《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#11
ノヴァルナの第1艦隊がトゥ・エルーダ星系へ到著したのは、カーネギー=シヴァとライアン=キラルークの會見日の三日前、6月15日のことである。だが星系に進したノヴァルナ艦隊は、會見が行われる第五星ウノルバに接近していくと、狀況が予定と違う事に気付いた。
「イマーガラの艦隊が二ついるだと?」
報告をけて『ヒテン』の艦橋へ上がって來たノヴァルナは、司令席にドカリと腰を下ろすなり、無造作に腳を組んで問いかける。最初の話では、イマーガラ側は當主ギィゲルトの第1艦隊だけが來るはずだったのが、別に一個艦隊が加わっているらしい。
「はっ。どうやらギィゲルト殿に先行して、別の艦隊がこの星系に待機していたものと思われます」
そう答えるのは総參謀長として同行している、次席家老のショウス=ナイドルだ。それに対してノヴァルナは、「ふーん…」と気のない返事を返す。その時、電探科のオペレーターが解析結果を告げる。
「もう一つの艦隊は、イマーガラ家筆頭家老シェイヤ=サヒナン様の第3艦隊」
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その報告に、ノヴァルナよりも周囲にいる參謀たちが表をくした。シェイヤ=サヒナンと言えば、主君ノヴァルナを相打ち覚悟で葬ろうとした、あのセッサーラ=タンゲンの弟子だからだ。
「警戒態勢を取りますか?」
參謀の一人がノヴァルナに尋ねる。師父セッサーラ=タンゲンの敵討ちとばかりに、襲い掛かって來る可能を考慮したのだろう。だがノヴァルナは首を左右に振って、あっさりと言い放った。
「いらねー」
「い…大丈夫なのですか?」
怪訝そうに訊くのはササーラである。
「大丈夫だろーよ。勝手に俺に手ぇ出して、ギィゲルトの顔に泥を塗るわけにいかねーだろし」
「とは申されましても、そのギィゲルト殿ご自が攻撃を指示されていたら…」
そう懸念したのはランであった。ところがノヴァルナは意に介さない。
「あー、そりゃねーわ。ギィゲルトのおっさんがそんなセコい真似をすりゃ、この會見をお膳立てしてくれたヤーシナ卿の顔に泥を塗るどころか、貴族としての面目を失う事になるかんな。それこそ貴族の格式が泣くってもんさ」
そう言い放ったノヴァルナは、あっけらかんと艦隊參謀に命じた。
「オッケー。気にせず、全艦コースこのまま、どんどん行け。所定の位置に達したら、フツーに挨拶すりゃあいい」
第五星ウノルバを間に見下ろすように対峙する形となったノヴァルナと、イマーガラ家の両艦隊。イマーガラ家総旗艦『ギョウビャク』の艦橋では、當主ギィゲルト・ジヴ=イマーガラが司令席に太ったを収め、いつものように金箔張りの扇をパチリ、パチリと鳴らしながら、ホログラムスクリーンに映し出されたノヴァルナの『ヒテン』を眺めている。
「ホッホッホッ…臆面もなく予に直接挨拶をれて來るとは、なかなかどうして。タンゲンの申しておった通り、油斷のならぬ小僧のようじゃ」
笑いをえてはいたが、ギィゲルトはほんの數分前に通信を終えた、ノヴァルナとの信を厳しい眼で思い返していた。
ギィゲルトの第1艦隊だけでなく、事前の連絡なしにサヒナンの第3艦隊も加えた、こちらが有利な狀況にも関わらず、堂々と接近してきたノヴァルナ艦隊は、躊躇う事無く戦艦部隊の主砲の有効程圏までり込んでくると、ノヴァルナ自らが直接ギィゲルトの乗る総旗艦『ギョウビャク』に通信をれて來たのだった。
しかもその通信の中がいきなり、前宰相セッサーラ=タンゲンへの哀悼の言葉であったのであるから、さしものギィゲルトも面食らわずにはいられない。
“ふん。しかし、我が半とも言えたタンゲンの死を、自ら持ち出してくるとは、何とも小癪な奴よ…”
心で舌打ちしたギィゲルトは、司令席の肘掛けに仕込まれている通信コンソールを作して、第3艦隊を率いて後方にいる筆頭家老の、シェイヤ=サヒナンを呼び出した。ほどなくしてギィゲルトの座る司令席の左隣に、等大のシェイヤ=サヒナンのホログラムが姿を現した。
「シェイヤ=サヒナン、參りました」
ギィゲルトは「うむ…」と頷くと、手にした扇をパチリ!…と殊更大きく一つ鳴らし、シェイヤのホログラムを振り向いて告げる。
「こちらは予定通り、カーネギー姫とライアン=キラルークの會見を執り行う。お主の方も手筈通り運ぶがよい」
「意…しかしあの者、話に乗って來るでしょうか?」
シェイヤがそう尋ねると、ギィゲルトは薄笑いを浮かべて応じる。
「あの小僧の気なら、間違いあるまいて―――」
そしてギィゲルトは手に握る扇の先をシェイヤに向けて、視線も鋭く続けた。
「タンゲンの無念を晴らす、またとない機會じゃ。任せたぞ、シェイヤ」
▶#12につづく
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