《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#00

トーミ/スルガルム宙域星大名イマーガラ家本拠地、スーン・プーラス城―――

かつて、宰相セッサーラ=タンゲンが使用していた執務室は、今や新たな主、宰相シェイヤ=サヒナンのものとなっていた。タンゲンの種族、ドラルギル星人の嗜みであった香道だがシェイヤの好みではなく、香りの染みついたカーテンごと香爐などの道類は片付けられている。それはまた師父タンゲンの死と折り合いをつけ、自分に與えられた使命を全うしようという、シェイヤの決意の表れでもあった。

窓の外を塗り潰す夜の闇の中には、二つの下弦の月が心細そうに離れて並ぶ。明かりを控え目にした執務室で、シェイヤはテーブルの上に浮かび上がらせた、複數ページの報告書ホログラムをしいアイスブルーの瞳で黙読していた。機を挾んで正面には、三人の報部將校が無言のまま立っている。

報告書を読み終えたシェイヤは、右手を軽くスライドさせてホログラムを消し、報將校達を見上げて靜かに告げた。

「うむ…キオ・スーは想定通り、もはやこれまでだな―――」

何のも帯びさせる事無く、狀況分析を口にしたシェイヤはさらに続ける。

「サイドゥ家の方も私達の目論み通り、ほぼ順調に推移している。ギルターツ殿は思った以上に優秀なようだ」

そこに報將校の一人が、僅かに眉間に皺を寄せて意見を述べた。

「ですがその嫡子オルグターツ様の素行には、些か懸念をじえません。イナヴァーザン城占拠の際も、抵抗する者を必要以上に殺害したように聞いております。そのような方がギルターツ様の次の當主となると…」

確かにその將校の懸念も理解出來る。宿敵ノヴァルナ・ダン=ウォーダは見せかけの暴者だが、オルグターツは本暴者であるようだった。だがそれはそれで、かえってし易いというものだ。

シェイヤが「今は構わん」と告げると、もう一人の將校が追加報を報告する。

「話を戻して申し訳ございませんが、キオ・スー家のダイ・ゼン=サーガイ殿から、極の請願をけております」

容は?」とシェイヤ。

「萬が一、キオ・スー家の存続がままならなくなった場合…我等の下へ亡命を希したいとの事にて…」

「ダイ・ゼン一人か?」

「おそらく」

それを聞いてシェイヤは一瞬、不快そうな表をよぎらせて応じた。

「わかった。一考しておく………」

▶#01につづく

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