《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#20

ディトモスの困はともかく、戦狀況ホログラムではノヴァルナの旗艦『ヒテン』がヴァルツ艦隊から集中攻撃をけ、後退を始めていた。ナグヤ艦隊からヴァルツ艦隊への反撃も振るわず、揺しているのが手に取るように認識出來る。

「まったく、キオ・スー市民を人質にする、うぬらもうぬらなら、それを巻き添えにしようという甥も甥よ!!」

ダイ・ゼンに吐き捨てるように言い放った畫面上のヴァルツは、その畫面の映らないところにいるらしい自分の乗艦の參謀達へ命令した。

「戦力は向こうの方が上だ、今は引かせるだけでよい。深追いはするな!」

ダイ・ゼンはすかさず、腰を低くしてヴァルツに弁解する。

「ヴァルツ様のお怒りはごもっとも。我等としても甚だ不本意なれど、キオ・スーの領民を人質同然としたは、生き延びんがための窮余の策。ノヴァルナ様のご量ならば領民のを案じ、軍を引いて、渉の席について頂けるものと思っておりましたのですが…」

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「ふん。ものは言いようよな!―――」

「………」

詰る口調のヴァルツに、ダイ・ゼンは言葉を返せず押し黙る。するとヴァルツは幾分聲をらかくして続けた。

「―――だがまぁよい。今はこの場を落ち著けてから、話の続きをしようぞ」

「かたじけなきお言葉」

「うむ。では甥達をナグヤ上空まで後退させたのち、改めて連絡をれる」

「はっ。お待ち申し上げております」

そう言ってダイ・ゼンは深々と頭を下げ、ヴァルツとの通信を終える。宗家當主でありながら終始放置されたのあるディトモスは、苛立ちを隠さず問い質した。

「いったいどういう事なのだ、ダイ・ゼン。まるで話が見えんぞ!!」

するとダイ・ゼンはディトモスを振り返り、殊更に恭しく一禮して告げる。

「どうやらウォーダきっての猛將ヴァルツ殿を、ノヴァルナめから離反させる事に、功したようにございますれば、お館様におかれましてはご安心を」

「なんと! それはまことか!!??」

理由を申せと急かすディトモスに、ダイ・ゼンはこの致命的な敗戦に際し、自分が取ったイチかバチかの策略を開陳した。

それによれば敗戦直後、キオ・スー市に戒厳令を敷き、市民の逃亡を阻止してナグヤ艦隊に対する人間の盾に使用。艦隊の撤退を迫るための渉材料とする旨を、ダイ・ゼンは先にヴァルツだけにらしていたというのだ。

ダイ・ゼンが人間の盾の事をヴァルツに知らせた理由は、ヴァルツにノヴァルナとの渉の仲介役に立ってしいがためだった。だが當然、そのような話を持ち掛けられても、格的に領民を人質にするような手口を嫌うであろうヴァルツが、承知するはずがない。

しかし実はダイ・ゼンも、ヴァルツのそういった拒絶反応をはじめから見越していた。その上でダイ・ゼンは、ヴァルツにこう尋ねたのである。

「もしノヴァルナ様が人質にした領民の巻き添えも顧みず、キオ・スー城への艦砲撃を行おうとされた場合、ヴァルツ様もそれに従うのでございますか?」

こちらの話の方が本題だと気付いたヴァルツの表は不快さを増し、散々ダイ・ゼンを詰ったあとにきっぱりと言い放った。

「我が甥はああ見えて、領主としての事の道理を心得ておる。罪のない領民を巻き添えにするような非道は、行うはずがないわ!」

強い口調で突き放して來るヴァルツだったが、ダイ・ゼンも自分の命が懸かっているのであるから必死だ。

「ですが萬が一! 萬が一、領民の巻き添えも辭さず、艦砲撃をお命じあそばされましたら、ヴァルツ様におかれましてはどのようなご決斷を!?」

「そのような事、あり得ぬ!」

「ですから、萬が一!…萬が一の場合と!!」

ダイ・ゼンの執拗な問い掛けに、苛立ちの限界といった口調でヴァルツは告げた。

「萬が一、そのような事となったなら、わしが甥を実力で止めるまでだ!!」

そんないきさつをダイ・ゼンが語ると、ディトモス・キオ=ウォーダは半信半疑といった《てい》で尋ねる。

「そのような話の程度で、ヴァルツの行を離反ととってよいのか?」

するとダイ・ゼンは賭けに勝ったような顔を、ディトモスに向けて応じた。

「いえ。これはきっかけにございます」

「きっかけ…と申すか?」

「はい。ヴァルツ様に対しては、百歩も二百歩も譲る必要がありましょうが、まずは我等が生き殘り、キオ・スー家をディトモス様のもとに存続させる事こそ重要。上手くあの大うつけが短気を起こしたこの機會を、利用するしかございません」

ダイ・ゼンの言葉に、低く「ううむ…」と唸って考え込むディトモスであったが、自分自ほかに何も手立ては思い浮かびもしないらしく、「わかった、ダイ・ゼン。そちに任せる」と頷くしかなかった………

▶#21につづく

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