《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#11

だがこのヴァルツの艦隊出―――よく考えれば、腑に落ちない事がある。

それは、キオ・スー家のダイ・ゼン=サーガイが今回の対ナグヤ家戦で、イマーガラ家から伝えられた施策では、イマーガラ家側に寢返ったナルミラ星系獨立管領ヤーベングルツ家と、イマーガラ家のモルトス=オガヴェイが艦隊を出させ、ヴァルツ艦隊をモルザン星系に足止めさせるはずであったからだ。

連戦で消耗して艦艇數は減ってはいるが、ウォーダ一族の中でも勇猛で鳴らした鋭のモルザン星系艦隊は、ナグヤ側の大きな主戦力である。そんな彼等を參加させない事が、今回のキオ・スー側の作戦の幹をす案件の一つであった。そのヴァルツ艦隊が何事も無くモルザン星系を後にし、ノヴァルナの援護のためオ・ワーリ=シーモア星系へ向かったのだから、どこかで齟齬が起きたのだ。

その齟齬の原因は先日、ノヴァルナがミ・ガーワ宙域まで遠征して、同盟の契りを果たし、ムラキルス星系で共同作戦を行った、獨立管領ミズンノッド家である。

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イマーガラ軍の圧迫で窮地に立たされていたミズンノッド家當主シン・ガンは、新當主ノヴァルナ自ら指揮を執り、ナグヤ軍全力出撃で応援にやって來た事に対し、大変な恩義をじていた。

そのためミズンノッド家は、ナルミラ星系で艦隊出撃のきがあるのを察知すると、即座にノヴァルナに連絡。それと同時に先のムラキルス星系攻防戦を生き延びた、殘存艦隊の全てをナルミラ星系方向へ出させたのだ。

こうなるとヤーベングルツ家とモルトス=オガヴェイは、部隊をかせなくなった。ナルミラ星系を空けると、ミズンノッド艦隊の襲撃をける恐れが出て來たのである。

ヤーベングルツとオガヴェイのどちらか一方をナルミラ星系に殘し、他方をモルザン星系へ向かわせる手もあるが、オガヴェイの本來の役目は、ヤーベングルツ家の監視であるためそれは出來ない。

結局、ヤーベングルツ家もオガヴェイも部隊をかす事が出來ず、難を逃れたヴァルツ=ウォーダはノヴァルナからの要請に従って、モルザン星系恒星間打撃艦隊を出させたのだった。

ただ…イマーガラ家への忠義に全てを懸けたあのセッサーラ=タンゲンが、己の死に際してした戦略が、果たしてこの程度の事で挫折するものであろうか?

その答えが分かるのは、もうし先の話である―――

ともかくヴァルツ率いるモルザン星系艦隊の出現は、彼等がオ・ワーリ=シーモア星系外縁部に超空間転移した直後、驚愕をもってキオ・スー家首脳陣の知るところとなった。そしてそれと前後して、ヤーベングルツ家から、本拠地ナルミラ星系へミズンノッド艦隊接近につき、外征不能の連絡があったのである。周囲の反対を押し切って同盟國への信義を通したノヴァルナの行が、この時になって生きて來たというものだった。

一方、キオ・スー城では窮余の策として、およそ八十隻ある星系防衛艦隊の三分の二をヴァルツ艦隊の迎撃に差し向け、殘り三分の一を星ラゴンの反対方向から、ナグヤ家の本営であるナグヤ城へ向かわせる事を決定した。ただしこれは、ナグヤ側の星系防衛艦隊約三十隻を引き付けるためで、こうする事でキオ・スーとナグヤ雙方の主戦力となる、恒星間打撃部隊の數的優位を維持しようと考えたのである。

キオ・スー城地下の総司令部では、ディトモス・キオ=ウォーダが苦蟲を噛み潰したような表を浮かべ、巨大な戦狀況ホログラムを見上げて、傍らの筆頭家老ダイ・ゼン=サーガイに問い質した。

「本當に勝てるのであろうな、ダイ・ゼン!?」

「お任せあれ」

重々しく頷いたダイ・ゼンは、巨大ホログラムスクリーンとNNLで連した、小型のホログラムスクリーンを眼前に展開し、それを指先で作し始める。スクリーンには星ラゴンとその月が表示されており、平面であったスクリーンからそれらが飛び出して、文字通りの立映像で二人の前に浮かび上がった。

月の艦隊基地『ムーンベース・アルバ』はキオ・スー家が保有しており、一方のナグヤ家は、ナグヤ城上空に艦隊駐留基地の『ショウ・ヴァン』がある。

ノヴァルナ率いるナグヤ艦隊の目的は、この『ムーンベース・アルバ』から発進して、『ショウ・ヴァン』とナグヤ城へ艦砲撃を目論む、キオ・スー艦隊の迎撃であると推察できた。そうなるとキオ・スー家からすれば、総司令のカーネギー=シヴァよりノヴァルナを屠るのが主目的であるから、叩くべきはナグヤ艦隊であるのは明白だ。

「ノヴァルナ艦隊との戦場は、我等に選ぶ権利があります」

これが我等の最大の優位點にございます―――と続けたダイ・ゼンは、さらにディトモスに作戦の主旨を述べる。それを聞き終えたディトモスは納得顔で頷き、「うむ。頼んだぞ」とダイ・ゼンに告げた………

▶#12につづく

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