《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#17

反発してはいても、ハッチとキュエルの撃は的確だった。駆逐艦は次々に対機用の迎撃火を潰されてゆく。そこに飛び掛かって來たのがノヴァルナの『センクウNX』である。自の超電磁ライフルはノアに渡してしまって、銃撃が出來ないため、斬撃で対応したのだ。

「行くぜ!」

駆逐艦の艦腹ギリギリまで距離を詰めたノヴァルナの『センクウNX』が、右手のポジトロンパイクで艦尾の重力子ノズルを刺し貫き、そのまま外殻を一気に切り裂く。そして左手のクァンタムブレードは、艦から突き出た各種センサーを破壊した。ポジトロンパイクは刃を包む電子フィールド、クァンタムブレードは同じく刃を包む、量子分解フィールドのため、敵艦のエネルギーシールドを無効化する事が出來る。

駆逐艦は主砲は健在であったが、ノヴァルナはその死角に回り込んで狙わせはしない。々回りくどいやり方だが、二人の『ホロウシュ』の機が保有する対艦徹甲弾だけで、六隻の駆逐艦を撃破するのは困難であるため、このような手段を取ったのだ。逆に死角から主砲塔を、Qブレードで突き刺して破壊すれば一丁上がりである。一隻の駆逐艦を行不能に陥れたノヴァルナは、素早く次の一隻に取り掛かった。

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ノヴァルナと『ホロウシュ』が駆逐艦部隊を片付けている間にも、六隻の宙雷艇は敵の巡航母艦に追い付きつつあった。接近する宙雷艇隊に向け、二隻の軽空母が対艦導弾を発する。それに対して宙雷艇はブラストキャノンで応戦、導弾を破壊しながらなおも追い縋った。

「魚雷発用意」

先頭を行く宙雷艇の艇長が命令を出す。各艇、二門の発管に宇宙魚雷を二本ずつ裝填しており、全部で24本の魚雷攻撃が可能となっている。自立思考兵の宇宙魚雷は、自分で考えて敵からの迎撃を回避する事が可能だが、それでも遠距離からの攻撃は難しい。距離が開けばその分、敵側も対応する時間が長くなるからだ。

「まだだ…もうし…」

照準センサーが標示する、敵艦との距離を見詰めながら艇長が呟く。とその時、縦室の右側で閃が走った。味方の宙雷艇の一隻が、敵の軽空母が放ったビーム砲を喰らったのだ。被弾した宙雷艇はガクリと速度を落とした。この景を見て怒鳴り聲を上げたのはノヴァルナだ。ただ怒りの矛先は宙雷艇ではなく、ハッチとキュエルに向かっている。

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「てめぇら、軽空母の迎撃火は!!??」

怒りを隠さないノヴァルナの詰問に、ハッチが口ごもりながら弁解する。

「そ、それが…対艦徹甲弾が盡きまして」

これがノヴァルナの不興を買ったのは間違いなかった。「なにィ…」と視線を鋭くしてキュエル=ヒーラーも問い質す。

「キュエル、てめぇもか!?」

「はっ、はい!」

思わずコクピットでシートに座ったまま、背筋をばして答えるキュエル。

「馬鹿野郎!!!!」

ノヴァルナの怒りが発する。ハッチもキュエルも、駆逐艦相手に対艦徹甲弾を景気よく使い過ぎたのだ。巡航母艦は大した武裝こそないが、それでも最低限、自分のを守るための兵は裝備している。対艦導弾と駆逐艦クラスのビーム砲だ。そしてこの場合、宙雷艇には迎撃が可能な対艦導弾より、一発でも直撃を喰らうと致命傷をけるビーム砲が脅威だった。

“これじゃあ、何のために宙雷艇隊に下方に潛るような迂回コースを取らせて、駆逐艦部隊を叩いた俺達とタイミングを合わせさせたのか、分かんなくなっちまうぜ!”

ノヴァルナの意図は、BSIユニットほどの機は持たない宙雷艇隊に、敵からの迎撃で被害を出させず、軽空母への魚雷攻撃を完遂させる事にあった。そのためノヴァルナは『ホロウシュ』と共に駆逐艦部隊を排除し、さらに軽空母の迎撃火を潰そうとしたのである。

まだ距離はあるが、宙雷艇隊に宇宙魚雷を発させるか…それとも『センクウNX』と、『シデンSC』で見せかけの襲撃行を行って、軽空母のビーム砲の注意をこちらに向けさせるか…ノヴァルナは珍しく迷いの表になった。

その時ノヴァルナのヘルメットに、ノアの聲が飛び込んで來る。

「私達でやるわ!」

婚約者の聲に「ノアか!」と、全周囲モニターに包まれたコクピットで後ろを振り返りかけるノヴァルナ。ところがその作が終わらないうちに、ノアの『サイウンCN』とカレンガミノ姉妹の『ライカSS』が、猛スピードで『センクウNX』を追い抜いて行ったために、ノヴァルナは慌てて前方に向き直った。

「ちょ、ノア。おま、敵機はどうしたんだよ?」

自らもスロットルを全開にして後を追い始めたノヴァルナが尋ねる。

「そんなの、もうやっつけたわよ!」

あっさりと言い捨てたノアは、カレンガミノ姉妹に命じる。

「メイア、マイア。弾種、対艦徹甲。フォーメーション・シエラ!」

ノアの指示で三機のBSIユニットは、縦列を組むと蛇行を始めた。回避運を行いつつ、二隻の軽空母に対する超電磁ライフルの點へ急ぐその様《さま》は、獲に狙いを定めて忍び寄る蛇のようにも見える。

「くそっ。ノアの奴だけに、味しいところを持ってかせるな! ハッチ、キュエル。俺達も間合いを詰めて、敵の迎撃火を引き付けるぞ!」

対艦攻撃能力を維持しているノア達に任せようという気は、ノヴァルナには頭ない。それは人だけに危険な真似はさせたくないというより、むしろ同じパイロットとしての対抗意識から出た思いだ。

「ノア。俺達で敵空母の脇を掠めて引き付ける。その隙に迎撃火を潰せ」

自分達に追いついて來たノヴァルナがそう告げると、ノアは「えー」と不満そうな聲を上げる。手を借りなくても私とカレンガミノ姉妹でやれる、という気持ちが口調にありありと滲み出ていた。それに対しノヴァルナは「“えー”じゃねぇ!」とやり返し、ノア達を追い抜いて、一気に軽空母に迫る。

ノヴァルナ達の急速接近に案の定、二隻の軽空母は迎撃火を向けて來た。ノヴァルナと『ホロウシュ』の機に、対艦攻撃能力がない事など知るはずもなく、自分達に対する襲撃行と誤斷したのだ。

ロックオン警報が鳴り響く中、ノヴァルナは二回、三回と機をスクロールさせて、敵艦からのビーム攻撃を回避する。そのあとに続くハッチとキュエルは、通常弾を連し、敵艦が発する導弾を次々と砕した。そこをやや離れた位置から楕円コースにったノアとカレンガミノ姉妹が、超電磁ライフルによる狙撃を開始する。

「主砲は私がやります。メイアとマイアはあとの迎撃火を!」

そう命じるや否や、ノアは軽空母の両舷に三基ずつ設置されている、連裝主砲塔に照準を合わせてトリガーを引いた。宙雷艇隊を狙っていたそれらの主砲塔は、ノアの放った対艦徹甲弾にエネルギーシールドごと撃ち抜かれて発を起こす。その間にカレンガミノ姉妹はノヴァルナ達を狙っている、主砲以外の迎撃火を破壊してゆく。これに効果ありと判斷したノアは、宙雷艇隊へ通信を送った。

「宙雷艇部隊、今のうちに攻撃!」

部隊指揮の味しいところをノアに出し抜かれる形となったノヴァルナが、機に捻り込みを加えながら抗議の聲を上げる。

「ああっ! てめ、それ俺が言う役!」

▶#18につづく

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