《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#03

來るなというドゥ・ザンの思を知りながら、それでもなお、敢えて救援に向かう意志を見せるノヴァルナに、ヴァルツは“なるほど…”といった顔をする。

「ドゥ・ザン殿の申されている事…その真意も見抜いたか、我が甥(おいご)は」

「そのつもりですが…」

ノヴァルナが見抜いたドゥ・ザンの真意。それは會議でもシルバータが口にした、“信義を通す”という命題だ。

妻や子をノアのもとへ逃がそうとした時點で、ドゥ・ザンはギルターツに降伏する道ではなく、決戦を挑むという道を選んだ事は間違いない。ただそれは戦力を整える必要もあり、近い日の事ではないはずだ。

そこでドゥ・ザンはノヴァルナに、信義を通す機會を與えたのである。自分が戦力を整える間にノヴァルナも制を整え、ギルターツとの決戦には戦力を出せと言うのだ。

それははじめにノヴァルナも言った、“救援には來るな”というドゥ・ザンの意思表示とは真逆の意味だ。

実に奇妙な二律背反だが、ここで取り違えてはならないのが、ドゥ・ザンの真意は、ノヴァルナ軍は救援に來てもそれは形だけのものに留めておき、本格的に戦闘には加わるなという事である。

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強食の戦國にあって自分達が生き延び、覇権を得るために手段を選ばないのは、どの星大名においても同じであった。

だがその一方で今も昔も変わらないのは、信義を重んじる者を貴(たっと)ぶ、武人の在り方…生きざまだ。

信義を通す者と認められた星大名は、他の星大名からも一目置かれ、有形無形の見返りも得られるようになる。例えば、ノヴァルナで言えば先日のミズンノッド家がまさにそうであり、キオ・スー=ウォーダ家とナグヤ家の戦いでは、寢返ったヤーベングルツ家が叔父のヴァルツの軍を足止めしようとしたのを、ノヴァルナの元へ通報した上で、艦隊まで出して逆に足止めしてくれた。

そういう“ノヴァルナは信義を通す者”という評価を、周囲の勢力に定著させるため、ドゥ・ザンはノヴァルナに“戦力を出せ”と暗に告げているのである。

ただ無論、これはドゥ・ザンからの指示などではなく、戦力を出すも出さぬもノヴァルナに一任された事だ。言ってしまえばドゥ・ザンは、”自分はもうおまえの力にはなってやれぬから、せめて儂(わし)の死を利用するがいい”と告げているのだ。

ノヴァルナはそれを理解して、「支援部隊を出す」と言っているのだった。

ノヴァルナの答えにヴァルツは、「ならば安心した」と言いながら席を立ち上がる。自分達の當主がドゥ・ザンの行を、どう分析しているかを確かめたかったのだ。そしてそれはヴァルツにとって満足すべきものであった。キオ・スー=ウォーダ家の若き新當主は年齢以上に、人を見る目を持っているようだ。

「ニーワスやサンザーといった者達には、儂(わし)の方からお主の意図を伝えよう。だがシルバータや、カルツェの取り巻き連中には―――」

ヴァルツがそこまで言うと、ノヴァルナは軽く右手を挙げて話を遮る。

「あいつらはいいッス。またろくでもない事を、企みかねませんので」

カルツェの取り巻き―――ミーグ・ミーマザッカ=リンやクラード=トゥズークといった連中は、今はまだ大人しくしているが、ドゥ・ザンという後ろ盾がアテにならなくなった今後、再びカルツェを當主にしようとき出すに違いなかった。

ヴァルツがノヴァルナの副將格となって、ナグヤの城を與えられたのも、カルツェ派に睨みを利かせる事が大きな役目の一つだ。ヴァルツもそれは重々承知しており、ノヴァルナの言葉に「…だな」と同意する。

「では儂(わし)は、ニーワスとサンザーに話をしてからモルザンへ帰る」

ヴァルツがそう告げると、ノヴァルナも席を立って聲を掛けた。

「そう言えば叔父上。こちらに正式移の日取りは、まだ決まりませんか?」

ノヴァルナが言った“こちらに移”とは、ヴァルツのナグヤ城への城の事だった。ヴァルツはモルザン星系獨立管領の地位にあったが、ノヴァルナのキオ・スー=ウォーダ家當主継承に従い、これまでの功を認められてキオ・スー=ウォーダ家が領有していた、植民星二つとナグヤの城を與えられた。だがヴァルツはまだモルザン星系での殘務処理が終わっておらず、このオ・ワーリ=シーモア星系とモルザン星系を、數日おきに行き來している狀態だ。

「うむ…済まんな。人事に々手間取っておる。近日中には決められると思う」

「早めにお願いします」

正直、ノヴァルナは何かと忙しい。これまでのナグヤ家のように星ラゴンの半分と、ナグヤ家が所有する幾つかの植民星系の事だけではなく、オ・ワーリ=シーモア星系とキオ・スー=ウォーダ家所有の植民星系全てを、考えなくてはならなくなったからである。その辺もあってヴァルツのナグヤ居住は、急がれる問題なのだった。

▶#04につづく

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