《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#18
「なに!? 機甲部隊が突破され、浮遊砲臺の支援ラインが攻撃されているだと!?」
野戦司令部を離れて前進を始めていた、キオ・スー地上軍司令のチェイロ=カージェスは、想定外の報告に、搭乗するBSHO『シンセイCC』のコクピットで顔をしかめた。浮遊砲臺の火力支援ラインは、この後に上陸が予想される、ナグヤ軍の機械化歩兵部隊への攻撃に対しても、欠かせないものだ。
「はっ。前線からの報ですと、敵の陸戦BSI部隊が煙幕の中から突撃を開始。我が機甲部隊を振り切り、浮遊砲臺とその周囲に配した歩兵連隊へ、攻撃を行っているとの事。すでに被害が出ております」
野戦司令部からの返答をけ、チェイロは「敵のBSI部隊の數は?」と尋ねる。
「およそ三十」
三十だと?…と眉をひそめるチェイロ。當初の報告では、上陸して來たナグヤの陸戦BSIの數は六十前後だったはずだ。それをこの短時間で半數にさせてもなお、突撃を敢行して來るとは…そこまで考え、チェイロは敵の司令が誰であるか思い至った。
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カッツ・ゴーンロッグ=シルバータ―――直接の面識はないが、二十代半ばの若輩ながら実直な家臣である一方、ナグヤ=ウォーダ家でも名うての“豬武者”だという。
“命知らずの愚か者か…だが、みすみす被害を被るわけにもいくまい”
そう思ったチェイロは、隨伴する六機の部下に命じる。
「急げ。我等も浮遊砲臺の支援に參加する。敵のBSI部隊を排除するのだ」
加速をかけるチェイロの『シンセイCC』と、六機の陸戦『シデン』。數はなくとも、BSHOの戦闘力はBSIとは比べにならない。そしてそれを縦するチェイロには、キオ・スー軍BSI部隊総監として、ナグヤの“豬武者”の若輩者に負けるはずがないという自負があった。
そのチェイロ率いるBSI小隊の接近にいち早く気付いた、ナグヤ家のBSIパイロットがシルバータに警告する。
「シルバータ様。敵の新手が接近中です。BSIの小部隊と思われ…い、いや、中にBSHOがいます!!」
途中から聲を上らせる部下の報告に、シルバータはいかめしい顔をさらに強張らせて問い質した。
「BSHOだと?…機種は!?」
「き、機種…『シンセイCC』! キオ・スー軍BSI部隊総監、チェイロ=カージェス殿です!!」
それを聞いたシルバータは、臆するどころか武者震いを覚えた。
シルバータはカルツェ支持派の中心人の一人であるが、これまで何度か述べられた通り、自らの出世のためのカルツェ支持ではなく、ナグヤ=ウォーダ家のためにノヴァルナよりカルツェの方が當主に相応しいと考えている男だった。
それゆえナグヤ=ウォーダ家のため、ここで敵將チェイロ=カージェスを討つ事の重要は充分理解している。その敵將が向こうから早くもやって來たのだから、勇猛をもって鳴るシルバータが、気持ちを高揚させるのも當然だった。
「良き敵ござんなれ、とはこの事よ!!」
そうんだシルバータは、自分の周囲にいる『シデン』に呼び掛ける。
「アヴィーゴ、キームル、ジバザック。他の者も、我に続ける者は來い! 敵將チェイロ=カージェスを討つ!!」
名前を呼ばれた三名の他にも、シルバータを含めて十一名のパイロットが、それぞれの『シデン』の縦桿を握り締めて、接近中のキオ・スーBSI部隊へ立ち向かっていく。
地上戦闘は宇宙空間での戦闘より遙かに低速で、例えば同じ星ラゴンの衛星軌道上で今まさに戦端が開かれ始めた、キオ・スーとナグヤの宇宙艦隊同士の戦闘に比べれば、まるで鈍重な亀の喧嘩のようだ。
しかし星表面での地上戦の環境は宇宙空間とは全く別で、星の重力に加え、様々な地形の報を脳が処理せねばならず、速度で言えば宇宙戦闘とはまた別の覚が働くものである。
シルバータ以下十一機の『シデン』隊が、チェイロ=カージェスの隊と遭遇したのは、浮遊砲臺とその周囲に配置した歩兵部隊が、シルバータ達と分離したナグヤBSI部隊と戦している位置から、北東に約十キロ離れた巖の多い臺地だった。
樹木のない草原の所々に、白い花崗巖の大きな塊が、地中から角のように突き出す特徴的な地形の中で、反重力ホバーを使って高速移しながらシルバータの親衛隊仕様『シデンSC』が超電磁ライフルを放つ。その銃弾は、速度を上げて躱したチェイロの『シンセイCC』の後方にあった、花崗巖の角の一つを盛大に砕き飛ばした。
「散開しろ!」
反撃の銃弾をシルバータ機に放ったチェイロが、配下の六機に命じる。その反撃を回避したシルバータも部下に告げた。
「各個に対処。殘りは俺と來い!」
シルバータの指示で、六機のナグヤ側『シデン』が、キオ・スー側の『シデン』と一対一の戦闘にる。
▶#19につづく
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