《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#01

「あ?…やなこった!」

それがミノネリラ宙域の新たな支配者を宣言した、ギルターツ=サイドゥ改めギルターツ=イースキーから屆いた、ノヴァルナ・ダン=ウォーダへのメッセージを見た當人が発した第一聲である。

時は皇國暦1556年4月25日の午後。場所は星ラゴン星都キオ・スー市のキオ・スー城、第一會議室。ノヴァルナと、それに従う重臣達が一堂に會していた。

中心に向かって低くなっていく半円形の會議場、その中心に大きく浮かび上がっていたギルターツ=イースキーのホログラムが、メッセージを伝え終えて消滅する。

全員が肩を揺らして困のため息を大きくつく中、一番前の席で機の上に両足を投げ出して、行儀悪く聞いていたノヴァルナが発したのが、その「あ?…やなこった」だ。

ギルターツが伝えて來た事は、新キオ・スー=ウォーダ家のサイドゥ家との同盟破棄。ドゥ・ザン=サイドゥの嫡子で、オ・ワーリへ亡命したリカードとレヴァルの引き渡し。そしてドゥ・ザンの娘ノア・ケイティ=サイドゥとノヴァルナ・ダン=ウォーダの婚約解消に、ノアのイースキー家への引き渡しである。

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それに加え、キオ・スー=ウォーダ家がこれらの條件を呑むのであれば、イースキー家には不可侵條約を結ぶ用意があるという。だがノヴァルナからすれば、當然、こんな話に乗る気はない。

時間の無駄だったぜ…と言いたげに、面倒臭そうに機から腳を下ろしたノヴァルナは、腕まくりをした紫紺の軍裝姿で、おもむろに立ち上がって重臣達に告げる。

「はい。解散、解散っと」

しかし重臣たちの間に、微妙な空気が流れているのも確かだった。自分達が同盟を結んでいるサイドゥ家が、すでにミノネリラ宙域の叛集団として扱われ、その勢力も舊トキ家系の家臣の支持を得たイースキー家に対し、かなり劣勢となっているのだ。

強食の戦國時代にあって、劣勢な相手はたとえ同盟関係にあっても切り捨てるべき…という風もあり、サイドゥ家にあまり肩れし過ぎるのは如何なものか、と考えだしている者もいるに違いない。

何気ない素振りで會議室をグルリと見渡したノヴァルナは、そういった微妙な空気を一番醸し出しているのが、ミーグ・ミーマザッカ=リンやクラード=トゥズークら、カルツェの支持派が座っている辺りである事に気付いた。“またこいつらか…”と、呆れ顔になるノヴァルナ。

「解散はよろしいのですが―――」

そう聲を掛けて來るのは筆頭家老のベアルダ星人、シウテ・サッド=リンである。シウテはノヴァルナが振り向くと、ゆっくりと尋ねた。

「ギルターツ殿からの通信…若殿様はどのように対処なされるおつもりか?」

するとノヴァルナはあっけらかんと言い放つ。

「ほっときゃいいんじゃね?」

それを聞いてシウテは「は?」と聲を上げ、目を見開いた。ノヴァルナはシウテに、聞こえなかったのか?…と勘違いした振りをして、とぼけた口調で繰り返す。

「いやだから、ほっときゃいいって」

「ほっと…何もしないのでありますか!?」

「そう言ってるじゃん! だから解散!」

言い捨てて先に會議室をあとにしようとするノヴァルナに、今度は席を立って聲を掛ける者がいる。弟カルツェの側近の一人、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータだ。

「お待ちください!」

いよいよ本気で面倒臭そうに振り返るノヴァルナ。

「なんだゴーンロッグ、てめーもか? 俺ァ、腹が減って來てんだが。こないだ、キオ・スー市の新開地に旨いヌードン屋を見つけてなあ、そこに―――」

しかし堅のシルバータは、ノヴァルナのとぼけた言葉に取り合わず問う。

「ではドゥ・ザン様の方からは、何かお話はあったのですか?」

「いんや。ねーよ」

「では、若殿はドゥ・ザン様に、お味方されるのですか?」

「だ、か、ら、ほっときゃいいって。何度言わせる気だ、てめーらは!」

「ミズンノッド家に対しては信義を通されたのに、今度は放置されると仰せになる?…ご婚約者のノア姫様の、ご実家であらせられるのにですか?」

それを聞いてノヴァルナは、“ああ、そういう事か…”と苦笑いを浮かべた。シルバータが言っているのは、先月、同盟関係にあるミ・ガーワ宙域の獨立管領、ミズンノッド家がイマーガラ軍の襲撃をけた際に、ノヴァルナは“信義を通す”と言って、獨斷かつ強引にミ・ガーワ宙域の奧まで遠征を行った事だ。その時に比べ、今回のノヴァルナの反応の鈍さに、シルバータは納得出來ないものをじたのだろう。

そういう律義さは悪くはないが―――會議室の中を出口に向かいながら、ノヴァルナは口元を歪めてシルバータに告げた。

「あん時はあん時、今は今だ。口出し無用だぜ、ゴーンロッグ」

▶#02につづく

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