《高校生男子による怪異探訪》22.仲直り大作戦(事前準備)

『お話を聞くに単純に疎遠にとなられた訳でもなさそうです。あなた方が睨んでいる通り、彼には由々しき事由があるのかもしれません。その事由によりどうしても誰をも遠ざけざるを得なかったのかも』

『ならば仲直りをするのも難しくないのでは? 要はその事由を取り払ってしまえばいい。距離を取らねばならないならその原因を排除してしまう。ね? 簡単な話でしょう?』

『友人の悩みの解決に手を貸すなんて推奨こそされ非難される謂われはないでしょう。大丈夫。私も八柳さんもサポートはしますので。自校の生徒のことですしお力を貸してもらいますよ。ほら、校長先生までもこう言ってるんです。大船に乗ったつもりでいてください』

校長室での話し合いのラストは、そんな宮杜の怒濤の押しにより永野との関係修復に全力で取り組むという形で決となった。

流れるように八柳までもを巻き込んだ宮杜の決定に抗える人間はその場にはいなかったためだ。一人冷徹に眼鏡をらせていた宮杜に八柳までも及び腰となり唯々諾々と協力をすると頷くしかなかったくらいだ。

その場にいる全員の承諾を得て、ならば直ぐにでも話し合いを、いや永野に拒否されてどうにも近寄り難いんです、気持ちは分かりますが言葉を介さないことには何も知ることは出來ません、俺たちも永野の悪評を消したいんだけどなんかかないんだよなー、そんなのは気持ちで負けているだけですよ、大丈夫気合いがあれば仲直りは出來ます、論でゴリ押しするのは悪手だと俺は思いますけど、などと窓の外が暗く夜の帳が掛かり、室の電燈の眩しさも煌々と白く目を貫くほどの時間になっても続けられた談は、しかし煮詰まりの果てに確かな果を得られる前に様子を見に來た駒津によって解散にと促される。曰く本日はもう遅いのでそこまでにしましょうよと。

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『ですが駒津さん』

『この場で全てを決める必要はないでしょ。噂にしか聞いてませんけど彼らの拗れ合は中々のものです。焦ってはそれこそ、今度は完全に壊れてしまう虞もありますよ』

のんびりと、しかし確かな説得力を持った駒津の言に宮杜も押し黙る。乗りに乗り會心の説得を披していた宮杜を止めた駒津に室にいた他の人間の誰もがそっと喝采を心の中で贈った。特に話し合え話し合えと強く迫られた三人は謝の念だって抱いたほどであった。

とは言え仲直りをしたいかしたくないかで言えばそれは當然関係修復には臨みたいのが本音ではある。足踏みを続けてしまう自分たちに発破でも掛けてもらえるのは有り難く、地元に巻き起こっている危機的狀況への対応も込みで宮杜たちと協調する選択を樹本たちは選んだのであった。

そして明けて翌日。様々に衝撃的な話を明かされたその名殘を引き摺りつつ、三人は教室の片隅で昨夜のことについて話し合っていた。

「……いろいろと濃い時間を過ごした気がするね」

「なんか一杯聞かされたけど、とりあえず永野と仲直りすればいいんだよな?」

「結論はそうなったね。あの人も大分切羽詰まっているようだったね」

嵩原の溢すあの人、というのは宮杜のことだろう。軽く皮の込められた呟きは絶対に仲直りしろよと詰め寄られたことに対して向けられたものだ。

形振り構わず協力は惜しまないと告げる姿を思い返し、樹本も同意だと返事代わりに嘆息を吐き出した。

「それだけ永野の協力を求めてる、てことだよね」

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「俄には信じ難い、いや、そうでもないのかな? 真人にはし常人からは外れた所があったしね」

聞きようによっては悪口に聞こえるだろう呟きに樹本は何も言えない。同意を返すのも否定するのも戸う。

過去に樹本はその永野の不可解さ、良く言えば神的とも捉えられる振る舞いに対し、苦言を呈しそして自の拒否する理由としても挙げ連ねてしまっていた。

自分の中にある怯えから來る永野への複雑な。今、永野の特異こそがこの街の危機を打ち破るのだと手の平を返して求めることについてはどうしたって躊躇いが出てしまう。

「永野の力かぁ。祟り神を鎮めたとかなんとか言ってたけど、だからって本になった噂をどうこうとか出來るもんなんかな? 危なくないのか?」

「その辺りは想像の域を出ないね。俺たちは真人がどうやって神をも鎮めたのかは伝聞でしか知らない。祟り神と直接対決する以上に危険なことがあるのかは疑問だけど、でも寺社仏閣の関係者もいる風流倶楽部でも太刀打ち出來ない騒だと言うならその危険は推して知るべし、て奴かなぁ」

「……それ、やっぱり永野は危険な目に遭うかもってことでしょ? 宮杜さんと約束したのは軽率だったんじゃ……」

「かと言って放置なんてのも出來ないでしょ。俺たちを巻き込むつもりであの二人はだって明かしたんだろうしね」

友の危険と街に蔓延る危険。その秤の片方に友との仲直りを乗せられて樹本たちは実に見事に大人の計略通りにかされた訳だ。それを一日経った今理解するも時既に遅く。後悔はきっと、この街のを明かされるその前に席を立っていなければ抱かずにいるのは無理だったのだろう。

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「まぁ、心配なのは分かるけど、俺たちは俺たちでやるべきことがあるんじゃない?」

「……仲直り」

「そう」

つい憮然とした聲で呟いてしまう。気持ちは分かると、嵩原は軽く笑って続けた。

「乗せられた形に思えるけど、でも宮杜さんの言い分にも一理あると思うんだよね」

「どこが?」

「事を抱えているから距離を取られたなら、その事を解決してしまえばまた元の関係に戻れる、てこと。単純な話だけどね」

「あー……。そんな上手くいくのかなぁ?」

「亨の懸念は尤もだ。でも今はそれに縋るしかなくない?」

へにょんと眉を垂らして自信なさそうに呟く檜山へと言い聞かせる。樹本も檜山と同じだ。何せ二度ならず三度も永野には手痛く拒絶を食らっている。また失敗するという可能もなくはないはずだ。

「宮杜さんにも事があって距離を取られたのでは?って指摘されたでしょ。嫌われたから拒否された訳じゃないならワンチャンあるとは思うけどねぇ」

「……それだって推測じゃない。本當に嫌われてたら」

「まぁそれを知るためにも、真人が何か悩み事抱えてないか調べるのはありじゃない? 実際、俺たちにも何も言えないぐらいの問題抱えてる、て知って放っとける?」

「……それは駄目だ。ハヤツリん時みたいなことに巻き込まれてるってんなら俺助けたい」

「そ。つまりはそういうこと」

キリッと男前に宣言する檜山に嵩原は愉快げに口端なんて上げて笑う。

仲直り云々に終始するのではなく、困っているだろう永野の力になるためにもこうとわれれば斷る訳にもいかない。樹本もぐぅとの奧で唸りを上げた。

「……今度は君に乗せられろ、て?」

「いい加減この落ち著きのない空気、嫌なんだよね。そろそろ二學期も終わっちゃうし、そうなると仲直りなんてかなり難しくなるだろうし。あとは冬休みにいろいろ計畫は立てているんだからそっちに支障は來たしたくない」

「私事! 完全な私事だ、これ!」

「俺もまた四人でいろんな所遊びに行きたいなー」

呆れと手の平の上で転がされるという苛立ちに荒く言葉を吐き出してしまうも、樹本ももう半ば諦めが心を支配していた。

永野の助けになること、仲直りの切っ掛けを得ること。希は半々といった所だが、確かにやる気はに靜かに燃え上がっていた。

「調べる、ていうのは賛はするけど、でも実際どうやって? 僕らには心當たりなんてないよね?」

「ないね。あったらここまで拗れてないもの」

「誰か知ってるかな?」

永野の心を知る誰か。全員で首を捻る。今や校で完全な孤立を極めつつある永野の向を知る人間が果たしているものか。一番近い位置にいたと思われていた自分たちでさえこのたらくであり、仲直りを期待されもしていた己ら以上に親しくしている人間がいるのなら樹本たちだってそんな彼彼を全力で頼りたい所だ。

「朝日さん、は駄目か」

「彼も真人に嫌われたって多分誤解なんだろうけど真意は知らないじなんでしょ? 本音は分からないだろうね」

「やっぱハヤツリがなんかしたんかなぁ? 呪いとか」

「それも朝日さんが否定してるんだよね。ハヤツリ様を鎮めて、そのあとに急に、かぁ……」

うーんと頭を抱える。ほぼほぼ校の人間は全滅と言える。元々永野はそう広い友関係なんて持っていない。恐らくは自分たち以上に詳しく彼のことを知る人間はいないだろうとそう結論付けた。

「そうなると……、ご家族?」

「に、なるよね。最近の様子はどうですかって」

「家庭訪問じゃないんだから」

「あいつんちに乗り込むか?」

「もっと穏便に行こうよ。事前にきちんと會う約束取ってさ。幸いお母さんとは文化祭の時に挨拶は出來たから」

「え? そうなのか?」

「あ、檜山はいなかったね。雑賀さんと同席しててね、それでいろいろお話したんだよ」

「へー」

「お話を聞かせてしいと願い出るならそれはきちんと手順は踏まないと駄目だろうねぇ。でもどうやって連絡するのかな?」

「え? あ……」

當然のことながら永野母の連絡先など知らない。永野の実家の電話番號も同様だ。

「……嵩原、聞き出してたりしないの?」

「人妻と彼氏持ちには手を出さないって決めてるから。というか友人の母親にちょっかい掛けるってどうかと思うよ」

「じゃあ學校に聞いてみるか?」

「それもね……。個人報の取り扱いは慎重になってるだろうし」

「八柳校長は手伝ってくれると快諾はしてくれたけど、あまり表に出せない形で頼るのは俺たちにとってもよろしくはないね。真人のお母さんっていう第三者を巻き込むのなら尚更」

ふーむと腕を組み首を捻る。良い案だとは思うのだがそれを実現するための手段が構築出來ない。砕けることを前提に校長に申し出てみるかと考えた所で。

「……あ。雑賀さんと知り合いだったりしないかな?」

思い付いたと檜山が聲を上げる。先程同席していたという話を思い返しての発言のようだ。

「雑賀さん? 一緒には座っていたけど、仲良いかは……」

「いや、真人のバイト先として面識がある可能は高い。保護者の連絡先も控えてるんじゃないかな? 雑賀さんを頼るのは有りだと思うね」

「あ……。そっか。履歴書なんかもけ取ってるかも……。それに雑賀さんに永野の近況とか聞くのも良いかもしれない」

考えればこれ以上ないほどに今の自分たちに必要となる報を持っている相手な気がしてきた。雑賀の連絡先ならば樹本も把握しているのが更に都合が良い。

雑賀に永野母との繋ぎを取ってもらう。そう話は簡単に纏められた。

「お母さんと話したい理由は……」

「永野のことで聞きたいことがある、て素直に言やいいんじゃね?」

「そうだね。下手な誤魔化しはしない方がいいでしょ。最悪、俺たちが真人にしたことも話さなくちゃいけなくなるかもしれないことは覚悟しておくべきだろうね」

「う……。そう、だよね。言わない訳にはいかないよね」

もう既に八柳に宮杜に話したことではあるが、やはりに永野への無なしでかしを告げるのは戸う。

それでもやったことはやったことだと向き合って雑賀に連絡を取った。

営業中にも拘わらず丁寧に対応してくれた雑賀は、ただ永野のことについて母親をえて話したいと申し出ただけで快諾してくれた。その場では深くは聞かず、ただこちらから話はする、し時間をくれとそれだけを返すに留まる。予定が組めたらまた連絡すると一言二言やり取りをわして実にあっさりと樹本たちの狙いは実現する運びとなった。

「……いやにあっさりしていたなぁ」

「俺たちの必死さが伝わったのかな?」

「それだけでこんなとんとんと進む? 普通ならもっと理由を訊ねられそうなものなのに」

「雑賀さんも真人の様子のおかしさに気付いていたのかもしれないね」

「そういうことなのかなぁ……」

あまり釈然としないものをじるも、しかし一先ずはこれで話は進んだ。あとは雑賀からの折り返しを待つばかりだ。

「上手くいくといいなぁ」

「そうだね。これで永野の事が分かればいいんだけど」

期待は大きい。だが、同時にやはり屆かないのではとそんな危懼もにはある。

永野が見せた徹底した拒絶、あれが自分たちだけに向けられたものだとはとても思えないからだ。本當に、真の意味で自分以外の全てを追い払ってしまっているように樹本には思えてならない。それは恐らくに対しても同様なのではと、そんな懸念が痼りのように元につかえていた。

考え過ぎならいい。そう己に言い聞かせる樹本の耳にふと嵩原の呟きが落ちた。

「そういえば普通に連絡が出來たよね」

ん?と一瞬思考が空転する。嵩原が何について言及したのかが樹本には分からない。檜山も隣で首を傾げる。

「なんのことだ?」

「忘れちゃった? ほら、俺たちはどうしてか真人のことに関わろうとするとやる気がなくなっちゃってたでしょ? それなのに今は普通に真人の事調べるんだーってけてた。なんでだろうね?」

「……あ……」

言われて思い出す。確かにそうだ。永野からの痛烈な拒絶を食らい、以降は永野に近付くことも流れる悪評を止めることもままならなくなっていたはず。

大凡永野に関係した事柄についての能的な接は気が進まないと不可になっていたはずが、しかし今はなんともなしに永野の母親に話を聞くとかなり近い位置にいる人間への接にさえいていた。

ほんの數日前の自分たちを鑑みればこれは有り得ない変化ではあった。

「あれ……。そういや、そうだな。普通にこれやろって決めてたな」

「ね、おかしいでしょ。いつの間にやる気を取り戻していたんだろうね」

二人の話を聞き流しつつ、樹本は今日までの自分たちの行を振り返って考える。永野からの拒絶、七不思議の検証、校長からの呼び出しに聞かされた衝撃の話の數々……。

思い返せば校長と対面したその時から永野へのまるでれてはならないという強迫観念染みた行の制限はなかったような気がした。宮杜の問いにもきちんと答えられたのだが、あれもつい昨日までの自分たちであるならば答えようもなかったのでは? 思い至り、自己の変調に唖然となる。

「よく考えれば真人のことに関われなくなったというのもおかしな話だよね。そりゃ、あれだけ面と向かって関わるな、て言われたら落ち込みもするし二の足だって踏みもするだろうけど、でも全くとけなくなったのは異常だね」

「……それは」

それは樹本も、檜山だって抱いていた疑念だろう。永野への接をまるで鬱を発癥したように行えなくなったあの無気力な。無と稱しておいても何もないが、しかし自に起こった変化はそう評するより他にない。

嵩原の指摘に同調を示しつつも、ここに來てこの話を持ち出したその狙いはなんだろうかと考える。持って回ったように迂遠に迂遠に語る嵩原のこの話の運び方は耳馴染みも大概だ。もっと他に大切な何かを語ろうと企む時の獨自の言い回しなのだ。

「……つまりは何が言いたいの」

つい堪え切れずに問う聲が口かられる。その言葉を待っていた、とは言わないが、嵩原はふっと笑いなのか吐息なのか判然としない息を一つらして言った。

「俺たちは七不思議の検証は普通に乗り気で行えた。真人からの拒絶に凹んでいたのならもっとやる気というか意的なものも翳ってはいたはずだろうに、でもテンションも普段のものとそう変わらなくなかったかな?」

「……」

「そういや、そうかな? でも本見たしそれならテンション上がるのも……」

「それにしたって、てことだよ。真人への対応には皆して及び腰になっていたのに、検証に関しては問題なくむしろなんら引き摺ることもなく取り組むことが出來たってなんだろ? 気が晴れた? それとも意識を余所に向けられた? 俺たちが真人への関わりを抑制してたのは、それは拒絶されたことにショックをけたからじゃないのかな? そのショックって簡単に余所事に対しては覆せる程度のものだったのかな?」

畳み掛けられるように問われるのに答えを返せない。樹本の中に確かな違和が積み上げられていく。それはハヤツリにより思考を歪められたと知った時と同等かあるいはそれ以上の座りの悪いものだった。

「俺たちは本當に真人の言葉に傷付いてショックをけていただけなのかな。……宮杜さんは真人の祟り神とも渡り合えた力をしていたみたいだけど、それって一なんなんだろうね」

核心は避ける嵩原の呟きが、重く固まる自分たちの目の前にポンと放られて形を作らず霧散した。

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