強襲降下艦から離した５７機の陸戦仕様『シデン』は、ＥＣＭパルス弾の効果もあって、地上からの迎撃に被弾する事無く、地表へと降下した。各『シデン』は著地寸前に、バックパックから反転重力子を放出して著陸を行う。腰を低くかがめた姿勢で砂塵を巻き上げながら著地した『シデン』は、生の空兵が敵の只中に降下した場合と同様、即座にを伏せて超電磁ライフルを構えた。

「目視照準で浮遊砲臺を狙え！」

地上部隊指揮のシルバータの命令で、ＢＳＩ部隊は超電磁ライフルで浮遊砲臺への狙撃を行う。皮な事に自化された浮遊砲臺は、ＥＣＭパルスの影響をより大きくけ、『シデン』部隊へ命中弾を全く與える事が出來ないのに対し、訓練を積んでいる人間の乗る『シデン』は、目視照準でも次々と浮遊砲臺を撃破し始めた。ある砲臺は中央部に大を空けられて重力子ジェネレーターを破壊され、力なく地上に落下し、別の砲臺は直撃をけた下部主砲塔が発、上部と左右の砲塔も吹っ飛び、そこから火柱を噴き出して砕け散る。

ナグヤ側の『シデン』も三機が撃破されたが、浮遊砲臺はその倍以上の八基が破壊されて、後方へ下がりだす。不利な狀況を鑑み後退命令が出たに違いない。

その命令を出したのがチェイロ＝カージェスである。専用ＢＳＨＯの『シンセイCC』に乗るチェイロは、キオ・スー家のＢＳＩ部隊総監の地位にあったが、今回の戦いでは地上部隊の司令を命じられていた。

チェイロが実際にいるのは『シンセイCC』のコクピットであるが、その姿は等大のホログラムとなって、野戦司令部の司令席に座っている。參謀達からＥＣＭパルスによる電子障害があと二十分は継続するとの報告をけ、チェイロは浮遊砲臺の後退を指示したのだった。

「殘存する浮遊砲臺は１２キロ後退させ、第二火力支援ラインを組ませろ。機甲部隊、攻撃開始だ」

チェイロの命令で、今度は窪地に迷彩網を被って潛んでいた機甲部隊―――多腳戦車群がき出す。折り畳んでいた六本の腳を僅かにばし、なだらかな丘陵地帯の稜線を利用して、超電磁砲の砲塔だけを覗かせると、接近して來るナグヤのＢＳＩ部隊に対して撃を開始した。その數は３６輌でナグヤＢＳＩ部隊よりないが、陸戦兵としては、元が宇宙用兵のＢＳＩを陸戦仕様にしたものより有用である。

多腳戦車ＦＭＴ２７『ハヴァート』はウォーダ軍の主力戦車で、ノヴァルナが飛ばされた皇國暦１５８９年のムツルー宙域で遭遇した、星大名アッシナ家の多腳戦車より、幾分角ばった印象がある。主砲もアッシナ家のビーム砲ではなく、１８２ミリ超電磁砲を裝備していた。

稜線撃で撃ち出された砲弾は、警戒しながら前進を開始していた『シデン』のうち、四機を撃破し、四機の腕、二機の頭部を破壊する。殘った『シデン』は一斉にを伏せ、ライフルを構えて反撃を開始した。二輌の『ハヴァート』が砲塔を撃ち抜かれて沈黙、しかしすぐに各『ハヴァート』は煙幕弾投を作させる。一輌あたり六発の煙幕弾が扇狀に発され、『シデン』の前に濃な暗赤の煙の幕を展張した。

さらに『ハヴァート』は高熱を発するフレア球を、連続して煙幕の中に打ち込む。ＥＣＭパルスの影響をほとんどけない、赤外線センサーによる撃をナグヤ側の『シデン』が行うのを、阻止するためである。想定通り、この狀況に『シデン』のパイロット達は、ギリリと歯噛みした。

「クソッ！　どれが本だ!?」

「照準が付けられんぞ！」

煙幕の中で照準スコープに映る、無數の赤い熱源反応。これではどれが多腳戦車で、どれがフレア球か判別出來ない。しかも多腳戦車『ハヴァート』は、砲塔だけを窪地から出しているため、適當な撃で命中させる事はまず不可能だ。

キオ・スー家地上部隊司令のチェイロ＝カージェスは、味方の優勢を戦狀況ホログラムで確認し、次の指令を出す。

「後退させた浮遊砲臺も加え、煙幕の中へ面制圧撃を行わさせろ！」

その命令をけた『ハヴァート』と殘存する浮遊砲臺は、煙幕の中に砲撃を開始した。照準は付けていない。大量の火力を投し、ＥＣＭパルスの効果が失われるまで、ナグヤのＢＳＩ部隊を釘付けにしておくのが目的だ。キオ・スー家からすれば、先行して來たナグヤのＢＳＩ部隊を壊滅しさえすれば、後方に続く機械化歩兵部隊の上陸を斷念させる事が可能となる。

「よし。ＥＣＭパルスが終わった時に備え、我等も出る。行くぞ」

チェイロはそう言うと、野戦司令部にいる自分の等大ホログラムを終了し、実際に搭乗するＢＳＨＯ『シンセイCC』を、膝をついた狀態から立ち上がらせた。やや遅れてその左右にいる陸戦仕様の『シデン』六機も屹立する。

▶＃１７につづく