《銀河戦國記ノヴァルナ 第2章:運命の星、摑む者》#17

イマーガラ艦隊はゾーン2の星間ガスの塊に、各艦の主砲を向けながら航過した。ジリジリとした時間が過ぎる。しかし何事も起きない。

「反応なし」

「全艦異常なし」

「間もなく戦艦主砲、程圏外」

オペレーターの報告に、『スティルベート』の艦橋の空気が僅かだが和らぐ。戦艦主砲の程圏外へ出たという事は、なくともゾーン2の中にノヴァルナ艦隊が潛んでいたとしても、いきなり戦艦の主砲撃で不意打ちを喰らう危険はなくなったからだ。そこに通信科のオペレーターが告げる。

「右翼第8艦隊より電。ゾーン1に敵艦影無し」

イマーガラ艦隊の右側前方にゾーン1として設定していた、高度のガス雲に挾まれた空間。そのノヴァルナ艦隊の想定位置には、ブルート=セナの第8艦隊が向かっていたのだが、発見する事が出來なかったようだ。

「次の想定位置と時間は?」

シェイヤが參謀長に尋ねると、參謀長は「約三十分後にゾーン5です」と応じる。ゾーン5はゾーン1やゾーン2とは逆に、ロンザンヴェラ星雲の中に出來た、重力のバランスエリア。直徑約2億キロ、高さ約1億キロの空のような場所で、艦隊が隠れる障害は何も無い。

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ゾーン5の場合、星雲の特徴的環境を利用出來ないというのは逆説的だが、そもそもノヴァルナは、シェイヤが増援艦隊を五つも呼び寄せた事を知らないはずで、一対一で戦うには小細工は必要ないと考えているのであれば、この“空き地”を決闘の地として選んでいてもおかしくはない。

“ゾーン5を戦場とした場合、ノヴァルナ殿は自らBSHOに搭乗し、雲海の中に伏せている確率が高い。いえ、むしろ自分がBSHOで戦場に出て來ている事をアピールし、囮役を行う手も考えられる…”

顎に手をあてて考えを巡らせたシェイヤは、參謀長に指示を出す。

「我が第3艦隊のみで、ゾーン5の空間へ進する。他の艦隊は、周囲の雲海の中を急進し、周囲を取り囲め」

シェイヤは自分の艦隊を囮にしようと思った。ノヴァルナがどのような戦を駆使して來るにしても、それは一個艦隊同士の戦闘を前提にしているはずで、もしもゾーン5でノヴァルナが待ち構えているなら、その戦ごと數で飲み込んでしまえばいい。かえって好都合だ。シェイヤの目が決意を語る。

“卑怯と罵られても結構。騙される方が悪いのが戦國の世というもの…”

シェイヤは戦艦戦隊を中央に置き、宙雷戦隊を単縦陣でその周囲に護衛に著け、後方に空母機戦隊を従わせる、ほぼ同等の戦力と戦う場合の、通常的な集中陣形を第3艦隊に組ませた。そしてその陣形でゾーン5にる。多対一用の分散陣形にすると、ゾーン5でノヴァルナが待ちけていた場合、罠に気付くであろうからだ。

シェイヤ艦隊がゾーン5に進すると、そこはまるで鍾のようであった。ぽっかりと空いた何もない空間に、上下から長くびた星間ガスの塊が、鍾石の如く所々から突き出ている。當然、艦のセンサーやスキャナー類も機能を完全回復し、艦橋の戦狀況ホログラムも、クリアな報を表示し始める。

すると程なくして、前哨駆逐艦の一隻からシェイヤのもとに報告があった。

「ピケット艦『アヴェンドゥ』より電。“長距離センサーにあり。我よりの方位、025マイナス16。距離約8萬”」

それを聞き、參謀達が「早速いたか」「意外と正攻法かもしれんな」と言葉をわす中で、シェイヤは戦狀況ホログラムに表示が加わった敵反応を見詰めたまま、無言で次の報告を待つ。そこへオペレーターのところまで來ていた參謀の一人が、シェイヤを振り向いて告げた。

「反応は一つだけです。敵のピケット艦だと思われます」

「こちらに気付いた様子はあるか?」と參謀長。

「いえ。低速で真っ直ぐ遠ざかっている模様」

參謀長は「よし、『アヴェンドゥ』に、はそのまま後をつけさせろ」と命じ、シェイヤに意見を述べた。

「艦隊速度を上げますか? 上手くいけば先手を取れるかも知れませんが」

だがシェイヤは首を縦には振らない。発見した敵のきを聞いて、こちらをい込もうとしている可能じたのだ。

「その必要はない。針路と速度はこのまま、ゾーン5の中央を進め」

周囲の星雲を多數の味方が同時に進んでいる…という事もあってか、シェイヤはこのままノヴァルナ艦隊が現れるのなら、一対一で戦ってみたいに駆られた。目的はあくまでノヴァルナを屠る事だが、師父タンゲンがその將を恐れたほどの相手である。単純に武人としてのが騒ぐ。

“可能なら、BSHOの一騎打ちで仕留めたいものね…”

そういう展開になればいい…と、エースパイロットでもあるシェイヤ=サヒナンは、で呟いた。

▶#18につづく

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