《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#12

『レイギョウ』艦橋の戦狀況ホログラムには、こちらを追い込もうとするノヴァルナのBSI部隊と、散開して雷撃態勢にろうとする重巡部隊が映し出されている。『レイギョウ』を取り込んだBSIユニットの半包囲陣に、重巡部隊が蓋をする格好だ。

「舐めおって! 左舷回頭して最大戦速。BSIの包囲など突き破れ!」

怒聲混じりに命令を下すソーン・ミ=ウォーダ。その前の命令といい、艦の運用は艦長の職務だというのに、完全にそれを無視している。それだけ焦りがあるという事か。

だが、たかだか二十機のBSIユニットの包囲など、総旗艦級戦艦がその巨をもって突き破るのは、その気になれば容易いことも確かだ。おまけに護衛の宙雷戦隊が蹴散らされた事で、かえって艦の行に自由が得られている。

「コース288プラス16。包囲網を突破する!」

ソーン・ミに追従する形で『レイギョウ』に変針を命じる艦長。艦長が指示したのは、量産型『シデン』が僅かに偏って、包囲網に歪みが生じている個所だった。専用の親衛隊仕様『シデンSC』を先の戦いで失った、『ホロウシュ』四機が集まっている。

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そこへ向かおうとした『レイギョウ』だが、ノヴァルナの『センクウNX』をはじめとする他の機が、突破位置へ群がって來る。

「む、罠か。コース変更、262マイナス08へ全速だ!」

包囲網の隙が、こちらをい込むための計略だと考えたソーン・ミは、艦長が指示を出すより先に更なる変針を命じた。一応、敵のBSI部隊をやり過ごすコースではあるが、脊髄反的に思えるソーン・ミの命令を、艦長が止めにる。

「お待ちを! 変針コースの選定は、もっと慎重に―――」

「そんな悠長な事をしていられるか!!」

んだソーン・ミは戦狀況ホログラムを指さす。後方から方形に展開して迫るナグヤ家の重巡航艦六隻のマーカーには、すでにこちらを魚雷の照準センサーに捉えた、ロックオン警報の赤いサインが點滅していた。やはりイェルサス=トクルガル強奪作戦の時の、包囲されて追い回されたトラウマが大きいのだろう。必死の形相でさらにぶソーン・ミ=ウォーダ。

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「いいからコース変更だァッ!!!!」

なおも翻意を促そうとした艦長だが、その言葉を口にする前に、ソーン・ミは一方的に命じる。

「おまえは、敵重巡の魚雷攻撃に備えていろ!!」

新たな変針を終えた『レイギョウ』は、艦尾の重力子ノズルからオレンジのリングを重ねて発し、急退避に移った。包囲網を突破し、再度味方の戦艦部隊と合流。態勢を立て直すのが目的だ。月面基地方面まで全艦隊を引く事になっても仕方ない。

ところがその時、ソーン・ミ=ウォーダの思考の外で発命令を下した者がいた。

「た…対宇宙ビーム砲臺、撃ち方はじめ!」

躊躇いがちにその発命令を下したのは、シウテ・サッド=リンに発令のタイミングを耳打ちされたシヴァ家新當主、カーネギー=シヴァ姫である。

この戦いのナグヤ側総司令であるカーネギー姫から発せられたその命令は、ナグヤ家の領有するヤディル大陸東海岸の対宙砲臺に伝えられ、約二十基の砲臺が真夜中の黒い水平線スレスレに向けて、眩いビームを一斉にほとばしらせた。

「ナぁッ! ナグヤ家のヤディル大陸から砲撃が!!」

総旗艦『レイギョウ』のオペレーターが驚愕の聲を上げて振り向く。予想外の報告に、言葉を失って呆然とするソーン・ミ。それを押しのけるように艦長がぶ。

急回避だ!!!!」

咄嗟に右舷上方へ舵を切る『レイギョウ』。しかし六…いや八本のビームがその艦腹を捉えた。ノヴァルナが仕掛けた、『ホロウシュ』による反包囲から始った一連の流れは、全てが『レイギョウ』を、ナグヤ家対宙砲臺の程圏へ追い込むための罠だったのだ。

それまでのノヴァルナや『ホロウシュ』による対艦徹甲弾の攻撃が、ボクシングで言うところのボディブローだとすれば、ヤディル大陸からの戦艦級の対宙砲撃は勝負を決める右ストレート、あるいは左フックであった。

無數の対艦徹甲弾をけ続けた事で、出力が低下していたエネルギーシールドはの役に立たず、連続して直撃をけた総旗艦の外殻には大が穿たれる。

「左舷対消滅反応爐、急停止!」

「重力子ジェネレーター、総出力38パーセントに低下!」

「艦メインフレームに亀裂、艦がもちません!!」

舷側に空いた大から炎を噴き出す『レイギョウ』の、激しく揺れる艦橋にも火の手が回る。司令席の肘置きにしがみつくソーン・ミに、艦長はい表で告げた。

「この艦はもう終わりです。あとは私にお任せ頂き、出を!」

その艦長の言葉に、ソーン・ミはまるで白日夢でも見ているかのような、信じられないといった顔を向ける。

「な、何を言っている艦長…この艦は『レイギョウ』だぞ…総旗艦だぞ…」

現実をれられずに、茫然として無意味な言葉を口にするソーン・ミを見て、艦長は“この方はもう駄目だ”と思ったのか、傍らにいた艦隊參謀に告げた。

「艦隊首脳はお早くシャトルへ、最寄りの駆逐艦を呼びますのでご移乗下さい!」

そして艦長はオペレーター達に振り返って退艦命令を出す。

「総員退艦を発令! 至急だ!!」

総旗艦『レイギョウ』に総員退艦命令が出た事は、ノヴァルナの『センクウNX』でも傍出來た。ノヴァルナはすかさず、第9戦隊司令のナルガヒルデ=ニーワスに連絡をれる。

「ナルガ。雷撃まて」

第9戦隊は『レイギョウ』めがけて、統制雷撃を開始する寸前だった。だが『レイギョウ』に退艦命令が出た事を知ったノヴァルナは、敵兵に出の猶予を與えたのである。理由はBSI親衛隊を殺さなかった、先ほどのカーナル・サンザー=フォレスタと同じだ。総旗艦の乗員ともなれば、鍛え上げられた兵揃いのはず。そんな者達をこのような紛で死なせるのは惜しいと、ノヴァルナは考えたのだった。

無論、ノヴァルナがこういった心境に至るまで、時間は必要であった。ここまでの戦いではまず、自分が生き延びる事が先決だったからだ。そして敵総旗艦の撃破という、戦いの趨勢が決定的となった事で、星大名として見る大局から、不必要な人的損害は敵味方に関わらず抑えるべき狀況だった。

ここで生き延びた敵が後日、また自分の命を狙う事になる可能はある。だがもはや、キオ・スー=ウォーダ家の敗北は必至であり、ノヴァルナとしてはそのあとの事も考えるべき段階に、達していたのである。

これまで散々、ナグヤ家に敵対して來たキオ・スー家は斷絶させるつもりだが、その配下に関しては、これからのオ・ワーリ宙域統一に向けて貴重な戦力となり得る。そのためにも今後はノヴァルナとキオ・スー、どちらに忠誠を誓うか、選択する余地を與えてやらねばならない。それゆえにノヴァルナは、キオ・スー宇宙艦隊総旗艦から出していく救命ポッドを見逃した。

ただその余裕が、ソーン・ミ=ウォーダらキオ・スー艦隊首脳陣に、出のチャンスを與えたのも確かだった。『レイギョウ』から出される無數の救命ポッドに紛れて、幹部用と思しきシャトルが離功したのである。

▶#13につづく

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