《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#10

他方、ソーン・ミから支援要請をけたキオ・スーのBSI部隊だが、こちらも総旗艦の救援どころではなくなっていた。総旗艦の護衛が第一の任務であり、味方の一般兵を放置してでも引き返そうとする総旗艦親衛隊のBSIの行く手に、ナグヤ=ウォーダ家BSI部隊総監―――“鬼のサンザー”ことカーナル・サンザー=フォレスタ自らが、鋭一個中隊32機を率い、専用BSHO『レイメイFS』で立ちはだかったのである。

「ここから先は通さぬぞ!」

大型十文字ポジトロンランスを頭上で大きく一つ振り回し、ピタリと脇に抱えて言い放つサンザー。その言葉を合図に、直屬一個中隊の各機が、キオ・スーBSI親衛隊に挑みかかった。たちまち始まる壯絶なドッグファイト。その中でサンザーの正面で対峙する、キオ・スー親衛隊の『シデンSC』三機が、ポジトロンパイクを手に構える。

「く!…“鬼のサンザー”か!」

「ならば、押して通るまで!」

「我等とて、総旗艦親衛隊。引くわけにはいかん!!」

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敵パイロット達の言葉に、サンザーは獰猛な笑みを浮かべた。

「その意気や良し! かかって參れ!」

カーナル・サンザー=フォレスタはラン・マリュウ=フォレスタの父親であり、狐のような耳と尾が特徴的なフォクシア星人である。だがこの時のサンザーの笑みは、狐というより狼のような印象を放っていた。

斬りかかって來る一機目のポジトロンパイクを、十文字ポジトロンランスで絡めて弾き飛ばすと、そのまま振り回したランスの柄の先で側頭部を打ち據える。しかしそれ以上の攻撃は危険だ。次の『シデンSC』が眼前に迫り、ポジトロンパイクを振り下ろして來たからだ。瞬時に『レイメイFS』を加速させたサンザーは、二機目の懐に飛び込んでパイクの斬撃より先にショルダータックルを食らわせた。

そしてのけぞる二機目の向こうからは、こちらに超電磁ライフルの銃口を向けた三機目がいる。咄嗟に機を翻して三機目の銃撃を回避したサンザーは、三機目の『シデンSC』へ、手にしていたポジトロンランスを投げ放った。完全なカウンターとなったその投擲は三機目の板を貫き、機の機能を麻痺させる。

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するとサンザーのコクピットに、背後からロックオン警報。一機目が至近距離からライフルを向けている。後ろを振り向く事なくそれを察知したサンザーは、瞬時に機をスライドさせて回避した。

さらにサンザーは機を急回転させて、二機目の『シデンSC』の背後に回り込む。二機目のバックパックに組み付いたサンザーの『レイメイFS』は、一機目の超電磁ライフルからの盾に二機目を利用。一機目が躊躇いを見せた一瞬、二機目の背中を突き飛ばす。

二機の『シデンSC』が正面衝突する隙に、『レイメイFS』は腰のクァンタムブレードを起して抜き放った。二機の『シデンSC』もQブレードを抜いて応戦しようとする。しかし鑓の腕だけでなく、サンザーは剣の腕にも覚えがあった。瞬時に間合いを詰めると、目にもとまらぬ速さで、二機の手足をバラバラにして戦闘力を奪う。三機目の機板を貫かれて中樞コンピューターが破壊され、行不能となっただけで、パイロットは無事である。

「サ、サンザー殿。なぜ我等を殺されぬ?」

宇宙空間に漂うだけとなった『シデンSC』のパイロットが、通信で訪ねて來る。それに対するサンザーの答えは、“鬼のサンザー”という異名からすると、思いも寄らないものであった。

「お主達のような忠勇の士を、このような戦いで死なすには惜しいからな」

「それは…?」

「いずれキオ・スーはノヴァルナ様のものとなる。そしてその次はイル・ワークラン家が相手となろう。その時にノヴァルナ様には、お主達のような忠勇の士が必要だ。策謀を弄して、舊主たるシヴァ家を滅ぼそうとするようなキオ・スー家が、お主達の忠義を盡くすべき主君でよいのか…考える時間をやろう」

そう言ってサンザーは、行不能のキオ・スーの機に、捕虜回収用のビーコンを取り付け、新たな相手を求めて飛び去って行った………

そのサンザーの娘ラン・マリュウ=フォレスタは、ノヴァルナの『センクウNX』を追って、キオ・スー艦隊総旗艦『レイギョウ』へ迫っている。その右斜め後方を飛ぶのは同僚のヨヴェ=カージェスの機。それから距離を置いてナルマルザ=ササーラ。あとの『ホロウシュ』達の機もついて來てはいるが、全周囲モニター上に姿は見えない。各々の縦の技量がノヴァルナとの距離となった形だ。

「遅いぞ、ゼロツー!」

ササーラ機を符牒で呼びつけて叱咤するランに、ササーラから「無理言うなって!」と応答がる。速度と機に優れるランと、総合力で秀でたカージェスに対し、ササーラが得意なのは格闘戦であって、このような場合では差がついてしまう。

そこへ先行するノヴァルナから、戦指示が送られて來た。ランだけではなく、『ホロウシュ』全機に対してだ。コクピットの戦狀況ホログラムに映し出された、その指示を見て、ランはノヴァルナに“この狀況で、よくこんな作戦を思いついて、送って來る余裕が…”と嘆する。

回避運を続けて追撃を振り切ろうとする、敵の総旗艦『レイギョウ』の周囲には、小回りの利く宙雷戦隊の軽巡や駆逐艦がなおも多數隨伴して、こちら進路を妨害し、迎撃を仕掛けて來ている。先行しているノヴァルナは、それらが集中するのを躱しながら、この狀況に即した戦を組み立て、『ホロウシュ』各機に指示を出しているのだ。

武闘派準貴族階級―――いわゆる『ム・シャー』は、星大名の嫡子も含み、の頃から軍事・軍略について英才教育をけている。古今東西の軍事知識をNNLの記憶インプラントで刷り込まれ、シミュレーションと実戦的な教練で、それを自分のものにしていくのであるが、最終的に『ム・シャー』としてどのような花を咲かせるかは、個人の格と才覚と育ち方、そしてなにより初陣を経てからの経験によるものが大きい。

それからすると、ノヴァルナ・ダン=ウォーダは、若くして幾多の戦いを経験し、いよいよこの戦いで、傑出した將の花を咲かそうとしていた。『センクウNX』で戦場に飛び出していながら、その戦場全きを覚…いや、じられるまでになっていたのである。『センクウNX』とサイバーリンクした、NNL(ニューロネットライン)を介して脳に流れ込む、味方の艦艇やBSIユニットからの報が、ノヴァルナの意識の中に戦場そのものを作り上げる。それは一種のトランス狀態と言っていい。

その中、ノヴァルナが導き出したタイミングで、『ホロウシュ』達は各個に機を左へ旋回させた。するとどうであろう、ノヴァルナの追撃を回避しようと何度目かの急速回頭を行った、キオ・スー総旗艦の『レイギョウ』に対し、半球狀の包囲陣が完したのである。敵味方雙方が驚くのもどこ吹く風、ノヴァルナは落ち著き払って命令を発する。

「よし、網にかかったぜ! 全機、超電磁ライフルをブチ込め!!!!」

四方八方から銃撃をけては、遠隔作が可能な八枚のアクティブシールドがあっても到底、防ぎきれるものではない。無數の対艦徹甲弾を浴びせられて、キオ・スーの総旗艦は激しく震いした。

▶#11につづく

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