《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#04

翌日朝、降伏したキオ・スー城に、ナグヤ家から飛來した第1宇宙艦隊が到著した。わざわざ星ラゴンの大気圏を南回りのコースを取り、低速で航行して來る辺りは、アイティ大陸の住民に、誰が新たなキオ・スー家の支配者であるかを知らしめる、ノヴァルナらしい外連味のある演出と言える。

キオ・スー側の抵抗は昨日のに全て終了し、月面基地『ムーンベース・アルバ』も、そこに撤退していたキオ・スー側宇宙艦隊ごと、ナグヤ家に恭順の意を示していた。

またサンノン・グティ市にいたナグヤ家の地上部隊も、夜のにキオ・スー市にり、防衛部隊の武裝解除を始めている。

鶴翼陣形で高度千メートルを取り、キオ・スー市上空へ進したナグヤ家第1艦隊は、衛星軌道上の戦闘で損害をけた艦を除き三十三隻。最盛期の通常編時に比べると半數以下になってはいたが、それでも空を見上げる市民には、充分な威圧があった。

やがて第1艦隊はゆっくりと停止し、総旗艦『ヒテン』のみが前進、市の中央部にあるキオ・スー城の真上に到達する。大きさから言えばキオ・スー城も『ヒテン』も、ほぼ同じサイズである。

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すると『ヒテン』の底部格納庫の扉が開き、ノヴァルナを乗せたシャトルと、それを護衛する六機の親衛隊仕様『シデンSC』が発進した。一団は昨日ヴァルツらのシャトルが降りて、戦闘を開始したシャトルポートへと向かう。

ポートにはすでにヴァルツ軍のシャトルの姿は無い。ただ、昨日の戦闘で破壊された一機の殘骸だけは、片付ける時間がなかったらしく、ポートの隅にひとかたまりに寄せられている。

ノヴァルナのシャトルはポートの中央に著陸し、その両側に三機の『シデンSC』が斜めに広がるように著陸、一斉に片膝をつく。反重力ドライヴが巻き起こした風が収まるのと同時に、城の中からヴァルツ=ウォーダと參謀達が出迎えに現れた。シャトルの方も昇降ハッチが開き、機からびたタラップが降りきるのも待たず、紫紺の軍裝姿のノヴァルナが軽い足取りで降りて來る。背後に従えるのは『ホロウシュ』のササーラ、ラン、カージェスの三人だ。

出迎えのヴァルツ達はノヴァルナの前へ進み出ると、揃って片膝をついて頭を下げた。それは今までになかったヴァルツの態度である。ノヴァルナがウォーダ一族宗家の一つ、キオ・スー家の支配者となった事への、忠誠の証だった。

「ご苦労様でした叔父上。ありがとうございます」

ノヴァルナは穏やかな表で、腰もらかく労いの言葉を口にする。いつもの砕けた口調ではなかったのは、宗家の支配者然と振る舞ったのだろうが、自分がキオ・スー家に中途半端な降伏勧告を行ったため、叔父のヴァルツに、騙し討ちのような制圧作戦を取らせてしまった事への、後ろめたさもあるのかもしれない。

右手を軽く差し出して促すノヴァルナに、立ち上がったヴァルツは表をしかめ、まずは詫びをれた。

「済まぬ甥よ。ダイ・ゼンの奴めを取り逃がしたらしい」

昨日の制圧作戦の際、ディトモス・キオ=ウォーダを追っていて途中で見失った、筆頭家老のダイ・ゼン=サーガイだが、その行方は杳《よう》として知れなかった。現在も陸戦隊がダイ・ゼンのデータを取り込んだ対人プローブを使い、城からキオ・スー市にかけて虱潰しに捜索中ではあるが、見つかる可能なくなる一方だ。

その報告を聞き、ノヴァルナは「そうですか」と落ち著き払って応じた。この若者からすれば當主ディトモスが死亡し、自分がキオ・スー家の支配者となった事で、心ダイ・ゼンなどどうでもよい存在となっていたからだ。

いや、慢心などではない。ダイ・ゼンのように目先の策謀にばかり囚われている輩は、最初からその策謀を巡らせる土臺があってこそ、能力を発揮する事が出來るのであって、例えば“マムシのドゥ・ザン”のように、どこかの勢力に潛り込み、一から上り詰めていくような才覚とはまた別の人種なのだ。おそらくどこへ逃げても、以前のような権力を得る事は出來ないはずである。

「ダイ・ゼンの事は、今は放っておいて構わないでしょう。それよりディトモス殿の妻と子はどうしました?」

「ああそれなら、この城の敷地にある、屋敷におったのを捕らえている」

ノヴァルナの問いに、ヴァルツは背後の城を振り向いて応じた。ディトモスには妻のリスティーナと三人の嫡子、カルネード、バルザヴァ、ヴェルージがいる。

「四人に怪我は?」とノヴァルナ。

ヴァルツが「心配ない。四人とも無事だ」と告げると、ノヴァルナは一つ息をついた。

「わかりました。落ち著いたら會うことにしましょう」

やっぱ、背負うもんは増える一方だな―――心で呟いたノヴァルナは、ヴァルツに続いて、を張ってキオ・スー城の中へ向かっていった………

▶#05につづく

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