《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#03

同じ頃、ミノネリラ宙域では、隣接するシナノーラン宙域へ向け、艦隊を進めていたギルターツ=サイドゥのサイドゥ家第2宇宙艦隊以下、四個艦隊が最初の超空間転移を終えたところで、なぜか行き足を止めていた。

艦隊がいるのは首都星系ミノネリラ星系から約106年離れた、FY-87015星系付近である。遠くに一等星並みの輝きを放つ、FY-87015星系の青白い主恒星を眺め、四百隻近い艦船が四段になって星の海を遊弋している。

そこに浮かんだ多數の艦船の中でひときわ大きな戦艦が、ギルターツ=サイドゥの旗艦『ガイロウガイ』であった。父親であるドゥ・ザンの総旗艦『ガイライレイ』の同型艦として建造され、全長は七百メートル近くある。

その『ガイロウガイ』の司令室には、今回の作戦でギルターツに付けられた三人の艦隊司令―――“ミノネリラ三連星”の、リーンテーツ=イナルヴァとモリナール=アンドア、そしてナモド・ボクゼ=ウージェルが呼ばれていた。いや、等大ホログラムではなく、生の本人がシャトルでやって來ているのだ。作戦行中としては異例であり、呼び出された三人も當している様子だった。

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「何故、このタイミングで我等を呼ばれたのでしょう?」

訝しげに尋ねたのはリーダー格のリーンテーツ=イナルヴァである。五十歳を過ぎた白髪の男で、赤味がかったにぎろりとした目が目立つ。ウォーダ家で言えば、ヴァルツ=ウォーダのような猛將タイプである。

「さよう、今はタ・クェルダ家に備え、一刻も早くシナノーラン宙域境界へ向かわねばならぬ時ですぞ」

そう続けたのはモリナール=アンドア。四十歳の黒髪に丸顔の一見溫厚そうな武將で、安定した防戦が売りだ。先のノヴァルナのムラキルス星系への遠征の際、留守の間のナグヤ家防衛を任された事は記憶に新しい。

「何か作戦に、不備が生じたのでしょうか?」

さらにナモド・ボクゼ=ウージェルが問い掛ける。こちらは三十九歳の黒人男、痩せた狩人のような風貌で、眼が鋭い。軽快な機戦を得意としている。

彼等はアンドアが口にしたように、シナノーラン宙域との境界付近に出現した隣國の星大名、タ・クェルダ家の宇宙艦隊に対する警戒行のため、同境界面へ移している最中なのだ。向こうも“タ・クェルダ四天王”の三名が出陣しており、もし戦闘になれば大激戦は必至の予想だ。

ところがギルターツ=サイドゥは、二メートルはある巨を椅子に沈め、何を慌てるふうも無く、両手を膝の上に組んで告げた。

「不備か…不備と言えば不備かも知れぬ。何せ、程なくタ・クェルダは、境界面から軍を退くからだ」

「な、なんと仰せられます?」

次期サイドゥ家當主から意味不明の言葉を聞き、三人は目を白黒させる。

「そういう手筈となっておる。したがって境界面へ向かう必要はない」

「は?」

反応に困った三人は“お主は分かるか?”とばかりに、お互いに顔を見合わせた。サイドゥ家は今年になってナグヤ=ウォーダ家と同盟関係となった。そのためナグヤ家と敵対しているイマーガラ家の同盟者、タ・クェルダ家とは敵対関係のはずである。にも拘らずタ・クェルダ家と“そういう手筈になっている”とは、まるで理解出來ない。

イナルヴァが「それはどういう…」と訊こうとするのを、またもや意味不明なギルターツの言葉が遮った。

「わしは、イースキー家の名を継ぐ事にした」

「!?」

この方はどうしてしまったのだろう?―――さすがにギルターツの神狀態まで疑い始め、“ミノネリラ三連星”も返答に困る。イースキー家は銀河皇國の舊貴族家だが、それを継ぐという意味が分からない。ギルターツはすでに次期サイドゥ家當主の座が約束されており、事実、現在すでにドゥ・ザンと共同で、ミノネリラ宙域の経営にあたっているのである。首を捻るばかりのイナルヴァ達の解せない表に、ギルターツは可笑しさを覚えて「ふふふ…」と笑い聲をらし、その意味を語り出す。

「お主達も聞いているだろう?…わしの“本當の”父親はリノリラス=トキではないか、という話を」

それを聞いてイナルヴァ達は揃ってギクリと肩を揺らした。そう言われて思い當たる事があるのを思い出したのだ。ドゥ・ザン=サイドゥと前妻のミオーラの間に生まれたギルターツだが、そのミオーラはドゥ・ザンが追放した舊主君、リノリラス=トキの妻を略奪したもので、リノリラスの助命と引き換えにドゥ・ザンの妻となった時にはすでに、ギルターツを籠っていたのではないか―――つまりギルターツはドゥ・ザンではなく、リノリラス=トキの子ではないかという噂が立ったのである。無論、DNA検査を行えば一発で判明する事なのだが、なぜか今日まで公表はなされておらず、ミノネリラ宙域では今でも最もグレーな話題だった。

▶#04につづく

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