《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#17
周囲は煙幕、その中に撃ち込まれて來る大量の砲火に、ナグヤの『シデン』は全くきが取れなくなった。チェイロ=カージェスの目論み通りだ。いや、きできないだけでなく、不運な『シデン』三機が砕け散っっている。
ところが蠻勇というものは、時に思わぬ結果をもたらす―――
炎の喧騒の中で、機の縦桿を引いたのは、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータであった。このままでは埒が明かぬと、「ぬうう…」と唸り聲を上げ、うずくまっていた自分の『シデンSC』を立ち上がらせる。ポジトロンパイクを杖代わりに機を立たせたシルバータは、怒聲混じりに麾下のBSI部隊へ下令した。
「これより煙幕を抜け、敵陣へ吶喊する。我に続け、と伝えろ!」
ECMパルスの影響下では、通常の通信は障害をけるため、レーザー線を用いた可変長符號電信―――別の世界で言ういわゆるモールス信號で、簡単な容の報伝達しか出來なくなる。したがってシルバータの命令も、配下の『シデン』部隊へ伝達された言葉は単純明快だった。
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「突撃、突撃、突撃」
電信をけた機のメインコンピューターが、シルバータの聲ではなく、無機質なの電子音聲で命令を伝達する。ただそのような電子音聲の命令がなくとも、シルバータの兵達は、自分の指揮の格を知していた。シルバータの『シデンSC』がき出した途端、その意図を理解して自分の機も超電磁ライフルを手に、反重力ホバーを作させて地表をるように走り出す。
不意を突かれた形になったのはキオ・スーの機甲部隊だった。周囲の狀況が摑めない煙幕の中で砲撃の雨を喰らうナグヤのBSI部隊は、自分達が発生させたECMパルスの障害が消えるまで、を潛めるしかないはずだと考えていたのだ。それが一斉に、煙幕の中から飛び出して來たのだから、命知らずなこの突撃に驚くのも當然だった。
案の定、多腳戦車『ハヴァート』と後方の浮遊砲臺の狙撃を喰らい、四機、五機と破壊されていく『シデン』。だがナグヤの『シデン』は四十機以上が一気に出現して、煙幕を抜けるや否や、反重力ホバー機を続けながら、手當たり次第に超電磁ライフルをし始めた。そうなると戦況は互角となる。待ち伏せの稜線撃を目的にしていた『ハヴァート』は、窪地に車を潛めていた事が災いし、敵のホバー機へ対応するきが制限されたからだ。
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「立ち止まるなァ!! 進め、進めェーーーーッ!!!!」
ぶシルバータは、自らBSI部隊の先頭に立って、キオ・スー機甲部隊の只中へ突して行く。と、その直後、左側の丘の下から車を持ち上げた『ハヴァート』が一輌、超電磁キャノンの砲塔を旋回させて來た。
ECMパルスの影響で映像狀態が良くない全周囲モニターで、それに気付いたシルバータは咄嗟に超電磁ライフルを向け、目視照準でトリガーを引く。砲塔基部に命中したその一弾は発と共に『ハヴァート』を擱座させた。しかしその向こう側からもう一輌の『ハヴァート』が出現。こちらはすでにシルバータの『シデンSC』に、主砲の照準を定めているようだ。
「ぬぅ!!」
反的に縦桿を引き、撃ち出された主砲弾を紙一重で躱したシルバータは、そのまま自分を狙った『ハヴァート』へ突進、素早く超電磁ライフルをポジトロンパイクに持ち帰ると雄びを上げる。
「おおおおっ!!」
突き出された電子の鉾《ほこ》が、多腳戦車『ハヴァート』の車を貫く。シルバータの親衛隊仕様『シデンSC』は、エンジン出力に強化の重點が置かれている、いわば怪力自慢のBSIだ。『ハヴァート』を刺し貫いたまま、ポジトロンパイクを持ち上げたシルバータの『シデンSC』は、その車を先に銃撃で擱座させた、もう一輌の『ハヴァート』へ叩きつける。
グシャン!と一瞬でガラクタに変わった、二輌の『ハヴァート』を一瞥したシルバータは、戦場のECMパルスの効果が薄れて來たのを、センサーやモニター畫面の様子からじ取った。このままでは敵の狙撃度が再び上がり、後退させた浮遊砲臺がまた大きな脅威となって來る。ならばここは一気に混戦に持ち込むしかない。
「狙うは敵の野戦司令部。我に続け!!」
そう言って再び走り出すシルバータの命令をレーザー電信でけ、コクピットで電子音聲が「後続セヨ、後続セヨ」とだけ告げる『シデン』は、42機まで減っている。しかし止まっていても不利になるだけだという認識を、指揮と共有している彼等に怯む様子はなかった。六機の『シデン』が後ろを振り向き、なだらかな丘にを伏せさせると、こちらに群がり始めた多腳戦車へ、足止めの撃を開始する。そして殘りの『シデン』は、シルバータに従い、キオ・スーの野戦司令部に向かって前進を始めた。
カッツ・ゴーンロッグ=シルバータは、“豬武者”と揶揄される事が多い武將だ。難しい戦は好まず、目の前の敵に手持ちの全戦力を叩きつける戦い方は、本人の単純な格と相まって、のナグヤ家でも非難される事が多い。
しかしその突破力は本であった。それを見込んでノヴァルナは、カルツェが自分の軍の指揮にシルバータを選んだ事を是としたのである。
陸戦仕様の『シデン』の特徴である、反重力ホバーによる高速機を利用した突撃は、多腳戦車『ハヴァート』の機力を上回る。その高い機力の利用と六機の足止め隊を殘し、シルバータの部隊はキオ・スーの機甲部隊を振り切った。さらにやがて、戦場を覆っていたECMパルスの効果が消失する。
障害が失せてセンサー類や通信機がクリアになると、たちまち『シデン』のコクピットに、最新報を映し出した大量の小さなホログラムが次々浮かび上がり、瞬く間にコクピット中央の戦狀況ホログラムへ統合されてゆく。その中でもシルバータにとって一番重要な報は、浮遊砲臺に関するものだ。
「浮遊砲臺、前方およそ六キロ。回避運を行いつつ、撃を加えろ!」
度が回復した通信機に向かって、叩きつけるように命じたシルバータは、自らも『シデンSC』を不規則蛇行にらせて、超電磁ライフルを構えた。するとそれを見計らっていたかのように、ロックオン警報が飛び込む。敵の浮遊砲臺から早速、機能を回復した撃照準センサーの照をけたのだ。その直後、不規則蛇行で大きく左に移した機の、元居た位置に巨大な炎がそそり立った。
発に巻き込まれずに済んだシルバータは、自分を狙って來た浮遊砲臺に向けて超電磁ライフルを撃ち放つ。だがその弾丸は命中したものの、角度が淺く、浮遊砲臺が表面に展開したエネルギーシールドの反発力場に弾かれて、空の彼方へと飛んで行った。
「チィ!」
舌打ちしたシルバータは、頭にが上りそうになるのを抑え、敵砲臺の砲撃を躱しつつ再照準する。その間に、右側を離れて走っていた部下の『シデン』が、浮遊砲臺の攻撃をまともに喰らって微塵になった。砲臺の主砲は重巡航艦並みであり、その威力は半端ではない。部下の仇とばかりに再び銃撃を放つシルバータ。その銃弾は、今度は角度も見事に浮遊砲臺のエネルギーシールドを貫き、表面裝甲も突き破って部で発した。
▶#18につづく
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