《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#12
「えー。突然ですが、イマーガラ家の第3艦隊と、演習を行う事になりました!」
翌日、旗艦『ヒテン』の會議室で主要な家臣を集め、まるで教師のような口調でノヴァルナが発表すると、家臣達は一斉に「えええええ!?」と驚きの聲を上げた。さすがに人前であまり表を変える事がないランも、この時ばかりは目を大きく見開き、機を両手で叩きながら立ち上がって翻意を促す。
「どうか、おやめください!」
続いて立ち上がったのはササーラだ。こちらはさらに、ドーン!と天板が割れそうなほどの勢いで機を叩いたため、周囲の者がもう一度驚く。
「そうです。危険過ぎます!!」
そんな反応は織り込み済みだぜ…と言わんばかりに、揺という名の渦が巻く會議室の中を、不敵な笑みでグルリと見渡すノヴァルナ。すると第2戦艦戦隊司令として參加している赤の家臣、ナルガヒルデ=ニーワスが一人、落ち著いた口調で尋ねて來る。教師的な振る舞いではこちらが本家と言える。
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「一どういう事なのか、ご説明を願います。殿下」
「おう。いいねナルガ、その冷靜さ」
そのツッコミを待っていたのあるノヴァルナは、ナルガヒルデを指差して評価し、説明を始めた。
トゥ・エルーダ星系第五星ウノルバにノヴァルナ達が到著した昨日、あれからイマーガラ家筆頭家老のシェイヤ=サヒナンより連絡があり、自分の率いる第3艦隊と、この星系の近くにあるロンザンヴェラ星雲で合同演習を行ってもらいたいという、急な申しれがあったらしいのだ。
銀河皇國の名門貴族にして、オ・ワーリ宙域総督のシヴァ家とミ・ガーワ宙域総督キラルーク家が、今回の會見で友好関係を築き、協定を結ぶような事にでもなれば、シヴァ家の配下であるウォーダ家も、キラルーク家の後ろ盾であるイマーガラ家も爭う必要はなくなる。その友好の第一歩として、シヴァ家とキラルーク家が會見している間、ノヴァルナ艦隊とシェイヤ艦隊が合同演習を行って、これまでの諍いを水に流そうというわけだ。
ノヴァルナがそう話すと、ナルガヒルデは遠慮をじさせない、々辛辣な印象を與える言いで尋ねた。
「そのような子供でも罠だと思い至る話を、おけになるのですか?」
確かに深く考えるまでもなく、誰が聞いてもあからさまに噓だと分かる話であった。このタイミング…ただの合同演習で終わるはずもない。
シヴァ家とキラルーク家の會見は予定通り行われる。それは仲介にっている皇國貴族のゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナも言った通り、一度承知してしまった以上、貴族の面と格式に関わるものだからだ。自らも皇國の名門貴族であるイマーガラ家も、これを反古にするような真似はしないだろう。
しかし合同演習中のトラブルで戦狀態に陥ってしまったのなら、これは不慮の事故という言い訳が出來る。ギィゲルトとシェイヤは、気の荒いノヴァルナであればそういったイマーガラ側の企みも承知の上で、合同演習に応じて來ると読んでいたのだ。
ナルガヒルデの「おけになるのですか?」という問いに、ノヴァルナは腕組みをするとを反らし「たりめーよ!」と景気よく言い放った。
「売られた喧嘩は買ってやるぜ!」
第1艦隊をはじめとするノヴァルナの腹心達は、自分らの若き主君がこんなふうに言いだしたら聞かないのを、充分に承知している。彼等は騒ぐの諦め、“どうしたものか…”と難しい表で互いの顔を見合わせた。思考を戦の方へ切り替えたのだ。
「戦うにしても相手はイマーガラ家の鋭、第3艦隊ですぞ」
ノヴァルナを振り向いて、そう口を開いたのはBSI部隊総監のカーナル・サンザー=フォレスタであった。『ホロウシュ』でノヴァルナの副、ランの父親のフォクシア星人だ。
「鋭なら俺達も負けてねーだろ?」
不敵な笑みを絶やさず応じるノヴァルナ。サンザーはさらに訴える。
「それに相手の司令シェイヤ=サヒナンは、BSIパイロットとしての腕もエース級として、鳴り響いております。もし彼がBSHOで出て來たら厄介な事となります」
シェイヤ=サヒナンのパイロットとしての技量の高さは、イマーガラ家でもトップクラスと言われていた。事実、數カ月前のムラキルス星系攻防戦では、ノヴァルナが戦ったタンゲンのBSHO『カクリヨTS』に、シェイヤの戦闘パターンが組み込まれていたため窮地に陥り、その結果、後見人のセルシュ=ヒ・ラティオを死なせてしまっている。
「あ?…なんだサンザー。てめ、俺が負けるってのか?」
ノヴァルナは斜に構えて問い質した。サンザーはノヴァルナにとっては、BSI縦の教であり、訓練では“鬼のサンザー”に徹底的に鍛えられたものである。その鬼教から負けると言われては、ノヴァルナも不本意極まりない話だ。
不敵な笑いを苦笑に変えて、大柄のサンザーを見上げるノヴァルナ。サンザーは生真面目な表を変えずに告げる。
「そういうつもりはありませんが…と申すより、シェイヤ殿が出て來たら、私が迎え撃ちますので、殿下は―――」
「すっこんでろ!…ってか?」
ノヴァルナはサンザーの言葉を自分の言葉で遮ると、「アッハハハ!」といつもの高笑いを発した。そして右手を掲げてヒラヒラと振って続ける。
「心配すんなサンザー。たぶんシェイヤのねーさんが、出て來る事にはなんねーよ」
「と申されますのは、殿下には何か策がお有りで?」
訝しげな表を向けるサンザーに、ノヴァルナは「ふふん」と鼻を鳴らすと、會議室の前面に合同演習の場所に指定された、ロンザンヴェラ星雲周辺の星図ホログラムを展開させて、自分の思を家臣たちに開陳し始めた………
そして二日後早朝。第五星ウノルバの行政府では、カーネギー=シヴァとライアン=キラルークの會見を二時間後に控えていた。皇國貴族としての儀禮的な挨拶の換を皮切りに、両家とその領有宙域に関する報換、さらに晝食後には友好関係の確認と友好協定の締結まで進める予定だ。
會見には仲介役としてイマーガラ家當主ギィゲルト・ジヴ=イマーガラと、皇國貴族ゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナ。さらに新キオ・スー=ウォーダ家から外務擔當家老のテシウス=ラームも同席していた。
このシヴァ家とキラルーク家の間で友好協定が結ばれると、名目上とはいえオ・ワーリ宙域とミ・ガーワ宙域の支配者同士の和平立という意味合いが発生する事で、シヴァ家の“家臣”であるウォーダ家と、キラルーク家の後見人であるイマーガラ家も、その友好協定の対象となって、むやみに戦するわけにはいかなくなる。
そういった點からもイマーガラ家筆頭家老のシェイヤとしては、この機會にノヴァルナを葬っておきたかった。それ故に目論見通りノヴァルナが、合同演習の話に乗って來た時は心でほくそ笑んだ。ノヴァルナの方でも新たにギィゲルトの懐刀となった自分を、この機會に葬りたいに違いないと、シェイヤは読んでいたからだ。いわばシェイヤは自分自を餌にしたという事だ。
イマーガラ家第3艦隊旗艦『スティルベート』に座乗するシェイヤは、右舷側の宇宙空間を隨行するノヴァルナ艦隊を一瞥し、獨り言ちた。
「タンゲン様、見ていてくださいませ…」
▶#13につづく
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