ミノネリラ宙域で起き始めた大きなうねりを、今のノヴァルナに知る《すべ》はなかった。いや例えそのがあったとしても、何より今は、巨大なプラント衛星の制に神経を集中しなければならない時だ。前方では『ホロウシュ』達と、キオ・スー軍の戦による発が斷続的に輝く。

サーマスタ＝トゥーダの『シデンSC』が超電磁ライフルを放ち、キオ・スーの量産型『シデン』の腹部を撃ち抜く。ヴェール＝イーテスが敵の振り下ろしたポジトロンパイクを、自らのポジトロンパイクで打ち防ぎ、前線で指揮を執るヨヴェ＝カージェスが、手にしたＱブレードで敵の『シデン』を、袈裟懸けに切り裂く。

また先日のムラキルス星系攻防戦で専用機を失い、量産型『シデン』でこの戦いに參戦している『ホロウシュ』は、キオ・スーの宙雷戦隊に立ち向かっていた。

軽巡航艦からの熾烈な迎撃砲火を掻い潛り、対艦徹甲弾を超電磁ライフルから撃ち込むタルディ・ワークス＝ミルズ。さらにミルズ機を背後から追い抜いて飛び出した、セゾ＝イーテスの機が、軽巡の下からり出して來た駆逐艦の艦橋周辺に、弾丸を連続発した。『ホロウシュ』達はみなよく戦い、ＢＳＩユニットも宙雷戦隊も、ノヴァルナの『センクウNX』へ近寄らせない。

「狙うはノヴァルナ殿下の機だ。発が可能な艦は、導弾を集中させろ!!」

炎とスパークに包まれたキオ・スー軍軽巡の艦橋で、宙雷戦隊司令がぶ。接近が困難ならば、大量の導弾で『センクウNX』を押し潰そうという算段だ。軽巡と駆逐艦が発管を開き、次々と導弾を出する。その直後、命令を出した司令を乗せている軽巡航艦は、発を起こして砕け散った。

撃ち出された導弾の數は７４発。それまでに『ホロウシュ』の『シデン』へ向けて使用していたため、二個宙雷戦隊が一斉発する數としては多くない。だが『センクウNX』はプラント衛星のコントロールを行っているため、大きな回避行を取る事が出來ない。

「行ったぞ、ウイザードゼロツー、ゼロスリー!!」

超電磁ライフルで敵の『シデン』のバックパックを破壊し、閃で包んだヨヴェ＝カージェスが振り返って、後方に控えるササーラとランに告げる。ササーラとランの機がいる位置は、『ホロウシュ』とキオ・スー部隊の戦地點とノヴァルナの『センクウNX』の中間であった。

「やれやれ…ミサイル撃ちは、得意じゃないんだがな」

ランの機と並んで宇宙空間に直立して浮かぶササーラは、センサー畫面に表示された敵の導弾の群れを見て、どこか暢気な口調で言った。それに対しランは真面目な口調で窘める。導弾の到達まで三分も無い。

「無駄口を言う時間は終わりだ、ウイザードゼロツー」

さらにランは超電磁ライフルを単発モードに切り替え、電子戦特化型『シデンSC-E』に乗るショウ＝イクマを呼ぶ。イクマの機はキオ・スー部隊との戦には加わらず、し離れた位置で、敵照準センサーに対する電子妨害を行っていた。

「ウイザードトゥエンティ」

「こちらウイザードトゥエンティ」

「これよりウイザードゼロツーと共に、敵の導弾に対する単発狙撃を行う。數が多い、そちらのイルミネーターで照準補正を頼む。至急だ」

「了解」

敵の宙雷戦隊から一斉に導弾が発された事は、無論、『センクウNX』に乗るノヴァルナや、その直掩任務に就いているキッツァート＝ユーリス以下、シヴァ家のＢＳＩ中隊も確認していた。

ここまで『ホロウシュ』達と、キオ・スー軍の激しい戦いを目の當たりにして、すでに張の極致に達していたキッツァートは、敵の宙雷戦隊が一斉発した大量の導弾が、自分達を狙ったものだと気付いて、泡を食ったようにノヴァルナに告げる。

「ノ、ノヴァルナ様。て、敵の導弾があんなに！」

ところがノヴァルナは、二十歳のキッツァートより三つも年下ながら、対照的に慌てる様子もない。

「ああ、ノープロブレムってヤツさ」

「は？」

至って普通なノヴァルナの言いに、キッツァートはポカンと口を開ける。

「まぁ見てな」

そうノヴァルナが言った直後だった。ランとササーラの『シデンSC』が、超電磁ライフルを撃ち始める。単発の撃を角度を変えながら素早く繰り返すと、照準もピタリ、導弾は片っ端から発しだした。

ショウ＝イクマの『シデンSC-E』とリンクし、複數の目標を同時にロックオンする、イルミネーター機能を強化したランとササーラの撃は正確無比で、まるでトリガーを引くだけの単純作業だ。ただ撃の間も導弾は飛んで行く。ランとササーラは合わせて２５発を破したところで、機を前に向かせたまま、後方へ―――ノヴァルナ機の方への移を開始した。導弾と速度を合わせるためだ。

機を後退させながらのランとササーラの狙撃の前に、キオ・スー軍の導弾は次々と砕け散っていく。ノヴァルナはプラント衛星の前に陣取り、逃げ出す様子はない。立て続けに起きる発に周囲の機は明るく照らし出され、それを演出する二機の鮮やかな手並みに、キッツァートは嘆の聲を上げる。

「凄い…」

ただランもササーラも実際には、予想以上の苦労だったようで、全ての導弾を撃破し終えたのは『センクウNX』の直前だった。ノヴァルナは『センクウNX』の両腕を広げ、慣で流れて來たランとササーラの、『シデンSC』の腰を後ろから支えて止めてやる。

「二人ともお疲れー」

お気楽そうに聲を掛けるノヴァルナに、ランはまるで自分自の腰に手を回されたかのように、戸いがちに「あ…ありがとうございます」と応じる。するとキオ・スー軍の部隊は、この狀況に引き返し始めた。撤退である事は間違いないのだが、最低限の目的は果たしたというのが理由の半分だ。

その理由と言うのが、『ホロウシュ』が行っていたプラント衛星周辺の、電子妨害の解消である。宙雷戦隊がノヴァルナの『センクウNX』に対して行った、導弾の一斉発に対処するため、ショウ＝イクマの電子戦特化型『シデンSC-E』が電子妨害を中斷した事によって、キオ・スー城へ向けて降下中のプラント衛星の正確な位置報をはじめ、地上のキオ・スー側対宙基地がビーム砲撃を行うために必要な、各諸元を得る事が出來たのだ。

ショウ＝イクマ機がイルミネーターを、ランとササーラの機にリンクさせていたのはほんの三十秒ほどであったが、全神経を集中させていたキオ・スー城が砲撃に必要なデータを取得するには充分な時間であった。キオ・スー城の中央作戦室では、ダイ・ゼン＝サーガイが戦狀況ホログラムを眺めてニタリと笑みを浮かべ、その背後で司令席に座るディトモスがおもむろに頷く。

戦狀況ホログラムには、電子妨害をけていた時の大まかな數値と照準ポイントとは違い、正確な降下コース予想と最適狙撃點が浮かび上がって、ゆっくりと點滅している。

「狙撃點、東経３６．５８３度。北緯２４．１８８度、高度８５３００」

オペレーターが狙撃點を言葉で報告すると、ダイ・ゼンはい口調で命じる。

「西海岸の砲臺をナグヤ艦隊に向けている分、一點集中が必要だ。心せよ！」

▶＃０６につづく