世界の法則さえ変えることも出來るほどの力ではないのか。

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「え、そんな、大袈裟な」

「大袈裟であってくれたら良かったのですが。しかし現実に多數の実社會にはそぐわない存在が実を伴い街を徘徊しています。『いない』とされていたものが『いる』ものとして現れる異常は、どう贔屓目に見ても大きな事変でしょう」

淡々と返されての気が引いた。ちょっとした思考導など生溫い、無から有を生み出すその途方もなさは現代科學でも未だ手の屆かない領域ではないか。

この土地ではそれが容易く行われている。その現実に背中がどんどん寒くなっていく。

「……それだと、これまでここが平穏であったことが信じ難くなりますね。あっという間に異常なものが犇めいていたっておかしくないのでは?」

「あ、そうな。噂なんてそこらでやってるし怪談だって學校のだけでも多くね? でも俺幽霊とかそんな見掛けたりしてない」

冷えていくを押し止めるような明るい檜山の聲が場違いに響く。言われてみれば確かに。ここ最近こそ怪異に溢れ返っている周辺ではあるが、それ以前、言ってしまえばこの土地で生きてきた十數年の間に日常が壊れるほどの騒ぎなど起こったことがないと樹本は思い出した。

宮杜の話ではこの土地は百鬼夜行も真っ青な異常な存在に支配されていてもおかしくはないだろうに、どういうことなのだろうとその変化のない無表を見やった。

「無論、なされるがままに異常現象をれる訳がありませんよ。人の口に上るのは異常な存在に関するものばかりではなく、多數の人間を不幸に貶めるようなものや、あるいは自然災害の類だって話されるものです。それら甚大な被害が生じる噂を真実のものとさせる訳にはいかない」

「ご尤も。そこは神様の守護で打ち消しになったりはしないのが不満というか不信ではありますけど」

「祝福の作用の一つですから排除の対象にはならないのかもしれませんね」

嵩原の軽い茶々れもさらっと躱して宮杜は続けた。

「噂によるこの地の営みの崩壊を阻止するための対抗組織。治安維持という名目で日向に活を行う、そんな噂の統制組織というものが実はあるのですよ。裏に、ね」

「は……?」

「え? ……?」

なんだか胡散臭い話が飛び出て來た。しかし語る宮杜の顔は至極真顔だ。冗談も噓も言っているようには見えない。

チラリ、隣の八柳の表を窺うも、こちらも凪いだ顔を曬しており揺の欠片も見當たらない。

裏の組織……、ですか?」

「それはまた、謀論染みたお話ですね」

思わずと冷めた一言が返る。樹本くらいの年頃であるならばこの手の話は胡散臭いと突き放すか、あるいは非日常のり口だと目を輝かすかのどちらだろう。檜山は後者の口であるようでキラキラとした眼差しなど宮杜に向けているが。

そういえば噂話ブームの折にそんな話も聞いたようなとつい遠くに意識が向いたが、そんな樹本たちにいえいえと宮杜はやはり真面目なトーンで切り返してきた。

「空想の中のお話に聞こえるかもしれませんが事実なのです。名は風流倶楽部。『風聞』の『風』に『流言』の『流』を合わせまして、古戸萩の有識者や寺社仏閣の関係者によって組織立てられています。私に八柳さん、駒津さんも所屬しているのですよ」

「ええ……」

「そ、そうなんですか?」

「……ああ。宮杜さんは何も噓は吐いていない」

八柳からも肯定が返される。とても香ばしい匂いのする話ではあるが、しかし大人二人は本當に真面目にを若者たちへと明かしてくれているらしかった。

「我々風流倶楽部の活容は日々囁かれる噂の沈靜、または消去です。甚大な被害が生じる虞のあるものは噂そのものがデマであるとはっきり示すか、もしくは別の無害な噂をぶつけることで語り続けられることを阻止します。噂が現実に食い込むその前に散らすことが目的ですね」

「なるほど。しかしそう上手くいくものなのでしょうか? 気軽に無責任に語られるのが噂であり、そして人の意識を意図的にるなど言うほど簡単ではないのでは?」

「ええ。完璧な統制は殘念ながら未だ葉いません。しかし平穏な日常を維持するくらいのことはどうにか出來ていますよ。実化する噂というのも、「これは真実ではないか?」と信じて発言するものがそうなり易いのです。噂は虛偽である、そう思わせるだけでも現実への浸食は抑えられますので」

「ああ。そんななんでもかんでも現実のものとなる訳でもないのか。まぁ、でないととても対応なんてし切れないか」

「そういうことです。あなた方はご存知でないかもしれませんが、そちらのオカルト研究同好會の前である上蔵歴史編纂部も風流倶楽部と志を同じくしていたのですよ」

「え!?」

まさかの名前が出て來てつい聲を上げた。ばっと蘆屋の顔を見るも當人も目を丸くして初耳だという心をわにしている。

丸い目はやがて憐悧に細められ、すっと後援者である八柳を捉えた。

「そうなのですか?」

問い掛けに八柳は鷹揚に頷いた。

「うむ。歴史編纂部は我が上蔵高校を主とした噂の統制組織であった。校にも様々な噂は日夜生まれては面白おかしく語られる。それらを管理する必要があり、その役を擔っていたのが編纂部なのだよ」

蘆屋の視線をけ止めて八柳は朗々と學校に罷り通っていたを明かす。まさか極近にあった件の統制組織の登場に樹本はただわされる會話に耳を傾けるばかりだ。

「……オカルト研究同好會は上蔵歴史編纂部の後進としてその歴史、並びに積み上げたデータをけ継いでいたはずですが」

「ああ、そうだよ。だが編纂部はとある噂の検証に失敗し、調査人員の大半が深刻な被害を負う慘事を招いてしまった。そのまま部を存続させることは難しく、今のオカルト研究同好會にと規模を小させて怪談または不可思議な噂にと焦點を絞り噂の統制機関としての役目を殘した。君に數々の噂の調査を働き掛けたのも、噂の真偽並びにそのデータ収集を期待してのことだ。君の調べた容から我々が噂の広がりを阻止したこともままある」

「……」

それはつまり、蘆屋には何も明かさずにただ得られたデータのみを利用していたと。

真実を語る八柳の目に揺らぎは見えない。対する蘆屋の眼差しが深海のように底の見えない暗いものになっていたとしても、これは必要な措置なのだと言わんばかりに冷徹な眼差しで以て迎え撃つ。

「あまり八柳さんを責めないでください。事が事です。未だ學生という分の子たちに表立って明かせる話ではありませんし、何より噂の取り扱いは一歩間違えれば大慘事を招く。それを理解してから設立されたのがオカルト研究同好會なのですから」

「……」

「か、會長……」

宮杜のフォローにもなんら反応を示さない蘆屋に堪らず樹本は聲を掛けた。蘆屋は明かされた話を味するように瞳を閉じ、暫くの間のあとふぅと息を吐いて真っ直ぐな目を大人二人に向ける。

「……そちらの決定が、理解出來ない訳でもありません。一學生、いえ、世に與える影響というものを真に理解出來ない者に聞かせて良い容でもないとは私も思いますので」

語る聲は固いがそれでも理解は示した。知らずほっと安堵の息を吐いてしまう。どこか八柳の表にも和さが戻ってきたように見えた。

「しかし、それならばどうして今明かそうと思われたのですか? それも私のみに留まらず彼らまで巻き込んで。匿事項であるはずのこの土地の特を明かしてまで、現在の街の騒を鎮めたいとお考えなのですか? 素直に申しまして我々には荷が重いと言わざるを得ないのですが」

だがそれならと今度はを明かしたその機に迫る。當然の疑問だろう。懇意にしていた蘆屋にさえめ続けた口外止の話を一人処か四人にと明かすその決斷の理由は何か。

話の始まりは実化した噂が蔓延ってしまったこの現狀の解決のために、とのことだったが、一介の高校生に過ぎない樹本たちがやれることなど高が知れる。重大なを明かしただけの見返りがあるとは到底思えなかった。

「ええ。こちらも正直に語らせてもらうなら、あなた方に直接この事態の収拾を求めることはありません。いえ、ここまで事態が進んでしまった以上は並みの人間では対処など出來ないでしょうね」

「では何故……」

「我々が願うのはあなた方のお友だちである永野真人さんとの繋ぎなのです」

唐突に永野の名前を口に出し、宮杜は樹本たちの顔を覗いた。

「え、な、永野……?」

「はい。真に力を貸してしいと願う相手は彼です」

キッパリと宮杜は言い切る。樹本たちはまだ話が飲み込めていない。何故ここで永野の名前が出て來るのか。

「なんで、永野? あいつは神社とか寺の人間じゃないし、噂をどうこうとか出來ないと思う……」

「皆さんは『ハヤツリ様』をご存知ではないのでしょうか?」

またも突然な話題の切り返しであるが、しかし宮杜の放った名稱に全員顔を強張らせた。宮杜はその反応に満足そうに頷いてみせる。

「皆さんも事の経緯は理解されているようですね。そもそも、この噂による異常事態はハヤツリ様が原因なのですよ」

「ハヤツリ様が……? ……いや、そうか。かの神は噂を用い永野君を窮狀に追い込んだ。噂を好きにることが出來ると仮定すれば……」

「仮定処かガッツリ主犯であるようですよ。かの神は自の力を増すために噂を利用して人々に願いを乞わせたようです。現在の騒はその噂が暴走をした結果であるみたいですね」

「は?」

「主犯? いや、噂を利用なんて。どうして俺たちも知らない事を無関係なはずのあなたが知り得ているんですか?」

「蛇の道は蛇。我々には獨自の報網があると思って頂ければ」

詳細を明かす気はないのか、これについては宮杜は骨に煙に巻いてきた。自分たちでさえ知らなかった部の事についてあっさり語る宮杜を不気味に眺める樹本たちに、まだ話はあると宮杜は更に続ける。

「肝要なのはそのハヤツリ様までも鎮めてしまったという事実です。ハヤツリ様は我々風流倶楽部でも把握はしており、の焼失に伴い祟り神へと墮ちてしまったかの神については取り扱いにも注意をしてきました。が、永野君はその荒ぶる神を見事に鎮めてみせた」

「……あなたは……」

斷言するその言い様に本當に詳細を知っているのだと嫌でも宮杜への不信は増していく。男三人こそ顕著なまでの警戒を示す。

厳しい目が集中しているだろうに、それでもテーブルを挾んだ向こうにいる宮杜の鉄面皮といった凪いだ無表に変化は訪れなかった。

「別に彼を酷く扱おうなどと考えてはいません。ただこの切迫した狀況を一日でも早く解決するべく力を貸して頂きたいだけなのです。祟り神の撒いた厄をけ、酷く暴走をしてしまった神の祝福の鎮靜を、その助力をお願いしたいのです。彼には実際に神を鎮めたという実績がありますから」

「……協力が必要と言うなら、ご自で直接聲を掛けられたら良いんじゃないですか?」

「もう渉はさせて頂きました。しかし全くと取り合ってもらえず梨の礫です。だから皆さんに間にってもらいどうにか話だけでも聞いて頂けないかとそう考えているんですよ」

を固くする三人に宮杜は真摯に言葉を重ねる。真っ直ぐとこちらを見つめる瞳に噓は見られず、宮杜も信じてもらいたいのか慎重に言葉を選んでいる様子があった。

協力を求めているというのは本心なのかもしれない。思えば、宮杜は対面したその時からし焦りに逸っていたような気もした。

「私からもお願いする。どうか永野君に協力してもらえないだろうか」

「八柳校長」

「君たちも校にまで危険を伴う噂が広まっているのを確認しただろう。このまま手を拱いていてはいずれ誰かが犠牲になってしまうかもしれない。我々が協力を求めるのはあくまでもこの地に暮らす人々のためなのだ。どうか力を貸してしい」

八柳は四人にこの通りと深々と頭を下げた。この地に起きている危機について語る八柳に噓は見當たらない。悲愴さまでじるほどの迫した様子で彼はただ安寧とした日常を取り戻したいとそう願いを口にした。

「……」

流石に自校の校長に頭を下げられて樹本たちも拒絶を示し続けるのも難しい。互いの顔を見合ってどうすると小さく意見をり合わせる。尤も、ここで今直ぐ快諾することは元から出來なかったのだが。

「……あの」

「はい」

「なんだろうか」

暫くのこそこそとしたやり取りの後、樹本は困り果てながらも大人二人に口を開いた。

「お話は、分からないでもないんです。お二人が噓を吐いているようにも思えませんし、本當に対処に困って永野に助けを求めているのも事実なんだろうなと、一応ですが信じてはいます」

「では」

「でも僕らでもお力にはなれません。ごめんなさい」

聲を弾ませた八柳を遮って樹本は頭を下げる。どういうことだと困を顔に宿す二人に仕方がなく事を話した。

「僕たちは今、永野とは仲違いをしていて……」

そうしてハヤツリ様の一件から今日までの永野とのやり取りを語る。

永野を謂われなき悪評により拒絶してしまったこと、それがハヤツリ様により葉えられた願いの所為であったこと。永野がハヤツリ様を鎮靜し影響下からもしたので仲直りするべく対話を求めたこと。その盡くを拒否されてしまったこと。

今は完全な拒絶により永野に近付くことさえも出來ていないと、素直に自分たちの狀況を二人に話した。

「……なので、僕らから永野に渡りを付けることは出來ません。話を聞いてもらえるとは思えませんから」

しょんぼりと肩を落としてそう結ぶ。必要なことであったが、それでも永野と疎遠になってしまったことを語るのは辛い。隣で檜山も同様に元気なく俯いてしまっている。

「……そのようなことになっていたとは……。八柳さんはご存知だったんですか?」

「拗れている、という話は耳にしていたよ。ただ君たちは彼のために立ち上がったとも聞いていたから、解決の糸口は摑めているものと。まさかそこまで悪化していようとは……」

八柳も驚きを隠せていない。じっと樹本たちに向けられる目は想定外の事態に揺をしているも、その中には憐憫のも確かにある。祟り神により苦しい狀況に追い込まれている生徒たちを労ってもいるようだ。

「確かに、それではあなた方に協力を求めるのは難しそうですね」

「すみません……」

「謝ることはない。碌に対応も取れなかった我々の責任だ。辛い思いをさせてすまないね」

謝る樹本に八柳はめの言葉など掛けるも今更誰の非であるなど追及した所で実が生る訳でもない。殘された結果は一縷のみが絶たれた、それだけだ。

「……永野君が皆さんを拒絶したのは、それは不當な扱いをされたから、なのでしょうか。だとすればそれは誰かの願いの所為でありあなたたちの本心ではないと告げれば」

「あ、いえ。もうそれは話したんです。その上で、なんですけど、でも、永野はなんだか別のことを気にしてるような……」

「別?」

「確証はないんです。ただ、彼は何か事を抱えているような、その所為で俺たちも周囲も拒絶してしまっているように思えてならないんです。はっきりとした話でなくて申し訳ないんですけどね」

「ふむ……。事……」

要領の得ない話に宮杜も八柳も神妙な表を浮かべる。真剣に悩み出す大人二人に樹本はなんだか申し訳ない気持ちになった。

朝日への態度を切っ掛けに違和となり辿り著いた一説ではあるが、今では多分と頭に付くくらいにはどうにも自信がない。永野との関係修復に燃える心がから消えて以降、永野の心に対する思いもどこか鈍く錆び付いているような気がした。

「……なるほど。ならば取りる隙がない訳でもなさそうですか」

どんどんと気落ちしていく樹本の耳に、だからこそポツリと落とされた大人の容赦ない発言は確かな衝撃を以て屆いた。

「……え?」

「宮杜さん?」

「皆さんの仲直りに私も協力しましょう」

八柳までも窺い見る中、宮杜は真顔でそうはっきりと口に出すのであった。

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