著弾の振が絶え間なく続く『レイギョウ』の艦橋では、艦隊司令を務めるソーン・ミ＝ウォーダが、艦の運用は艦長の職務であるにも関わらず、聲を荒げて命令を発していた。

「左舷方向に出、至急である！　それと敵のＢＳＩ部隊を引き剝がせ。宙雷戦隊は何をしているというのだ!!」

星大名家宇宙艦隊の総旗艦だけあって、多の対艦徹甲弾を喰らったぐらいでは、『レイギョウ』はびくともするものではない。だがそれに乗っている、司令の心理狀態はまた別だ。

ソーン・ミ＝ウォーダは昨年秋のイェルサス＝トクルガル強奪作戦の際、これを阻止したノヴァルナと『ホロウシュ』達によって、乗艦を包囲されて逃げ場を失い、旗艦ごと人質にされるという、武人としてはこの上ない恥辱をけていた。その記憶がトラウマとなり、今回の戦いで、ノヴァルナと『ホロウシュ』で構されたウイザード中隊の接近を、必要以上に恐れて回避運を繰り返していたのである。

それが今しがたの、まるでトリックのような機で突然出現した半包囲の網で、現実として迫って來たとなれば、ソーン・ミの狼狽も想像がつくというものだ。

しかもこのような総旗艦の慌てふためいた回避運が、キオ・スー艦隊全に揺と士気の低下をもたらした。前進してきたナグヤ艦隊に各所で陣形を突き崩され、味方艦隊同士の連攜が取れなくなり始めたのである。

ノヴァルナは自分の機周囲の敵味方の展開を、戦狀況ホログラムで確認し、近くまで進出して來ている、ナルガヒルデ＝ニーワスの重巡第９戦隊を呼び出した。戦狀況ホログラム上の通信キーを指先でれ、さらに第９戦隊のマーカーにれると、自的に周波數のチューニングが行われ、回線が繋がる。

「９戦、ノヴァルナだ。ナルガを出せ。音聲だけでいい」

ナルガヒルデの乗る旗艦から「了解」と応答があり、十秒も経たないうちに當人が通信回線に出る。戦闘中であっても教師を思わせる落ち著き払った聲だ。

「はい、殿下」

「おうナルガ。『レイギョウ』の周りにくっついて來る、敵の宙雷戦隊を砲撃で排除してくれ。そしたら俺達で『レイギョウ』をそっちの方へ追い込むから、統制雷撃でありったけの魚雷を叩き込むんだ」

迎撃に駆けつけて來た、キオ・スーの攻撃艇に銃撃を浴びせて破壊しながら、ノヴァルナはナルガヒルデに命じた。

ナルガヒルデの反応は素早く、「かしこまりました」と応じて通信を終えると、第９戦隊はすぐに増速しつつ、『レイギョウ』の周囲を並走する護衛の軽巡や駆逐艦に対して、艦砲撃を開始した。目まぐるしく飛び回るノヴァルナと、『ホロウシュ』達を迎撃しようと必死になっていたキオ・スーの宙雷戦隊は、この橫合いからの砲撃に対処しきれず、たちまち被害が拡大してゆく。対ＢＳＩ戦闘で艦同士を近付け合っていたためだ。

艦腹に連続して主砲弾を喰らった軽巡が、錐みを起こして星ラゴンに落下を始めたかと思えば、艦首を吹っ飛ばされた駆逐艦が、大回転狀態で衛星軌道から弾き出され、宇宙の彼方へ飛び去る。重巡部隊へ個々に回頭し、応戦を試みた軽巡と駆逐艦が針路を重ねてしまい、激突したところへ二隻の重巡から砲火を集中されて発する。

“やっぱ使えるなぁ、ナルガは…”

ノヴァルナは心でそう呟き、敵の宙雷戦隊を著実に削り取っていく、ナルガヒルデの手腕に心した。日頃の言から派手好きな印象のノヴァルナだが、実際はナルガヒルデのような堅実な家臣をしていた。そしてナルガヒルデには、高い部隊指揮能力だけでなく、自分から志願してカルツェ派に潛り込み、報収集を行ったように膽力もある。

“この戦いが終わったら出世させて、戦艦戦隊か空母打撃群でも任せてみっか”

有能な奴はどんどん重用して、その功に報いてやらなきゃな―――そう自分自に結論付けたノヴァルナは、機を急旋回させ、下から突き上げるように『レイギョウ』の艦底に、対艦徹甲弾を三度、四度と撃ち込んだ。さしもの総旗艦級戦艦も、二十機のＢＳＩから無數の徹甲弾を浴びせられ続け、きが鈍くなっている。迎撃用裝備も破壊され、満足な反撃も出來ない。

しかしノヴァルナらウイザード中隊も、対艦徹甲弾が盡きかけていた。『レイギョウ』はその外殻を覆うエネルギーシールド自は健在であり、半端な威力のビームや通常弾では貫通させられない。仕留めるにはとどめとなる、あとひと押しが必要だった。

一方『レイギョウ』でも當然、自艦の危機的狀況は十分理解している。先ほどのノヴァルナと重巡部隊の通信を傍しており、そのとどめとして用意しようとしているのが、重巡部隊の統制雷撃だとの參謀達の判斷だ。今の艦の狀態では數十本の魚雷攻撃に、耐えられるはずはない。

▶＃１２につづく