《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#09

第10番星ゼラン補給基地の巡察を終えたノヴァルナは、総旗艦『ヒテン』のBSIユニット格納庫にいた。そこにはノヴァルナの乗機『センクウNX』と、『ホロウシュ』のヨリューダッカ=ハッチ、キュエル=ヒーラーの親衛隊仕様『シデンSC』、さらに今回はノアの『サイウンCN』に彼の護衛役であるカレンガミノ姉妹の乗機、親衛隊仕様『ライカSS』が置かれている。

親衛隊『ホロウシュ』がハッチとキュエルだけなのは、殘りの機が全て集中オーバーホールをけていて使用出來ないのと、この巡察が軍事行ではない事を強調するためであった。さらにノアやカレンガミノ姉妹の機がいるのは、第7星サパルの宇宙要塞マルネーで要塞と全軍の將兵のために、ノヴァルナとノアのBSHOによるエキジビションマッチの余興を、予定しているからである。

六機のBSIユニットは補給基地の近くで訓練を終え、『ヒテン』へ戻って來たところだった。『サイウンCN』の足元へ降り立ったノアは、んんー…と背筋をばし、上機嫌で言う。

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「やっぱり『サイウン』の縦は、楽しいわぁ」

それはあくまでも“乗り”として楽しいのであって、戦う事は好きではないのを、隣で頭を掻くノヴァルナは知っている。ただノヴァルナが頭を掻く理由は、好むと好まないに関わらず、ノアの技量は戦闘においても一級品のままだという事だ。今の訓練でも、ノヴァルナとノアの模擬戦闘は、ほぼ互角であった。

「マルネーじゃ、やっつけてあげるから」

パイロットスーツのファスナーを元まで下ろしながら、ニコニコとして言うノアに、ノヴァルナは面白くなさそうに「へいへい…」と応じる。エキジビションはチーム戦の予定だが、これがまた難題だ。ノアの護衛のカレンガミノ姉妹は、『ホロウシュ』の前筆頭トゥ・シェイ=マーディンとラン・マリュウ=フォレスタに、以前戦いを挑み、引き分けたほどの技量を持つと來ている。

「あのな、ノア」とノヴァルナ。

「なに?」

「おまえ、まさかキオ・スー家の新當主様に、恥をかかせるつもりじゃねーだろな」

「もちろん―――そのつもりだけど」

「いやいやいや、そこは空気読もうぜ」

ノアの間を置いたわざとらしい突き放しに、顔をしかめるノヴァルナ。ノアはあっけらかんと言い返した。

「なんでよ。あなたと初めて逢った時の決著がまだなんだし、いい機會じゃない」

ノヴァルナとノアの出逢いは、約半年前の『ナグァルラワン暗黒星団域』だが、互いのBSHOで一騎打ちを演じるという、今の二人の関係からは想像もつかないものだった。

ただその時は途中で、ノアが乗っていた用船の救助に向かい、勝敗がつかないまま、皇國暦1589年のムツルー宙域へ飛ばされてしまったのだ。

「さてはてめー、俺をハメやがったな?」

このエキジビションマッチは、家老のショウス=ナイドルが舊キオ・スー家の兵士達に対する、融和策の一環としてノヴァルナのところに持ち込ん企畫だった。

のナイドルにしては珍しく、面白そうだとつい話に乗ったノヴァルナだが、どうやらオ・ワーリ=シーモア星系の平定がなったこの機會に、『ナグァルラワン暗黒星団域』での決著を目論んだノアが、裏で糸を引いていたようである。

「まぁ、いいじゃないの。あなたが勝てば問題ないんだし」

「………」

白々しい口調で宥めるノアを、ノヴァルナは無言のまま橫目で睨んだ。簡単に勝てない相手であるから、ノヴァルナは愚癡をこぼしているのだ。

するとそこに艦橋からノヴァルナへ、インターコムで連絡がる。當直している総旗艦『ヒテン』の副長からだった。

「おう。なんだ副長?」

インターコムの通話スイッチを押しながら尋ねるノヴァルナ。小さなモニター畫面に映し出された副長は、生真面目な口調で報告する。

「我がオ・ワーリ宙域の領域外縁哨戒基地、E―4459から急電です」

急電だと? 何が起きた?」

「はっ。損傷したサイドゥ家の軽巡航艦が、救援を求めて來たため、回収したと」

「なに? サイドゥ家の軽巡?」

「は。さらにその巡航艦ですが、ドゥ・ザン=サイドゥ様の二人のご子息、リカード様とレヴァル様が乗られていたとの事です」

それを聞いてノヴァルナの傍らにいたノアが「えっ!?」と聲を上げた。そのしい顔がみるみるうちに不安のに染まり始める。本拠地星バサラナルムに暮らす二人の弟が、損傷した軽巡航艦に乗ってオ・ワーリ宙域の端で回収されたと聞けば、実家で何か異変が起こったのではないかと…騒ぎを覚えても不思議ではない。

そんなノアの肩にノヴァルナはさりげなく片手を置いて支えてやり、ノヴァルナは真面目な口調で副長に告げた。

「わかった。すぐ艦橋に上がる。関連データを揃えておいてくれ」

▶#10につづく

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