《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#14

すべてはシェイヤ=サヒナンの目論見通りだった―――

皇國貴族のゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナを通じて、オ・ワーリ宙域の舊総督シヴァ家が、キラルーク家とそれを庇護下に置くイマーガラ家へ友好関係の構築を打診して來た時に、これはノヴァルナ・ダン=ウォーダを葬る機會に出來ると踏んだシェイヤは、主君であるギィゲルトの承諾を得て、今回の作戦を組み上げた。

あの師父タンゲンが常に警戒心を抱いていたのであるから、シェイヤにノヴァルナを侮る気持ちは皆無だ。日頃の破天荒な振る舞いも、敵対する者を油斷させる手である事と承知している。

その上でシェイヤは、敢えてあからさまないをかけたのだ。合同演習に見せかけた復讐戦…それは、自分にとってタンゲンの復讐を果たす機會であると同時に、ノヴァルナにとっても復讐を果たす機會となるからに他ならない。

ノヴァルナに復讐戦―――つまり、後見人であったセルシュ=ヒ・ラティオの復讐を、イマーガラ家に対して果たす機會を與えてやれば、これに食いつくはずだとシェイヤは考えたのである。

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そしてノヴァルナは期待通りに話に乗って來た。いくら油斷のできない若者であってもを持つ人間であり、シェイヤ自がそうであるように、師と仰ぐ人の死を失った心の痛みがまだ消えてはいない今なら、復讐を果たせるこの機會を、ノヴァルナが逃すはずはないだろうという期待だ。

「復讐するは我に…いえ、我等にありよ」

旗艦『スティルベート』に乗り、ロンザンヴェラ星雲の中を進むシェイヤは、赤と黒の雲海が織りなすモザイク模様を眺めて呟いた。

ノヴァルナ艦隊との“合同演習”が開始されて間もなく二時間…雙方が戦闘行ると決めた時間である。今頃はノヴァルナ艦隊も遭遇戦に備えて、哨戒艦を先行させつつ、こちらを探し始めているに違いない。

「後方センサーに反応はないか?」

シェイヤが座る司令席の傍らに立つ參謀長が、電探士に尋ねる。所定位置についてから演習開始と決めているが、雙方承知の建前だけのものであり、ノヴァルナ艦隊が後をつけて來ていてもおかしくはないからだ。

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「反応なし。後方警戒艦からも連絡ありません」

電探士の報告を聞いて參謀長は「うむ」と応じ、シェイヤを振り向いて「宰相閣下」と聲をかける。すると頷いたシェイヤは奇妙な命令を出した。

「よろしい。全艦、星雲から離

シェイヤの命令をけたイマーガラ家第3艦隊の全艦は、重力子ノズルにオレンジのリングを輝かせ、楔形陣形で一斉に加速上昇を始めた。

すると、予めロンザンヴェラ星雲の外縁部付近にいたのか、シェイヤの第3艦隊はものの十分も経たないうちに、星間ガスの海の中から続々と、まるで潛水艦の群れのように浮上して來る。

一見するとノヴァルナ艦隊から逃亡したように思える、シェイヤ艦隊の行だ。しかしこれこそが、セッサーラ=タンゲンの志を継ぐシェイヤ=サヒナンの深慮であった。

「第3艦隊全艦、星雲より離完了」

「現在位置、星雲外縁より八十萬キロ」

「六十秒後に針路変更、艦隊針路252度プラスマイナスゼロ」

「長距離センサー機能回復。超空間通信、機能回復」

オペレーターの報告が次々とり、シェイヤ艦隊は雲海を眼下に進み始める。

シェイヤが艦隊をロンザンヴェラ星雲の外へ出したのは、ノヴァルナの策略を警戒したからに他ならない。

ノヴァルナのキオ・スー第1艦隊は、戦艦11・重巡12・軽巡14・駆逐艦28・空母6・巡航母艦(軽空母)6の計77隻。対するシェイヤのイマーガラ第3艦隊は、戦艦16・重巡16・軽巡12・駆逐艦30・空母6・軽空母8の計86隻。シェイヤ艦隊の方が優勢とは言え、圧倒的ではない。

さらにノヴァルナは師父タンゲンが警戒していた通り、若さに似合わぬベテランのような高い戦家である。それがこのあからさまな罠の合同演習を簡単に承諾したのだから、何か策略があるに違いない―――シェイヤはそう判斷した。これまでのノヴァルナの戦い方を見ても、相手の意表を突く戦を駆使して來るのが得意であり、時に戦の常道を逸した手を使う事もある。

“これは常識人の私では、手に負えない…”

そのうえで今回の計畫にあたって、ノヴァルナの戦い方を分析したシェイヤの結論というのが、これである。弱気ともとれる結論だが、それだけシェイヤは自分の限界を弁(わきま)えていると言える。そしてそうであるならまた、答えは簡単だった。ノヴァルナがどのような策を弄しようと、數で踏み潰せばいいのだ。

そこに待っていた知らせがオペレーターから屆き始める。

「超空間転移反応あり。友軍第4、第6艦隊が到著したもよう」

「さらに第8艦隊到著」

「第9艦隊と第11艦隊、到著しました!」

オペレーターの報告が告げた通り、ロンザンヴェラ星雲の周囲に次々と超空間転移用のワームホールが出現し、中からイマーガラ家の宇宙艦隊が飛び出して來た。どれもがシェイヤの第3艦隊と同じ規模の、戦力の中核を擔う基幹艦隊だ。

旗艦『スティルベート』の艦橋で戦狀況ホログラムを見詰めるシェイヤは、増援として現れた五つの艦隊が、星雲の上で等距離間隔のマス目を描くように、ピタリと転移を完了したのを見て、満足げな表で軽く頷く。

するとシェイヤの艦隊の右側、視認出來る距離にワームホールが一つ発生し、また新たなイマーガラ家の宇宙艦隊が転移して來た。戦狀況ホログラムの表示を見ると、イマーガラ家第5艦隊とある。ベテラン武將で、ヤーベングルツ家のナルミラ星系に派遣されている、モルトス=オガヴェイの艦隊だ。

「オガヴェイ様より、通信がっております」

オペレーターがすぐに知らせて來る。頷いたシェイヤが「メインスクリーンへ」と命じると、長い白髪を頭の後ろで束ねた、五十代半ばの男武將が映し出された。

「やあやあ、これは宰相閣下―――」

通信が繋がるなり、上司でありながら娘ほども歳の離れたシェイヤに、オガヴェイは冷やかし気味に聲をかける。

「作戦は手筈通り進んでいるかな?」

オガヴェイの気楽な口調と対照的に、シェイヤは表を緩める事無く応じた。

「どうやら上手く、餌に喰いついたようです」

「なにせ、イマーガラ家自慢の人宰相が餌であるからなぁ。若い男子のうつけ殿なら、喰いつかずにはおれまいて」

冗談で混ぜ返すオガヴェイだが、シェイヤは想笑いを返しただけで、口調は真面目なまま本題にる。

「では、我々は再度星雲って、ノヴァルナ殿との決戦に臨みます」

「了解した。ではそなたの指示通り、我等は艦隊を分散させて、うつけ殿が星雲から逃げ出した場合に備えるとする」

「お願い致します」

そう言って通信を終えたシェイヤは、オガヴェイ艦隊を殘し、他の艦隊に星雲への突命令を伝えた。一斉にき出す六つの基幹艦隊。六倍の戦力差ならノヴァルナが多の小細工を用意していても跳ね返せるはずだ。ただそれを見送るオガヴェイは、普段以上にいシェイヤに、々首を傾げて獨り言ちる。

「出來ぬ事とは分かっているが、もうし肩の力を抜いた方がよいぞ…」

▶#15につづく

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